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「生きていきたい場所」ってどんなところ?人生の転機をサポートする「京都移住計画」田村篤史さんが実践する”縁づくり”とは

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特集「a Piece of Social Innovation」は、日本中の”ソーシャルイノベーションのカケラたち”をご紹介するNPO法人ミラツクとの共同企画です。

みなさんは今の仕事が自分にぴったりだと思いますか?
また、今住んでいる場所はどうでしょうか?

仕事と住まいは、わたしたちの暮らしにとって、切り離すことができない大切なものです。そんな就職、転職や移住といった人生の転機に、よりよい”ご縁”をもたらす活動に取り組んでいるのが、今回ご紹介する田村篤史さんです。

彼自身は「肩書きが定まらないので、人になかなか説明しづらいです」と語りますが、多くの人たちが田村さんの仕事を通じて、人生が変わってしまうほどの出会いを体験してきました。

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田村篤史さん

たくさんのプロジェクトの中からピックアップしたのは、大学生から30歳までのキャリア教育サポート「fullbloom」、京都に移り住むためのきっかけと、移住してきた後のコミュニティづくりを手助けする「京都移住計画」、そして、今年3月まで京都堀川商店街で展開された「堀川common」です。

“ご縁”をキーワードに展開する田村さんの活動を、ゆっくりみていきたいと思います。

“あり方”を考えるきっかけづくり「fullbloom」

まずひとつめの「fullbloom」は、若者が「自分らしく生きる技術」を身につける支援を行う団体です。仲間とともに自身を見つめ直しに行く一泊二日の合宿プログラム「Being Camp」などを通じて、生き方についての悩みを共有したり、さまざまな仕事をしている社会人と出会うきっかけづくりを行っています。

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ワークショップの様子

「多くの大学生にとって、仕事の選択肢を知る機会が少ない」と田村さん。例えば農業を仕事にする、あるいはものづくりを仕事にする。その際の選択肢を広く持つために、自分が惹かれるような働き方をしている人たちといかに出会うか、が大事だと語ります。

そんな「Being(=あり方)を考えるための機会」をつくるfullbloomの背景には、東京でキャリアアドバイザーとして働いていた田村さんの経験が生かされていました。

そのとき感じていたのは、「みんな本当にやりたいことは別に持っている」ということなんです。福祉の仕事に就いている人に、「実はアロマ関係のことをやってみたい」と打ち明けられたこともあります。

就職活動ではみんなが同じ方向を向いてしまいがちですが、「どう内定を取るか」よりも、「自分がどうありたいか」を大事にして働き方を選んでほしいですね。選択肢が多い方がちょっぴり豊かだと思うので。

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新しいオフィスでの新年会

みんなで京都に移住する計画を立てる「京都移住計画」

東京で暮らしていた田村さんが、京都に移住するきっかけとなったのが、2011年の震災でした。

これからの自分の住まいや仕事を考える中で、ダニエル・ピンクの本『フリーエージェント社会の到来』と出会います。アメリカでは4人に1人が、与えられた仕事ではない働き方をしている。それを知ったとき「自分もそういう働き方をしたい」と感じただけでなく、「じゃあ、自分はどこで生きたいんだろう?」ということも考えるようになりました。

震災後、これからの働き方について考えていた友人がたくさんいて。特に関西出身者が多かったので、「みんなは関西にいつ帰るの?」と気軽に聞いてみたら、ほとんどの答えが「いつかは」という感じたんです。そのときふと、「その”いつか”って、いつまでたっても来ないのかも?」と思いました。

「それくらい東京の引力は強い」と知った田村さんは、むしろ自分が実験台になって、「何があれば移り住めるか?」と自分に問いかけることにします。そこで見えてきたのが「情報」であり、そこから住む・暮らす・働くという面から移住をサポートする「京都移住計画」のアイデアが生まれてきました。

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ローカルキャリアカフェ×京都移住計画のイベント

実際、京都には面白い人、面白い場所、面白い会社もたくさんあります。だから最初の頃はFacebookでそういう人たちを紹介していました。でも段々と「ただ発信するだけでは無責任ではないか」と思うようになったんですね。

情報発信を続ける中で、実際に移り住んで来た人との接点も増えていった田村さん。そこで、むしろ移住して来た人たちのことをもっと知ろうと「京都移住茶論」という対話の場を持つことに。「なぜ京都にきたのか」「どんな課題を持っているのか」など深い部分を共有するこの場は、移住を考えている人たちはもちろん、すでに京都に在住している人にとっても、新たな情報交換と出会いの機会となっています。

今年はさらに活動を広げるべく「暮らす=コミュニティ支援」「住む=不動産情報」「働く=求人情報の発信」を三本柱に展開していくそうです。

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京都移住茶論

堀川商店街の空き室を利用した「堀川common」

田村さんが京都に拠点を移したのは2012年4月。自身の移住をきっかけに生まれた「京都移住計画」は、蓋を開けてみると多くの人に必要とされていることがわかりました。そしてそれを通じて出会った仲間たちとともに、手がける事業もさらに広がっています。そのひとつが堀川商店街の空き室を利用した地域活性化事業「堀川common」です。

高齢化も進み、空き物件も増えている堀川商店街では、どうやって人を集めるのかが課題になっていました。そこで堀川団地という店舗付集合住宅のリニューアル計画をきっかけに、田村さんたちはさまざまなプロジェクトを展開してゆきます。

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奈良の山本あつしさんを呼んだ際の「堀川よるトーク」

キーワードは大きく分けて二つ、若い人たちのための「仲間づくり」と「場づくり」です。「仲間づくり」では、堀川商店街や堀川という地域のことを、知って、考えてもらうための対話の機会をつくります。

その一環である「堀川よるトーク」では、さまざまなまちづくり実践者に登壇してもらい、活動事例を参考にしながら、これからの堀川について参加者と一緒にアイデアを練っていきました。

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堀川祭りにて地元の大学生たちや若い社会人たちと出店

一方の「場づくり」では、京都を拠点とする建築グループとともに「空き店舗で何ができるのか」を実験していきました。

堀川団地の一室を改修してつくったスペースのひとつが、関西のデザイナーが手がけた魅力的な商品と地元の逸品を紹介する「商店街のセレクトショップ」。街を訪れてくれた人に、ハードとソフト両方を通じて商店街を体感してもらうことで、入居者候補の発掘を目指しています。

これらのプロジェクトに取り組む中で、田村さんには大学時代の記憶がよみがえってきたそう。それは「国内交換留学」として大分県の別府で関わっていた、NPOから出資してもらい学生たちで運営するカフェで働いていたときのことでした。

別府でカフェ運営に関わりながら、「地域に入って活動すること」の楽しさを体感したんです。だから僕が京都で商店街の未来を考える番になった今、「若い人が関わらないと続いていかない」と思ったんですね。だから敢えて”若い人のための”というテーマを掲げるようにしています。

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別府(立命館アジア太平洋大学)時代のカフェの様子

「選択肢」の先にある「縁」

自分らしい生き方について考える「fullbloom」、移り住む先の暮らしを考える「京都移住計画」、そして自分が住む地域について考える「堀川common」。これらの取り組みを眺めてみると、田村さんが「fullbloom」で語っていた言葉、「選択肢が多い方がちょっぴり豊か」ということが思い出されます。

でも、さらに大切なのは、選択肢の数よりも、自分のあり方と結びついていること。それを田村さんは”ご縁”と表現します。

僕がしたいことは、人に”ご縁”をもたらすことなのかもしれません。出会うことは割と簡単だけど、つながった上で、その細い糸みたいなものをより太くしていくことは難しい。”ご縁”をより大事にするためには、「~し続けていく」ことが何より大切だと思います。

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田村さん

田村さんがこれまでにもたらしてきた“ご縁”を、インタビュー記事としてまとめた書籍『京都移住計画』(2014年3月刊行)の中で、田村さんはこんなことを書いています。

我慢して選ぶのではなく、つくられた既製品でもない。「自分で選び」「自分でつくる」という気持ちを持てる場所。そんな場所が「生きていきたい場所」なのかもしれない。

移住は単なる引っ越しではなく、「生きていきたい場所」を見つけること。普段は遠くにおいてしまいがちな「自分のあり方」に向き合い、選択肢の先にある新たな”ご縁”に出会う機会を、田村さんはつくりだそうとしています。

その紡ぎだされていく糸は、これから何をかたちづくっていくのでしょうか。ぜひみなさんも、その一端に触れてみませんか?