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便利?不便?未来の交通システム、オンデマンドバスに東大の頭脳が挑む!

Creative Commons. Some Rights Reserved. Photo by Capitan Giona

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オンデマンドバス”をご存知だろうか?

その名のとおり、個人の希望にあわせてバスが走る交通システムのことで、大型の乗り合いタクシーのように理解されていることが多い。公共交通機関並みの料金で自分の好きな時間に好きな場所で乗車でき、無人のバス停を通るという無駄も省くことができるオンデマンドバス。過疎化による運営が困難な地方の交通機関の現状解決や、環境負荷の軽減にもつながり、一見するといいことだらけのように感じるが、実際は、遅延の発生や運用経費が高いことなど、利用者側・運用側双方において問題点が多いのが現状だ。実際、20年ほど前から存在し、導入されてきた交通システムではあるが、このような問題から、なかなか実用化するのが難しい状況だった。

社会的意義は大きいはずなのに使えない……。

そんな現状の問題を解決すべく立ち上がったのが、東大の設計工学研究室オンデマンド交通研究チーム。GPSによる交通整備や予約システムの開発により、“使えない”イメージが根付きつつあったオンデマンドバスの実用化を目指し、現在、各地で実証実験を行っている。

東大の頭脳により数々の問題をブレイクスルーすることができるのか!?その実情に迫ってみた。


greenz/グリーンズ ondemandbus

東大研究チームが開発したのは、利用者の予約状況とバスの運行状況をコンピューターにより一括管理するシステム。これまでのオンデマンドバスは、電話予約を受けたオペレーター(人)が、予約状況を確認して走行経路を考え、配車指示を出すという運用を行っていた。予約が少ない状況ならこれで間に合うかもしれないが、乗客が多くなってくると、遅延が発生したり、オペレーターの能力に依存する部分が大きくなる。これではとても実用的とは言えないのがお分かりだろう。

そこを解決すべく、彼らは、利用者の予約、オペレーターの経路作成、バスの配車指示といった一連の流れの全自動化を目指している。開発したシステムを使えば、インターネットや専門端末で利用者が予約を入力するとコンピューターが自動的に経路を計算し、バスに搭載された車載機(PDA)に指示を出すという、人が介在しない運用が実現する。しかも、経路計算には車載機に搭載されたGPSにより、曜日、時間、気象条件を考慮した運行予測を導入しているため、かなり正確な運行予定を算出できるようになり、大幅な人件費削減と運用の効率化が実現した。

さらに、これまでのシステム(サーバを含めシステム一式を買い取る方式)で問題となっていたシステムメンテナンスのコスト高を解決するため、クラウドコンピューティング(ASP)形式を導入した。これにより、利用者がサーバを買い取ることなく、一箇所に置かれたサーバにインターネット経由でアクセスして運営管理を行うことが可能となった。多額の初期費用をかけずに運用できるので、数ヶ月程度の実験的導入も容易だ。このシステムにより、実用化に向け大きく前進したことは間違いないだろう。

greenz/グリーンズ ondemandbus
柏市で行われた実験で、駅に設置された専用端末

でも、肝心の遅延はどうやって解決するのだろう?忙しい現代人にとって、ここが解決しない限り、使える交通とはならないはずだ。

これを解決するカギは「ゆとり時間」という概念。
利用者は予約時に、到着希望時刻よりも早く着くほうがよいか、遅く着くほうがよいか、希望を入力する。“早く着く”を選択された場合、予定よりも早い時刻への許容、“ゆとり”が生まれたことになる。ゆとり時間分(±10分前後)のバッファがあるため、その後の予約で途中立ち寄り経路が発生した時にも柔軟に対応できるというわけだ。利用者にとっては、予定よりも早く着いてしまう可能性がある(つまりその分、早く出発しなくてはならない)という多少のデメリットが生じるが、到着時刻を守るという約束は果たされるため、実験においてもこのシステムに対する満足度は高いようだ。

さらに、環境負荷軽減のための工夫として、時間的な余裕のある利用者に対しては、最適(最速)なバス以外の選択肢を与えるシステムも導入している。例えば、通常20分で到着できるはずの経路に対し、30分を許容してもらえればより多くの乗客との乗り合いが可能になる場合もあるだろう。これを利用者が選択すれば、バスの台数を減らす(つまり、環境負荷を軽減する)ことができるのだ。この選択肢には独自に定めたエコポイントを付加するなど、利用を促す工夫もなされている。このような随所に見られる細やかな工夫も、このシステムの大きな特徴だ。

greenz/グリーンズ ondemandbus
複数の選択肢が表示される予約画面

この10月から順に、全13地域での実証実験がスタートする。自治体、病院、スーパー、タクシー会社など利用例は様々。山梨県北杜市では、バス会社と地元市民団体が提案した2つの地域で同時に実験がスタート。取り組み方によりどのような違いが出てくるのか、こちらの結果は注目したいところだ。

東京大学大学院でこのシステムの研究を主導している坪内さんにお話を伺ったところ、これまでの実験から、実用化に向けた手ごたえをつかんでいるようだ。

「これまでのオンデマンドバスはお年寄りの利用がメインでした。私たちのシステムにより利用者層が拡大し、通勤や通学にもご利用いただけるようになりました。柏市での実験では、約9割は約束の時間に到着し、約5割は通勤通学用であったことがわかりました。時間の正確さが認められた結果でしょう」

ローコストで実用的なオンデマンドバスの未来が確実に近づいている。また、研究に参加している東京大学4年生の柳澤さんは、この研究にかける想いを語ってくれた。

「このバスが地域の人々のコミュニケーションの場となることを願っています。“交通を選べば社会は変わる”ということを皆さんに実感していただけるように、開発を進めていきます」

最後に、大事なポイントをひとつ。
この交通システムが前提とするのは既存交通事業社との共存であるということだ。このような新交通システムが参入すると、古くから地元で使われてきたバスとのバッティングなどが懸念されるが、研究チームは、オンデマンドバスがそのような存在であってはならないと考えている。このシステムのリーフレットにある一文を紹介しよう。

赤字運行で膨大な補助金によって存続している路線の見直しや、交通事業社の新規事業のツールとして使っていただくことを前提としています。

・路線バスが便利な地域はオンデマンドバスの運行範囲から外す
・地域公共交通会議などを通して既存交通事業社からの了解を得る

など、地域とのコミュニケーションを重ねれば、共存を前提とした運用も可能になるはず。未来の地域社会をつくる交通システムはオンデマンドバスかも?

がんばれ、東大チーム!!

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