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「映画『第4の革命』は、”あなたにはより良い未来が選べる。それは可能なんだよ”という映画なんです。」関根健次さん(前編)

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このインタビューシリーズは、「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」を実現して、ステキな未来をつくりだしている方々へのインタビューをお届けします。

こんにちは、greenz.jp発行人鈴木菜央です。

今回から始まるこのインタビューシリーズは、greenz.jpのタグラインにもなっている「あなたの暮らしと世界を変えるグッドアイデア」を実現して、ステキな未来を実際につくりだしている方々に、インタビューしていきます。

第1回目である今回は、映画『第4の革命』を配給している、ユナイテッドピープルの関根健次さんです。2回に分けて、お届けします。



『第4の革命』はどんな映画?

鈴木 こんにちは! 実は家が近所なんですよね。

関根建次(以下関根) こんにちは! そうですね。

鈴木 greenz.jpとしては『第4の革命』はとても注目している映画です。上映開始されたときには記事をアップしたり、先行上映会で飯田哲也さんと対談させていただいたりしているのですが、まずはユナイテッドピープルの活動についてと、映画『第4の革命』を公開するに至った経緯を教えてもらえますか?

関根 ユナイテッドピープルは、人と人をつないで世界の課題解決をしていくことがミッションです。これまで、クリックから募金ができる「イーココロ!」と、ネットから署名活動ができる「署名TV」という2つのサイトをメインに活動してきましたが、2009年から映画の配給事業を始めて、2011年は『第4の革命 エネルギー・デモクラシー』(以下『第4の革命』)を配給し始めました。

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関根 『第4の革命』はドイツで製作されたドキュメンタリー映画ですが、今後30年で再生可能エネルギーへのシフトは100%可能だ、ということを訴える映画となっています。具体的には、2010年に公開されて以来、4000回もの、さまざまなスタイルの上映イベント、トークイベント、写真展などが開催されて、結果13万人もの人が観て、2010年の最も観られたドキュメンタリー映画となりました。まさに、ドイツ全土を巻き込んだエネルギーの民主化を求めるキャンペーンになっていったのです。

そして年が開けて2011年、3月11日に東日本大震災が起きて、福島原発の事故があったわけですけれども、実は、その事故はドイツにとても大きな影響を与えた。震災後、『第4の革命』が再度注目をされて、5月にドイツの公共放送、ARDともうひとつのテレビ局で、合計2回、全編テレビ放映されました。そしてそれを、200万人以上が観た。そして翌月の6月6日にメルケル首相が脱原発の閣議決定をしている。そういうことを考えていくと、2010年、2011年と、ドイツが脱原発を果たしていくのに、この映画は非常に大きな影響を与えたんです。

この映画を企画したのが、メイン出演者でもある、ヘルマン・シェーアです。彼はドイツの国会議員ですが、長年再生可能エネルギーについての政策提言を続けてきた。1999年には「電気エネルギー買取り法」、その後ドイツで風力発電が爆発的に伸びるきっかけになった法案を通した。これはたった1ページの法案だったそうですが。風力発電で作られた電気を固定価格で買い取りなさいという内容。たったそれだけの法案が通って、それでドイツにおける風力発電が爆発的に伸びた。それをデンマークが真似して、デンマークでも風力発電が爆発的に伸びた。

その後、ドイツでは2000年から太陽光発電が急送に伸びたのですが、そのきっかけになった法案にも、やはり彼が深く関わっていた。いわばヨーロッパの再生可能エネルギー普及のきっかけをつくった人物なんです。そんなふうに長年、再生可能エネルギーへのシフトをしていこうと訴えかけてきた人が、この映画の主人公です。

もちろん、出演者は彼だけではありません。ドイツを中心とした世界10か国の事例を紹介しています。たとえば再生可能エネルギーで地域のエネルギー自給をしているデンマークの半島、日本でも著名なモハマド・ユヌスのグラミン銀行の子会社がバングラデシュで貧困地域の女性を指導して村々の屋根にソーラーパネルを毎月8000件も設置している事例、スペインの世界最大級の太陽熱発電所の事例、アフリカのマリ共和国で、マリ人の青年が、電気の通っていない地域にソーラー発電設備の設置活動をしている事例などを通して、再生可能エネルギーへのシフトが必要で、実現可能であるということを、各地のキーパーソンたちが語っています。

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横浜のカフェでお話を伺いました。


『第4の革命』の日本公開までの経緯

鈴木 今回、日本でこの映画を公開したいと思ったのは、なぜなんでしょうか?

関根 震災後、4月にアントニオ猪木さんと一緒に、東北地方に水を届ける活動をしていたんです。そこで彼の「オレにできることは元気を届けることだ」という言葉を聞いて、では、自分には何が出来るのか、と考えたのが最初のきっかけです。「それは、映画を通じての何かなんじゃないか?」

福島原発の事故があって、放射能が広がってきて、時が経つにつれて、どんどん悪いニュースが増えてきた。そして、社会が不安に包まれていった。しかし同時に、事故のことは風化していくのを感じたんです。そんな状況の中、「原発はこんなにひどい!」という映画を配給することもできるんだけど、それでは社会が変わるとは思えなかった。

それよりも、「あなたには、より良い未来が選べる。それは可能なんだよ」というビジョンを持った映画、未来に希望を持てるような映画を日本に持ってきたいと思ったんです。再生可能エネルギーへのシフトは可能なんだ、ということや、脱原発は現実的に可能なんだ、という希望です。そんなことを訴えかけられるような映画を探した。5月のことでした。

ネット検索で、「renewable energy documentary」(再生可能エネルギー ドキュメンタリー)とか「renewable energy documentary film festival」(再生可能エネルギー ドキュメンタリー 映画祭)とか検索して(笑)。そうしたら、『第4の革命』なる映画がいくつかの映画祭に出品されていた。すぐに予告編を観、非常にポジティブなメッセージを多く含んだ映画だなと思ったので、すぐに「日本で配給したいので、まずは本編を観たい」とドイツの制作会社に2回Emailを送ったんですが、みごとに放置された。その後、確か6月に入ってから、鈴木菜央くんから、「ねえねえ、この映画知ってる?」とメールが来た。「え、なんで知っているの?」と思ったわけですね。じゃあ、菜央くんがキャッチして注目した映画なんだから、これはやはりやるべきだろうと思い直して(笑)。

鈴木 そうだったんですか! R水素ネットワークのメーリングリストで流れて来て、これは!と思って関根さんに転送したんです。

関根 それで、今度はエグゼクティブプロデューサーや監督なんかに直接Emailを送ったら、つながった。何度かのSkype会議で「なぜ、今日本でこの映画が必要なのか」という理由を伝えました。「今、原発事故が起きて、人々は非常に不安を抱えている。そういう不安の中で、希望の持てるビジョンを見せたい。事故が起きたことをきっかけに、やはり日本こそが脱原発を果たし、再生可能エネルギーへのシフトのために、この作品を日本全土で見せていきたい」と強く訴えかけて、8月に日本での配給契約をすることができました。

鈴木 大変だったんですね〜。無視されて。

関根 そう。そしたら、そのあとで「誰だ!日本からのオファーを無視するのは!」と監督がカンカンに怒ってたらしいです(笑)。それで、2011年10月のはじめ、ドイツ文化センターの支援で監督が来日して、初めて監督と会った。監督がその時にこう言っていたのがとても印象的でした。

ドイツに「次」に見せたい場所は、日本なんだ

福島原発が起きた日本で、この映画を観てもらい、日本がほんとうの意味で持続可能な国になっていってほしい

ドイツが先に脱原発を果たしたけれど、日本こそが、脱原発を目指すべきじゃないか

それで、実はですね。2年に一度、山形県で開催される「山形国際ドキュメンタリー映画祭」というドキュメンタリー映画の国際映画祭がありまして、その映画祭に、2011年4月、ドイツの制作会社が『第4の革命』の出品希望を出したそうです。そうしたら、断られた。ドイツの制作会社は、「なぜだ?」と非常に疑問に思ったそうです。「原発事故の後に、希望を見せられる映画なのになぜ、拒否されるのか?」と。これだけドイツで評価されている作品をやらない理由はないと思うんですよね。それで、彼らが言うには、「東京電力がサポートしているからじゃないか」と。とにかく、ドイツ側としては、日本での上映を熱望していたんですね。

鈴木 それが本当だとしたら、ちょっとひどいですね…。

★インタビュー後、山形国際ドキュメンタリー映画祭のウェブサイトを確認しましたが、東京電力がサポートしているという情報は見つけられませんでした。また、Emailにて問い合わせをしていますので、返事が来次第、こちらに続報を掲載する予定です。

2012年1月12日追記:Emailにて、『第4の革命』のエントリーを受け、落選したが、落選理由は開示できない、という主旨の返信がありました。

関根 その後10月にドイツ文化センターの企画で監督が初来日して、映画の先行初上映を行なわれました。そこで、この映画を日本で、どのように公開していくかということを、監督、制作側と話し合った。ドイツでは、非常にユニークなやり方をしてきたんですね。

鈴木 なるほど。それは興味がありますね。


ドイツでの「第4の革命ムーブメント」の盛り上がり

関根 彼らは、ドイツ各地域の市とか村を代表したイベントパートナーを募集したそうです。その結果、およそ100人が立候補して。そのイベントパートナーに名刺も渡したりしながら、彼ら彼女ら自身が、地域の実力者、有名人、たとえば市長とか、国会議員とかを巻き込んで、その地域でのプレミア上映会を行う。主に映画館を会場にして行われたそうですが、その結果、2010年、ドイツ全土で220都市で開催されたんですね。

その後、さまざまな方法で4,000回のイベントが行われ、13万人を動員した。

ユナイテッドピープルとしては過去に配給した映画『幸せの経済学』でも全国で自主上映会を募集していくということをやってきていますが、今回はドイツでうまくいった方法を取り入れて、日本各地域のリーダーに手を上げてもらうという方法をとることにしました。

ちなみに、ドイツではエネルギーの自治を目指そうという意味で「エネルギーオートノミーキャンペーン」という名称で活動したのですが、日本ではエネルギーをみんなの手に取り戻そうという意味を込めて、「エネルギー・デモクラシーキャンペーン」としました。


日本全国での自主上映会と映画館上映の展開

各都道府県から、ひとりずつ、イベントパートナーを募集しました。結果、2011年12月現在、17都道府県からリーダーが集まっています。特に東北地方、関東が多かった。茨木、福島、宮城、青森、岩手、秋田、山形など東北を中心に、1月14日に日本全国に、彼らパートナーが企画する全国一斉上映会をもって、公開されます。

鈴木 今話しているのは全国での自主上映会ですが、映画館でも公開されていますね?

関根 そうなんです。映画館と自主上映会の2本立てでやっています。自主上映会を見に行けなかった方や、早く映画が観たい!という人は、映画館で観ていただけるといいと思います。12月17日から渋谷のヒューマントラストシネマ渋谷を皮切りに、全国で公開してきます。話をしていくと、劇場のみなさんも興味を持ってくださってくれて、今現在、渋谷以外では、新宿、横浜、大阪、北海道、そして原発銀座を抱える福井の計6か所で映画館での上映が決定しています。今後はもっと増やして行って、全国20か所での公開を目標にしています。

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鈴木 自主上映会に話を戻しますけど、開催地は関東以外では東北に多いんですね。

関根 やはり福島の原発事故があって、問題意識が高いからじゃないでしょうか? たとえば、福島の主催者は、こんなふうに呼びかけていて、心が揺さぶられます。

福島では先の見えない原発、放射性物質との闘いが続いています。
しかし、私たちは人間の無限の可能性を信じます。
どんな時代も、最も苦しんでいた人たちが新しい希望の時代を作ってきました。

太陽は東からのぼる! よって、人類の夜明けは東北、福島からのぼる!

皆で未来の子供達に自信を持ってつないでいける日本、福島をつくっていきましょう!

是非とも周りの方々をお誘い合わせの上、ご参加ください。

関根 そのほか、各地域で、実際に市長や国会議員などに来てもらう予定です。神奈川でのイベントでは脱原発でがんばっている自民党の河野太郎さんが、そして静岡では浜岡原発の永久停止を市議会で決議した牧之原市西原茂樹市長が参加して、トークをしていただけることになっています。

自主上映は目標としては日本全国で500か所での開催を目指しています。映画館と自主上映という二本立てで、市民がみんなで再生可能エネルギーシフトは可能なんだ、ということに気づいていって欲しいですね。映画を見終わった後、自分たちでなにができるか話しあったり、ワークショップをやったり、トークを企画すると、自分に何ができるか、落とし込めると思うんです。みんなでソーラー発電パネルをつけてみるとか、地域の政治家や行政に再生可能エネルギーを求めていく。国会議員に訴えかけていく。いろんなアクションが見えてくると思う。そういったことができるので、自主上映というのは非常に価値が高いんじゃないかな。この映画をきっかけに、国民の機運を高まっていってほしい。国民全体が再生可能エネルギーを求めているという雰囲気をつくっていくことが、僕の願いです。

鈴木 政治も変わっていってほしいですね。

関根 やはり、政策が与えるインパクトは大きいので、エネルギーの政策立案をしている国会議員のみなさんにもこの映画を観て欲しいですね。1月には、国会議員向けの上映会と監督のトークライブも企画しています。世界の事例を知らないから、再生可能エネルギーは無理だと思っている議員も多いかもしれないけど、事実はそうじゃない。再生可能エネルギーの可能性に気づいて行動してほしいと思っています。


映画を飛び越えたムーブメントへ

そして強く思うことですが、日本では、再生可能エネルギーの可能性を知る前に、「脱原発」と「原発推進」に真っ二つに別れて議論をしてしまっていると思うんです。そういう「対立」の構造の中では、なかなか答えが見えてこない。非常にもったいないと思うんですね。再生可能エネルギーの可能性をちゃんとテーブルに乗せて、「未来のために、今、何ができるのか?」ということを語るべきなんじゃないか。前向きな未来ビジョンをもって語ることが、今必要なんじゃないか? そのためにこの映画をきっかけに、国民も国会議員も、前向きに議論できるようになっていってほしいんです。

とはいえ、映画をただ上映するだけでは、1年も経つと「あんな映画もあったよな」ということにもなりかねない。この『第4の革命』という映画を生かして、社会に定着させていくには、映画を飛び越えて、運動を起こしていきたいと思っています。

インタビュー後編は、自主上映会から始まり、ソーシャルムーブメント化する『第4の革命』について、そして彼の夢を聞いていきます。

関根 健次(せきね・けんじ)
1976年生まれ 神奈川県藤沢市出身、ベロイト大学経済学部卒業(アメリカ)。ユナイテッドピープル株式会社 代表取締役。高校卒業後、アメリカの大学へ進学。卒業後、帰国し、主にIT業界に身を置く。2002年に起業。大学の卒業旅行で偶然紛争地訪問したことがきっかけで、世界の問題解決を目指す事業を開始。2003年5月にNGO/NPO支援のための募金サイト、イーココロ!を立ち上げる。著書に「ユナイテッドピープル」2008年3月にネットで署名活動ができる署名TVをリリース。2009年11月より映画配給事業を開始。2010年3月にはチェンジメーカー育成、旅の大学BADO!をリリース。2011年9月21日よりUFPFF 国際平和映像祭を開催。NGO エクマットラ日本窓口担当。2011年4月、エクマットラと共にストリートチルドレン支援目的のレストラン「ロシャヨン」をバングラデシュ、ダッカにオープン。

『第4の革命』公式ウェブサイト

『第4の革命』全国一斉自主上映会一覧

『第4の革命』全国上映映画館一覧