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「障害は本人ではなく社会の方にある」ー 障害者・児の支援にビジネスとして取り組む「ウイングル」

あなたの職場では、精神障害者や身体障害者の方と一緒に仕事をしていますか? 日本国内にいる障害者は約1,400万人。しかし、そのうち働いている人たちは2割未満で、法定障害者雇用率の未達成企業の割合も、53.0%と高い数字を示しています。障害者の就職は、とても厳しい状況にあるのです。

この問題を根本から見直し、ビジネスとして課題解決に取り組んでいるのが、株式会社ウイングルです。彼らのミッションは「障害者が社会に参加できるシステムを創る」こと。障害者の就労支援をメインの事業領域とし、2005年の設立以来、これまでの業界の常識では考えられないほどの就職実績を残しています。

全32拠点、全国展開の障害者就労支援サービス

株式会社ウイングルは、就職を目指す障害者の方のための職業訓練を行うとともに企業開拓を行い、就職に結びつけるための支援を行っています。2011年12月現在、主要都市を中心に32の「就労支援センター」を開設。障害者の就労支援事業を行っている事業所は全国で2,200拠点ほどありますが、そのほとんどが医療福祉法人や社会福祉法人などによるもので、民間企業は60〜70拠点程度。ウイングルは現在、その約半数を担っています。

全国の主要都市を中心に展開する「就労支援センター」

全国の主要都市を中心に展開する「就労支援センター」

障害者の方は、ウイングルが運営する「就労支援センター」に最長2年間通い、パソコンスキル、ビジネスマナー、コミュニケーションスキルなどの訓練を受けますが、驚くべきはその就職者実績。1拠点あたり年間で1〜2人の就職者を出すのが精一杯だったこの業界で、ウイングルは平均20人を超える就職者を輩出しています。

サステナブルな雇用の在り方を目指して

この高実績の背景にはどんな取り組みがあるのでしょうか。そして、これまで民間企業が参入してこなかったこの分野に「株式会社」として挑戦した理由は? 株式会社ウイングル教育事業本部(元広報部)の渡辺龍彦さんに、お話を聞きました。

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創業者(現社長は2代目)は、身内に障害者がいたこともあって学生時代から福祉に興味を持っており、長野県庁の職員として障害福祉策を担当した後、2005年に仙台で起業しました。県庁時代に感じた問題意識から、当初は企業への障害者雇用に対するコンサルティング事業やアウトソーシングをメインにしていたのですが、やっていくうちに「雇う側の企業が変わるだけでは問題は解決しない」と気付いたんです。

それは、障害者が労働者として育っていない現状があったからです。一部の障害者の方々は、自分自身の可能性をあきらめてスキルアップを図っていなかったり、就労意欲自体が弱かったり、そもそも労働市場に乗っかっていなかった。企業はあくまで戦力として雇用する訳ですから、そうした状態では雇用の問題は解決しないのです。

でもそれは障害者だけが悪いのではなく、「自立支援」という考え方自体が福祉の中で根付き始めたのが、つい最近の事だったからなのです。そんな中で企業向けのコンサルティングだけをしていても、サステナブルな雇用の在り方は創出できないと感じ、職業訓練を始めたわけです。

ノウハウは企業経験の中にある

障害者を育てることに意義を見いだしたウイングルは、その後、就労支援事業において目覚ましい成果をあげます。しかし、福祉関連の事業、特に障害者の支援には、特別なノウハウが必要に思えます。それはどこから得たものなのでしょうか。

就労支援については「企業に勤める」ことを目指した支援なので、逆に企業経験がない、福祉職だけが集まって支援するのは、少しおかしな話なんです。

現在、ひとつの施設には7人ほどの職員がいます。もちろん、福祉の経験があるスタッフもいますが、あとは、印刷会社の総務とか、保険会社の営業とか、様々な職種の人が転職してきて、自身の企業経験に基づいた支援をしています。

そういう意味では、この事業を始めてから今までの数年間に我々のノウハウを作ってきた、と言う感じです。今は研修センターもできているので、我々のノウハウをパッケージ化して研修をして、より高いレベルの拠点をつくっていくという流れもできてきています。

確かに、就労支援は、守られた福祉の世界から企業という一般社会へ出るためのものなので、ノウハウは企業経験者の中にあるというのも頷けます。そういう意味では、福祉事業の中でも民間の企業に近い、特殊な領域なのかもしれません。

ノウハウは自分たちでつくる。ウイングルで徹底している「分離礼」のポスター

ノウハウは自分たちでつくる。ウイングルで徹底している「分離礼」のポスター

実績を積み、時間をかけて地域に溶け込む

一方で、新規参入の場合、当然ながら既存事業者と競合の立場になってしまいます。地域に根ざした福祉団体などとの関係性は、どのように築いているのでしょうか。

今は主要都市に拠点を展開していますが、実はほとんどの地域では事業者が足りていない。本格的な就労支援ができる施設はウイングルだけ、という地域もありますので、現在はそれぞれの地域のインフラとして機能しています。

開設時は、行政や地域の福祉協議会、クリニックなどにはかなりの時間をかけて挨拶にまわり、まず我々の存在を認知していただくこと。そして時間をかけて理解をいただけるように関係機関と連携を取って行くことを心がけています。1〜2年運営している拠点では、地域の生態系の中に本格的に溶け込み始めているところも多くあります。

私たちはあくまで自立支援の要となる就労に特化した事業を展開しているので、売上よりも就職者の目標に高いプライオリティを置いて、実績を残すことで、地域からの理解を得ていくことが大事だと思っています。

理解を得るためには、まず何よりも実績を残すこと。そのために、ウイングルでは、他事業者が十分に行えていない「企業開拓」にも力を入れ、実績重視の姿勢を貫いています。

駅近へのこだわりは、「まちづくり」の視点から

ウイングルの事業拠点の大きな特徴のひとつは、いわゆる「駅近」に存在するということです。その狙いは障害者が通いやすいということはもちろんですが、「まちづくり」にもあるようです。

通常福祉施設は人里離れた場所にあることが多いですが、駅前に障害者が堂々といられるような「まちづくり」の意味でも、駅前の通いやすい場所に作っています。障害者がいることによって駅前を歩いている人に多様性が生まれ、景色が変わる。それだけでも意味があることかな、と思います。

実際に、施設があることによって「まちに活気が出てきた」と言ってくれる方もいますし、ある拠点では近くのコンビニの店長さんが実習をさせてくれています。常に2人くらいを店員として受け入れてくれて、掃除や接客をやらせてくれるんです。そこでは、障害者は店員として、地域の人と接することができています。こうやって時間をかければ関係性ができてくることを実感しています。

障害者が街にいることは、その人口比率から考えると、本来は当たり前のこと。「駅近」戦略は、それが隔離されていた現状を、健全な状態に戻すためのものでもあるのです。

新事業展開で障害者の社会参画をワンストップで支援

さて、創業以来、就労支援事業に取り組んで来たウイングルですが、今年6月、新たに発達障害のある子供のための学習支援塾の事業「Leaf」を立ち上げました。現在、未就学対象の児童デイサービス「Leafジュニア」と、6歳〜高校生までを対象とした「学習塾Leaf」を、現在都内3拠点で展開しています。その立ち上げに至った経緯についても聞きました。

ウイングル経由の就職者の7割を占める精神障害の方と面談で話をしていると、小さい頃引きこもっていたとか、落ち着きが無かったとか、そういう方がたくさんいらっしゃって。

当時は「発達障害」という言葉がなかったので、それらをすべて自分の性格が悪いんだと思って生きてきたわけです。そういう方が就職するとコミュニケーションが上手く取れず、必要以上に失敗体験をしてしまう。それによって引きこもってしまって、二次障害として「うつ」等の精神疾患を患う方が、けっこういらっしゃるんです。

そういうエピソードを就労支援の現場で拾って行く中で調べてみると、びっくりするほど早期支援の場が少ないことがわかりました。就労支援のノウハウを生かして子供の頃から支援もできたら、もしかしたら「うつ」も防げたかもしれないし、必要以上の失敗体験により自尊心を失うこともなく、もう少し本人の人生の選択肢も変わったのではないかという思いから、子供の支援を始めることになりました。

「Leaf」中目黒校の様子

「Leaf」中目黒校の様子

「Leaf」事業には、立ち上げ早々、「他の地域にも」という声が多数寄せられており、現在は拠点を増やすための準備も進めているとのことです。2010年11月には、発達障害児の家族のためのコミュニケーションの場としてウェブサイト「ふぁみえーる」も開設しています。これらの新たな事業により、ウイングルは、障害者が社会参加できるシステムをワンストップで提供することを目指しています。

発達障害児を持つ家族のための応援サイト「ふぁみえーる」

発達障害児を持つ家族のための応援サイト「ふぁみえーる」

「障害は本人ではなく社会の方にある」

最後に、「障害者が社会に参加できるシステムを創る」というウイングルのミッションについて、改めて聞いてみました。

社長が良く言う言葉に、「障害は本人ではなく、社会の方にある」というものがありますが、社会の仕組みの中にある様々な障害を取り除いていくのがウイングルのミッションだと思っています。

就労支援事業の経験から発達障害児の支援事業の必要性を見いだしたように、障害者であるが故の不便を一つひとつ解消していくこと。そして最終的には「障害者」という言葉も「健常者」という言葉も無くなって、ひとつの「人」という言葉になってしまうような、そんな社会を作っていきたいと思います。

渡辺さんは、「メガネ」を例に挙げて、このビジョンを説明してくれました。メガネが無かった時代、近視の人は障害者でした。メガネを外したままでは社会生活に大きく支障をきたすので、「障害がある状態」と言えるのです。でも、今ではそれどころか「メガネ男子」なんて言葉も生まれ、障害の克服方法がオシャレとして、もてはやされるようになったという事実がありますよね。

そう考えると、「障害者」と「健常者」の境界線なんて、実はどこにも無いように感じます。本当の意味で社会を変える力は、課題と向き合う現場の中から生まれた、こういう小さな気付きから育っていくのかもしれません。

ウイングルの取り組みについてもっと知ろう。