京都から世界へ!心躍るグッドミュージックを届けるバンド「パイレーツ・カヌー」
「好きなことをやりつづけたい」と望んでいても、気づいたら「好きなことをやる」ために「いやなことを我慢する」というトラップにはまってしまうことって往々にしてあると思いませんか?
今日は、「好きな音楽をやりつづける」環境づくりに本気で取り組むミュージシャンたちを紹介したいと思います。
彼らの名前は「パイレーツ・カヌー」。京都を中心に活動する6人編成のバンドです。2009年の結成以来、高い演奏力と一度聴いたら忘れられないポップな曲づくりの才能、そして心躍るライブパフォーマンスで着実にファンを増やしてきました。
音楽業界が冷え込む今の時代、ミュージシャンが音楽活動を続けていくことは簡単ではありません。仮に、大きな事務所に所属し「音楽だけで食べていく」状態になれたとしても、「売るための音楽づくり」に追われてミュージシャンの本分を見失ってしまう…という悲劇が起きることだってあります。
なぜ、音楽を続けるために何かを犠牲にしなければいけないのか?もっとミュージシャン自身が納得できるかたちで、自由に良い音楽を生み出し続けせないだろうか?パイレーツ・カヌーが選んだのは、自分たちの手で「On the corner records」というレーベルを立ち上げるという方法だったのです。
今、あなたは音楽を聴ける環境にいますか?
もしそうなら、この記事の続きは彼らの音楽を聴きながら読んでください!
大好きな音楽を続けていくベストな方法って何だろう?
一般的に、ミュージシャンとしてプロになるということは、音楽事務所に所属してデビューすること。もし、どこかに勤めていたならその仕事を辞めて「音楽だけで食べていく」ことを目指す暮らしがはじまります。
「On the corner records」の代表・中井大介さんは、パイレーツ・カヌーが音楽事務所への所属を積極的に選ばなかった理由をこう語ります。
On the corner records代表・中井大介さん(京都・Hifi Cafeにて)
パイレーツ・カヌーはいわゆる趣味の社会人バンドのレベルをはるかに超えていますし、いずれはどこかの事務所から声がかかるだろうと思いました。たしかに、どこかの事務所に所属すると、桁違いの広告費が動いてたくさんの人に聴いてもらえるチャンスもできるかもしれない。でも、音楽以外に「売るための仕事」もたくさんしなければいけなくなると思うんです。
つまり、「音楽レーベルを立ち上げる」ことを目的としたのではなく、「パイレーツ・カヌーが納得できるかたちで発信しつづける環境を作る」ために立ち上げたのが「On the corner records」という音楽レーベルなのです。
パイレーツ・カヌーのメンバーは、ふだんはそれぞれに音楽以外の仕事で生計を立てています。レーベルの立ち上げは、メンバーが生活と音楽を両立するなかで持ち上がっていた問題を解決する方法としても機能しました。
たとえば、ライブ出演時のギャラを貯蓄してきたバンド資金の運用。バンド資金を個人の口座で管理していると、管理者の所得税が上がってしまうという現実的な問題があったのです。もうひとつは、バンドへの出演依頼窓口の一本化です。「ライブのご依頼はレーベルを通してください」と言えるようになったことで、メンバーのスケジュール管理もしやすくなりました。
レーベル名でやりとりすることによって「ちゃんと活動しているバンドなんだ」と認めてもらえるメリットもあります。また、ミュージシャン自身が言いづらい出演に関する条件交渉も、僕が代表として表に立つことでずいぶんやりやすくなりました。
改めまして、パイレーツ・カヌーというバンドをご紹介します!
いつもほがらかなパイレーツ・カヌーのメンバーたち!
パイレーツ・カヌーは、2009年の夏に河野沙羅さん(マンドリン)、エリザベス・エタさん(ギターボーカル)、欅夏那子さん(フィドル)の3人が出会って活動を開始。その後、岩城一彦さん(ドブロギター)、吉岡孝さん(ドラム)、谷口潤さん(ベース)の男性陣を迎えて、6名でのフルバンドバージョンと女性のみのトリオバージョンなど、さまざまな形態でライブ活動を行っています。
パイレーツ・カヌーの特徴をひとことで言うなら「まだ聴いたことがない人にもおすすめできるライブをするバンド」。ブルーグラスやカントリーなどのアメリカンルーツミュージック、アイリッシュ・トラッド、ソウルやロックなどに影響を受けた、懐かしさの漂うオリジナル曲は一度聴けば口ずさんでしまうほどにポップです。
音楽ジャンルって、レコード店の棚を整理しやすいために振り分けたものじゃないかな。好きな音楽を友達に紹介するとき「聴いてみて」としか言えないでしょう? パイレーツ・カヌーの音楽にはジャンルに収まりきらないユニークさ、他にない感じがあります。
実は、中井さん自身も最初はパイレーツ・カヌーの1ファンでした。
4年前、知人に誘われて行ったライブで女性トリオの演奏を聴いてビックリしたんです。「こんなに静かで正直な音楽をやっている人がいるなら仲間になりたい、一緒に何かしたい」と思いました。それからはもうずっと彼らのライブを追いかけて、お節介を焼くことからはじまったんです。
真空管アンプの設計や音響技術の仕事をしていた中井さんは、パイレーツ・カヌーのライブでPAの役割を買って出るようになり、やがてバンドにとってなくてはならない存在になりました。
また、自らの音楽活動もパイレーツ・カヌーとの出会いをきっかけにして本格的に再開。「On the corner records」を立ち上げるときには、代表を引き受けるとともに自らもミュージシャンとしてレーベルに所属することになりました。
レーベル代表もミュージシャン! シンガー・ソングライター中井大介さんにも要注目です
2013年8月には、パイレーツ・カヌーをバックに迎えて中井大介初のソロアルバム「nowhere」を発売。ちょっと切ないメロディに載って届く歌声がとても温かい、いつまでも聴いていたくなる一枚です。中井さんのウェブサイトで試聴できますので、こちらもぜひチェックしてください!
自前のファンドレイジングで100万円を達成して北米ツアーへ!
2011年、パイレーツ・カヌーはファーストミニアルバム「Pirates Canoe」を発売し、日本一の老舗ライブハウス「拾得」での月例ライブ「ひょっこりパーティ」をスタート。2012年末には、女性トリオによる初のフルアルバム「Sailing Home」を発表し、各メディアでも話題になりました。
「期待されているんだな」という大きな手応えを感じたのは、昨年の北米ツアー前にファンドレイジングを行ったときでした。
2013年3月、パイレーツ・カヌーは世界最大級の音楽・映像・インタラクティブの見本市「SXSW(South by South West)」に応募して合格。それをきっかけに、北米ツアーを実現しようと自前のファンドレイジングを始めたのです。目標金額は100万円。リターンには「プライベートライブ」「北米ツアーLIVE音源」「男性メンバーの生写真(!)」など、ユニークなアイデアが並びました。
100万円を達成した自前のファンドレイジング「パイレーツ・カヌーの北米ツアーを支援しよう!」
ファンドレイジングの告知は、ライブ会場、Twitterとレーベルのウェブサイトのみ。にもかかわらず、100人以上のファンからの支援で、締切前に目標金額を超える約120万円を達成してしまったのです!これは、彼らとその音楽を心から愛するファンたちの思いがかたちになってバンドに届いた出来事でもありました。
よかったら、「パイレーツ・カヌーの北米ツアーを支援しよう!」の報告ページをぜひ一度ご覧ください。きめこまやかな作り込み方と心のこもったメッセージから彼らのぬくもりを感じるでしょうし、なぜそれほどまでに彼らが応援されるのかを理解していただけると思います。
さて、ファンの熱い思いを背に海を渡ったパイレーツ・カヌーの女性トリオは、9都市で10回のライブに出演する2週間のツアーを敢行しました。各地で声援を浴びて新たなファンを増やし、ひとまわりもふたまわりも大きくなって帰国。ライブのたびに、着実にファンを増やし続けています。
大切にしたいのは「食べていけるか」より「満足できるか」ということ
パイレーツ・カヌーの月例ライブ「ひょっこりパーティ」のようす
「On the corner records」の立ち上げに至るまで、パイレーツ・カヌーと中井さんたちは何度も何度も話し合い、音楽関係者にも相談をしたそうです。そして「自分たちはどんな風に音楽をやっていきたいのか」を考え抜いて、みんなで作ったのが「バンドの希望ありきで行動を決定する自分たちのレーベル」でした。
もちろん、彼らが「ミュージシャンとして売れなくても、成功しなくてもいい」と思っているわけではありません。ただ、「成功するかどうか」「食べていけるかどうか」よりも、「自分たちが満足できる制作・活動環境、時間を守るためにどう行動するか」を見失わないようにしているのです。
自分たちのレーベルを持つということは、言い換えれば「何もかも自分たちでやらなければいけない」ということでもあります。
たしかに、何もかも自分たちの手でやるのは大変ですが、すごく自由に納得のできるかたちで自分たちの音楽を発信できます。それに、ライブに来てくれるお客さん、アルバムを買ってくれるお客さんともちゃんとつながっていられます。
パイレーツ・カヌーのライブに行くと、お客さんの表情がとてもよいことに気づくと思います。心がほぐれる気持ちいい演奏の合間には、河野沙羅さんの底抜けに明るいMC。しだいに温まってゆく客席には一体感が感じられますし、居心地よく音楽に身を委ねることができるのです。
お客さんもみんな働いているから、休みは週に1日か2日くらいですよね。そのうちの4時間や5時間を僕らのライブを観るために使ってくれている。しかも、わざわざチケット代を払って、電車やバスに乗って会いに来てくれるんですよ。本当にうれしく、また心強くも思っています。
僕たちは、そういうみなさんとの接点をどれだけ良いものにして音楽を届けるのか、そうして来てくださった何十人のみなさんにどう楽しんでいただこうか、ということを一生懸命考えています。
もし、あなたの住む街にパイレーツ・カヌーや中井大介さんがやってきたら、迷うことなくライブ会場に足を運んでください。そこには、彼らの心躍るグッド・ミュージックと、あなた自身の笑顔が待っているはずです。