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誰かの「本気」が社会を動かす。私たちは意思をもって激しく燃えるキャンプファイヤーのような火でありたい【NPO法人グリーンズ14期活動報告】

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2025年も10月に差し掛かりますが、「今年は昨年より暑いね」と毎年言っているような気がします。思えば梅雨の時期にほとんど雨が降らなかったり、記録的な水不足でお米がなかなか育たなかったり、かと思えば突然猛烈な雨が降って河川が氾濫したりと、今年も大荒れの夏を過ごしたように思います。「地球温暖化」や「エコ」などの言葉が使われはじめた当時とは違い、近所の田んぼの土がカラカラに乾いてひび割れていたり、「東京の実家の近くが水浸しになった」と、水しぶきを上げて車が走る動画を友人から見せてもらったりと、自分の生活とかなり近い距離で地球の気候変動を実感する今日この頃です。

そんな社会の変化は、グリーンズの1年を振り返る中でも如実に感じる部分がありました。第14期(2024年7月〜2025年6月)のアニュアルレポート(年間活動報告)を通じて、私たちがどんなことに取り組み何を感じたのか、共同代表・植原正太郎(以下、正太郎)と、編集長・増村江利子(以下、江利子)が振り返ってみます。

今、この文章を読んでいるあなたの一年と重なる部分もあるかもしれません。しばしの間、私たちの振り返りにお付き合いください。

NPOグリーンズ 第14期 活動報告

アニュアルレポート グリーンズ

3期比較(左から第11期、第12期、第13期)

アニュアルレポート│グリーンズ

部門別売上

アニュアルレポート│グリーンズ

経常収益と経常費用

アニュアルレポート│グリーンズ

過去のアニュアルレポート

NPOグリーンズ第13期 アニュアルレポート
NPOグリーンズ第12期 アニュアルレポート
NPOグリーンズ第11期 アニュアルレポート

(ここから対談をお送りします)

社会の歪みにいよいよ向き合わねばならない

正太郎 14期もいろいろな動きがありましたね。まずはメディアを中心に振り返っていきましょうか。

江利子 そうですね。まずは『生きる、を耕す本』 vol.2の発刊でしょうか。もう、これはずっとやりたかった内容でした。

アニュアルレポート│グリーンズ

『生きる、を耕す本』vol.2。現代の暮らしでは「トイレに流したうんちはどうなるのか?」なんてことを考える人はあまりいないかもしれない。けれど、本来は自分の体から出てくるうんちは自分の責任範囲であり、その責任を誰かに任せつづけているとも言える。本書では、糞土師・伊沢正名さんをはじめ、うんちを”耕してきた”人たちのインタビューを収録

江利子 「うんこが地球を救う?」という、少し攻めたテーマでいきましたが、この本に関心を寄せて反応してくれた人は、グリーンズのコアなファンの方が多かったように感じます。

正太郎 「ちょっと尖りすぎたんじゃないか?」という社内の声もありつつ(笑)。

江利子 「うんち」はあくまでもフックであって、その先にあるものを考えたかったんですよね。

アニュアルレポート│グリーンズ

編集長・増村江利子

江利子 この書籍の制作を通じた一番の学びは、“細切れの最適解”をどれだけ積み重ねても、循環には返っていかないということでした。例えば、下水処理場にとって一番大切なことは、不純物を取り除いて、水を綺麗にすることです。一方海に視点を移してみると、植物プランクトンや海藻の成長に必要な窒素やリンなどの栄養塩が少ない「貧栄養」と呼ばれる状態になっている。その結果、海の生き物たちは“水が綺麗すぎて”困っているわけです。こうした社会のゆがみに、いよいよ向き合わねばならないと思っています。

正太郎 江利子さんが編集長に就任して以来一番のヒット記事が、この本でもお話を聞いている、糞土師の伊沢さんの記事でしたね。こうした記事が累計3.8万PVを獲得するというのは、なんだか時代の流れを感じました。

江利子 時代の流れは、今期のヒット記事の顔ぶれにも現れていますね。14期にPV数一位を獲得したのが、まさに先ほど話した、海が貧栄養状態になっている問題について取り上げた記事なんです。これまでは、誰でも楽しく関われる「まちづくり」や「サステナブル」に関連する人や活動を紹介する記事がよく読まれていた印象ですが、私たちが今直面している深刻な課題について掘り下げる記事が1位になるというのは新鮮で、今まであまりなかった現象でした。

アニュアルレポート|グリーンズ

「きれいになりすぎた“貧栄養”の瀬戸内海に、生物多様性を取り戻す。兵庫県の漁師たちが陸へはたらきかけ、海に栄養を注ぐ 『豊かな海づくり』」では、兵庫県漁業協同組合連合会の樋口和宏さんに、瀬戸内海の現状や、豊かな海を取り戻すための取り組みなどについてお話を聞いた

江利子 他にも、14期に多く読まれた記事の中には、先住民族の暮らしや文化から私たちのルーツをたどる連載「ROOTS to the Future」の下郷さんの記事や、お金の仕組みと役割について問い直す武井さんの記事などもありましたね。あとは、住民自治やコモンズを取り上げた記事もよく読まれていました。

いずれの記事にも言えますが、「当たり前」とされてきたものを一つひとつ剥がして見つめ直すことが今必要だと思っていて。これまで問題とされなかったようなことにも手をつけなければいけなくなってきているし、私たちの生き方そのものが今問われはじめているんだと感じます。

本気の人が増えている?

正太郎 14期の取り組みには、能登半島地震を受けて増村さんが先頭を切ってつくった『グリーンズ号外』もありますね。改めて聞きますけど、なんで号外をつくろうと思ったんですか?

アニュアルレポート|グリーンズ

『グリーンズ号外 vol.1』。「能登半島のいま」という特集名にもある通り、編集長の江利子が自ら能登半島に赴き、復興に向けて立ちあがろうとしている人たちのリアルな声を紹介している

江利子 能登のことは、震災以来ずっと気になっていたんです。震災が起きたあと、私は屋久島に滞在していたんですが、地理的には反対方向の飛行機に乗ることに若干の抵抗感があって、グリーンズとしてやるべきことは何かを考えながらのフライトだったことをよく覚えています。

そして、復旧、復興のなかで現地で立ち上がる人が出てきた時に、彼らの取り組みを社会に発信して応援することがグリーンズの役割かなと考えました。なので、すぐに動けることはやるけれども、私たちの本当の出番はもう少し先だ、と思っていたんです。

そんななか、2024年5月に石川県の珠洲市にある「公衆浴場 海浜あみだ湯」の清掃ボランティアで現地へ足を運ぶ機会をいただいたんですよね。建物が倒れたままで、強い違和感を覚えました。なぜ復旧すら進んでいないのか。国は、行政は、何をしているのかと。憤りを越えて悲しさすら感じるような光景でした。

アニュアルレポート|グリーンズ

2025年9月に号外の取材で能登を訪れた時の様子(写真:蒲沼明)

江利子 SNSでも同じような気持ちが投稿されているのを見ているうちに、このモヤモヤとした気持ちを放置してはいけない、自分の目でもう一度見て、考えて、それをみんなに伝えたい、という思いに駆られて、それで号外をつくりました。

正太郎 号外の話が出た時は「江利子さんが何か始めたぞ」って社内はざわついてましたが、そんなざわつきはよそに、江利子さんが自ら弾丸で3日間取材に行ってきてくれましたね。

江利子 人手は限られますが、社会に対してインパクトを出すことにこだわりたくて、WEBではなく紙の号外を選びました。WEBだと、greenz.jp を知らない人にはなかなか届きづらい。けれど、紙だったら号外が置いてある場所を訪れた人なら、誰でも手にとって読むことができるので。

正太郎 SNSで号外を置いてくれる人を募集したら、90人ほどの人が手をあげてくれましたね。WEBマガジンで読者の反応を直で感じるのはなかなか難しいですが、号外に反応してくれた人たちがたくさんいて「みんなちゃんと見てくれてるんだな」と思えましたし、グリーンズらしい挑戦ができたと感じます。

江利子 当初、3,000部の印刷を考えていましたが、多数の配布申し込みをいただき、足りない…!となって、5,000部に増やしましたね。そして、実際に能登に再び行って、そうか、こういうことだったのかというメッセージを見つけて。伝えることの使命感を感じていました。メディアにできることって、こういうことだよね、とも思ったし、それは適当にはつくれなくて、本気で向き合うことが必要で。そうした本気さって、ちゃんと人に伝わると思うし、14期はそこをかなり意識したように思います。

アニュアルレポート|グリーンズ

共同代表・植原正太郎

正太郎 本気の人が世の中に増えているのかもしれないですね。昨年5月に始めた求人プラットフォームの「WORK for GOOD」を運営していても、「嘘をつくような仕事をしたくない」とか「本質的に社会に役立つ仕事をしたい」という人が増えているように思います。

アニュアルレポート|グリーンズ

WORK for GOODでは、「人間性」「社会性」「経済性」の3つが重なる仕事を「やりがいのある仕事」として捉える。2025年9月現在では、のべ70以上の社会企業が利用しており、会員数は3,000名を超えた

正太郎 江利子さんが言っていた「いよいよ社会の歪みに向き合わねばならない」という話にもつながりそうですが、「このままじゃやばくない?」という感覚の人が増えているんだと思います。経済成長も鈍化し、人口も減っていく中で、ただただ昇給・昇進ではない仕事のやりがいが今求められている。

そういう意味でも、このサービスは間違いない!と、この1年で自信を持って言えるようになったし、まだまだたくさんの出会いを生み出していきたいと思います。

正解がない時代に、グリーンズとしての旗印を立てる

正太郎 さて、来る15期も話題は盛りだくさんですが、目玉はなんでしょう?昨年から仕込んできた書籍『リジェネラティブデザイン』の完成は一つのニュースですね。

江利子 これまでのグリーンズって、メディア発信の色はわりと薄くて、ライターさんが書きたい記事を尊重してきた側面がありますよね。なので、テーマはあるものの、メディアからのメッセージは見えにくかったと思うんです。私が編集長に就任するにあたって、変えたいポイントはたくさんあったのですが、私が一番貢献できると思ったポイントは、greenz.jp としての意志や目指すところをはっきりと示すこと。そのアウトプットの一つが「リジェネラティブデザイン」の特集です。書籍として世の中に提示することは、その大きな一歩になりますね。

正太郎 書籍の発刊は、グリーンズの狼煙(のろし)にしたいですね。全国の書店に完成した本が並び、僕たちのことを知らない人も手に取ってくれる。2011年にグリーンズが『ソーシャルデザイン』という書籍を出した時と同じように、同じ志を持つ仲間が全国から集まってくれたらと思います。

江利子 社会は混迷を極めていて、大きな閉塞感があると感じています。社会課題はなくなるどころか、どんどん複雑さを増している。政治的諦観や経済の停滞、気候変動による異常気象の頻発、未来に対する漠然とした不安…。そんな時代だからこそ「グリーンズはここを目指すよ、こんなことをやってみるよ」という意思表明というか旗を立てて、社会に一石を投じられたらと思いますね。

正太郎 僕たちの言葉を発信するという文脈では、今年の6月から始めたPodcast「生きる、を耕すラジオ」も来期力を入れたいことの一つですね。

確かに greenz.jp で、僕と江利子さんが話したことを発信する機会って意外となかったんですよね。僕たち自身が何を実践していて、今どんなことを考えているのかを、生のまま発信したい、ということで始まりましたね。

江利子 人から「最近どんな取材に行ったの?」「その取材を通じて、何を考えたの?」ってよく聞かれるんです。さまざまな取材に日々同行していますが、私が現地で見聞きして感じたことや、学びとして持ち帰ったことの全てが記事に掲載されているわけではないので、そういうことを中心にお話していますね。

アニュアルレポート|グリーンズ

グリーンズの江利子と正太郎が、これからの時代の暮らしと社会を探究しながら「生きる」を耕していくポッドキャスト。トークテーマは、その時々に話したいトピックが選ばれている

正太郎 ようやく20分で締めるリズムを掴んできて、いい感じですね。

江利子 来期もいろいろ仕込んでいくわけですが、実は一番の目玉は「会員制度のアップデート」かなと思っているんです。

これまで「寄付」という形でお金をいただいて、メディア運営の一部として使わせていただきましたが、かつての「green drinks」(※1)のようなイベントで私たちの存在を身近に感じてもらえる機会も減っている今、「いい記事をつくるので応援してください!」という理由だけで寄付を募るのって、なかなかハードルが高いと思っているんです。

まだ詳細はこれからですが、グリーンズというメディアへの参加方法として、お金をいただくのではなく、その先に社会にダイレクトに再投資できるような、攻めの一手を考えたいと思っています。

正太郎 これからは、僕たちが媒介となって、全国の環境再生の現場など、グリーンズとして支えていきたい実践者にお金と人的リソースが直接届く組合のような仕組みを考え始めているところですね。

※1:社会や暮らしをより良くするためのアイデアや活動について、ゲストや参加者同士がお酒やドリンク片手に交流するイベント

1次情報を発信する実践者でありたい

江利子 それから、シェアビレッジづくり(仮称)も今後実現したいことの一つです。グリーンズとしてやりたいことを一つの場に落とし込んでみる、ということをいよいよやろうと思っています。

既存の制度や仕組みに依存しすぎない、生きのびるための自治としての共同の暮らしをつくるチャレンジですね。そこでは暮らすこともできれば、旅をするように一時的に泊まることもできる。入れ替わり立ち替わり、いろんな人がやってきて生きるための知恵を学びあい、たくさんの社会実験が行われて、またそれぞれの各地に戻っていく……。 そんな場所をイメージしていますね。

正太郎 これは向こう2〜3年に渡って取り組んで行くものになりそうですね。

江利子 そうですね。なぜシェアビレッジをつくるのか?と問われたら、私自身が実践者であることを大事にしているというのも理由の一つです。まさに「言動一致」ですね。これはもう、生き方の問題として、傍観したくはないんです。

アニュアルレポート|グリーンズ

正太郎 改めて「実践」が僕らのキーワードなんだなって思います。誰かから聞いた話を記事で発信するのももちろん大切だけど、記事をつくること自体は「実践」ではない。自分たちが五感を使って体験したこと、江利子さんの言葉を借りると「身識」を発信する方がインパクトを出せるのではないか、とも思いますよね。

江利子 そうだね。グリーンズのタグラインを「生きる、を耕す。」にした理由もこの辺りにあって。自分たちが一人の実践者として生きることそのものを耕し続けることで、誰かから借りた言葉ではなく、自分の言葉で語れるようになりたい。自分たち自身が1次情報になる覚悟がないと、誰でも発信ができてしまう今の時代に、メディアは生き残れないと強く思います。

正太郎 メディアの役割は「2次情報の発信」から「1次情報をつくって発信すること」に変わっていくような気がします。AIが台頭してもなお、「コンポストトイレをDIYでつくってみた」とか「里山を1年手入れしてみた」みたいな1次情報をつくる人の存在というのは、絶対になくならない。改めて、グリーンズはそこに力を入れたいですね。

アニュアルレポート|グリーンズ

グリーンズで開講している「ローカル開業カレッジ」や「リジェネラティブデザインカレッジ」の魅力は、先生と生徒という主従関係ではなく、講師を含めた参加者みんなが実践者であり、仲間であること。ここにもグリーンズが「実践」を重視していることが垣間見える

江利子 もっというと、1次の手前の「0次」にまで目を向けたいんですよね。

正太郎 0次って、何にあたるんでしょう?「仮説」?

江利子 産業で考えると、1次産業は農業や漁業とかなので、0次産業というのは、山や海などの自然資本そのものというか。その0次産業を問い直して、再生していくことにも目を向けたいと思います。

来る15期。グリーンズは、焚き火からキャンプファイヤーへ

正太郎 12期を振り返った時に、「グリーンズとは、焚き火の火のようなものだ」という話がありましたけど、今この問いに対する答えは変わっていますか?

アニュアルレポート|グリーンズ

江利子 グリーンズってどんな役割?と考えた時に、イメージする情景は変わっている気がします。「灯台」だと、目指す未来を照らしてあげる存在のイメージですが、「焚き火」だと、優しくパチパチと燃えている火をそっと渡して、それぞれの地域に持ち帰ってね、というようなイメージがあるんですが、今はもっと激しくボーボーと燃えている。意思をもって、それぞれの地域が生き残るために「この火を持って帰って!生き抜いて!」という切実さがあるというか。

正太郎 社会の行く先を照らす「灯台」であろうとした時代を経て、焚き火になり、今はキャンプファイヤーになろうとしている気がします(笑)。

アニュアルレポート|グリーンズ

正太郎 社会課題や環境問題が深刻化していく中で「ただ優しく希望を灯してるだけでは社会は変わんねえな」って気づいたし、 何かを変えるために行動を起こそうとしている人に確実に届く火力でないといけないですしね。

江利子 私たちが本気であれば、その本気は必ず誰かに伝わるし、その誰かの本気の火はまた周りに広がっていく。グリーンズのまわりに集まる人も変わってきたように思います。タグラインを「生きる、を耕す。」に変えた時に共感してくれた人や、リジェネラティブデザインカレッジに参加してくれた人たちを見て、本気度が高いし、みんな実践を始めている気がしていて。「これからの時代に必要な哲学と同時に、自分たちの意思と必要な視点や手段も手渡しながら、対話を重ねる必要がある」と感じています。

正太郎 本気の人は、本気の人と仲良くなりますからね。そういう社会の変え方を僕たちはやろうとしているんだと思います。greenz.jp の中心温度は着実に上がってきているし、これを日本全体にいかに飛び火させていけるかが、15期のチャレンジになるのかもしれません。

(編集:村崎 恭子)
(撮影協力:ますきち