ヒノキといえば、お風呂や建築資材として、とてもポピュラーな木材。かつては高値で売れたため、数十年前にたくさん植林されましたが、輸入材の増加で需要が減り、むしろ今、森に余り気味の状況が生まれています。森にお金が還らなければ、手入れができず、山は荒れていく一方…そんな悪循環が起きているのです。
「木工房ようび」では、そんなヒノキを木組みの美しい家具に変えて、人々に届ける試みを始めました。岡山県の山々に囲まれた小さな集落で、日々真摯に木材に向き合う4人を訪ねました。
岡山県の西粟倉村。中山間地域の集落に、家具の工房「木工房ようび」はあります。伝統的な「木組み」という手法で家具や小物をつくるこの工房。
代表の大島正幸さんと奥さんの奈緒子さん、2人のスタッフとで頑張っていますが、いま力を入れているのが、ヒノキの家具づくりです。
森との出会い
大島正幸さんは岐阜県の高山で約7年にわたって家具作りに携わってきた方。その腕は確かなものですが、西粟倉に来るまで、家具の材料となる木がどんな環境で育っているのか、深く考えたことがなかったと語ります。
正幸さん 恥ずかしい話ですが、ずっと木の製品をつくることに携っていながら、ここへ来るまでは本当の意味で木のことがわかっていなかったんです。森には、枝打ちなどして木を育てる林家(りんか)さんがいて、木を伐ってくれる木こりがいて、ダンプで運ばれ、製材屋でスライスされてはじめて私たちのところに届きます。一本一本の木がどんな風に育てられているかを知って初めて、心からお客さんに最適のものをお勧めできるようになりました。
ところが、森に入った大島さんには、新たな課題が…。
正幸さん 延東さんという方の森は、とても丁寧に手入れされていて、ヒノキが立派に育っています。でも延東さんは、このヒノキはもう必要とされていないと言うんです。用途がないという意味です。
木でものづくりをしてきた僕が、その使い道を見つけられさえすれば、無駄になることもない。家具にして売れれば、森を手入れするお金ができて、うまく循環します。正直、堅木でないヒノキは家具をつくる材木じゃないと思っていたし、簡単じゃないと思ったけれど、やるしかない、やらなきゃいけないって気持ちになりました。
なぜ、今ヒノキか?
大島さんたちのつくるヒノキの家具は、森から採ってきたばかりのような白木の木肌。柔らかくて、すべすべで、ぬくもりがあります。しかもとっても軽いのです。
もちろん、オーダーがあればほかの素材でもつくりますが、ヒノキはその手ざわり、白さ、軽さなど、家具にいい点がたくさんあります。
それがなぜ、使い道がない、なんてことに?
大島さん同様に木工業界で長く働き、森の事情にも詳しい、奥さんの奈緒子さんが教えてくれました。
奈緒子さん 昔は神社仏閣や立派なお屋敷などの建築資材として使われていたのがヒノキです。以前は需要があって高値で売れたからこぞって植えられましたが、時代が変わって輸入材が増え、木で家をつくる人も減ってしまって、いま森にはヒノキが余っているんです。
以前は、高価なものだったので、ヒノキを刻んで家具に使うなんて、勿体なくてなかなかできないんですよね。一本まるまる柱として使うような木材でしたから。ヒノキを日用品にする文化そのものがなかった、と言えるのかもしれません。
もちろん今も風呂桶や建築資材としては使われていますし、家具でも木組みじゃないものや部分的にヒノキが使われている椅子などありますが、本気で質の高いヒノキの家具づくりに取り組んでいる人は、ほとんど居ないと思います。
正幸さん そもそも家具は、イギリスからきたもので、ナラなどの堅木でつくるのが当たり前なんです。これまで使ってきた木組みも、ヒノキに合うように見直すことからスタートしました。
製法を確立するのに2年、ヒノキ専用の塗料を開発するのにさらに時間がかかりました。
無垢の木の家具がなんと月々2万円で、しかも返却可能?!
ようやく納得のいくヒノキの家具ができたものの、さらに根本的な問題に直面します。それは、「そもそも天然無垢の家具って高いよね??」ということ。
若い人であれば、ローンを組むことも難しいし、数年先のライフスタイルも見えないなか、一生の大きな買い物をするのはなかなか難しい。
そこで考えたのが、月割りプランでした。「月割家族テーブル」「月割2人テーブル」「月割ローテーブル」の3種類があり、申込み金の4万円があれば月々2万円で、手元に無垢木のテーブルを置くことができます。しかも7カ月~14ヵ月間支払いを続ければ自分のものになり、一定期間の支払いが済んでいれば返却可能!ライフスタイルの変化にあわせて、プランを見直すことができるのです。
正幸さん とにかく、木の家具がある暮らしを多くの人に知ってほしかったんです。自分たちは、無垢で、しかも木組みでつくる家具を大切にしていきたいと思っていますが、手間暇がかかる分、どうしても値段が上がります。それで皆の手が伸びず、職人も減って、森の木も使われないとすべてが悪循環。それを少しでもいい循環に変えていきたいんです。若い人にもなるべく敷居を低くして、使ってほしい。
生涯、家具の相談役でありたい
さらに、木ならではの魅力を、こんな風に話してくれました。
正幸さん 使うほど劣化する「経年劣化」という言葉がありますが、無垢の木の場合はその逆で、年月がたつほど素材の魅力が出てきます。勝手に「経年良化」と呼んでいますが、ただでさえモノは、大切に使っているうちに思い出が刻まれていくもの。それに加えて、木はモノそのものの魅力も増していくんです。それってすごいことですよね。
一度つくったテーブルに、万が一傷がついても、また削ってメンテナンスすれば美しい木肌に戻すこともできます。テーブルの脚を切って、ローテーブルに変えることだってできるんです。
「木工房ようび」が大切にしているのは、使う人の暮らしを想像して、そのシーンに合った家具を設計すること。一度買ってくれたお客さんには、生涯かけて家具の相談役になりたいと話します。
正幸さん 何かあればすぐ声をかけてほしいし、ひょっとしたら、工房の次の世代がメンテナンスさせていただくことになるかもしれない。長い目でお客さんとそんな関係を築いていくのって素敵ですよね
この人たちがつくるモノだから
大島さん夫妻が西粟倉に出会ったのは約3年前。西粟倉といえば、以前greenz.jpでも記事にした、牧大介さんが立ち上げた「森の学校」があり、村ぐるみで「100年の森構想」に取り組んでいる地域です。
もちろん、そんな地域ぐるみの取り組みが背景にありますが、何より「木工房ようび」の売りは、この4人がつくっていることなのではないか、と思えました。
独立して西粟倉に工房を構える決意をした大島さん、その奥さんの奈緒子さん、加えてスタッフの一人は経験のある渡辺さん。もう一人はこの春に高校を卒業したばかりの上村さん。木工を愛してやまない人々です。
渡辺さん 私はデザインや設計などには興味がなくて、ただただ、つくることに関心があります。目標は、私につくってくださいと言ってくれるお客さんが現れること。デザインは大島さんの力を借りながらも、つくることに集中したいんです。そのために今は修業中です。
上村さん うちは両親も大工で、子どもの頃から木を触るのがすごく好きだったんです。工業高校で木工をやっていましたが、いざ就職先を探しても、経験がない身で修業させてもらえるところは本当にありませんでした。細い縁を頼りにこちらに見学に来たんです。
二人目のスタッフとなる上村さんを雇うのには大きな決心が必要だったという大島さん。それでも、真剣に木工をやりたいと思っている若者が、女性だから、経験がないからというだけで木工への道を断たれてしまうのは忍びないと受け入れを決めました。
いつも4人はヒノキのテーブルを囲んで食事を共にします。奈緒子さんのつくる料理は美味しくて、私もこの4人と温かくてとても居心地のよい時間を過ごさせてもらいました。
木の家具をつくることで、森の間伐が進み、荒んだ森がどんどん綺麗になる。そんな循環を目指して、日々木工に向き合う「木工房ようび」の4人。
私たちの家具選びが、森の未来をつくるのだとしたら、あなたの家具も、彼らに託してみませんか?