この不思議な形の木材、なんだと思いますか?
じつはこれ、積み木のように木材の凸凹をはめ込んでいくだけで、壁や家具、フローリング、そして家まで作れてしまうという、なんともフレキシブルなブロック材「KUMIKI BRICKS」というものなんです。
やってみるととても簡単! 一つひとつのパーツは片手で持てるほどの大きさなのに、アイデア次第で、さまざまなものを形作ることができるのです。まるで大きなレゴブロックで遊んでいるような感覚です。
このKUMIKI BRICKSに社会問題解決の糸口を見つけ、製品化を実現させようとしている人がいます。株式会社 紬(TSUMUGI Inc.)の代表・桑原憂貴さんです。いったいこの小さなブロック材が、どんな社会問題を解決するのでしょうか?
シンプルなのに奥深い、2種類のKUMIKI BRICKS
KUMIKI BRICKSのパーツには、現在「KUMIKI HOUSE」と「KUMIKI LIVING」の2種類があります。
KUMIKI HOUSEは壁や床を作ることができるパーツ。厚みがあり、コンクリートの約14倍の断熱効果があります。パーツの凸凹をはめ込むのは“追掛け継ぎ”と呼ばれる昔ながらの技法です。こうすると抜け落ちる心配がなく、家が建つほどの強度をもつようになります。これは、約20年前に宮崎県で考案された住宅パーツ「つみきブロック」が原型となっており、考案者の協力を得て、製造されたものです。
KUMIKI LIVINGは板状の薄くて軽いパーツです。KUMIKI HOUSEの約5分の1ほどの厚みですが、強度は充分。棚やデスクといった家具づくりに適しています。くさび形の凸凹を合わせて繋いでいきますが、接続部分が外側から見えない造りになっているため、すっきりと洗練した印象になります。
KUMIKI BRICKSはただはめ込んでいるだけなので、分解するのも簡単です。たとえば、棚として使っていたものをテーブルに作り替えたり、キャンプ場に持っていき、テントの代わりに小さな小屋を立てて、帰る時はばらして持ち帰るなんてことも可能! 引っ越しの時はコンパクトに持ち運べますし、経年劣化が進んだら、その部分のパーツだけ取り替えればいいので、無駄がありません。
実際に組み立ててみると、こんなものを作りたい、あんなものを作りたいと、創作意欲がむくむく沸いてきます。自由度が高いのに、コツさえつかめば誰でも簡単に作れてしまう。しかもできあがるものは本格的。これがKUMIKI BRICKSの大きな魅力です。
価格はまだ開発中なので未定ですが、だいたい1平米の壁で1万円前後を予定しています。また、製品に関する意見や要望を受け付けており、それを受けて新しい形のパーツも増やしていきたいと考えています。
材料は森に放置されている切株(たんころ)
たんころ(切株)を利用して作られるKUMIKI BRICKSは、森林の環境保全や地域活性化など、様々な社会問題の解決に繋がる可能性も秘めています。
KUMIKI BRICKSが誕生した陸前高田市は、気仙杉と呼ばれる杉材の産地です。この気仙杉を伐採したあとに残された切株は、通常ならそのまま放置され、森の荒廃を招く原因にもなります。しかしKUMIKI BRICKSはサイズが小さく、多少の歪みは問題とならないので、切株の利用が可能なのです。
林業家は、放置していた切株が有効利用されるようになり、わずかでも新たな収入源が増えます。森の環境整備にもなり、地元で製材すれば雇用も創出できます。商品自体も、国産の杉材を低価格で提供できる可能性があります。
みんなで楽しみながら家具や部屋が作れたら。
KUMIKI BRICKSを発案した桑原さんは、東日本大震災後、勤めていた会社の取り組みの一環で、移動式図書館プロジェクトや復興ボランティアツアーの仕事に携わりました。そしてその後も陸前高田市で支援活動をすることが多くなりました。
陸前高田市に通いながら、当初は漠然と、地元の木材を使ってみんなで楽しみながら家具や部屋が作れるキットがあったらいいなと考えていました。そこで接点のあった製材所や建設会社の社長と話を続けるうちにKUMIKI BRICKSの構想に辿り着きました。被災地で起業する人を支援する内閣府のビジネスプランコンペの審査もみごと通過し、2013年3月21日に正式に会社を立ち上げることになりました。
これまで「KUMIKI プロジェクト」は、陸前高田市内で製材業を営む村上製材所や長谷川建設といった地元の森に対して想いのある方々と一緒に取り組んでいました。多くの方の尽力と期待に応えるためにも、この先、少しでも早い製品化にむけて急ピッチで試行錯誤を重ねていくつもりです。
人と人の繋がりを、事業を通して紡ぎたい
震災時、関東にいた桑原さんは、停電や断水を経験しました。そこで、今まで便利だと思っていた社会が、いかに脆く危ういものであるかということに気づいたと言います。
いつの間にか手で作ることを忘れて、買うことが当たり前になっていました。ものが買えないと生きていけなくなっているんです。暮らしを自分たちの手で作るというライフスタイルを、もう一度見つめ直す必要性を感じました。
大学時代にグラミン銀行のムハマドユヌスさんについて書かれた本と出会って衝撃を受け、ビジネスで社会課題を解決したいと思うようになったという桑原さん。しかし当時はまだソーシャルビジネスという概念が浸透しておらず、NPO法人の新卒採用はほとんどありませんでした。
そこで桑原さんは、事業として成り立つNPO法人をいつか自分で作ろうと決めました。営業職を経験したあと、ソーシャルマーテティングやソーシャルビジネスに取り組んでいる会社に転職し、さまざまな事業を展開している中、東日本大震災が起きました。
じつは震災前から“自分にとっての社会課題とは何か?”ということを考え始めていました。営業職についている妻が適応障害になったこともあって、現代に蔓延する孤独感や不安感を、人と人の繋がりを紡ぎ出すことで解決したいと思うようになったんです。そう考えた時に、僕はその繋がりを、事業を通じて紡ぎたいと思いました。
事業というのは、いわば規模の大きな取り組みです。規模が大きければ、当然、及ぼす影響も大きくなります。
MacのiTunesが出て、音楽を聴くスタイルは大きく変わりましたよね。そんなふうに、事業には人の考えを変え、行動を変え、習慣を変えるチカラがあると思います。
KUMIKI BRICKSの3つの良さとは?
KUMIKI BRICKSの良さは大きく3つある、と桑原さん。
ひとつは、自分たちの手で作ることができるという点です。手で作れるものは自分で直すことができます。すると愛着も沸いてきて、自然と大切に使うようになります。昔の日本では当たり前だったこの感覚を、思い出すことができるのです。
ふたつめは、人と人が繋がるきっかけを生み出すことです。陸前高田には「結」という助け合いのコミュニティが今もあるそうです。茅葺き屋根を直す時は近所の人が集まってみんなで直すことがあったと聞きました。
KUMIKI BRICKSは簡単に作れるので、仲間を集めて気軽にDIYやリノベーションを行なえます。人が集まるきっかけを作るKUMIKI BRICKSは現代版の「結」を形成するのではないかと桑原さんは考えています。
3つめは、人と自然との繋がりが生まれることです。使われていなかった森の資源を有効利用することで、人と森を繋ぐ循環型の仕組みができあがります。これによって、人だけではなく、自然も含めたライフスタイルを意識することになります。
現代は、スピードを重視し、完成品ばかりを求めています。でも本当に大事なことは、ものを手にした瞬間から手間をかけ、直し、愛着をもって使い続けることです。これからの社会では、そういう暮らしを当たり前にしていくことが重要だと思います。
一方で、被災地では急速に元の価値観の社会に戻ろうとする力強さも感じています。だからこそ、被災地から、新しい生き方や暮らし方を発信していきたいと思います。
目に見えない大切なことに気づくツール
“社会問題を解決する”という時、森の荒廃や減少、人口の高齢化、雇用の創出といった問題を解決することはもちろん大切です。では“人と人の繋がりをつくる”というような、一見目に見えない課題は、どういった解決ができるでしょうか。
目に見える利便性や経済性に追いやられてしまいがちな、目に見えないけれど大切なこと。KUMIKIプロジェクトが目指しているのは、まさにそれらを育み、ベーシックに据えるということなのかもしれません!