天然資源に恵まれ、1日に約200万バレルの石油を生産しながらも、人口6割以上が貧困ライン以下の生活をおくる国がある。その国で石油生産量NO.1を誇るシェルの「隠された事実」をあばく報告書がリリースされた。
シェルといえば、工場の煙突から花が舞い落ちる広告でグリーンウォッシュを叩かれたことがまだ記憶に新しい。今回、Friends of the Earth (FOE) 、グリーンピース、プラットフォームなどの国際環境団体が協力して作成・発表した報告書「Shell’s Big Dirty Secret」は、環境配慮型企業をうたうシェルの環境への無配慮を非難する内容だ。
報告書によると、シェルは同業他社と比べて燃料生産量あたりの二酸化炭素排出量が多い。その主な理由として、オイルサンドとオイルシェールに依存する燃料生産、そしてガスフレア(天然ガスの焼却廃棄)が挙げられている。
たとえば、オイルサンドとオイルシェールによる原油生産は、サウジアラビアにおける従来型の原油生産と比べると、原油1バレル当たりの二酸化炭素排出量が、それぞれ5倍から10倍、12倍から21倍も多いという。つまり、それだけ大量のエネルギーを投入しなければ燃料が抽出できないのだ。
また、ガスフレアは、本来は燃料として利用できるガスを、ただ燃やして破棄しているので、ガスフレア量が多ければ多いほど、燃料生産量は減り、二酸化炭素排出量は増える。シェルは、はナイジェリアにおける最大のガスフレア企業であり、そのガスフレア量は、世界全体の12%に当たる。
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地元の人たちにとって、空高く舞い上がるガスフレアの炎の柱は、日常の光景となってしまっている。
気候変動への危機感が高まるなか、二酸化炭素排出量の削減が叫ばれているのに、シェルはむしろ二酸化炭素排出量が増える技術に投資している、と報告書は指摘する。
温暖化ガス以外の大気汚染物質による土壌汚染、水質汚染、地域住民の健康への悪影響についても、報告書は警告している。特にガスフレアの影響は深刻で、たとえばナイジェリアのBayelsa州では、年間5千人の児童が呼吸器疾患にかかり、12万人がぜんそくの発作を起こしているという。
ガスフレアは、過去に何度も問題視され、FOEをはじめとする環境団体が廃止を求めてきた。ナイジェリアでは、1984年の時点で同国政府が問題を認識し、ガスフレアは違法とされた。ガスフレアの廃止期限は2008年末に設定されたが、シェルはガスフレア廃止に必要なコストの高さを理由に、廃止を先延ばしにしてきた。
注)今年5月、ナイジェリア政府は、ガスフレア廃止の期限を2011年末に延期する意向を発表した。
2007年5月3日、FOEはシェルのハーグ本部前でガスフレアのデモンストレーションをして、ガスフレアの廃止を訴えた。
とはいっても、シェルはガスフレアに対して何も対策を講じてこなかったわけではない。シェルによると、同社は2002年から2008年までにナイジェリアにおけるフレアリングを3割以上削減した。でも、今回発表された報告書は、2002年におけるガスフレア量の割合が高かった点に注目している。削減率を高く見せるために、意図的に2002年が選ばれたのだ、と報告書は警告している。
ためしに、1999年から2004年にかけてのデータをもとに、グラフをつくってみた。
Nigeria Extractive Industries Transparency Initiative Reportのデータをもとに作成
このグラフは、ナイジェリアにおける石油生産のシェアNO.1のシェル、NO.2のMobil、そして同国で石油生産に携わる9社の燃料生産量あたりのガスフレア量を示したものだ。FOEの報告書が述べているとおり、2002年はシェルにとって、特にガスフレア量の割合が高かった年であったことが分かる。また、シェルのガスフレア量は、他社と比べて特に少なくないことも分かる。
シェルは、ガスフレアの廃止に踏み切れない理由として、共同出資者であるナイジェリアの国営企業から資金が提供されていないことを挙げている。ガスフレアを廃止するには、更に30億ドルの設備投資が必要であるという。
昨年、314億ドルの利益を得たにもかかわらず、シェルはガスフレアの話題になると資金不足を訴える。環境よりも利益を優先しているのだ。
というように、この報告書はシェルを徹底的に攻撃しているわけだが、もちろんシェルも黙ってはいない。同社は、声明文を発表し、以下のように反論している。
*****【シェルの声明文の概要】*****
- どの企業が他企業よりもカーボン・インテンシブであるのかという点よりも、世界規模でのCO2排出量削減の活動を進めることに焦点を当てるべき。自社は、気候変動防止と需要に応えるエネルギー供給の両面において「効果的な」規制に準じている。また、気候変動に関する条例や規制を盲目的に支援するのではなく、炭素の価値(またはコスト)に関する十分な知識を踏まえた上で気候変動対策のための投資に関する意思決定をしている。
- 今後も社会の発展とともに炭素燃料の使用量は増加する。自社にとって、そのような高まる需要に応えるとともに二酸化炭素排出量を管理することが重要課題である。
- 業務改善により、自社の二酸化炭素排出量は1990年比で3割以上減った。特に、ガスフレアには力を入れている。ナイジェリアでは30億ドルを投資し、2002年から2008年までにフレアリングを3割以上削減した。
- オイルサンドは世界が求めるエネルギー源であり、炭素税が導入されても採算の合うかたちで燃料に変換できると考えている。経済的かつ環境や社会に配慮しながらオイルサンド開発を継続していく。オイルサンドから燃料を生産する際、従来型石油資源に比べて多くの二酸化炭素量を排出するとされている。そのため、自社は、エネルギー効率改善や二酸化炭素の回収・貯留技術(CCS)に取り組んでいる。その一歩として、年間二酸化炭素排出量を4万トン削減できる新技術を導入する予定。
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これらのシェルの主張にたいして、みなさんはどう感じるだろうか?
私はまず、同社のガスフレアに対するドライな姿勢が気になった。ガスフレアが違法行為であり、地元住民の生活を脅かしていることに対する意識が低いのでは、と。
ただ、もしかしたら、意識が低いのは、私たち消費者も同じなのではないか、という気持ちにもなった。シェルは、今後も炭素燃料の需要は増加すると見込んでいる。そして、そのような需要を満たすことはシェルの社会的責任の一つであるという姿勢をしめしている。ガスフレアの問題を解決する前に、「世界が求めるエネルギー源」であるオイルサンド技術と、その技術を活用する際に不可欠となるCCS技術に投資することが、社会に求められていることだ、という認識があるのではないか。
シェルは社会や環境に対して全く配慮しない企業ではない。企業の社会的責任が求められる今、企業イメージ保持にも力を入れている。ステークホルダーの多くがガスフレア廃止を求めていると認識すれば、そのために、より真剣に取り組む可能性はある。
greenzでは以前、ナイジェリア大統領にガスフレア廃止を求めるFOEのキャンぺーンを紹介した。このキャンペーンでは今、着任したばかりのシェルの新CEO宛てにメッセージを送ることができる。より多くの人が参加することで、ガスフレアの廃止の時期が早まるかもしれない。
他にも、間接的ではあるものの、私たち消費者にできることはある。それは、化石燃料の消費量を減らすこと。
私たちが使っている化石燃料には、必ずといっていいほど、悲しい記憶が刻まれている。そのことを考えて、エネルギーを効率的に使うよう心がけたい。
衛星写真で、ナイジェリアのガスフレアの規模を知る。