greenz.jpの活動を通じて、NPOを立ち上げた方や、スタートアップとしてサービスを立ち上げた方にインタビューを行う中で、彼らに共通した点があると考えるようになりました。
彼らは解決したいと思う課題があり、その解決のために全力で取り組んでいます。そうすることで、よりよい世界へと変えていきたいと考えているのです。
彼らに共通点を探る上でユニークな人物に出会いました。greenz.jpで何度も紹介している傘のシェアリングサービス「シブカサ」の立ち上げメンバーとして活動し、その後スタートアップを立ち上げ、「Whytelist」など自分のサービスをつくろうとしている碇和生さんです。
碇さんへのインタビューを通じて、マイプロジェクト、ソーシャルベンチャー、そしてスタートアップ。それぞれの違いと、共通している点を探ってみたいと思います。
シブカサをはじめたきっかけ
森 シブカサを始めたきっかけとはどのようなものだったのでしょうか?
碇さん 始めはムハマド・ユヌス氏の講演を聞いたことがきっかけで、ソーシャルベンチャーという言葉に興味を持つようになりました。そのとき彼が言っていたことが印象的で、今でも記憶に残っています。
自分たちはソーシャルベンチャーをやっているつもりはない。たまたま目の前にある問題が貧困で、それに対する解決策がグラミン銀行だっただけ。
僕はこの言葉がすごく好きでした。自分たちが何かやるときにも、世界の誰かとか、地球を救うためあまり飛躍したものだとピンとこなかった。もっともっと生活に密着したサービスを作りたいという想いが前提としてありました。
身近に感じられる問題に取り組む
碇 たまたま雨が降った時、みんな雨宿りして困っていました。「ここに傘があったらいいんじゃないの?」ほんとにそれだけのシンプルな発想からシブカサの原型が生まれました。そこで調べてみたら、傘が世界で一番消費されているのは日本で、1億2000万本消費されていて、その半分以上がビニール傘でした。傘は大量消費の象徴みたいな存在だということに気づきました。
僕らはシブカサを、問題意識をゼロから1にするためのハードルだと定義づけました。いかに今、興味を持っていない人々に、「エコっていいよね。」ということだったり、「ああ、こういったことも社会貢献になるんだ。」ということに気づいてもらえるためのツールにするかということを考えました。そのためカフェだったり、美容室だったり、なんでもないような場所に設置できるようなサービスとしてスタートさせました。それがシブカサを作った時のきっかけですね。
マイプロ的にシブカサの活動を続けていた上で気づいた課題
森 シブカサの活動を継続することの難しさを感じたのはいつでした?
碇 やはり代替わりが始まった時期かな、と思います。みんなビジョンやマインドは持っていたけれど、これで食っていくことはできない、ということは考えていました。
実はシブカサが始まってから、法人化するまで長期休暇しなかったのは自分だけなんです。事業として成長しないと、メンバーも辛くなってくるし、なにより社会に対してインパクトが残せないということが辛くなってきていました。
活動の軸をシフトしたきっかけ
森 シブカサの活動から、起業家としてWebサービスを立ち上げようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。
碇 シブカサに関しては拡大路線を割りきって、シブカサを真似してもらって全国に広めるという、オープンソースモデルにしたことで、スケールさせることにしました。シブカサのほうはそれでいいと思いました。ぼくはシブカサが法人化するより以前に、会社に入っていて、会社でビジネス経験、事業経験、お金に対する意識を学ぼうと思い、会社員になりました。
僕が担当していたのは B to B のサービスで、ユーザーの顔が見られるサービスじゃありませんでした。クライアントの意向だったりを聞いていることが多かったんです。シブカサのときは、直にユーザーとつながっていて、直接フィードバックをもらったりできていました。
僕はユーザーにダイレクトに価値を届けることができるサービスをやりたいと考えていました。そのサービスがあることによって、人々の意識やライフスタイルがどう変わるのか。そこの変革を行うことは、以前いた会社では行うことが難しいと感じたので、独立してやるしかないよね、と思うようになりました。
そしてスタートアップの立ち上げ
森 そして、サービスを立ち上げようと思ったわけですよね。どのようなサービスを始めようと思ったのですか?
碇 はじめ、会社をつくったときはFacebookコマースを考えていました。そこのビジネスが伸びると思っていたので。オークションモデルのサービスをアメリカで始めようと思っていたのですが、結局それはうまくいかなかった。なぜうまくいかなかったかを考えたときに、自分は会社をつくること自体や、市場規模などに気を取られていて、サービスに魂がこもってなかったんです。そこになんのビジョンもありませんでした。
自分のやりたいことやサービスに込めたいメッセージなどを考えたときに、帰ってきた原点がシブカサでした。モノが持つストーリーや、モノに対しての想像力をふくらませることができるようにすることで、環境だったり、他人の存在だったりに気づくということをインターネットを使用して、事業性を持ったものにしようと考えるようになりました。
森 そこで生まれたのがWhytelistなんですね。簡単にサービスの説明をしていただいてもよろしいですか?
碇 Facebookのアカウントを使用して、誰でも簡単に自分だけのお店がつくれるコマースサービスです。コンセプトは「どこで買うかではなく、誰から買うか」。Facebookと連携しているので、売る人と買う人が互いの顔が見え、安心したお買い物が楽しむことができるというサービスです。
森 ソーシャルベンチャーと、スタートアップを両方とも経験されて、どういった違いを感じますか?
碇 それほど違いがあるようには思っていません。カタチをつくることは重要じゃないな、と思います。まず、なにがやりたいのかということが大事。NPOなのか、株式会社なのか、はたまた別の形態がいいのか、そういったことは重要ではなく、サービスのプロトタイプをつくっていく段階でどういった法人がいいのかを決めていくくらいでもいいと思います。
森 すると両者の違いはあまりないのでしょうか?
碇 そうですね。ぼくはそう感じています。大切なことは、まず自分の問題意識を探すことからはじめることだと思います。目的と、どんな世界にしたいのかというイメージを思い浮かべる。お金のこととか全部忘れて、素直に腹に落ちてくるかどうか、スッとはいってくるかどうか。それが一番大事なんです。
そして、そうした問題意識は普通に生活している中から、気づくことができるものだったりします。日々の気づきを耳に傾けることが大事で、得ている気づきの中から解決したいことが見えてきます。
見えてきたらあとはどのように解決していくかというアプローチを考える段階で、NPOのほうがやりやすければNPO法人を立ち上げたらいいし、株式会社のほうがやりやすければ起業すればいいと思っています。
碇さんへのインタビューを通じて、大切なことはどういった団体を立ち上げるかではなく、どういった問題を解決したいのか、まずはそれを見つけることが大事だというメッセージを受け取りました。
これはマイプロジェクトの始まりに近いものがあるのではないでしょうか。ひとりひとりがそれぞれの問題意識を元に活動をスタートし、活動が進んでいくにつれどういった形態で継続していくのが適切なのかを決めていく。社会貢献だ、スタートアップだと上辺の言葉に踊らされずに、みなさんも自分なりの問題意識を見つめてみてはいかがでしょうか。
(photo by Hinako Adachi, thanks!)
シブカサが初めてgreenz.jpに掲載されたときの記事はこちら!
「自分ごと」からはじめるソーシャルデザイン。