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マイクロファンドプラットフォーム「Lucky Ant」の創設者に聞く、スモールビジネスが生き残るために大切なこと

greenz/グリーンズJonathan Moyal

ニューヨークで、地元の商店やレストランなどスモールビジネスを支援している、マイクロファンドプラットフォーム「Lucky Ant」。以前、greenz.jpで紹介したところ、日本の商店街や地域活性化にも参考になるプラットフォームでは、と注目を集めていました。

そこで、今回は「Lucky Ant」を設立し運営しているJonathan Moyalに、ローカルビジネスのオーナーやファンドレイズしているのはどんな人か、スモールビジネスが生き残るために大切なことなど、詳しくお話を伺ってきました。

小規模でもいいお店が生き残っていくために

的野 まずはLucky Antを立ち上げた背景をお聞かせください。

Moyal Lucky Antを立ち上げようと思ったのは、ここ数年アメリカでは銀行から資金を借り入れることが難しくなってきたからです。世界的にも同じような状況ですよね。そのせいで、経営が行き詰まる中小企業や商店が出てきました。一人で切り盛りしていたり、夫婦だけ、またはそれプラス数人の従業員だけでやっているようなレストランは、新しいオーブンを買うための10〜20万円というお金ですら、捻出するのが厳しいこともあります。

現在ニューヨークでは、中小企業が銀行で資金借り入れを申請をしても、そのうちの87%は却下されています。ですから、ほとんどの中小企業は資金調達ができなくて困っています。そこで、お客さんや友だち、家族など地域のコミュニティに資金を出してもらい、その代わりにお店では無料でケーキやディナー、何でもいいので小さなお返しをするという仕組みを作って、小規模でもいいお店やレストランが生き残っていけるようにしました。

的野 スモールビジネスのオーナーはどんな人たちですか?

Moyal 家族経営の小さな商店が中心です。1店舗か多くても2店舗のお店で、フランチャイズチェーンのお店はありません。お店のオーナーは、本当に色んな人がいますよ。

今までで一番若かったのは、確か26〜27歳のアイスクリームショップのオーナーです。最高齢は、先日プロジェクトが目標金額に達成したばかりの、70代の書店オーナーです。若い頃はヒッピーで、波瀾万丈の人生を送りながらも、1977年からずっと本屋さんを続けていらっしゃいます。他にも、以前は大手レストランに勤めていたシェフの人が、小さな自分だけのお店を持ちたいと応募してきたりしています。

greenz/グリーンズJonathan Moyal
最高齢で挑戦した書店のオーナー

プロジェクトを選ぶ基準は「面白いかどうか」

的野 プロジェクトの応募はどれくらいありますか?

Moyal 受けきれないほどの応募があります。今はニューヨークだけの展開なので、カリフォルニアやテキサス、オーストラリアなど他の地域からの応募は、残念ながら受けていません。全体の応募数は本当に数えきれないほどあります。

今年の3月から約5ヶ月で、20のプロジェクトの資金を募集しました。そのうちの半数、10のプロジェクトは目標金額に達成しました。

的野 どのような基準でプロジェクトを選んでいますか?

Moyal 面白いかどうかです。小さなお店では必要なものは、パイプだったりストーブだったりと様々です。その中から、お客さんが喜んで資金を出したいと思うようなものを選んでいます。例えば、レストランは裏庭を改装して食事ができるスペースにしたくて、お客さんはそのレストランの屋外でも食事ができればうれしい、これはお互いがハッピーになるプロジェクトになります。

また、地元で長く愛されているお店や、人気があってこれから成長していきそうなお店など、自分たちの心が動かされるようなプロジェクトも選んでいます。

的野 実際にお金を出しているのはどんな人たちなのでしょう。

Moyal プロジェクトの場所から数ブロック以内に住んでいる人たちが大多数です。(以下の地図を見せながら)緑のドットは「St. Marks Bookshop」のプロジェクトに資金を出した人たちです。本屋さんのある場所からとても近い場所にほとんどのドットが集中しています。Lucky Antのプロジェクトは本当に地元に密着していて、それこそが大事なことだと思っています。

greenz/グリーンズJonathan Moyal

資金を集めるために一番大事なことは?

的野 実際に資金を出している人たちは、どのような理由で寄付をしていると思いますか?

Moyal 大きく分けて3つの理由があると思っています。まず、普通にスモールビジネスが好きだから。大きなスーパーやチェーン店よりも、小さな地元のお店が生き残っていくことが、地域にとっても大事だと考えています。

2つ目は、そのお店に強い思い入れがあるから。常連客や友だちや家族はもちろん、以前そのお店で働いていたとか、何らかの思い入れがそのお店にあります。

3つ目は、純粋に特典が欲しいから。例えば、人気の箱入りマカロンセットが通常35ドルのところを、25ドルの割引価格で買えるとしたら、マカロン好きの人は資金を出したくなります。資金を出している場合は、どれかひとつの理由だけでなく、スモールビジネスが好きでマカロンも好き、という風にいくつかの理由が組み合わさっていることがほとんどだと思います。

的野 資金を集めるために一番大事なことはなんでしょう?

Moyal どれくらい本気でそのビジネスを成功させたいかということだと思います。資金が必要になったら、電話をかける、メールを送る、FacebookやTwitterを利用する、メーリングリストがあるならそこで告知をするなど、持てるネットワークを最大限に活用するようになるでしょう。これは、ビジネスに関わるすべての人にとって、大切なことだと思います。

Facebookのファンページに1万人が登録していて、資金が必要だという情報をそこに載せれば、簡単に多くの人に情報を伝えることができます。一方で、30年以上続いている老舗でも、Facebookページを持っていなければ、どんなに顧客を大事にしていても、多くの人に情報を伝えることは難しいです。一番大事なのは、そのお店を助けたい人や、実際に助けることができる人に、情報を見つけてもらいやすくすること、連絡を取りやすくしておくことだと思います。

多くの資金が必要であれば、まずはそれを知らせること、次に資金調達を簡単にすることが重要です。Lucky Antは、その「資金調達を簡単にすること」を手助けするものです。オンラインで寄付が集められれば簡単です。あとは資金が必要な人たちが、「ちょっと資金が必要なんだ」と電話をかるなり、メールを送るなり、どんな手段でもいいので、とにかくできるだけ多くのお客さんや寄付をしてくれそうな人たちに知らせなければなりません。

greenz/グリーンズJonathan Moyal
資金調達を達成したオーガニックスパイス「Jojo’s Sriracha

いつかは日本でも!

的野 スモールビジネスが成功するためには何が必要だと思いますか?

Moyal うーん…やっぱりお金かな、潤沢な資金(笑)。どんなに優秀な経営者でも、自分ではどうしようもない理由で経営がうまくいかないこともあります。そういう時は、常套手段や、こうしてああしてこうすればうまくいくというようなセオリーが通じません。いい時もあれば悪い時もある、自分にも言えることだけど、ビジネスを続けていれば上がったり下がったりの波が当然あります。どんなに悪い時期も、とにかくビジネスが続けられるようにすること。

すべての経営者は、一生懸命働くだけでなく、税金や従業員の給料やその他諸々の経費の支払い、来る日も来る日もたくさんのことに追われています。そんな時に少しでも資金があれば、そういう些細な違いが大きな違いになると思います。

的野 エリアをさらに広げる予定はありますか?

Moyal まずはニューヨークの他の街から始めて、サンフランシスコ、ロサンゼルス、マイアミ、それ以外の小さな都市などアメリカ国内に広げていきたいと思います。どの都市でLucky Antが必要とされているのかを調査してからになるので、時期的にはまだもう少し時間がかかると思いますが、できるだけ早いうちにオーストラリアや日本など海外にも広げたいですね。日本で展開することになったら、ぜひご協力をお願いします!

的野 日本でも同じような地域活性化のためのマイクロファンドプラットフォームを始めたいという声があります。これから日本で「Lucky Ant」のようなプラットフォームを立ち上げようとしている人に、何かアドバイスなどはありますか?

Moyal 僕が行くのをお待ちください、というのは冗談で(笑)。いやもちろん日本でも広めたいと思っているけど。Lucky Antの考え方は基本的にとてもシンプルなので、誰にでも同じようなことができると思います。

ただ、日本の文化やビジネス的な背景がよく分からないので、日本に合わないところは合わせた方がいいんじゃないかな。さもなくば、3年後くらいには日本に進出したいと思うので、Lucky Antを待っていてください!

greenz/グリーンズJonathan Moyal

インタビューをする前は、地元密着のプロジェクトとは言え、実際に資金を投資しているのはもっと広範囲に渡った人たちなのではないかと思っていましたが、実際に投資した人のマップを見せてもらって本当に地元に根付いたファンドだということが分かりました。

Lucky Antの日本進出も楽しみですが、その前に日本でも、独自の地域活性型マイクロファンドプラットフォームが登場するのと期待したいところです。