『生きる、を耕す本』が完成!greenz peopleになるとプレゼント→

greenz people ロゴ

緑のなかのコワーキングスペースも誕生!野生植物の階層をデザインして“究極の庭”を作る「Future Garden」[マイプロSHOWCASE]

fturegarden01

みなさんは“庭”という言葉からどんな空間をイメージしますか?
季節ごとに咲く花を眺めたり、家族や友人とおしゃべりやバーベキューを楽しんだり。いわば、居住空間の延長線上にある「見る」「居る」ための空間ではないかと思います。

ところが、「Future Garden」の道端慶太郎さんのお話からは、「動く」「遊べる」「使える」「食べる」「楽しむ」とアクティブな動詞がどんどん飛び出してくるのです。

道端さんが作ろうとしているのは、野生の動物や昆虫を呼ぶことができ、何もしなくても自然に豊かな実りをもたらす“究極の庭”。でも、いったいどうすればそんな庭を作ることができるのでしょう?

植物の階層をデザインするというアイデア

気温の高い時期に雨がよく降る日本の風土では、植物が育ちやすく放っておくだけでどんどん森が生まれていきます。

たとえば、根を残して木を伐り8~15年経つと自然に森が蘇るのを待つ“里山”の営みは、このような風土を上手に利用して「森を畑のように使う」もの。遠い昔からこの国の人たちは、伐った木材を薪や炭にしたり、またキノコや山菜を摘んだりと野生の植物とほどよく関わりながら上手に自然の恵みを得ていたのです。

今はもう“里山”はごく限られた場所にしか残っていません。でも、「森を畑のように使う」里山の発想を庭にも活かせないだろうか――道端さんはアイデアを思いつきます。

たとえば、空中で窒素固定するサイカチというマメ科の樹木を植えると、落ちてくる実や葉が肥料になって土を作ります。日当たりを考えながら、サイカチの下に果樹、その下には草花や野菜を植えて階層をデザインしていけば、里山と同じように放っておいても自然と収穫を楽しめる庭が作れるはず。それが僕の目指している“究極の庭”です。そうしたら、暮らしが豊かになるし楽しくなると思っていて。

“究極の庭”は、集合住宅のベランダでもプランターを用いて植物の階層をデザインすれば作れるそう。ゆくゆくは、プランターキットを開発して販売することも視野に入れています。自分のベランダが森や畑になる可能性があるなんて! 道端さんのアイデアは考えもしなかったことばかりでワクワクしてしまいました。

私たちが食べている野菜はすべて元をたどれば野生の植物です。今やあまりにも身近なジャガイモだってもとをたどればアンデスの高山植物だったもの。安定した食料の供給源として重宝され、やがて世界中に普及していきました。

道端さんいわく「まだまだ知られていない有用な野生の植物がある」とのこと。もっと真剣に野や山に目を向ければ、思わぬところに“第二のジャガイモ”が隠れているかもしれません。

生物の専門家として社会に関わる“複合技”とは?

道端さんの仕事場で育つ植物たち
道端さんの仕事場で育つ植物たち

道端さんは、今年まで13年間にわたって、環境コンサルタントとして全国をめぐり野生動植物の調査を行ってきました。フィールドでさまざまな動植物に出会い、「珍しい生き物を守る」ことに関わる仕事を楽しんでいましたが、数年前に有機農業に取り組む人との出会いが道端さんを変えるスタートポイントになりました。

フィールド調査って、山や森でテント生活をしてやってると思うでしょう? でも、実際にはビジネスホテルに泊まってコンビニの弁当を食べたりしていたんです。有機農業家の人に出会って、僕は「珍しい生き物を守る環境を」と言いながら、自分が食べるもののことや食料を作る環境、食料不足の問題を全く考えてこなかったなと思いました。それはおかしいと思ったのが今に至るきっかけですね。

野生生物と13年間つきあってきた経験、そして生物分類学の専門知識。何よりも「生き物が好き」という気持ち――道端さんは、自らの知識と経験から“複合技”を編み出して食の問題に関わることを考えはじめます。

そこで思いついたのが、長年親しんできた野生の動植物を人々の暮らす家の庭に連れてきて「自然に食料を得て、管理は収穫だけでいい」というしくみを作りだすことだったのです。

「動く庭」「遊べる庭」を作っていきたい

“究極の庭”で食の問題解決を考える一方で、道端さんは“動植物で遊ぶ”プロジェクトにも着手しています。

道端さんの仕事場には、さまざまな種がふかふかした土からゆっくりと芽を出しています。窓辺に並べられた植木鉢には、金色に輝くさなぎが眠っていました。道端さんが愛してやまない美しい蝶「アサギマダラ」です。

アサギマダラのさなぎ 光に透けると金色に輝く

アサギマダラのさなぎ 光に透けると金色に輝く

アサギマダラは“渡り”をする珍しい蝶。春になると台湾から東北のほうまで、2000~2500キロも旅をするという物語のある蝶なんです。蝶にマークをつけて調査すると、近畿で見かけられた蝶が鹿児島で観測されたりしています。食草を植えて環境を作れば、アサギマダラを庭に呼ぶことだってできるんです。僕はそれを“動く庭”と名づけました。

このアイデアは、環境教育プログラム「空から蝶を呼ぶ場所づくり』」として、2012年から大阪府の小学校で実現することになりました。ゆくゆくは、学校間で連携して一緒に調査することも構想しています。

遊びができる植物があることを知ってもらいたいんです。アサギマダラを観察したい人みんなで同じ植物を植えて「うちに来たよ」と報告しあえたら、学校の子どもたちから六本木ヒルズに住む社長まで立場も年齢もなくつながりあえる。自分の庭に来たらうれしいですからね。ネットで報告しあうしくみをつくってもいいかもしれません。

道端さんは、「見たことも触ったこともない生き物を守ることは難しい」と言います。裏を返せば「植物や昆虫についてよく知ればかかわり方がわかる」ということ。遊びの要素を含めつつ動植物の生態を教えることは、生物分類技能検定(2級)を「動物」「植物」の両方で取得するほど動植物に詳しい道端さんの“複合技”のひとつです。

生き物たちのストーリーを伝えるために

日本のふんころがし「ルリセンチコガネ」。奈良では瑠璃色だが、生息地域でによって緑や金色の個体もいる。
日本のふんころがし「ルリセンチコガネ」。奈良では瑠璃色だが、生息地域でによって緑や金色の個体もいる。

全国から収集した植物の苗を育てるかたわら、道端さんは奥さんと一緒に奈良・高の原に「いつか森になるカフェ」を4月12日にオープン。「昆虫館や博物館には行かない人に動植物の楽しさを伝える」とともに、「Future Garden」に共感する人たちが集う場づくりをはじめました。

種を植えて木が育つまで最低でも3年はかかるし、プロジェクトの結果が出るまで本当に長い時間がかります。苗を育てるあいだは、庭のランドスケープデザインを勉強したり、人にプロジェクトを知ってもらう活動もしていきます。それに、場所があると生物の専門家や造園家、プロジェクトに関わりたい人も自然に集まってきてもらえるんじゃないかと思うんです。

すでに準備中のカフェに訪れた人から「造園をやっている人がいるよ」と情報が寄せられることもあったのだとか。カフェの一階は、植物のなかでスイーツや飲み物、軽食を楽しめるスペースに。二階は、仕事や勉強、読書ができる心地よい緑のなかのコワーキングスペースにしています。専門家と子どもたちが出会い、動植物と出会う楽しさをシェアできるユニークな“森”に育っていきそうです。

「伝える」ためにもうひとつ考えているのは、道端さんが各地で出会った生き物を指でそっとつかんで撮影した写真でつくる図鑑「ツ鑑(つかん)」の出版です。

図鑑というと、標本のような昆虫写真がズラッと並ぶイメージがあるけれど、道端さんの手にかかると見ているだけで思わず笑ってしまうほど、いきいきかわいらしく見えるから不思議。ヒキガエルなんて、童話の世界から飛び出してきたみたいにおどけて見えます。

「ツ鑑」について説明する道端慶太郎さん

「ツ鑑」について説明する道端慶太郎さん

僕がずっとさまよっているのはファンタジーの世界。絵本では空想上の生き物が出てきたりしますけど、僕は現実のなかで同じような世界をさまよっているんですよ。どこかへ出かけて「あっ、またここにいた!」とかね。生き物の面白い生態やストーリーがわかれば、もっと愛着が湧くと思います。「ツ鑑」ではそういうことを伝えてみたくて。いま、出版社を探しているところです。

編集者のみなさん、現実世界のファンタジーを伝える図鑑の出版はいかがでしょう?

「好き」が人生の道しるべになる

ベランダにやってくるアサギマダラを眺めたり、庭に育つ果物の成長を見守れる“未来の庭”があちこちに生まれるまで、10年スパンでの時間が必要になります。「一生かかってもどこまでいけるかというレベルの話」と道端さんも言います。

誰かがやらなければいけないことだから、短期的にはビジネスにはならないとわかっていても、ETIC.のスタートアップメンバーに選んでもらえたんだと思っています。それは僕の自信にもつながっているし時間がかかってもやりとげたい。僕は生き物が好きだし、好きなことしかできない。そして、「好き」だから熱意を持ってやれると思うんです。

幼稚園の頃、ダンゴムシを愛しすぎて両方の鼻につめこみ病院へ連れていかれたというほど、ずっと生き物が「好き」――どんなに小さなことであっても、「好き」という気持ちで正直でいることが人生の大切な道しるべになるのではないでしょうか。

知識や経験の量よりも、「好き」なことをやりつづけてしまうことが、ほかの誰にも負けない道端さんの強さなのだろうと思うのです。

道端さんの「いつか森になるカフェ」をチェック!