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“パブリック”な仕事は、どんな新しい価値をつくれるの? 馬場正尊さん、松本理寿輝さん、田中陽明さん、中原寛法さんに聞く、これからの働きかた

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突然ですが、「公・共・私」というキーワードを聞いたことはありますか?

「公」は行政(オフィシャル)、「私」は企業(プライベート)、「共」はその中間領域にあたる市民など(パブリック)を表していて、今、旧来のビジネスとは異なる「共(パブリック)」から生まれたプロジェクトやコミュニティに関心が寄せられています。

例えば、アメリカのポートランドで住民が主体的に交差点をリペアした事例や、韓国の閑静な住宅街において、住民主導でフリースクールや生協といった「仕事が生まれるコミュニティ」がつくられているソンミサン・マウルの事例は、パブリックの可能性を示した典型です。

そんな「公・共・私」をキーワードに、都市の「職」を再定義するイベントが渋谷で開催されました。渋谷宮下町リアルティ東京急行電鉄グリーンズが共催した「ほしい未来をつくる仕事~パブリックがつくる新しい仕事と組織~」です。

2017年春、渋谷区宮下町にクリエイティビティにあふれた複合施設をオープンすることに先駆けて開催されたこのイベントでは、「働く」ことを形づくる2大要素「仕事」と「組織」にフォーカスして「パブリックがつくる新しい仕事」と「パブリックがつくる新しい組織」が話されました。

一体、仕事や組織がパブリック性(公共性や社会性)を持つとき、今までとはどう違う未来が待っているのでしょうか? 実践者である「公共R不動産」の馬場正尊さん、「まちの保育園」の松本理寿輝さん、「co-lab」の田中陽明さん、「nD」の中原寛法さんを招き、greenz.jpの鈴木菜央小野裕之をモデレーターに議論が交わされました。

「パブリックがつくる新しい仕事」って?

第一部のテーマは「パブリックがつくる新しい仕事」(馬場正尊さん×松本理寿輝さん)です。ある意味で、誰かのためになっているものを仕事と呼びますが、パブリック性を持つとどんな新しい価値が発見されるのでしょう。
 
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馬場正尊さん(OpenA / 公共R不動産 : 写真左)
1968年佐賀県生まれ。1994年早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂で博覧会やショールームの企画などに従事。その後、早稲田大学博士課程に復学。雑誌『A』の編集長を経て、2003年OpenA Ltd.を設立。建築設計、都市計画、執筆などを行う。同時期に「東京R不動産」を始める。2008年より東北芸術工科大学准教授、2016年より同大学教授。建築の近作として「観月橋団地(2012)、「道頓堀角座」(2013)、「佐賀県柳町歴史地区再生」(2015)など。近著は『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』(学芸出版,2015)、『エリアリノベーション 変化の構造とローカライズ』(学芸出版,2016)
松本理寿輝さん(ナチュラルスマイルジャパン株式会社 代表取締役 / まちの保育園 : 写真右)
1980年生。2010年4月ナチュラルスマイルジャパンを創業。2011年4月に東京都練馬区に1園目となる「まちの保育園 小竹向原」を開園。その後、港区に「まちの保育園 六本木」、武蔵野市に「まちの保育園 吉祥寺」を開園し、現在都内にて3園の認可保育所を運営。子どもを中心に保育士・保護者・地域がつながり合う「まちぐるみの保育」を通して、人間性の土台を築く乳幼児期によい出会いと豊かな経験を提供し、保育園が既存の枠組みを超えた「地域福祉のインフラ」となることを目指している。

小野 馬場さんが書かれた『PUBLIC DESIGN 新しい公共空間のつくりかた』という本の中で「まちの保育園」に取り組む松本さんが紹介されていますが、その理由から教えてください。

馬場さん 突き詰めると、新しい公共空間をつくるには誰がどういうふうに運営するのかが大事だということに行き着いたんです。まちの保育園にはカフェが併設されていて、パンの販売もあり、日常生活の中でまちの人が来やすくなっている。そんなパブリックスペースと保育園がつながる構造に注目しました。

同時にぼくは理寿輝さんのことを彼が学生の頃から知っていて、突然「保育園をつくりたい」と言いだしたから「こいつ本気かな?」と思っていました。でも本気でつくったから、モチベーションや、やり方を知りたかったんですよ。

松本さん ひょんなことから児童施設でボランティアをすることになり、子どもの世界って面白いと思ったんです。

いろいろ調べてみると、0〜6歳が人格形成期と言われていて、その期間にどういう環境で育つか、どんな人と出会うかがその子の一生を左右すると知ったんですね。そして幼稚園と保育園があるように子育て教育がダブルスタンダードになっている国が世界的に見ても日本だけだということも知りました。

子どもたちは15年後に社会をつくる存在でもあるから、子育て環境をつくることは社会をつくることと同じくらい大事なことなのに、あまり、乳幼児教育に社会の目が向いていないってどうなのかなと思った時、自分にとっての社会的な課題になったんです。
 
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greenz.jpプロデューサー・小野裕之

小野 自分ごとになったあと、どんなふうに「まちの保育園」をつくっていったんですか?

松本さん どうやってつくったらいいかわからないから、まず保育園を運営している人に聞きに行きました。すると、シンプルに”開園”だけを考えると、必要なことが5つあるとわかりました。保育運営の経験、一定の資金、土地の確保、経験ある保育士実践者の確保、開園を認めてくれる自治体との出会いという5つです。

小野 その5つの条件を自分が揃えられるのかという不安や葛藤と、「保育園をつくりたい」という気持ちはどう折り合いをつけていったのでしょうか?

松本さん まずは、教育はコミュニケーションが本質だと思っていたので、そのコミュニケーションを学びたくて、また、時間の融通がきいて、貯金もできそうな広告代理店に入社しました。そして教育関連事業のブランドマネージメントを3年間担当して、部署を移る時期に退職しました。

まだ経営の経験はなかったから、不安がありました。それで学校教育とはまったく違うビジネスを3名で立ち上げて、実際に会社を動かすという経験をしたんです。自分でできると思えるまで、いろんな寄り道をしていきました。
 
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馬場さん これは、ぼくが本を書きながら気づいていったことなんだけど、ぼくのような40代と、理寿輝さんのような30代中盤の仕事には、何か決定的に違うことがいくつかあるような気がする。

40代や、それ以上の「新人類」と呼ばれた世代では、いい暮らしをしなければとか、ある程度お金を貯めなきゃとか、人と違って自分は少し尖っていなければとか、協調性よりも差異が重要視されてきた。

でも、30代中盤の世代は、大きな社会性みたいなことを恥ずかしげもなくサクッと言えるんですよ。さっきの「子育て環境をつくることは社会をつくることにつながる」とかね。

モチベーションのコアの部分に、社会と自分がどう付き合うかがあるのは大きく違う点だと思うんだけど、どうだろう?
 
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松本さん 仕事には責任が伴いますが、アカウンタビリティとレスポンシビリティという違いがあると思います。

アカウンタビリティって、要は「勘定に合うかどうか」。行政でいうと税金を上手く使っているか説明する、会社でいうと株価が投資者に対して結果を残せているか、ということで責任を果たしていく。

一方、レスポンシビリティって、自分がパフォーマンスを発揮し続けるという責任なんです。

ぼくは説明責任のような領域にいたくありません。「私はこういう社会をつくりたい」ってことがモチベーションになるし、自分に寄せられる期待に応じる働き方のほうがいろいろ動きやすいんじゃないかなと。

小野 なるほど。「公共R不動産」も、ある意味でレスポンシブルなんじゃないかと思うのですが、今までと違う新しさはありますか?
 
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馬場さん 今までよりも、社会的なニーズがあるところに、なんらかの仕事があってほしい、と思っている気がする。

「東京R不動産」っていうのは不動産仲介なんだけども、公共空間においては仲介手数料っていう概念がないわけですよね。その社会システム自体が崩れないとビジネスにならない。だから公共空間の利用がいつまでたっても進まない。

でも、見切り発車で公共R不動産を始めてみたら、行政の人から相談を受けるようになった。公共空間を使う企画をくれたら責任を持って管理者に届けますという呼びかけを始めてみたら、すごい集まったりもした。

だから社会性に向かって走ると、それが何かしらの発端になるのかもしれない。ぼくらはビジネスモデルをつくるために生きているわけじゃない。もうちょっと社会的な新しい価値をつくりたい。それが公共R不動産につながったような気がします。

「パブリックがつくる組織」って?

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第一部では、仕事がパブリック性を持つことで、ビジネスモデルを前提とした仕事には発見できなかった、社会的な新しい価値に応じることができる可能性が見えてきました。第二部「パブリックがつくる組織」(田中陽明さん×中原寛法さん)では、パブリックをつくる仕事を生み出せる組織やチームのありかたが話し合われます。
 
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田中陽明さん(co-lab企画運営代表/春蒔プロジェクト株式会社代表取締役 : 写真左)
クリエイター専用シェアード・コラボレーション・オフィス「co-lab(コーラボ)」の企画運営をしながら、約400名のco-lab所属メンバーを中心に構成されたクリエイション・ドゥータンクのクリエイティブ・ディレクターとして企業や行政等の様々なクリエイションのコンサルティング業務を行う。 http://co-lab.jp/
中原寛法さん(株式会社 nD 代表取締役 : 写真右)
生まれも育ちも本社も、岡山県井原市。2003 年千葉大学大学院デザイン科学専攻修了後、翌日からフリーランス。「インターネットを使って、インターネットの外側を、もっと楽しく、そして、より豊かに。」をモットーに、さまざまなウェブの企画・デザイン・開発を行う。Google / KDDI のキャンペーンのディレクション・デザイン、ソーシャルギフトサービス giftee、地域 × クラウドファウンディング FAAVO の立ち上げ、スタンディングデスク ERECTUS の開発など。クリエイティブ・ディレクター / デザイナー / 株式会社 nD 代表取締役 / 株式会社 giftee 共同創業者。社員はサーファーとフォトグラファー。

菜央 田中さんはco-labというパブリックな領域をつくってこられた方。中原さんはnDでパブリックとつながる仕事をつくっていて、グリーンズもすごく影響を受けています。

田中さん ぼくは、co-labというクリエイター専用のシェアオフィスを運営していて、400人くらいのクリエイターが所属しています。主に3つの機能があるのですが、特に重要なのは、co-labやco-labのメンバーが受けた仕事にチームで取り組む機能です。これをぼくらは「集合知でアウトプットする」と言っています。

スイミーという物語では、小魚が集まって大魚と対峙しますが、ぼくらは対峙するのではなく企業と並走するように働く。企業と個人の中間領域がco-labで、ぼくらは集合体なんです。
 
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中原さん わたしは大学院を卒業後、翌日からフリーランスで働いてきました。法人化をして、設立2年目に社員を雇うことになりました。

その時、「毎日、社員に会う趣味はないな」と思ったんですね。それで当時、インターンをしていた人に卒業後は何をするのかと聞いたら「海の近くに住んでサーフィンします」という答えが返ってきたんです。

後日、『社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア創業者の経営論』という本を思い出して「これだ!」と思ったんですね。彼には社員になってもらい、今でもリモートで働いてもらえています。
 
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中原さん nDではクライアントに提案するユーザーエクスペリエンスを、同じように社員や一緒に働く関係先にも提供したい。ぼくらはそういうことをトライ&エラーしたいと思って、実験してきました。
 
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greenz.jp編集長・鈴木菜央

菜央 先ほど田中さんがおっしゃったスイミーの話って、明らかに一人だったらできない仕事でもチームになることで関わることができるということですよね。最初からそれを狙ってつくったのですか?

田中さん そんなことはないんです。自分自身がアーティスト活動をしていた時期に、日本におけるクリエイターの存在が誤解されて認識されていて、社会的地位が低く見られていると感じて、サポートできるシステムをつくりたいと思ったからco-labをはじめたんですよ。

周囲のクリエイターたちと行き当たりばったりですが実験しながら、強みのようなものが見えたらそこをアピールして、臨機応変に変化させながら進んできました。
 
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菜央 それがみんなにとっても楽しい場になっているのでしょうね。

一方で、中原さんがいきなりフリーランスになったり、社員に毎日会いたくないと思って新しい方針をたずさえた組織をつくってみたのは、それが生産的になるかもしれないという読みがあったからですか?

中原さん ぼくが毎日社員に会いたくないというのもあるんですけど、たぶん社員も毎日ぼくに会いたくはないと思うんですよ。周囲の人に聞いてもそうだったので、だったら、ほしい組織をつくればいいと思いました。

菜央 ぼくはどちらも基本的には信頼関係で成り立っているように感じました。co-labも、守秘義務でガチガチにすることだってできるわけですし。

田中さん そこは性善説を信じてやってきて、13年間くらい何も問題なくきています。

中原さん 「本当に社員は働いているの?」「報告させている?」ってよく聞かれるんですよ。でも、ぼくはそういうことをまったくやっていなくて、アルバイトにも時給は自己申告してもらっています。そういうことをチェックする趣味がないですし、信じてやっていけばいいかなと思うからです。
 
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菜央 ちなみにグリーンズのリモートインターン制度は、nDさんの影響で生まれたんです。ライターになりたい人向けにスタートして、前期はオランダとドイツと南アフリカとアメリカの人も参加しています。

今はライターを確保するのが大変な時代ですが、インターンがライターとして育ってきている。ぼくらも新しい実験を吸収して、常にやり方を変えてきました。

そこで改めてお二人に聞きたいんですが、実験し続けてきた中で見えてきた、パブリックがつくる組織ってどんなものだと思いますか?

中原さん いわゆる会社って、オフィスがあって、行かなきゃいけない時間帯があって、休みの日数も決まっていてって、かなり決まりがありますよね。

そうじゃなくて、人の個性ややりたいことを伸ばしていけたら、長期的に見ていいアウトプットになっていくんじゃないかなと思っています。

田中さん co-labは仕事に応じて個人が最適なチームを組み、企業のニーズに答えるスイミーのように働くんですが、それはそのまま、パブリックがつくる組織ということなのかもしれません。

いろんな仕事やいろんな人が入ってくるけど、自然と一定の線引きがつくられている。自然に任せていても、パブリックな領域に同じ価値観の仕事や人が集まってくる。それが結果的にいいアウトプットにつながっていく条件なのかなと思います。
 

(レポートここまで)

 
行政でも企業でもない、中間領域のパブリック。そのパブリックには、既存のビジネスモデルが見過ごしてきた、いい社会をつくるためのモチベーションのありかたと、個性を生かす働き方が見出される可能性が秘められていました。

これからの「ほしい未来」をつくる働き方には、そんな社会性や公共性を持った新しい流儀が見出されていくはずです。だからこそもう一度、あなたにとって働くこととは何なのかを想像してみませんか? そのイメージの先に見える誰かの笑顔が、未来であなたを待っていますよ。

(撮影: 関口佳代)
[sponsored by 渋谷宮下町リアルティ株式会社]