たとえばエネルギー消費を減らそうと、家電を手放してみる。
ある人にとっては、それが暮らしと社会を見つめなおすきっかけになるでしょう。
greenz.jp編集長の増村江利子もそのひとり。一人ひとりの暮らしを通じた行動が社会を変えていく実践者として、生活家電を一つひとつ手放していく生活の様子などを発信してきました。
とはいえ、家電を使わずに暮らすことはできない…と思う方も少なくないのではないでしょうか。それも当然、暮らしを変えるきっかけは一人ひとり違うものです。
あなたにとって、自分の暮らしと社会の接点はどこにあるのでしょう? 今回は、暮らしから社会の変え方を見つけるためのヒントをご紹介します。普段の生活を思い浮かべながら読んでみてください。
大転換ではなく、小さな範囲からはじめよう。
賃貸住宅「ちっちゃい辻堂」の実践
社会という大きい単位でものごとを変えようとするのではなく、自分が住む地域や経済圏からであれば、何かはじめることができるのではないか。神奈川県藤沢市辻堂で「ちっちゃい辻堂」という賃貸住宅の地主・大家をしている石井光さんの実践からは、そんな兆しを感じられます。「ちっちゃい辻堂」は、今までの暮らしや働き方を大きく変えずに、経済ではなく「いのち」を真ん中にした暮らしを経験できる場として開かれています。
大学時代には、生き物と自然の関係性について研究してきたという石井さん。ただ地主として住居を提供するのではなく、通路や駐車場をコンクリートで固めないことや、住民がコンポストや畑などをはじめられる環境を整えることで、人間と生き物が隣あって暮らせるまちを目指しています。
“経済“ではなく“いのち“を真ん中に、まちを100年先へとつないでいく。藤沢市辻堂の地主・石井光さんが「ちっちゃい辻堂」で入居者と育みたい、小さな安心を積み重ねる賃貸暮らしとは (by たけいし ちえさん)
石井さん 僕は辻堂という小さな単位からイメージを広げることが適正な気がしていて。「小さい」って大事なキーワードで、小さな安心感が積み重なっていけばいいと思います。
災害で食べ物がなくなっても畑にとりあえず野菜があるとか、ここに来れば暖が取れるとか。そういう小さな安心が積み重なったまちは人や生き物、すべての“いのち”にとって幸せなまちなんじゃないかなと思います。
世界のどこかで進む社会問題を
自分の暮らしと結び直す
あなたが望んでいなくても、気づかないうちに、意に反する社会構造を支持してしまっている可能性があります。その代表例がエネルギーにまつわる問題。私たちが当たり前に使っている水道、ガス、電気などのインフラは、他国や地方に依存している構造を持ち合わせています。
そんな構造を暮らしから変えるために、電気を工夫してみることからはじめてみませんか? 近年まで日本と同じ状況にあったにもかかわらず、危機感を覚えた市民の人々の声から風力自給率800%を実現した、デンマーク・ロラン市の事例を紹介します。記事の最後には「日本でわたしたちができること」を、デンマーク在住で「共生アドバイザー」のニールセン朋子さんが提案しています。
電気だけじゃない、みんなのエネルギー問題。電力自給率800%超のデンマーク・ロラン島に暮らすニールセン北村朋子さんに聞く、今すぐ日本でできること (by やなぎさわ まどか)
ニールセンさん ロラン市は1980年代の後半、それまで盛んだった造船業が途絶えたため、すっかり活気が失われていました。財政は赤字で、失業率はピークで20%以上に上昇。職を求めて島を出ていく人が相次ぎ、住宅価格も年々急激に落ち込んでいきました。
そんな中、農家の人たちが率先して、自分の土地に小規模な風車を設置し始めます。以前、ロラン市ではじめて風車を導入した農家さんに話をうかがったところ「風が吹くだけで電気がつくれるなんて素晴らしい」という好奇心から、自ら風車の工場を見学に行き、設置を決めたことを教えてくれました。
当たり前を問い直す。
地球暦から学ぶ「ちょっと待てよ」な視点
暮らしや社会を変えるために、システムや経済のあり方をかえるというやり方以外にも、“ものごとの根本的な見方を変える” という方法もあると思います。杉山開知さんは、「地球暦」という新たなカレンダーをつくることで、時間の計り方を問い直すことを試みます。
私たちが普段使うカレンダーと「地球暦」が異なる点は、一年の周期が円のかたちで表されていること。私たちが暮らす地球が太陽系のどのあたりにいるのか、空間軸を味わいながら、時間の経過を確かめることができます。杉山さんが「地球暦」をつくりはじめた原点には、時間に縛られてものごとが進んでいくことへの違和感があったようです。
身のまわりのものごとが、なぜ存在しているのか。「ちょっと待てよ」と立ち止まって考えることで、思いもよらず、自分や社会の価値観を変えうるヒントが見つかるかもしれません。
宇宙のリズムを暮らしにつなげる“地球暦“って? 暦師・杉山開知さんに聞く、暦の“当たり前“を疑い、時間を取り戻す第一歩 (by たけいし ちえさん)
杉山さん (人工的な「計り」としての時間と、自然に流れている時間とのあいだに大きな対比を感じるなかで、)時間、カレンダー、暦とはなんだろうと思いました。できる限り調べましたが、これが全くわからない。
例えば、春分の日は3月21日(前後)ということはわかりますが、なぜ3月21日だっけ?と問われると、的を得た答えを出すことができないし、はっきり教えてくれる人もいない。そこではっとするわけです。みんながカレンダーを使っていて、毎年、毎日それを見ているのに、それが何なのかを知らない。これは大問題だ! って(笑)
ないものは自分でつくる。
その一歩を「食」からはじめてみよう
「自分の暮らしをつくる」という言葉の解像度を上げるときに一番手をつけやすいのは「食」ではないでしょうか。今朝食べた食材がどこから来て、どのようにつくられたのか。それを知ることも大切な一歩ですが、「自分でつくる」ことにもチャレンジしてみませんか? 自分の命をつなぐ食べ物をひとつでもつくれると、「あれもつくれる、これもつくれる」と、自分にできることの手数・喜びが増えていきます。一人ひとりがつくり手になっていくことで、それが大きなムーブメントにもなり得るはずです。
この記事では、専業農家ではない働き方で、農業に携わっている女性たち3人のキャリアや体験談が語られています。今ある自分のキャリアや暮らしに、「農的」要素を加えるヒントになるのではないでしょうか。
野菜を育てると、足もとの幸せに気づける。自炊料理家・農園オーナー・フリーランス農家が語る「農ある生き方」の始め方 (by やなぎさわ まどかさん)
山口さん 特に畑は、野菜をつくる経験で無駄になることなんてひとつもないと思いました。体を動かす機会になるし、外で土に触れることは気持ちがいいし、何より「食べ物をつくれる」という人間としての謎の自信がつくんです。
わたしはこれをよく「野生ポイントがアップした」というのですが、食材を扱えるとか料理ができることで、生きる自信が増すんです。もしも今いきなりどこか見知らぬ街に解き放たれたとしても、その場でなんとか食べ物を扱って生きれそう、と思える。この自信は、キャリアの前に人としてとても大きいものだと思います。
限界をつくらない。
地域まるごど、ほしい暮らしや仕事をつくる
福島県南相馬市小高区にて2014年に「小高ワーカーズベース」を開設した和田智行さん。福島第一原子力発電所の事故により避難指示等の対象となった福島の12市町村で創業支援・起業家コミュニティの育成に取り組んでいます。
まずは生活に必要な食堂やスーパーなどの事業を立ち上げる。「どうせ若い人たちは帰ってこない」という諦めの雰囲気を悟ると、子育て中の女性にとって働きやすく魅力的な仕事をつくるべく、ガラス工房を立ち上げる。和田さんが小高で行ってきた活動を振り返っていくと、地域の声を拾い上げて着実にかたちにしていることがわかります。
小高ワーカーズベースが掲げるミッションは「地域の100の課題から100のビジネスを創出する」。活動するうちに自分たちで達成することの限界に気がつくと、一緒に取り組む仲間を増やすべく、起業家を呼び込み創業支援をする「Next Commons Lab 南相馬」を立ち上げたのだそう。
自分が実践するだけでなく、自分らしい暮らしや仕事を望む人たちの実践を支援することも、社会を変える大きな力になるのだと感じました。
福島は、日本の閉塞感をブレイクスルーする、唯一で最後のフィールド。小高ワーカーズベース・和田智行さんと移住支援センター・藤沢烈さんが語る、福島12市町村ローカル起業の現在地 (by 廣畑七絵さん)
和田さん 僕が株式会社小高ワーカーズベースをスタートした2014年頃は、まだ小高区(南相馬市)の避難指示が解除されていなくて、日中の立ち入りはできるものの、居住はできないという段階でした。昼間でも誰も外を歩いていないし、夜になると、街灯も家の灯りもないので、本当に真っ暗闇の中にぽつんと自分たちだけが灯りをつけてる状況でした。
立ち上げた当時から「この地域はゼロから新しい社会がつくれるフロンティアだ」と言って、そこに共感してくれる人たちが集まって、思い思いの事業を立ち上げてきました。最初はこんな地域で起業するなんていう人間は僕しかいなくて、大抵の人は笑っていましたが、今ここで起業すると言っても馬鹿にする人は誰もいない。そういう意味ではすごく感慨深いですね。
あなたにとって、社会と自分の暮らしがつながるヒントが見つかったでしょうか。
今回ご紹介した人たち・事例を見てみると、「社会を変える」その一歩手前に、自分が何を望んでいるのか、という像があることが伺えます。社会を変えたいと思ったときに、まずは自分が望む・あるいは望まない暮らしを見つめることからはじめてみてはいかがでしょう。
自分がしたい暮らしに必要なことを実践し、必要のないものを手放す。その繰り返しの先に、同じ意志をもった仲間との出会いや新たな社会をつくる兆しが現れるかもしれません。