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ポートランドに学ぶ「ネイバーフッドデザイン」。吹田良平さん × 荒昌史さんが語る「東京のGREEN Neighborhood」

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HITOTOWA inc.荒さん(左)と『GREEN Neighborhood』著者の吹田さん(右)

「都市生活」。その言葉に、あなたはどんなイメージを持っていますか? 活発で充実した暮らし? 混み合った煩わしい暮らし? それとも、無縁社会の冷たい暮らし? きっとどれも、多くの都市が基本として持つ側面であり、東京もその例に漏れずさまざまな顔を持ち合わせている巨大都市。では、あなたにとっての心地よい都市生活とは?

今回、首都圏を拠点に集合住宅や街のコミュニティづくりに取り組む荒昌史さんがお迎えしたのは、「都市再生事例」として注目を集める米国オレゴン州ポートランドのコミュニティ感覚を著書『GREEN Neighborhood』にて紹介する吹田良平さん。おふたりが考える理想的な都市生活「東京のGREEN Neighborhood」って何なのでしょうか。

ポートランドには、住民たちが共有する価値観がある

 実は、僕はまだポートランドに行ったことがなんですが、吹田さんの『GREEN Neighborhood』を読んで、「この街に行ってみたい。できれば暮らしてみたい」って思いました。僕自身が首都圏で街づくりや集合住宅のコミュニティづくりにかかわっていることもあり、住み手となる人たちにそう思わせる街にとても興味が沸いたんです。吹田さんは、ポートランドのどんな部分に興味を持たれたんですか?

吹田 ポートランドはナイキやアディダス、ワイデン+ケネディなどが本社を構えていることもあり、若いクリエイティブクラスが多く住む都市です。インテルの全米一大きな工場もある。ただ、ハイテク産業のメッカとしてだけでなく、「全米で最も環境に優しい都市」、「全米で最もおいしいレストランが集まる都市」、「ベストデザイン都市全米第5位」などに次々と選ばれているんです。

都市がコンパクトにできていて、公共交通もうまく機能しているので、日常的に車を走らせる必要がない。ジップカー(全米最大のカーシェアリングサービス)や自転車を移動手段としている人も多いですね。なかでも、市の中心地であるパールディストリクトは、全米で最も成功した都市再生プロジェクトのひとつとして知られていますが、その都市生活の形に興味を持ちました。

荒 都市生活でありながら、他とは違うパールディストリクトでの暮らしの特徴はどういった部分なのでしょう?

吹田 パールはかつて倉庫街だったエリア。敷地は南北に1km、東西に750mとコンパクト。決して大きくはないそのエリアのなかに、多くのアートギャラリーやカフェ・バー&レストランなどが並んでいます。街のにぎわいをつくる店舗を1階部分に設けなければならない、パールにはそんな決まりが存在します。

そして、店舗が並ぶ1階部より上層階には、オフィスや住居、コンドミニアムが混在しています。しかも、都市の中心部でありながら、賃料の安いロフトなどもバランスよく存在しているんです。これは、多種多様な層や性格が混在、混和することを狙って“値ごろ”なマンションもつくるように、という行政の政策が機能した結果です。実際にこの街に住んでいる人たちはビジネスマン、クリエイター、ファミリーと幅広く、“Metro diversity”といえる状態を生み出しています。これは、パールの特徴を形づくる大事なポイントだと思います。

荒 住民のコミュニティにも特徴はありますか?

吹田 まず思いつくのは、個人のアイデアの発信とコミュニティが繋がっていることです。たとえば、通りを一時閉鎖して開催されるブロックパーティー、ストリートフェアも頻繁に開催されている。一つひとつは草の根的なイベントですが、ギャラリストやレストランオーナーたちがタイミングを合わせて開催するため、結果的に街をあげて行われることになる。つまり、住む人たちが機会を共有する価値観があるということです。

そして、都市生活を送りながらもアンチ市場原理主義の感覚を持っているということ。大企業のチェーン展開によるサービスよりも、地元発のスモールビジネスを応援するという意識があるんです。ファーマーズマーケットも活発に開催され、地元のファーマーが住民に支持されています。また、マイクロロースターズ(小規模自家焙煎家)が多いのもパールの性格を特徴づけています。地元では、「ここ(ポートランド)は、スターバックスの進出を最後まで拒んだ都市なんだ」なんて逸話も飛び出すほど。ここに生まれている小さくて価値のある経済の形。これは見習いたいですよね。

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1Fは店舗、上階には低価格のロフト空間も(左)、住民の支持を集め愛されているファーマーズマーケット(右)

「A-standard」のGREEN Neighborhoodを生む仕掛け

荒 今度は、僕が取り組んでいる集合住宅のコミュニティづくりを紹介させてください。京阪電鉄不動産が今年2012年春から展開している集合住宅の新ブランド「A-standard」です。「A-standard 渋谷桜丘」「A-standard 本郷三丁目」、ふたつの地域に建つマンションですが、それぞれ住民同士のコミュニティが育っていく仕掛け(common space/Neighborhood Design)が組み込まれているんです。

渋谷桜丘では、入口から各部屋への導線となる場所に広い共用部を設けられています。ひとつの空間をみんなでぐるりと囲むように、ゆったりと大きなソファーが配置され、コーヒーを飲んだり、お隣さんと何気ない会話をしたり、住民だれもがセカンドリビングとして活用できる場になっています。

本郷三丁目では、屋内の駐輪スペースと一体になった共有スペースを設けています。駐輪ついでに会話ができる空間です。Neighborhood partyや自己紹介のワークショップの機会を設け、さらに、共有スペースで開催するイベントは、住民自らが意見を出して決めることができるようにと考えています。住民のあいだで良いコミュニティが生まれることに期待しています。

吹田 ポートランドの事例を挙げたけれど、国民性もルールも違うから、同じようにやれるわけではないよね。日本で仕掛けていくうえで、大変な面もあるんじゃないですか?

荒 日本はやはり、マンションの管理規約などのルールが本当に細かくあって、そのルールに守られているという言い方もできるし、逆に創造性を阻害されてしまうと言うこともできる。「もっと楽しく、自由にやりたい」っていう単純なことがすごく難しかったりしますが、「A-standard」でも規約に触れない範囲で、住民の創造性を活かすようなワークショップができたらと考えています。

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「A-standard 渋谷桜丘」(左)と「A-standard 本郷三丁目」(右)のcommon space

新しい意識を歓迎する場所を選ぶという方法

吹田 僕は、コミュニティの誕生や人々の積極性を引き出すためには、そこにある程度の共通項がある方が良いと考えています。そのためには、作り手側が積極的に自分たちの個性、キャラクターを表に出す必要がある。それに賛同する人が集まるから生態系が生まれやすい。「万人向けですよ」、「お客様は神様です」の姿勢からは何も生まれない。そこを「好む人」と「好まない人」が出てくるような施設づくり、まちづくりの時代に入ってるんだと思います。ポートランドにはそれがある。一つの生態系の中で多様性が保たれているんです。

荒 一般的にマンションは立地や価格帯によっても住民の層が偏り、そもそも多様性をなくしがちですから。ポートランドの事例を見ていると、その部分にも面白さを感じますね。日本でも世帯数の多いマンションでは価格クラスの違う部屋を混ぜられることもあるのですが、世帯数が少ない場合はなかなか実現が難しい。最近、さまざまな業種のスタートアップの人たちが共存するシェアオフィスが増えていますよね? ああいう具合に積極性と多様性が重なると確かに良い効果も生んでいるわけです。あの感覚って大事だと思います。僕たちが住み手となった時、さらに「東京のGREEN Neighborhood」の実現に近づくためのキーは、どこにあると思いますか?

吹田 それは、明確。住む人たちも依存体質から脱すれば、大きく変わると思います。依存体質への慣れは、「膿み」ですから。僕自身もそういうところがありますが、「すべてを自分で決める」ということに恐怖がある。意思決定者になることで責任もついてくるから、というね。たとえば、政治について、「日本の政治家にはビジョンがない」という批判をする人がいるけれど、まずは自分自身がビジョンを持たないとね。

荒 依存体質ですか。たしかに、街の選び方には意識の違いがあるかもしれませんね。僕たちがいま住まいを選ぶときは、「通勤に便利」、「駅から何分」とか、「僕の年収だったらこの辺り」、「これくらい広くないと」みたいなのが先に立ってしまいがち。カルチャーやコミュニティを見て、「この街に住みたい」とか「この環境に参加したい」という意識よりも。

さらに、なんでもサービスを消費する形になっている。たとえば、「子どもを預けたい」というのも、良いご近所付き合いがあればできるはず。それを、既存のサービスでもまかないきれなくて、今度はNPOやソーシャルビジネスが解決していこうと立ち上がってきてくれていますが、僕たちの暮らしそのものが“ソーシャル”であれば、暮らしそのものがその課題に機能するはずなんですよね。都市のコミュニティは古くさく村的になる必要はなくて、今の時代の僕たちの感覚に合わせて作っていくべきなんじゃないかって。

吹田 「自分でやんなきゃ変わんない」という当事者意識ですよね。ひとりの変化は小さなパワーかもしれない。でも、そういった意識で挑戦できそうな場所を自ら選んでいった時に、そこには他にも小さな意識を持った人たちがたどり着いていて、大きなシナジーを生むということがある。それが、たまたまこの時代のポートランドだったのかもしれない。フロンティアみたいなね。

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吹田 僕は都市生活が好きなんですよ。自分の個性が埋もれるのも含めてね。もし本気で求めさえすれば個性同士が出会って偶発的に起きる何かがあったり、それが都市の豊かさでもあると思うんです。だからこそ、新しい意識を歓迎してくれる寛容な場所、すなわち多様な当事者たちが集まる場所をつくることが大事だと思っています。荒さんがかかわる「A-Standard」が、それを提案してくれることを期待していますよ。きっと、小さくても自分なりの意識を持った人たちが集まれば、「GREEN Neighborhood」が生まれてくるはずです。



「意識を持って依存体質から脱する」。おふたりのお話を聞いて、心に残った言葉。せっかく東京に暮らすなら、東京のGREEN Neighborhoodを描きながら意識を持った暮らしをしたいですね。

吹田 良平
1963年生まれ。(株)アーキネティクス 取締役。大学卒業後、浜野総合研究所を経て現職。新生活習慣の創造が関心テーマ。生活起点に立った商業開発、都市開発の企画策定を中心に関連する内容の出版物編集・制作も行う。主な実績に、渋谷QFRONT開発、商業開発専門誌「ZEROHOUR」編集・制作、「北仲BRICK & WHITE experience」編集・制作、「日本ショッピングセンター ハンドブック」(商業界)共著等がある。著書『GREEN Neighborhood』にて、ポートランドのライフスタイルやコミュニティを紹介。

荒 昌史
1980年生まれ。HITOTOWA Inc.代表取締役。2004年早稲田大学政治経済学部卒業後、住宅デベロッパー入社。CSRや環境共生住宅の企画・販売・コミュニティづくりに携わる。2010年独立、HITOTOWA Inc.設立。 集合住宅や街のコミュニティづくり、CSR/ソーシャルビジネスのコンサルティング事業を展開中。NPO法人GoodDayの代表理事を兼務し、Community Crossing Japanオーガナイザーとして、都市の共助の地縁づくりに取り組む。本郷三丁目と渋谷桜丘に誕生する新築分譲マンションA-standard では、「ネイバーフッドデザイン」をつとめる。

吹田良平さんの著書『GREEN Neighborhood』を読んでみよう。

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