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あなたは考えていますか?懸命に考える子どもたちの姿に何を思いますか?―映画『小さな哲学者たち』

© Ciel de Paris productions 2010

© Ciel de Paris productions 2010

マクルーハンの「メディア論」を紐解くまでもなく、電気の時代の到来以後、われわれの生活のスピードはどんどん増して行っています。スピードが増せば情報は増え、それだけ暮らしは豊かになるはずですが、そのスピードに引きずられてゆっくりと「考える」時間が取れなくなってしまっていることもまた事実のようです。

なぜいきなりこんなことをいうかというと、7月9日から公開されるフランスのドキュメンタリー映画『小さな哲学者たち』が「考える」ということについて考えさせられる映画だったからです。

この作品は、フランスパリ近郊の教育優先地区(ZEP)にある幼稚園で試験的に行われている哲学の授業の様子を収めたもの。哲学なんて日本では幼稚園どころか、中学でも高校でもやらないのに、それを幼稚園でやってしまおうというのはいかにもフランスらしいわけですが、本当にそんなことが可能なのか?というのが非常に興味深いところです。

哲学といってもニーチェやヘーゲルについて授業をするわけではもちろんなく、毎回ひとつのテーマを決め、純粋に「考える」ことを子供にさせてみようというものなのです。例えばある時は「愛」について、ある時には「死」について、子供たちに自由に考えさせ、考えたことを発言させる、そんな授業が行われたのです。

結果的には予想通りというか、最初は発言はもちろん考えるということすらままならなかった子どもたちの発言が増え、考えも深まっていくという展開を見せるわけですが、驚かされたのは、4歳や5歳ですでに考え方の骨格というものができてしまっているということです。差別主義的であったり、自由主義的であったり、どのようなテーマでも同じ子供は同じような発言をするのです。当たり前のようでなにかすごく不思議、子供というのはもっとうちに多様な悪く言えばめちゃくちゃな考えの種をたくさんかかえているのかと思いきや、意外と固定された思考をたどるのだなと感じました。

この授業のもう一つの面白いところは人種の多様さです。実は教育優先地区というのは移民のための政策としてスタートしたもので、現在も貧困層や移民が多い地区が指定されていることが多いようです。そのためこのジャック・プレヴェール幼稚園も移民の子が多く、ヨーロッパ系、アフリカ系、インド系、東アジア系など様々な子どもがいます。同じフランスで育っていても、親の文化的バックボーンが違えば自ずと考え方のベースも変わってきます。そんな中でひとつのテーマについて考え話し合うというのが非常に面白いのです。そして、意見の相違は人種や性別の相違と一致しないというのもまた面白いところです。

この映画を見ると、そんな風に分析したり考えたりということを促されます。それはこの映画が観察と叙述だけを行って、考察はわれわれ観客に任せるような作りになっているからです。つまりこの映画自体が観客に対する「哲学カフェ」でもあるわけです。

私たちは、この映画に登場する子供たちに負けないくらい日々何かを哲学しているでしょうか?この中で子供たちは少ない情報を子どもなりに勘案しベストの答えを導き出そうと奮闘しているわけですが、この情報に溢れる世の中で私たちはベストの答えを出すためにその情報をうまく処理できているのでしょうか?

子供たちが懸命に考える姿はほんとうに可愛い、そのかわいい姿を見つめながら、あなたは何を考えるでしょうか?

『小さな哲学者たち』
2010年/フランス/97分

製作・監督・撮影:ジャン=ピエール・ポッツィ&ピエール・バルジエ
製作:シルヴィ・オパン
出演:ジャック・プレヴェール幼稚園の園児たち、パスカリーヌ・ドリアニ先生、イザベル・デュフロック校長

2011年7月9日、新宿武蔵野館ほか全国ロードショー