都心で増えているコワーキングスペース。greenz.jpでも、「co-ba」や「Lightningspot」などに注目し、その仕掛人の皆さんと共に、これからの働き方について考えてきました。
でも、コワーキングスペースの広がりは、まだまだ限定的。まとめサイト「コワーキングスペースjp」を見ても、全39件の登録に対し、東京都が22件、大阪府が5件と、そのほとんどが大都市圏に集中しているのが現状のようです。
そんな中、今回私が訪れたのは、東京から新幹線で約30分の距離にある神奈川県・小田原に4月14日(土)にオープンしたばかりのコワーキングスペース『旧三福(きゅうさんぷく)』。なんでも、湘南・西湘地区初のコワーキングスペース誕生とのことで、さっそく現場に足を運んで来ました。
そこで目にしたのは、都心とはちょっと違う、この土地ならではの空間、そして人。さっそく中を覗いてみましょう。
えっ、ここがコワーキングスペース?「旧三福」へ潜入!
小田原駅から徒歩7分。昔ながらの雰囲気が残る商店街を歩いて行くと、「中華料理 三福」の看板が目に入ります。
一見それとは分からない入口に、一抹の不安を覚えながら扉を開けると、そこには、どこか懐かしい雰囲気の空間が広がっていました。
入口横には、書籍が並べられた本棚が設置され、デザインや働き方の本が並べられています。
机には貸し出し用のカードも。
トイレへの暖簾には、かわいらしい刺繍が。
そして奥には色とりどりのハンモックが吊るされた和空間も!
手作り感溢れる、まるで家のような空間ですが、ここは紛れもなく、コワーキングスペース。次からは、この空間の使い方をご説明しましょう。
『旧三福』の使い方
空間がユニークなら、使い方もとってもユニークなのが『旧三福』。
利用時間
コワーキングとしての利用は平日9:00〜18:00。24時間365日のコワーキングスペースも増えている中、潔い時間設定にした理由は、「メリハリつけて仕事をしよう」という、主宰者からのメッセージ。18:00以降と休日は、イベントスペースや日替わり店主のカフェバーに変身します。
利用料金
会議室(和室)の利用も無料となる「月会員」は、1ヶ月1万円と、かなり格安。「まずはお試しから」という方は、1日1,000円で利用可能です。イベント利用は、個別相談で。約20名ほど収容可能で、時間貸しもできるそうです。
設備
電源、無線LANはもちろん完備。今後、黒板とコピー機、プロジェクターも導入する予定とのことです。コワーキングに欠かせないコーヒーサーバーは使い放題。その他にも、ハンモックやサッカーゲーム盤(くるくる回すレトロなタイプ。近日入荷予定!)など、仕事の合間にちょっと息抜きできる設備が充実しています。
三福文庫(5月スタート予定)
本棚に並べられた本は、「三福文庫の会」のメンバーになると借りることができます。本のセレクトは、“世界がほんの少し変わって見えるような”ものとのこと。コーヒーを手にゆったりと思いを巡らす「ブックカフェ」も、月に2日程度開催予定です。
『旧三福』発起人はこの人!山居是文さんインタビュー
『旧三福』を発案し、仲間とともにセルフリノベーションしてつくりあげたのは、小田原出身・在住のプランナー・山居是文さん。『旧三福』は、山居さんが取締役を務める株式会社ヌースフィアデザインレイズが運営・管理をしていきます。まずはこの空間について、お話を聞きました。
「リノベーションしすぎない」ことで、愛着のわく空間に
最初は汚すぎてテンションが上がらなかったんです。
「本当にここ、借りるのかよ」って(笑)。
と、山居さん。それもそのはず、築50年、元中華食堂だったというこの建物は、閉店後2年間放置されていたとのことで、壁や床、天井まで全てが汚れていて、とても使える状態ではありませんでした。
でも以前から、小田原に人が集まる空間をつくりたいという思いがありまして。家賃がこの場所にしては破格でしたし、このチャンスを活かした方がいいと思って決断しました。
踏ん切りをつけるまでには時間がかかりましたが……。
その後山居さんは、仲間といっしょにセルフリノベーションを始めます。まずは掃除から始め、知り合いの材木屋さんや建築家、畳屋さんなど、多くの人にアドバイスをもらいながら、床を塗ったり、壁を張ったり。毎週土日は、ほとんどの時間を作業に費やしました。
約2ヶ月後、友人約30人の手助けもあり、ようやく人が集える空間が完成。中華食堂のリノベーションという、ちょっと気が遠くなるような作業をしようと決めた背景には、山居さんのこんな思いがありました。
もちろんお金がないことも理由のひとつですが(笑)、自分たちでつくった方が愛着がわく空間になると思ったんです。知り合いに相談できる建築家もいましたし、なんとかなるかな、と。
でも、大事にしたのは、リノベーションし過ぎないこと。この空間の歴史に敬意を払うと言いますか、きれいにしてしまうのは簡単なんですが、名残がある方が、この商店街の人々にも愛される空間になるのでは、と思ったんです。『旧三福』という、元の店名を残した名前にしたのも、そのためです。
地元の人も、自分たちも、愛着を覚える場所にするために。セルフリノベーションは、この場を「人が集まる空間」にしたいと願う、山居さんのこだわりだったのです。
メリハリのある仕事のための仕組みづくり
「人が集まる場所をつくりたかった」という山居さん。でも、コワーキングスペースをつくろうと思ったのは、なぜだったのでしょうか?
小田原には、フリーでクリエイティブな仕事をしている人がたくさんいます。僕自身も会社は東京ですが、週の半分以上は小田原にいて、家以外に仕事場がない。でも、家でやっていると、24時間365日、「戦闘態勢」みたいになってしまって……。せっかくのんびりできる土地に暮らしていることですし、メリハリをつけたいな、と感じていたんです。
であれば、みんなで仕事場を共有し、時間を区切ることで踏ん切りをつけることではないか、と。さらに、この場でいろいろな人と出会うことで刺激を得られれば、それぞれの仕事にもいい影響があるのでないかと考えました。
メリハリをつけるため、そして出会いの場として考えたのが、イベントやカフェバーとしての利用時間をつくることでした。初回入居者は、ライター、アートコーディネーター、「ハンモック研究会」の方など、それぞれユニークな活動をする6名に決定。3月3日のプレオープンでは、みんなでこの場所の「3つの福」を考えるワークショップを開催し、その場で出た、「ハンモック相談会」「映画上映会」といったイベントや、「図書館」といったアイデアを、形にしていくことに決めました。
今後、誰が集まるかによってこの場所も変わっていくし、ルールも柔軟に変えていこうと思っています。ここが手狭になったら、小田原市内の他の場所にも、サテライトで広げていきたいですね。
空間や仕組みから「みんなで」つくりあげた『旧三福』。オープン記念として行われた一般公開とレセプションには、小田原内外から約80名の方が集い、大いに盛り上がりました。
これからこの場所に、どんな人が集い、どんな風に形を変えていくのでしょうか。今後の広がりも、とても楽しみです。
地元に根付き、地方都市特有の課題解決へ
場を持つことの動機のひとつは、もちろん自分たちのため。でも同時に山居さんはこの場所を通して、都心とは違う、小田原特有の課題にも、解決の糸口を見いだそうとしています。
地方都市ならどこでも似たような事情があるのかもしれませんが、小田原駅周辺は昔ながらに家賃が高く、借り手が見つからない大家さんも多いのが現状です。それに、デザインや企画など、クリエイティブな仕事の価値が高いとは言えない。
僕らみたいなクリエイティブ寄りの人間がこうして場を持ち、地元に根付いていくことによって、ハード面が適性価格になったり、クリエイティブの価値が上がっていくんじゃないかと思います。
実際、リノベーションしていても「どんどんやって!」と声をかけてくれたり、商店街の人たちはすごく協力的なんです。味方が増えている、と感じています。
取材に訪れたこの日も、商店街に店を構える方がこの場所を覗き、山居さんとたわいもない会話を交わしていく様子が見られました。それは、リノベーションの過程で、山居さんが商店街の人と丁寧な関係をつくってきた成果でもあるでしょう。街が変わっていくための小さな芽が、すでに芽生え始めているのを感じます。
面白くならないはずはない!
山居さんが取締役を務める株式会社ヌースフィアデザインレイズは、コミュニティデザインを手掛ける会社。最後に、この『旧三福』を事業とすることの意味について聞きました。
「実験」ですね。僕らは、人が集まることによって何かが生まれるようなことをしたいと思って仕事をしています。その手法は、アプリだったり、イベントだったりするのですが、『旧三福』は、その「空間版」。空間ができることで人々にどんな変化があるか、を試したい。
まぁ、面白くならないはずはないですが(笑)。
都心とはちょっと違うコワーキングスペース。そこは、その土地に住み、愛する人たちだからこそつくることができた、工夫と愛情に満ちた空間でした。
利用者数や立地など、地方にコワーキングスペースをつくるには、様々なハードルが存在することも確かでしょう。でも、地域に根ざしたコミュニティづくりの拠点として、また、使われなくなった建物の有効活用法としても、今後の広がりに大きな可能性を感じます。
『旧三福』は、4月14日(土)より、正式オープンとなりました。気になる方は、ぜひ足を運んでみてください。きっと、新しい発見と出会いがあるはずです!
最新情報、イベントもチェックしてみよう。
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