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エネルギー新時代に「電気」の問題の原点を探る2つの映画-その1『眠れぬ夜の仕事図鑑』

(C) 2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

(C) 2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

今年も各所で節電が叫ばれていますが、節電や発電の問題は原発問題と相まって複雑化し、簡単には解けなくなっているようにも思えます。複雑になってしまった問題を解きほぐそうとする時には、原点に立ち返って物事を見てみると、問題解決のためにたぐるべき糸が見つかることがあります。

電気の問題について考える場合、その原点とはどこにあるのでしょうか? その原点を探り、問題解決への糸口を示してくれるかもしれないドキュメンタリー映画が2本立て続けに公開されています。その1本目『眠れぬ夜の仕事図鑑』を紹介しながら電気について考えてみましょう。

この映画は、夜、仕事する人たちを淡々と映し出す映画です。国際会議の通訳、警備員、巨大なビアホールの従業員、救急救命士、警察官、人の悩みを聞くコールサービス、郵便物の仕分け、風俗産業、国境警備員、移民局員などなど。そこに映る職業についての説明はなく、そこで何が起きているかについても言葉で説明されることはありません。ただただ仕事の現場が映されるだけ。

監督は『いのちの食べかた』のニコラウス・ゲイハルター監督。前作では食べ物がいかに作られるかをカタログ上に示して見せましたが、今回は夜の職業を「図鑑」として示します。図鑑に描かれているのはその姿形や生態であり、その内面については描かれることはありません。同じようにこの映画に映し出されるのは働く人の姿だけなのです。しかし、それでも私たちはその仕事をしている人の気持ちに寄り添い、彼らの気持ちを想像しようとしてしまいます。

(C) 2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

(C) 2011 Nikolaus Geyrhalter Filmproduktion GmbH

そのようになるのにはこの映画なりの仕掛けがあります。それは、映像が徹底的にその「仕事をする人」の視点に見る人が立つように撮られ、編集されているからです。例えば、移民局のシーン。このシーンは移民局の職員のナタリーさんが収容者の一人に難民申請が却下されることを告げるというものですが、カメラはナタリーさんを正面から捉え、収容者の顔は時々横顔が映るだけです。そして、ナタリーさんは自ら名乗るのに対し、収容者の男性の名前が明かされることはありません。あるいは、警備員か警察官が街の監視カメラをチェックしているシーン。このシーンはそのチェックしている人が見ているであろう画面と、その人を斜め正面から撮った映像だけで構成されています。これによって観客は彼の視線で彼が見ているものを見ることになるのです。

そんな映像から観客は何を感じるでしょうか。それは見るあなたがどんな人なのかによって違ってくるはずです。あなたがもし深夜働いているならば、この映画は自分の声を代弁していると感じるかもしれません。もしあなたが昼間働き夜は遊んでいるなら、あなたとは逆の視点から見た夜を発見できるかもしれません。もしあなたが夜は寝ているなら、あなたの知らない世界を垣間見ることができるかもしれません。

この映画には凝った演出もなければ、特徴的な人物が出てくるわけでもありません。ストーリーと呼べるものすらありません。でも、そのような「体験」を観客に提供することで観客を映画にひきつけます。

そんな映画を最後まで見て俯瞰してみた時、いったい何が見えてくるのでしょうか。最後のシーンは巨大な会場で人々が踊っているシーン、そこをカメラは掻き分けるようにして進みます。そこに働いている人の姿は映っていません。しかしこの膨大な参加者を支えるために働いている人達の姿をあなたは思い浮かべることになるでしょう。そこから見えてくるものは何なのか、あるいはそれによってこの映画は何を問いかけているのか。

それもまた見る人によって違ってくるものかもしれません。しかしひとつ言えるのは、ここに描かれている「夜」がいかに巨大かということです。古代にはほとんどの時間を寝て過ごすしかなかった暗い夜がいかに明るいものに代わり、昼と同じように多くの人々が活動する時間がいかに増えたか、その膨大な時間について考えさせられるのです。人間が活動できる時間が増えたことはいいことなのかもしれません、しかしエネルギーや環境について考えなければいけないこの時代に、そのことがどのような意味を持つのか、それを改めて考えないといけないのではないか、そんなことを思わせてくれる作品です。

電気は今や夜だけのものではありません。でもその原点を考えると、電気が夜を照らし人間の活動時間を広げるものとしてそのエネルギー量をどんどん増大させていったことがわかります。それによって人間の生活や社会はどう変わったのか、それは我々自身が考えてみるべきことでしょう。しかし、そのように夜が明るくなったことによって弊害も出ているのかもしれない、そんなことについて描いた映画を次回、取り上げます。

『眠れぬ夜の仕事図鑑』
2011年/オーストリア/94分
監督・撮影:ニコラウス・ゲイハルター
7月28日(土)よりシアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

シアター・イメージフォーラムにてスペシャルトークショー開催!
・8月11日(土)18:30の回上映後 想田和弘さん(映画監督『演劇1』『演劇2』)
・8月12日(日)13:50の回上映後 入江悠さん(映画監督『SRサイタマノラッパー』シリーズ) 森直人さん(映画評論家)
・8月18日(土)16:00の回上映後 丸々もとおさん(夜景評論家・夜景プロデューサー)
・8月25日(土)16:00の回上映後 四方幸子さん(キュレーター・東京造形大学特任教授)

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