「世界中を旅しながら生きてみたい」なんて、誰でも一度は夢見たことがあるのでは? でも、その一歩を踏み出すことは、簡単なことではありません。
今回ご紹介するSmile Parkのデザイナー・杉江理さんも、最初はそんな行き場のない思いを抱いていました。でも、思い切って世界に旅立った彼は、たくさんの出会いから得たインスピレーションでモノづくりを行い、その作品が今、「未来を示すデザイン」として注目を集め始めています。“世界をフィールドに何かをつくる”デザインプロジェクトSmile Parkの活動をご紹介します。
「旅」と「デザイン」で何ができる?
「最初はネガティブ発進だったんです」。杉江さんは、旅に出た動機について、こう語ります。約2年半前、大手自動車メーカーで働いていた時に感じた「このまま生きていてもつまらない」という思いが、Smile Park始動のきっかけ。
マーケティングプランナーのKosakaさんと2人でユニットを結成した杉江さんは、好きだった「旅」と、職業にしていた「デザイン」を組み合わせて何ができるか確かめようと、会社を辞めた3日後に渡航しました。
南京、ラオス、パプアニューギニア…モノづくりの旅
最初に訪れたのは、「9割は直感で選んだ」という南京。日本語教師をしながら現地の生活に触れる中で、日本人と中国人のゴミに対する認識の違いに気付き、まずはこの感覚を元にモノづくりに着手しました。
完成したのは、“護美”という漢字2文字がデザインされたゴミ袋。中国語にはないこの美しい日本語を表現することにより、日本人の精神を再認識してほしいという思いが込められた、Smile Park最初の作品でした。
約10ヶ月の南京滞在の後、杉江さんは次なるモノづくりの場へと出発します。ラオスでは、大自然からインスピレーションを受けて『風の可視化アート』を製作。パプアニューギニアでは、「身の回りにあるものでつくる」というモノづくりの原点に立ち戻り、バナナの茎と廃タイヤからつくった遊具『PILAI』、廃棄椅子の下部を使用してつくった子供用ベンチ『Block Chair』の2作品を発表しました。
「現場を知っているヤツが真実。デザインで未来を示したい」
異国に身を置き、日本とは違う価値観に触れることによって発見した感覚や問題意識を可視化する、Smile Parkのモノづくり。しかし杉江さんは、「旅にこだわっているわけではない」と言います。
旅はひとつの手段に過ぎません。現場を知っているヤツが真実だと思っているので、現場にいて面白いモノがつくれるのなら、もちろん日本でもいい。僕が目指すのは、ひとつのモノがみんなを巻き込んで社会を変えていくようなモノづくり。デザインで価値とか、未来を示したいんです。
この言葉を具現化するような新作が、先日行われた「東京モーターショー2011」(12/3〜12/11)で発表されました。車椅子に取り付けるだけで、時速20kmの走行が可能になるという次世代パーソナルモビリティ『WHILL』。
日本発、この画期的なプロダクトの開発チームに、杉江さんは、デザイナーとして参加しています。『WHILL』のデザインは、福祉機器のイメージを変えると同時に、“誰もが自由に移動でき、人生をエンジョイできる”という未来の形を示しています。
大量生産によって生み出されたモノが溢れる中で、現場に身を置き、経験とリンクして生み出される彼らの作品は、未来を示すと同時に、改めてモノづくりの本質とは何か、を私たちに問いかけてくるようです。
ここ最近、Smile Parkの作品が立て続けにデザイン関連の賞を受賞しているのは、その価値が国内外で高く評価され始めた証拠と言えるでしょう。
モノづくりを支えるプラットフォーム構築へ
プロジェクトのスタートから約2年半。彼らは今、新たな展開「モノづくりを行う人々のためのプラットフォームの構築」に向けて動き始めています。これまで、日本でマーケティングを担当してきたKosakaさんは、「せっかくいいモノをつくっても商材化できない」というジレンマを抱えてきました。
このプラットフォームでは、デザイナーがつくりたいものを発表して購入者を募り、集まった時点で商品化が決定するという仕組みを提供し、リスクの少ない確実なモノづくりを支えていきたいとのこと。自らの経験を活かし、モノづくりの仕組みを根底から変えようとするこの試みも、Smile Parkが示す「未来」のひとつの形です。
「また旅に出ますよ」と、杉江さん。これからの旅では、世界中のデザイナーがつくったプロダクトや、出会った人も紹介していきたい、という構想も聞かせてくれました。その表情は、「生きていてもつまらない」なんて言葉とは無縁の様子。モノづくりの先に未来を見据えたSmile Parkの活動は、今後さらに大きな渦となって、人々を巻き込んでいきそうです。
いのさんのここがポイント!
なんだろう、この面白さは!
人間の原点って、
こういう仕事の作り方なのかも。
まずは、ぜひSmile ParkのHPにある「PILAI」(パプア語で「Play」の意味)、パプアニューギニアの子供たちの映像を見てほしい! 確かに、彼らのHPにはこう書いてある。
「現地を肌で感じ、感じたことをアウトプットする」。そして、「実用性のあるモノづくり」「多くの人に伝わる仕組み」、それを新たな化学変化のきっかけにしていく、と。
無心で、そして楽しそうにタイヤにペンキを塗る子供たち。その、顔、顔。集中する姿。もう1つの材料は、いつも身近にあるバナナの皮だ。これをロープに加工していく。学校の校庭で、どんな時も共にある民族音楽をBGMに。バナナの皮で作ったロープで、大きな廃棄タイヤを3つずつくくるだけの遊具。だが、これは革命だ。革命だと思う。
このタイヤを転がし、競争し遊ぶ子供たちの姿。その笑顔。縁もゆかりもない土地、パプアに入って杉江さんは何をデザインしたんだろう。手ぶらだったんだと思う。何も持たず、ただそこにあることで、自分の中で沸きあがってくるもの。
そして、自分と現地の間で反応し合い、沸き上がってくるもの。ちょうど、子供の頃、川辺で石を見つけて、川面に投げてみるように。遊びが始まるように。
外からの情報やマーケティングから入るのではなく、存在という本当は無限のリソースがあることを教えてくれる。その時、何もないような辺境の村にも、子供たちにも、車いすに乗る人達の存在にも、実はすごいパワーと発想が眠っている、と示してくれている。ぼくらも、手ぶらで出かけてみよう。
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この連載「トム・ソーヤーのペンキ塗り」は、日本のあらゆるソーシャルイノベーションの中心で活躍し、たくさんの社会起業家を応援してきた井上英之さんと、日常の中の”Quality Time”をテーマに都内52駅で配布されているフリーペーパー「metro min.(メトロミニッツ)」とのコラボレーション企画です!
やる側も楽しく、社会も良くなり、ビジネスにだってなり得てしまう。そんな三方良しの「トム・ソーヤーのペンキ塗り」的FUN!が満載のソーシャル・デザインプロジェクトを紹介しています。東京の方はぜひ見つけたらお手にとってみてください。