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母親も、すくすくと育つ世の中に。“寄り添う存在”で産後女性を支える「ドゥーラ協会」 [マイプロSHOWCASE]

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

たとえばあなたが初めての出産後、たったひとりで子育てをしなくてはならない状況にあったとして。一番必要としているのは、どんな存在でしょうか。

完璧に家事をこなしてくれるホームヘルパーさん?
子育ての知識が豊富なベビーシッターさん?
それとも、話し相手になってくれるお友達でしょうか。

たくさんの産後女性と関わってきたひとりの助産師さんが辿り着いた、ひとつの答え。それは、“ドゥーラ”という存在でした。

あまり聞き慣れない“ドゥーラ”という言葉。でも、その役割を知ることで、現在の社会構造の中でいつのまにか失われてしまった、本当に大切なものが見えてきます。

産後の女性に必要な存在「ドゥーラ」とは?

「ドゥーラ」とは、妊娠・出産・子育てをする女性を、地域社会で支える存在のこと。ベビーシッターやホームヘルパーのように育児や家事の手伝いもしますが、「ドゥーラ」の一番大事な役割は、心から母親の健康と幸せを願いサポートすること。まるで家族のように母親の側に寄り添い、出産前後の女性に「愛情」と「やさしさ」を注ぐ存在です。

日本ではあまり知られていませんが、アメリカやイギリスでは出産前後の女性を支援する専門家「ドゥーラ」が、ひとつの職業として確立されていて、多くの方が活躍しているのだとか。

初めての子育てで、分からないことだらけで、不安で……そんなとき本当に必要なのは、ただ家事をしてくれる人よりも、「それでいいんだよ」と言ってくれて、そばに居てくれる、この「ドゥーラ」のような存在なのだと思います。

と話すのは、「ドゥーラ協会」代表理事の丑田香澄さん。丑田さんによると、産後、特に3〜6週間後の「産褥(じょく)期」と呼ばれる期間は、母体を休めなくてはならない時期。ホルモンのバランスが崩れ、精神的にも不安定になりやすいそうです。

このため、この時期のお母さんたちからは、「家事をしてほしい」などの具体的なニーズもある一方で、「話し相手がほしい」「ただの食事ではなく、きちんと母体のことを考えた食事をつくってほしい」といった声も多く聞かれるのだと言います。

「ドゥーラ協会」代表理事 丑田香澄さん

「ドゥーラ協会」代表理事 丑田香澄さん

赤ちゃんが泣いたりすると、母親になったばかりの方は「どうしたらいいんだろう」と慌ててしまいますが、たとえば子育ての先輩である自分の母親がそばにいて、「大丈夫、赤ちゃんは泣くのが仕事だから」と言ってくれたら、それだけでゆとりも生まれますよね。でも今の日本では、様々な事情でそれが叶わない人も多いのです。

かつて、日本でも大家族や同居が当たり前だった時代には、それは母親や家族、地域のみなさんが果たしていた役割でした。でも今の日本には、出産の高齢化や核家族化、地域コミュニティの崩壊など、様々な原因により、たったひとりで子育てをしなくてはならない女性が増えています。「孤育て」という言葉がマスコミを賑わせ、「産後うつ」や「児童虐待」などの様々な問題も発生しています。

悲しいことに、児童虐待の約6割が0歳児というデータもあります。本当はかわいい我が子なのに、子育てをひとりで抱え込むことによって、そうではなくなってしまうのはもったいないし、悲しい。社会全体が変化していく中、そんなみなさんをドゥーラのような存在が支えることができるのでは、と考えたのです。

“ドゥーラという概念を、日本に合う形で広めたい” そんな想いから、「ドゥーラ協会」は立ち上がりました。

“寄り添う”人を育て、つなげる「ドゥーラ協会」

一般社団法人「ドゥーラ協会」が設立されたのは今年の3月5日(産後の日)。日本では医療や行政による出産後のサポートが圧倒的に不足しているという認識から、まずは「産後ドゥーラ」を広めるべく、事業をスタートさせました。

「ドゥーラ協会」ホームページ

「ドゥーラ協会」ホームページ

事業の大きな柱は、「産後ドゥーラ」の養成。“ただ家事をするのではなく、愛情を持って寄り添う”というドゥーラの役割を担う人を育てるため、「産後ドゥーラ養成講座」を開催していきます。

子育てやコミュニケーションの専門家を講師に迎えた、合計約50時間・約3ヶ月間のプログラムは、本格的かつ実践的な内容。ベビーシッターやホームヘルパーなどと違い、家事や育児、産後女性の身体と心の知識などの座学の他に、グループワークによるコミュニケーションのスキルや、地域に根差した仕事を得るためのスキルも養います。

養成講座後は、認定試験の受験、講習の受講へと段階を経て、ドゥーラ協会認定「産後ドゥーラ」が誕生する仕組みです。

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現在、この講座は秋の初開講に向けて準備中。第1期の「産後ドゥーラ」たちが誕生する年明け頃には、産後のお母さんたちがドゥーラをプロフィールから検索し、申し込むためのホームページも立ち上げる予定です。また、産婦人科や助産院とも連携を取り、妊娠中の女性にもドゥーラの認知を広めていく予定とのこと。

このようなマッチングの仕組みで「産後ドゥーラ」と産後女性をつなぎ、“母親もすくすくと育つ世の中”をつくること。これが、ドゥーラ協会のミッションです。

運命的な出会いと被災女性の支援を経験して

現在、「ドゥーラ協会」の代表理事を務める丑田さん。ある助産師さんとの運命的な出会いがきっかけとなり、この事業に携わることになりました。

この事業の発起人は、宗という助産師(※)です。助産師として活動してきた中で、出産1ヶ月後のお母さんがゲッソリとしてしまっているような現状を見て、「お母さんたちを助けたい」という想いをずっと抱いていたそうです。

(※)宗祥子さん。松が丘助産院・院長で、現在はドゥーラ協会の理事も務めています。

丑田さんは出産を機に会社を辞め、子供が4ヶ月のときに知人の紹介で宗さんに出会います。

私は出産のときに出血が多くて大変だったのですが、やはり母親の心身が元気でないと、なかなか目の前の我が子に全力で愛情を注ぐことが難しいものです。でも、宗と話していると、妊娠中の生活で予防できたかもしれないと感じることも多々あって。そんなこと全然知らなかった自分に気付きました。どんな雑誌にもそんなことは書いてないんですよね。

もちろん、必ずしもそれが原因であったとは言えないのですが、“先人の知恵”とでも言うのでしょうか。妊娠期の生活習慣や食生活など、昔は当たり前に言われてきたことを知ることで、もっと出産や育児を楽しめるようになるなら、広めたいと思いました。

雑誌ではわからない“先人の知恵”を伝えることも、ドゥーラの大切な役割です。

雑誌ではわからない、育児に関する“先人の知恵”を伝えることも、ドゥーラの大切な役割です。

宗さんと丑田さんが出会ったのは、2年前の秋頃。ドゥーラという存在を知り、丑田さんも一緒に事業の構想を描き始めました。しかし、事業についての打ち合わせをしていたある日、突然襲ってきたのが、あの東日本大震災でした。

子供も連れて打ち合わせをしていて、3人で一緒に揺れたんです。その時に宗が、「ここで一緒に揺れたのも運命的だから、まずは被災地のお母さんたちを助ける活動をしない?」と言って。それから1年間、被災したお母さんの支援事業「東京里帰りプロジェクト(※)」の事務局スタッフとして働くことになりました。

(※)東京都助産師会による、東日本大震災で被災されている妊産婦さん受け入れプロジェクト

活動開始から1年、プロジェクトが収束に向かうのを待って、「ドゥーラ協会」は設立に至りました。

でも、その1年は、ただ「設立が遅れた」というわけではなくて。「母親を助けたい」という理念は同じですし、「たくさんの企業や人の力を借りて何かする」ということを1年間凝縮して経験させていただき、それは本当に大きかったと思っています。

運命的な出会いと被災女性の支援を経験して。その全てが積み重なって、今の丑田さん、そしてドゥーラ協会があるのです。

もちろん男性も。「寄り添いたい」と思った時点でドゥーラです

様々な経緯を経て、動き始めた「ドゥーラ協会」。その事業について、“ドゥーラ養成”と言ってしまえば説明は早いのですが、丑田さんは、この事業の目的をしっかりと見据えていたいという気持ちを強く持っています。

「養成」ばかりが前に出てしまうと、ちょっと本来の目的とは違う気がしていています。“寄り添いたいと思った時点でドゥーラだ”と、アメリカでドゥーラの研究をしてきた当会顧問の助産師が言っているのですが、私も本当にその通りだと思っていて。

以前、新聞に取り上げていただいたとき、「自分も何かできるのでは」と、北海道から沖縄まで驚くほどたくさんの問い合わせをいただきました。困っている人と助けたい人をうまくつなげる仕組みのひとつとしてドゥーラがある、と考えています。

「寄り添いたい」気持ちがあれば、誰でもドゥーラなのです。

「寄り添いたい」気持ちがあれば、誰でもドゥーラなのです。

「寄り添いたい」と思ったら誰でもドゥーラになれる。そのことを伝えるため、ドゥーラ協会では、「産後ドゥーラ」の手前の導入講座とも言える「ホームドゥーラ養成講座」(全6回)も開講。7月上旬に終了した第1期の講座には、毎回約60名の方が参加し、ドゥーラとしての基礎を学びました。

ホームドゥーラの講座には、まだ妊娠経験のない若い女性や子育てが一段落した主婦の方、おばあちゃん世代の方など、予想以上に幅広い方にご参加いただきました。「ドゥーラのお世話になる前に」と、出産を控えた妊婦さんにも多くご参加いただきましたし、今後は「妻の出産のために学びたい」という男性の受講生の方も来ていただけたらな、と思っています。

「産後ドゥーラ」は講座を受けたという、母親にとっての安心感の担保であって、認定ドゥーラじゃないといけないというわけではありません。誰でも家でドゥーラになれるということをみんなに知ってほしいな、と思いました。

養成講座は、ドゥーラという存在を知ってもらうためのひとつの形。講座を通して人をつなげて、さらには広くドゥーラという概念を知ってもらうこと。そして、全ての女性がいきいきと輝く姿を次の世代にも見せていくこと。ドゥーラ協会の本来の目的は、そんなところにあるのです。

「ワクワク、ワイワイ」を胸に

「ドゥーラ」という存在について、丑田さんと様々な話をしていると、「ワクワク、ワイワイ」というキーワードが浮かび上がってきました。

私は企業に務めていたとき、社内研修に携わっていたのですが、人が何かのきっかけで今より人生をワクワク楽しめるようになるのってすごく面白いし、そういうことをやっていきたいという想いをずっと持っていたんです。だから、宗から話を聞いたときも、「やらせてください」とすぐに返事をしました。

さらに、ひとりでワクワクするだけではなくて、みんなでつながっていくのは大きい。日常が何らかのきっかけでワクワクして、そういう人たちが集まってワイワイして、シナジーを生み出す。そんなきっかけを作っていきたいと思っています。

それは、丑田さん自身も、宗さんやお友達、そしてお子さんから「きっかけ」をもらったからこそ感じたこと。

そういう存在が近くにいることはありがたいな、と身を以て感じています。それにやはり出産は私にとって大きな転機でした。ひとりの親としても、毎日生き生きと、誰かとつながりながら人生を歩んでいる姿を子供に見せていきたいな、と思います。

そのためにはまず、自分自身が人生を楽しむことですね。

「ドゥーラ協会」代表理事 丑田香澄さん

「ドゥーラ協会」代表理事 丑田香澄さん

「きっかけ」は誰にでも訪れるし、気付かないうちに目の前に転がっているものだと思います。でも、それに気付き、大事に育て、ワクワクに変えているのは、丑田さん自身の力。「ワクワク、ワイワイ」を胸に歩みを進める丑田さん、そしてドゥーラ協会の想いが伝播し、たくさんの女性を生き生きと輝かせるのも、時間の問題かもしれませんね。

第2期「ホームドゥーラ養成講座」も間もなく開講予定。最新情報をチェック!

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