人が暮らしを営む場所が町なのだとしたら、「町」と言われて、どのぐらいの広さを思い浮かべますか。町内会ひとつ分、小学校の学区域、駅から自分の家まで、市町村単位…。町のサイズ感は人それぞれだと思いますが、では、町が現実味を帯び、愛着が沸く広さっていったいどのぐらいなんでしょうか?
株式会社まちづクリエイティブは、千葉県松戸市のJR松戸駅周辺を「MAD City(マッドシティ)」と名付け、「アーティストやクリエイターの拠点となる新しい町を作ろう!」というまちづくりの提案を行なっています。去年のこちらの記事(コミュニティをデザインするにはこれが大事!”町に参加するための第一歩”とは?)でもご登場いただきました。
もともと存在している町の発展をサポートするのではなく“町そのものを作る”という発想から生まれた「MAD Cityプロジェクト」について、まちづクリエイティブ代表の寺井元一さんに改めてお話を伺いました!
まちづクリエイティブが手がける3つの取り組み
現在、まちづクリエイティブがMAD Cityで手がけている主な取り組みは3つあります。
ひとつはMAD Cityの紹介のために、トークショーやライブ、ツアー企画などさまざまなイベントを行なうエリア・プロモーション。現在は平均して月10本のイベントが、MAD City内で開催されています。
ふたつめがMAD Cityに住みたい、関わりたいという人に住居やアトリエなどを提供するための不動産サービス「MAD City不動産」。MAD Cityにくる人は、いわゆる不動産屋さんにある一般的な物件ではなく、ちょっと面白い物件や珍しい建物、コミュニティと密接に繋がっている物件を求めていました。そこで一般の不動産屋にはないような変わった物件を集めた不動産サービスを展開しました。
3つめは、古くから松戸駅周辺にあるコミュニティと新しいコミュニティ(=MAD Cityの住民)にまたがる形でコミュニティの管理運営を行なうコミュニティデザイン事業。新旧住民の交流をサポートしています。
最近では、地元の町会関係の人たちとまちづクリエイティブの活動に関わる人たちで任意団体「松戸まちづくり会議」をつくり、町の問題を解決していくことをテーマに活動を始めていて「松戸アートラインプロジェクト」という地域アートプロジェクトを運営することになっています。
MAD Cityはクリエイティブな自治区です!
MAD Cityとは、まちづクリエイティブの事務所も兼ねているMAD City Galleryを中心としたJR松戸駅西口の半径500メートルエリアのこと。これはちょうどコンビニエンスストアの商圏と同じぐらいの日常的な行動範囲だそう。
身近で行なわれていることだから出会いも多く、コミュニティ感が生まれやすい、また、小さなエリアでさまざまなアクションを起こすことで活動全体の密度を上げ、人が興味をもって集まりやすい環境を作ることにも繋がっています。現在、まちづクリエイティブの活動は、ほぼすべてがこの半径500メートル以内で行なわれています。
ぼくらがやっているのは、松戸の町おこしではなくて、MAD Cityという町をつくることなんです。言ってしまえば”自治区”を作るということ。じゃあ自治区って何かというと、別に日本政府をどうこうしたいという話ではなくて(笑)、独自の政治と経済と文化があるエリア。
そしてぼくらがつくりたいのは、町にいる人たち同士のコミュニケーションをベースに“やっていいことが増えていく町”です。
ウェブサイトにも書いたんですが“やっていいことが増えていく町”って“クリエイティブな自治区”ってことなんですよね。僕自身が、松戸の駅前に初めてきたのは3年前ですが、そのベースになっていくコミュニケーションがとれる町だという予感があったんです。
寺井さんが松戸に感じた可能性とは?
寺井さんはもともと渋谷を拠点にして、若いアーティストやアスリートに活動の場を提供するNPO法人を運営していました。しかし事業を回していく中で“もっとやっていいことが増えていく町をつくりたい”と思うようになり、新しい拠点を探しているうちに、松戸のことを知りました。
松戸駅に降り立つと、駅ビルが建ち並んだよくある郊外都市の駅前風景が広がっています。一見、どこにでもある風景なのですが、寺井さんは松戸のどんなところに魅力を感じたのでしょうか。
新しい町をつくるっていうビジョンを、もともと住んでいる人たちに受け入れてもらえるかってすごく重要です。それって基本的には難しいことだと思うんです。
だって、困っているわけじゃなければよそ者なんて入ってこなくていいし、勝手にわけのわからないことを言わないでくれと普通は思います。逆に、あまりにも困っていたらもうほっといてくれ、みたいな感じになりますし。だから、やる気はあるんだけど困ってるっていうのは、まちづくりに関わる上ではひとつポイントなんです。
当時、僕の友人が松戸の地域活性のコンサルティングをやっていて、その友人に誘われてイベントにきたんです。それで、そのまま打ち上げにも参加させてもらって、地元の商店主さんの話を聞いていたら“困ってる、でも諦めてない”という、まさにそんな状況だったんですよね。
まちづくりというと、目に見える建物や街灯や広場など、ハードの要素に目を向けがちですが、寺井さんが目を向けたのはイベント、さらにそこに住む人々の心や思いという究極のソフトの要素。そこに、松戸を拠点にしたまちづくりの可能性を感じたわけです。
MAD Cityが松戸の宿場町の復活?
さらに寺井さんは、地元の方々と繋がりを築いていく過程で、町の歴史に着目しました。
松戸は水戸街道という旧街道がとおり、江戸時代は江戸に着く前の最後の宿場町として賑わっていました。そのため、今でも地元のかたから江戸時代の話がよく出る町なんですね。
ぼくらがMAD Cityって言っているエリアって、ほぼ松戸の宿場町だったエリアなんですよ。つまり、MAD Cityという自治区を作ろうっていう話は、歴史的には松戸の宿場町の復活なんですね。今ではぼくらも、MAD Cityのことを考えている時に、松戸宿のことを表裏一体で考えるようになっています。
なんと、新しい町をつくるという時に、昔の宿場町の印象とマッドシティという自治区のイメージをリンクさせて、もともとある町とMAD Cityの関わりをつくっていったのです。
事業をやっていく時にいちばん必要なのはモチベーションだと思っています。僕らのビジョンに対して、地元の人たちがどこにアイデンティティをもてるんだろうと考えているうちに、歴史という大きなストーリーを意識するようになりました。地元とは大きなビジョンとして、今ではそこで繋がっているんじゃないかという気がしています。
3年目のテーマは「タウンシェア宣言」!
まちづクリエイティブの活動は、今年で3年目に突入しました。この活動をきっかけにMAD Cityに移住してきた人は、アーティストやクリエイターを中心に約40人。イベントの数も目に見えて増えました。そして、活動がある程度実を結び、形になってきた今、まちづクリエイティブでは新たにひとつの提言をしました。
それが「タウンシェア宣言」です。
駅前がどれだけ賑わっているか、商業施設がどれだけあるかというハード面って目に見えやすいですよね。でも、こののれんをくぐったらすさまじく面白いおばちゃんがいるとか、そういうソフト面はなかなか見えてきません。
ぼくらがやっているまちづくりってそういう部分を見せていくことだと思っていて、はじめにそのための器を作ろうと、名前やロゴ、概念をつくりました。つまり、1年目はMAD Cityをつくった、と宣言しました(笑)。
で、2年目にやったのが不動産サービスなんです。そうは言っても、町はハードの固まりなわけです。ラスベガスが砂漠であるうちは町じゃなかったように、人が住んだり、活動できるハードが揃って、人が集って、はじめて町と呼べる。
そういう意味ではMAD Cityに興味をもった人々にとってのハードってほとんど埋もれて見えなくなっていて。それで、一般の不動産屋には出ないようなちょっと変わった物件を扱う不動産屋をやらせてもらいました。
1年目に概念を作り、2年目にハード面を提供して、実際にMAD Cityで活動できる状態が整ってきました。そこで、改めて大きなビジョンが必要だなと思って出したのが「タウンシェア宣言」なんです。
タウンシェアとは、町をもう1度共有し直すこと
ルームシェア、カーシェアと、近年はシェアの考えも浸透しつつありますが、タウンシェアは文字どおり、町をシェアするというもの。スケールが大きいので、パッと聞いただけではイメージしづらいかもしれません。
たとえばある店に面白いおっちゃんがいるとしても、MAD City全体を面で捉えたら、その店は点でしかなくて、そういう点を繋いでいるのは道路や公園や河川敷です。みんな、道路は共有物だって感覚的には思ってるんですけど、道路でやっていいことって移動することぐらいで、ダメなことのほうが圧倒的に多いんです。
そういうことを考えていったら、シェアされていると思っていたものがじつは全然シェアされていないと感じました。町にあるさまざまな要素のあり方をもう1回イチから考えて、町を共有し直す時期にきてるんじゃないかと思ったんです。
町の歴史だって共有物だけど、僕たちが宿場町の時代のことに詳しくなってから改めて思うと、松戸に住んでいる若い世代には歴史って共有されていないんですよね。
たとえば上記の写真は、松戸駅からほど近い飲み屋街、高砂通りの路地にテーブルと椅子を出して、道路をフードコート化したイベント時のもの。路地をふさぐことで通りの両側の飲食店を巻き込んで、一帯が巨大な飲み屋のようになっています。通行人は歩いて通ることができますし、飲みにきたお客さんも楽しめ、結果的にはエリア全体の活性化に繋がっています。
既成概念を取り払って新しい使い方を考える、それによって町全体で何かやることができるようになり、町がより自由度の高い形で共有されるようになる、これがタウンシェアの考え方です。
道路、駅ビル、河川敷、古びた倉庫…。タウンシェアの考えに則ってみると、いろいろな使い方が思い浮かんで、なんだかワクワクしてきます!
MAD Cityから見えてくるこれからのまちづくり
町が発展するにはそれ相応の理由があります。理由の中身は町それぞれ、さまざまな方向性のものがあるでしょう。けれどもそこにクリエイティビティをもつかどうかで、それが単なる建築的な発展なのか全体としての町の魅力の発展なのかが変わってきます。まちづクリエイティブが手がけるMAD Cityプロジェクトは、そんなクリエイティビティに基づいたワクワク感が随所に感じられます。
松戸市には今48万人が住んでいて、かなり大きな地方都市ですが、MAD Cityだけを取り出せば3、4万人の人口です。地方都市にMAD Cityのような、小さくて自発的なまちづくりの事例をつくることは、これからの地域活性にとってものすごく価値があることだと思っています。
いずれは松戸だけに限らず、日本全国の地方都市で同じようなまちづくりに取り組んでいきたいという寺井さん。まずは松戸のMAD Cityが本当に“クリエイティブな自治区”になったら、なんとも楽しい未来が始まりそうです!
MAD Cityプロジェクトの情報はこちら
タウンシェアってなんだろう?
まちづクリエイティブ代表・寺井元一さんに聞きました。