東日本大震災から1年ということでTVでもいろいろな特別番組が放送され、関連する映画も色々公開されています。今日紹介するのもその中の一本、岩井俊二監督の『friends after 3.11【劇場版】』です。これは、岩井さんが「友達」へのインタビューや被災地への訪問を通じて、震災や原発や世の中について考える「マガジン」、すごく思いが伝わり、考えさせられる作品です。
映画は原子力プラントの開発に携わった後藤政志さんへのインタビューからはじまります。まずはここでこの原発事故のどのような事故であったのかを改めて語り、続いて『六ヶ所村ラプソディー』などの鎌仲ひとみ監督、環境活動家の田中優さん(インタビュアーはナビゲーターの松田美由紀さん)が登場。ここまでを見ると、この映画は「反(脱)原発映画」であるという印象を受けます。
しかし、上杉隆さんを挟んで、武田邦彦さんが登場すると印象が変わってきます。武田さんの話は荒唐無稽と言ってもいいような、にわかには信じがたい話です。そこから思うのは、この映画はある主張を展開するものではなく、様々な主張を取り上げ、それを編んで、見る人に考えさせるものなのだということです。
震災以降、様々な人が様々な事実に基づいて様々な主張をしています。その中で私たちはその中のどれかひとつが正しいなんてことはないということに改めて気付かされました。様々な情報を自分なりに消化して、それを材料に自分で考えて行かなければいけない。そのことの重要性を改めて認識したのだと思うのです。
この映画は岩井監督が「友達」との対話し、その一人ひとりの主張や思いを受け止め、その上で自分なりに考えていった過程を描いたものなのだと思います。
映画の後半では、脱原発アイドルの藤波心さんや俳優の山本太郎さん、松田美由紀さんと被災地を訪れます。実際に津波を体験した岩井さんの親戚や旧友の証言は生々しく、津波の爪痕が残る被災地の映像からは「映像の力」を感じます。そして、言葉で理解することに加えて、目で見て感じること、それもあわせて考えるが大事なのだと思わされます。
さらには、震災や原発とはあまり関係なさそうな、自殺の話題やマレーシアのレアアース精製工場の問題も取り上げられます。これは、この震災と原発の問題が、そこだけにとどまるものではなく、深く掘れば命そのものについて考える入り口にあり、外に広げれば世界の様々な問題を考える端緒にもなるということを示すものです。
これは岩井俊二さんの自分語りの「マガジン」です。それもかなり読み応えのある。作品中には岩上安身さんなども登場してインターネットメディアの可能性にも言及されるし、この作品自体が岩井さんがウェブ上に展開する「iwai shunji film festival」という月刊誌のようなもののコンテンツのひとつにもなっています。
greenz.jpが本になったように、インターネットのメディアと既存のメディアの間の垣根というのはどんどん低くなっていて、この映画もそのひとつの形なのかもしれません。そして、この映画からは、やはり本や映画といったメディアの情報の濃さにインターネットはかなわないという印象も受けました。
震災からちょうど1年、もう一度じっくりと自分なりに考えるための材料に、ぜひ見てみてください。
映画で「311」について考える