初めて水都大阪フェスティバルが開催されたのが2009年。思い起こせば、この時からアートは水都大阪フェスに欠かせない要素でした。そして2010年からは大阪府が主催するアート事業「おおさかカンヴァス推進事業」がスタート。なんでも橋下市長(当時は府知事)が水都大阪の目玉である“水の回廊”をクルーズ視察している途中、「舟から見える風景が寂しいから護岸壁に絵を描いたらどうか」…とおっしゃったのがきっかけだということです。
大阪のまち全体をアーティストの発表の場として「カンヴァス」に見立て、大阪の新たな都市魅力を創造・発信しようとするというこの試み。3年目となる今年は、公募によって選ばれた11作品が、「水都大阪フェス2012チャレンジウィーク」期間を中心に、中之島公園をはじめとする各所に展示されました。レポート形式でアート作品を紹介します。
四十七人のオバチャーン(作者:プロジェクトオバチャーン)
まずは、一役メディアの注目を集めていたのがこちらの作品。総勢47名の大阪のおばちゃんが、人々にアメちゃんを配ったり、人生相談に乗ってくれたり、値切ったり、カフェジャックしたり、そして記念写真にも応じてくれるという“生きた作品”です。
作家の皆さんは、普段は映像制作をしている仕事仲間だということ。
元ネタは「大阪ラヴァーズCMコンテスト」に出展した映像作品だったんです。“四十七士”にかけて47人のおばちゃんにしました。AKB48を意識しているわけではないんですよ(笑)
映像が本業とあって、「オバチャーンのテーマ」というPVが秀逸。大阪を代表するスーパーマーケットの「スーパー玉出」でロケを行うなど、“THE大阪”のイメージがたっぷりと楽しめる作品に仕上がっています。
ちなみにオバチャーンの皆様はみかん山プロダクションに所属されているプロの方々で、衣裳は自前のヒョウ柄服だということです。ベタな大阪のイメージをネタにして、みんなで上手に楽しんでいるという印象を受けました。
グラサンパンダを探せ!!(作者:真鍋珠実)
こちらは小学校6年生の最年少アーティストの作品。「グラサンパンダ」というキャラクターのぬいぐるみを中之島公園内に複数設置し、スタンプラリーを楽しむものです。
謎のグラサンパンダ
親子連れや友達どうしで遊びに来た子どもたちに探してもらって、“あった!”と言ってみんなに楽しんでもらえたらいいなぁと思って考えました。
実際に、かなり年配のお年寄りから小さなお子さんまで、グラサンパンダを写真に撮って楽しむ姿が見られました。また、作品の運営は同級生のみんなで行っているということで、この作品を通して、彼女たちも普段の学校生活ではなかなか話す機会のない人たちとの交流を楽しんでいる様子が伺えました。
中之島ホテル(作者:西野達)
アメリカやドイツ、シンガポールなどで世界的に活躍されている西野達さんの“宿泊可能”なアート。中之島公園の薔薇園にホテルの一室が出現しました。宿泊予約は全国から応募があったとのこと。こちらの作品も、他の作家さんと同様に一般公募からの応募だったということですが…。
日本での作品発表は大変なんです。招待された展覧会であっても、会場には規制が多く、思った通りのものを実現出来ないケースが多いんですよ。それが、カンヴァス事業の場合は大阪府が自ら「公共空間を使ってほしい!」とうたっています。大阪で作品発表の事例をつくれば、国内他地域での作品展開がしやすいと思ったのが応募のきっかけです。
足を踏み入れたその空間はどこからどう見ても“ホテルの一室”。ですが、よくよく見ていくと水回りが何だか変。なんと、公共トイレの半分が作品に組み込まれているのです。一番予算がかかる水回りの制作費が大幅に削減できたということです!
輪唱の○(ワ)(作者:つちや あゆみ)
子どもたちが大賑わいで、取材時には触れることもままならなかったこちらの作品。
組み替え自由な巨大木琴に、木製のボールを転がすと「かえるのうた」が聞こえてきます。時間差でボールを転がすとか「かえるのうた」の輪唱が聞けるという仕組み。木のパーツを組み替えることで作曲も可能です。
元々は空間デザインを学んでおり、この木琴の中に寝転んで、らせん状に響く音を楽しめる空間を作りたかったんです。でも、フェス中はすっかり子どもに占拠されてしまい、ゆっくりと音を味わうことは出来ませんね(笑)
人気は子どもたちの間に留まらず、2012年11月には無印良品有楽町店とのコラボも実現しました。実際に作品に手を触れることは出来ませんが、Facebookページから「いいね」を押すとボールが転がる仕組みを実現。
アートが、ついに町を越え、人々繋がるキッカケになっていました。
My Own Osaka‐私自身の大阪(作者:m.y.city)
ブラジルからの留学生、東京大学大学院工学部建築学科大学院生もおおさかカンヴァスへ参加しています。
写真撮影をして屋台で取り込むと、プリクラのように書き込みが出来たり、“大阪アイテム画像”を写真へ追加することが可能です。最終的にはプリントアウトして持ち帰ることができます。
今回の作品発表がきっかけで、初めて大阪に来ました。この作品を通して、大阪のまちの魅力をみなさんに教えてもらっています。
広場や公園空間を研究されているみなさんは、リサーチやフィールドワークをとても大切にされています。今回の作品も、写真撮影を通して風景を客観的に認識したり、その中に潜む“大阪らしさ”を発見することが出来るということです。ブラジル人と大阪人が“写真”というメディアを通してコミュニケートしている点も、このアートプログラムの魅力のひとつになっているように思いました。
イッテキマスNIPPONシリーズ”花子”(作者:Yotta Groove)
今回の水都大阪フェスの中でひときわ存在感を放っていたのが、この高さ13m「ネオ伝承コケシ花子」です。2010年のカンヴァス作品として登場した人気者が2012年にカムバックしました。
イッテキマスNIPPONシリーズでは、日本のコアカルチャーを取り出して作品を制作しています。コケシについて調べて行くと、ルーツは東北にあることが分かり、昔は子どもの玩具として作られ温泉地などで販売されていたことが分かりました。それで花子の足元には足湯を設置することにしたんです。
花子の模様は、各地の伝統的な模様をアレンジしたオリジナル。さらに小さな木製コケシの絵付けワークショップに人が絶えない様子を見ながら、コケシのかわいさは普遍性を持っているのだな、と感じました。
さすが大阪府のアートプロジェクトとあって、公募アーティストのラインナップが幅広く、色んな作品が楽しめる企画でした。まちを背景に人々が表現し、表現に必要とあれば、まちは許認可を出したり規制を緩和したりして手助けする。そんな風にして出来あがった作品を通して、まちに新たな交流が生まれる…そこには「水都大阪」が目指す風景が広がっていました。
「おおさかカンヴァス」とは主体が変わりますが、冬も「水都大阪」のイベントはつづきます。12月14日からは、大阪市、大阪府、公益財団法人 大阪観光コンベンション協会等で構成されたOSAKA光のルネサンス実行委員会による「OSAKA光のルネサンス2012」が行われます。切り口は違いますが、こちらも「水都大阪」の名物企画、まちを使った光のアートが楽しめそうですね。ぜひこの機会に大阪まで出かけてみてはいかがでしょう?