ここはスペイン・バルセロナにあるレストラン「Mescladis」。中心街ランバラス通りから歩いて15分、細い通りをさらに奥へ入り、住宅街の中にある小さな公園に隣接した場所にそのお店はあります。
このレストランは、繁華街からは距離がある場所にあるので、あたりの人通りは多くありませんが、実は観光客向けのおすすめスポットとして紹介されるほどの人気店です。
レストランの名前「Mescladis」はスペイン語で「ごちゃまぜOK」という意味。その名の通り、このレストランはさまざまな「ごちゃまぜ」が魅力になっています。
まず、ごちゃまぜなのが店のメニュー。毎月、世界各国の伝統料理を提供しています。2017年2月には、ペルー(南アメリカ)・モロッコ(北アフリカ)・日本(アジア)の伝統料理を注文できました。
でも彼らが一番「ごちゃまぜ」にしたいのは、実は料理ではなく店に集まる人びと! 実はこのレストラン、スペインで増え続けているという移民の人たちを巻きこみ、人びとがお互いの違いを尊重し理解し合える社会をつくるための取り組みをしているのです。
「Mescladis」は地元の方から観光客までを巻き込んで、料理や音楽などのワークショップを開催。その場は誰にも開かれていて、年齢も、宗教も、肌の色も、まったく関係ありません。
演劇から接客を学ぶ
さらに人種差別や言葉や文化の違いにより、仕事を得ることが難しい移民たちのために職業訓練学校も運営。受講生たちは調理アシスタントやウェイターとして「Mescladis」で働きながら学べることはもちろん、演劇・心理学・アートセラピーなど精神面への授業にも参加できます。
卒業生は年間70人ほどで、約30%の学生が「Mescladis」や他のレストランなどで正規雇用され、他の生徒も調理職員やウェイターとして働ける環境を手にしているのだそう。
セネガル出身のSoly Melamine(以下、ソリーさん)は、卒業後に「Mescladis」のマネージャーに就任。現在は、この学校のトレーナーとしても活躍しているのだとか。
ソリーさん この学校の演劇のクラスは最高なんです。役になりきることで、移民であるという後ろめたさからの恐れを克服でき、ユーモアを持って接客できるようになりました。
今、私はここで”働いている”という感じがしません。むしろお客さんと同じように、リラックスして楽しんでいますよ!
料理という共通言語で異文化と出会う
「Mescladis」の活動の背景には、スペイン全体で向き合わなければいけない社会問題がありました。
言わずと知れた人気の観光地バルセロナですが、実は、移民と呼ばれる人の割合は人口の17%、約30万人もいるのです。(出典元)スペイン全体で統計をすると約600万人、おおよそ人口の8人に1人は移民なのだそう。(出典元)
行政も様々な策を講じているものの、なかなか解決されないのが現状。その数がゆえに対応が間に合わず、市民権を得られなかったり、中には投獄・追放されてしまう移民もいるのだといいます。
そこで、コミュニティから疎外されてしまいがちな移民の人びとの居場所をつくり、多文化との出会いと学びの場としてバルセロナ市民にこの社会課題を認知してもらおうと、アルゼンチン人のMartin Habiague(以下、マーティンさん)が立ち上げたのが「Mescladis」でした。
マーティンさんは、次のように語っています。
マーティンさん 他の文化よりも優れている文化なんて、存在しません。また、すべての人類が正しいと思えるような文化も、どこにもないんです。
料理は私たちの共通言語でもあり、異文化との出会いのツールでもあります。「Mescladis」で起こる「ああ・・・!!!」という気づきが私たちの活動の原動力になっています。
日本でも、外国人の旅行者・留学生・就労者などが年々増え、異文化と接触する機会が増えてきました。そんなとき、私たちは未知なるものとの出会いに恐怖を感じ、価値判断してしまうことがあるかもしれません。
しかし、ただ一緒に何かをしたり、食を共にすることによって、私たちを隔てている何かが溶けていく可能性を「Mescladis」は示してくれているといえます。
多様性のある社会を実現するために、身近なところで異文化の人びとと出会うことを始めてみませんか?
[via Mescladis, AFP,GLOBAL NOTE,Facebook,.My Eyes Tokyo, Culture trip, 神戸大学経済学研究「スペインの移民問題」]
(Text: 菊地葉子)