みなさんは子どもの頃にキャンプをしたことはありますか?学校などの行事のひとつとして経験したことがあるという方は多いと思います。その経験は今、自分の中でどんな記憶として残っているでしょうか。
「楽しかった」や「きつかった」といった感想だけでなく、「あんなことをして、とても感動した!」というような、心を揺さぶるほどの記憶をつくりたい。そのような感動体験を事業として提供しているのが、今回ご紹介する「HEART EDUCATION」です。
感動体験をつくる「チャレンジアドベンチャーキャンプ」
ハートエデュケーションの活動のひとつが「チャレンジアドベンチャーキャンプ」。5〜6年生、中学生を対象に、1年間で全6回、一泊二日のキャンプが行われます。プログラムはクライミングやリヤカーの旅などさまざま。無我夢中で自分のチャレンジに集中したり、幾多の峠をチームで越えながら仲間を知ることを目的としています。
他にも1〜2年生向けの野外で身体を使うソトアソビ、3〜4年生向けのトライ・チャイルドキャンプなどがあります。ユニークなのは、1〜2年生向けのプログラムに参加している子の隣で、3〜4年生向けのプログラムに参加している子がいて、お互いは見える距離にいるところ。そうやって子ども達は「今やっていることも楽しいけど、3年生になるとあんなことができるんだ」と自然に憧れをもつようになるのです。
「HEART EDUCATION」代表の龍 孝志さん
最近の子どもは、どんなことでも先生や親など、大人が決めてしまうので、自分でプランを立てて実行するという機会がほとんどありません。そこでこのプログラムでは、ほぼ子どもたち自身で計画を立ててもらいます。
と話してくれたのは、「HEART EDUCATION」代表の龍孝志さん。
例えばイカダを作る時は、事前にどういう風なイカダをつくるのかを子どもたち自身がネットで調べ、自分たちで設計図をつくります。そうしてイメージを共有してからいざ作りだしても、イメージしたイカダができるということはほとんどないのだそう。
竹でつくるので簾みたいになってしまい、子どもたちが乗るとすぐにブクブクと沈んでしまうんです。そういう様子を見ながらも、大人はアドバイスはもちろんしますが、リードすることはありません。あくまで子どもたちだけで考えさせます。そのため彼らはあらゆる知識を知恵に変えて、イカダを浮かそうとするのです。
結果的に彼らは船底に浮き輪とペットボトルをつけることを思いつき、梁を横につけたことによって無事に出航することができました。彼らが本気を出して知恵を絞ったので、イカダを作ることができたのです。
リアカーを一緒に引きながら、人間関係も体験する
ユニークなプログラムのひとつが、リアカーを引いて一泊二日でゴールを目指そうというもの。リアカーは昔は使われることが多かったのですが、最近ではめったに見ることがなくなりました。そのリアカーにキャンプ道具や飲料水などを乗せて、子どもたちだけで押したり引いたりしてゴールを目指すのです。
距離はコースによって違いますが、だいたい30㎞ほど。子どもたちのスピードだと丸二日かかります。その道のりは決して平坦なものではなく、海を目指して山道を登ったり、峠を越えたり、手を抜くことはできません。
あまり協力したがらない子もいれば、逆にリーダーになりたがる子もいます。もちろん道中にはケンカが起こることも。そこでお互い本音をぶつけ合い、一緒にどうすればいいのか考えはじめるんです。
そういった積み重ねも、実は感動体験につながります。ケンカしたままではいけないけど、じゃあどうしたらいいのか、みんなで考えて知恵を振り絞るのです。
体験というのは決して体を動かすことだけではありません。人と人とのコミュニケーションや考え方が違う時に、どうしたらいいのかということを学ぶことも体験になるのです。
仲間に本音を言うことは勇気がいることですし、言われた子はショックを受けるかもしれません。でも逆に本気でぶつかり合うという体験をしないまま大人になってしまうと、自分の意見を言えないような人になってしまいます。ですからこういった人間関係についての体験も、大事なんです。
紆余曲折を経て、最後はみんなで一致団結してゴールを目指す…その経験は大人になっても大切な引き出しになるはずですね。
夜通し歩いて朝日を見に行こう!
一年間を通したプログラムの締めくくりは、みんなで一緒に朝日を見に行くキャンプです。朝日を見るために子ども達は夜通し歩いて海を目指します。
どうやって目的地に行くのかも子どもたちだけで考えて決めていくんです。その時に千円札を全員に渡します。「どんなことにも使っていいよ」と言うと、子ども達は何に使おうかと盛り上がるですが、最終的に「これは交通費なんだ」と気付いたりします。自分で考え、みんなで話し合うことで、自分たちにできることが見えてくるんです。
ただ、多くの子ども達は地図を見て行動するという経験がないので、途中でわからなくなることも多いそう。なかなか朝日に間に合わないようですが、みんなで迎えた朝はきっと感動体験になりますね。
最後のチャレンジを終えた後は、一年間をまとめる発表会です。一年間を振り返った自分の気持ちを表現するために、文章を書いたり、絵を描いたり、歌をつくったりします。中には自分がチャレンジしたことをパズルにして、仲間に配る子も!そうして振り返ってみることで、一年前の自分との違い、その成長を認識することができるのです。
大人と子供が本気で戦う!!親子バトルキャンプ
「HEART EDUCATION」のもう一つの人気プログラムが、家族単位で参加して親と子どもで対決する「親子のバトルキャンプ」です。
家族でのキャンプだと、親はどうしても食事の用意などで忙しく、子どもと一緒に遊ぶ時間は少ないもの。そこで親と子が同等に楽しめるように、複数集まった家族を子どもチームと大人チームに分け、戦いながら楽しめるような企画になっています。
例えば”食材争奪戦”では、ゲームに勝つと夕食のバーベキューの食材をゲットすることができます。食べ物がからむと真剣になるので、戦いは白熱してゆきます。
親が子どもと本気で戦うことの狙いは「うちのお父さんってすごい」「お母さんはこんなこともできるんだ」という風に思ってもらうことなんです。最近は「大人になりたくない」という子どもが多いようですが、それを解決するには「大人ってかっこいいんだ」と思えるようにすることだと思うんです。
また、子どものことはスタッフが全部お世話をしてくれるので、バーベキューなども心のそこから楽しむことができます。夜の懇親会ではお酒の力もありますが、お父さんの熱い気持ちが出て盛り上がるそうです。
「本気」という言葉をスタッフ全員で話し合う
感動体験をするは簡単ではありません。感動するためには自分が「本気」になって取り組む必要があるからです。では、「本気」になるにはどうすればいいのでしょうか?
例えば大人が考えたプログラム通りに行う体験というのは、子ども達はあまり本気になることはできません。ですが自分たちでプランを立てたり、イカダを作ったり、リアカーを引いてゴールを目指すなどというようなプログラムであれば、子ども達は本気になって取り組むことができるのです。
人が「本気」になるとはどういうことか。一生懸命取り組むこともそうだし、歯を食いしばる、声を出さず黙々とやる、みんなで声を掛け合うなどいろいろあるけれど、「自分たちが目指す本気というのはどれなのかということを、スタッフでとことん話し合っている」と龍さんはつづけます。
天候などでも条件が変わるため、リアカーを引く行程を考える時には、スタッフが何度も下見を行います。そこまでやって明確にする理由は、スタッフが同じ狙いでやらないと、子ども達の目線で話したり、チャレンジに臨む態度がぶれてしまうからなのです。
スタッフ間で違う解釈をしていると、子ども達は混乱してしまい、時には危険なことにもなってしまいます。プログラムの中には刃物や火を使うものがあるのでなおさらです。そのため活動内容を決める時は和気あいあいですが、意識のすり合わせをする時は緊張感のある会議になります。スタッフのうちのほとんどは大学生や社会人なので、こういった会議に参加するということは、のちのちにも役に立つと思います。
大人向けの感動体験を
今後は小学生だけではなく、大人の体験学習も考えているそうです。大人になったからこそ味わえる感動体験、果たしてどんなものがあるのでしょうか?
また、地域ごとにこういった活動ができるよう、指導者養成にも力を入れていきたいと龍さんは語ります。地域の人が指導者になると、その地域にいる子ども達のことを把握できるし、成長を見守ることができる。そして子ども達も大人のことを認識できるので防犯にもなる。まさにお互いが向き合うことで、一石二鳥の効果が生まれるんですね。
日本全国に感動や本気を体験した子供が増えると、明るい未来が見えるような気がしてきます。感動が足りない…ともしお悩みの方がいたら、仲間と一緒にリアカーで峠越えしてみませんか?
(Text:福田絵美子)
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