いつもgreenz.jpをご愛読いただき、ありがとうございます。
10月末にして、長くて暑かった今年の夏がようやく終わった……! と感じています。
みなさんは、どんな夏を過ごしましたか?
NPOグリーンズのメンバーはこの夏、暑さに負けないくらいのエネルギーで、「実践するWEBマガジン」として、さまざまなプロジェクトに取り組み、探究と実践を重ね、駆け抜けてきました。
写真は、10月に東京都奥多摩町で開催した合宿で撮った1枚。全国各地で暮らすメンバーが久々に集まり、リアルな時間を一緒に過ごすことで、お互いの熱量を再確認することができました。
さて、今回は第13期(2023年12月〜2024年6月)のアニュアルレポート(年間活動報告)をお届けします。
このたび、NPOグリーンズは、活動年度の開始日を7月1日に変更しました。そのため、第12期の活動報告をお送りしてからわずか半年と少しではありますが、いつもより短い期間とは思えないほど、伝えたい内容は盛りだくさん。
あわせて、この期間に私たちが取り組み、駆け抜けてきたいろんなことを、共同代表・植原正太郎(以下、正太郎)と編集長・増村江利子(以下、江利子)が振り返り、14期への意気込みとともに語りました。
この7ヶ月間、私たちは何を耕し、実践してきたのか。みなさんも一緒に、振り返ってみませんか。
NPOグリーンズ 第13期 活動報告
3期比較(左から第10期、第11期、第12期)
部門別売上
経常収益と経常費用
過去のアニュアルレポート
NPOグリーンズ第12期アニュアルレポート
NPOグリーンズ 第11期 アニュアルレポート
NPOグリーンズ 第10期 アニュアルレポート
新体制で旗を立てたテーマ「リジェネレーション」が形に
正太郎 13期は、連載「リジェネラティブデザイン」開始と書籍化の決定、「リジェネラティブデザイン カレッジ」開講、「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」の立ち上げ……と、1年半前に江利子さんが編集長になってから仕込んできたものが、続々と表に出てきた!という気がしています。
江利子 本当にそうですね。今日は新体制での流れを整理した上で、仕込んできたもの一つひとつについて、グリーンズは何を耕せたのかを明らかにしていきましょうか。
まず、2023年4月に私が編集長になり、7月のグリーンズのお誕生日に「生きる、を耕す。」という新しいタグラインを発表しました。それと同時に、メディアとして大事にしたいテーマとして「リジェネレーション(環境再生)」を掲げ、大きく舵を切りますよ、という宣言もしましたね。
正太郎 振り返ると、江利子さんが編集長に就任した時点では、まだタグラインも大きな方針も決まっていなくて。就任後にみんなで議論していく中で、僕が「リジェネレーション」という言葉を言い始めたと記憶しています。
東日本大震災や原発事故の直後、社会に絶望感が漂っていた時期に「ソーシャルデザイン」という言葉を社会に広めたように、これからの社会に必要な考え方や哲学を広めていくことがグリーンズの役割だとすると、今の時代には何ができるのか、僕はずっと悩んでいたんですよね。
今は気候変動がどんどん深刻になり、毎年のように酷暑や豪雨災害があり、コントロールできない気候の脅威に対する絶望感がある。その中で「人が自然に手を入れることによって気候変動を抑えたり、生物多様性を取り戻したりできる」「自分たちが動くことで環境だけでなくいい社会を取り戻すこともできる」と発信するのは、グリーンズの大きな役割になると考えました。「リジェネレーション」「環境再生」は確実に始まっている動きで、ここからさらに大きな流れになっていきそうだなという、確信めいたものがありました。だから、メディアとしてこれをテーマに探究していくことを、みんなに提案させてもらった。それが2023年の夏ぐらいだったかな。
江利子 そうでしたね。同じ頃、私は「正太郎くんが大事にしていることや、私が大事にしたいことって何だろう」と考えていて。ある日、正太郎くんのfacebookに書いてあった「健やか」というキーワードに惹かれたんだよね。健やかさって、私自身も大事にしたいし、これからの社会にとっても必要なものだと思っていて。今、都市部の人たちが自然を求める背景には、単に自然に触れたいというだけじゃなくて、たぶん健やかさが足りていないのだろうなと。
例えば、どこで生きていくのかを考える時、どんな水を飲むのかってすごく大事なこと。以前、奈良の東吉野村に遊びに行って、合同会社imatoの赤司研介さんに川を案内してもらいながら「水が清らかで美しいって、こんなに豊かなことだとは思わなかった」という話を聞いて、「ああ、なんて健やかなんだろう」と感動したんです。この健やかさをすべてのローカルムーブメントは目指してほしいし、これからの社会は健やかな方向にしかならない!という希望を持ちたい自分もいて。
だから、正太郎くんが提案してくれたリジェネレーションっていう言葉を、違和感なく迎えるとともに、私たちにとってのリジェネレーションって何だろう?と、言葉の解釈を整理したんです。そして、グリーンズの考えるリジェネレーションを「自然環境の再生と同時に、社会と私たち自身もすこやかである」と落とし込んだ。グリーンズとしての解釈をもったことが、ターニングポイントになったと思っています。
正太郎 2月にはリジェネレーションを探究する連載「リジェネラティブデザイン」がスタートし、2025年には英治出版で書籍化することも決まりました!
江利子 実は最初、連載名に「デザイン」という言葉を使うことには少し不安や迷いがありました。デザイン論があふれるこの時代にデザインを語るって、難易度の高いことだから、チャレンジだなと思うところもあって。だけど、インタビューやワークショップを重ねるほどに、手応えというか、「これで間違いない」という確信に変わっていきました。
「リジェネラティブデザインカレッジ」は、自分たちの実践だった
正太郎 グリーンズの特徴って、テーマを一つ掲げるとそれをgreenz.jpで取材を通じて探究していくところ。今回はさらに、3月から「リジェネラティブデザイン カレッジ(以下、リジェカレ)」というスクールを開講し、僕ら自身も仲間とともにこのテーマを探究し、五感で感じとっていきました。そのおかげで、僕らもこの領域について着実に明るくなり、自分の言葉で語れるものが増えていきましたね。
江利子 これも、自分たちの実践の一つですよね。リジェカレで125名人もの受講生を迎えることになったのは、ものすごく驚いたし、嬉しかった。 時代をちゃんと捉えることができているのだなと、励みになりました。
正太郎 全国から、しかも自治体やスタートアップ、農家、大企業など、いろんなセクターの方から申し込みがあり、本当に驚きました。この多様さがとてもユニークだし、ある意味でグリーンズらしい場だったと思っています。
今回のような講座形式は、実はグリーンズとしても初めてだったんです。4〜5ヶ月のプログラムのうち、基本となるオンライン講座を7回と、現地開催のフィールドワークを3回。さらに受講生同士のトランジションを応援し合うようなゼミのプログラムも並行して行うことで、ラーニングコミュニティの一つのあり方をつくることができたと思います。
江利子 リジェネレーションというテーマを本気で学びたい、実践したいと思っている人たちによって、グリーンズが新たな求心力を持つことができたような気がしました。実際にリジェカレを通して、受講生のみなさんにはどんな変化があったのでしょう?
正太郎 「自宅でLFCコンポストを始めました」という人が何人もいたり、プログラム終了後、コモンフォレストジャパンの坂田昌子さんのワークショップに参加する人が現れたり、受講する中で「このテーマで生きていこう」と確信し、会社を辞めて起業を目指すことにした人が複数いたり。この短期間で、人の変容や実践がこんなに生まれたのはすごく嬉しかったし、ここからまた、じわじわといろんな変化につながっていくんだろうなと思うと、本当に開講してよかったなと思いますね。
江利子 リジェカレを通して講師の方からいただいた視点やキーワードは、私たち自身の学びをも深めていきましたね。
正太郎 本当に。実際に、講師のみなさんからもらった視点や言葉が今、「リジェネラティブデザイン」の連載を通じて、リジェネラティブデザインの方法論や、その前提となる考え方に落とし込まれつつある。これが来年発売の書籍へとつながっているのが、とても大事なプロセスであると思います。
江利子 自分たちの探究を記事として発信するだけで終えずに、それをスクールという手法で世の中に広げていく。さらに、記事やスクールで得た自分たちの学びを、今度は書籍にまとめ直してアーカイブするとともに、もっと先へと届ける……。「編集に次ぐ編集」という実践で、社会に届けることを諦めない。13期はそんな挑戦をしてきたんじゃないかな。
正太郎 「リジェネラティブデザイン」のテーマに関しては、13期はまさに探究の7ヶ月でしたね。しっかり潜った感じがします。
「WORK for GOOD」を通じてグリーンズが捉える「仕事のやりがい」
江利子 続いて、5月にローンチした求人プラットフォーム「WORK for GOOD」に話を移しましょう。正太郎くんがなぜ立ち上げたいと思ったのか、発端にある思いをあらためて話してもらっていいですか?
正太郎 greenz.jpを通じた採用支援・キャリア支援の事業は、丸7年ぐらいやってきていて、僕らが心から推せる企業のインタビュー記事をつくり、それを読んで働きたいと思った人がエントリーするという形で、多くの人の転職につながりました。でもgreenz.jpは求人サイトではないので「本当にこういう仕事を探している人に届いているだろうか?」という感覚がずっとあったんです。社会の中で解決されていない問題を扱うからこそ、関わる人のクリエイティビティや胆力、やる気がめちゃくちゃいかされるのに、この領域を紹介する求人サイトってまだまだ少ない。専門的なサービスとして広げていくことにグリーンズの役割があると思い、立ち上げることにしました。
ただ、求人サイトやマッチングプラットフォームを開発するとなると、めちゃくちゃお金がかかる。グリーンズの財政的には厳しくて悶々としていたら、ちょうど昨年12月くらいに、ドイツ発のノーコードツール「softr」に出会って。試しにいじってみたら「これ、思っているものが全部つくれるぞ」と。その勢いのまま、今年の1月から4ヶ月間、自分たちで求人プラットフォームをDIYしたんです。95%は僕が朝活でつくった感じですね。
江利子 がんばりましたね。「企画・開発、俺」みたいな(笑)。
正太郎 企画はチームメンバーと練りましたが、そのプロセスにもグリーンズの精神「ほしいものは自分でつくる」があると思っています。自分たちがほしい求人サイトは自分たちでつくる。今までは誰かに依頼しないとつくれなかったのに、ノーコードツールのおかげで一つもコードを書けない僕らにもつくれるようになった。まさにテクノロジーの進化だと思うし、それをいかしてこのサービスを立ち上げることができたのは、革新的ですよね。
江利子 そして、WORK for GOODの「人間性と社会性と経済性の3つが重なるところをやりがいと捉える」という考え方に、多くの人が共感しているのではないかと思います。経済性や社会性はよく言われるけれど、人間性については、どんな解釈をしていますか?
正太郎 僕らとしては、経済性だけに偏った仕事は紹介したくないし、逆に、どれだけ社会性が高くても食べるのに困るほどの仕事というのは持続的じゃないと思っている。一方で、社会性と経済性が両立できていても、働く人がないがしろにされたりハードワークで潰れてしまったりすることも望んでいない。働く人の気持ちや思いが尊重されて、かつ社会性も経済性もある仕事こそが、僕らの考えるやりがいのある仕事。そこで、人間性という言葉を入れたんです。
10年前までは、こういう話って絵空事で終わっていた気がするけれど、今、それを体現する企業が増えてきて、どんどん具体化してきている。WORK for GOODでは、ちゃんとその流れにフォーカスして、世の中に広めていくという大事な役割も担っていると思っています。
江利子 そういう仕事や企業が増えてほしいと願う一方で、私たちグリーンズがつくる事業こそ、経済性と社会性と人間性がベストバランスで発揮されていくように設計しないといけないなと思います。「こういう方向を目指そうね」と、問題提起をしてくれたような気がします。
正太郎 確かに。言行一致の事業でありたいです。
いまの世の中の社会課題は複雑で、何か一つの課題だけを解決できたらいいというものではないですよね。山中に太陽光パネルをバンバン建てて「脱炭素できました」と言われても、僕らはその土地の風土や生物多様性が損なわれ、水資源に関する問題が起きるのを見てきたから、単一の問題だけを解決することの限界を知っている。その考え方で「働く」を捉えたときに、社会課題だけが解決されればいいというわけではなく、そこに取り組む人も尊重されて、健やかな社会になっていくことが大事だと思っていて。
江利子 「WORK for GOOD」のそうした考え方は、リジェネレーションを「環境再生と同時に人も社会も健やかになる」と定義したのと通じるところがありますね。対話を重ねているからなのか、こうして根底にあるものが「合っていくんだな」とも思いました。
greenz peopleとの関係性を変える「いきたが本」と連載「暮らしの変人」
江利子 『生きる、を耕す本(以下、いきたが本)』の話も少しできたらと。過去にNPOグリーンズの寄付会員、greenz people(以下、ピープル)限定で制作していた『people’s books』を復刊しました。これは、編集長になってすぐやりたいと言っていたことの一つ。「私たちが今、面白いと考えていることはこれ!」というのを、まずはピープルのみなさんに向けて発信していくことが必要だろうと思って始めました。
江利子 制度上、ピープルのみなさんは寄付会員なんですが、「寄付いただきありがとうございます」といった感謝にとどまらず「グリーンズを一緒につくっていくパートナー」という関係性に変えていきたいとずっと思っていて。同じ方向を向いて、一緒に何かをつくっていくようなチャレンジがしたくて、小さなところから実践を重ねています。2023年8月に「ピープル編集部」を立ち上げて、ピープルのみなさんと一緒に編集会議や取材をする連載「暮らしの変人」を始め、そのうち何人かは今回『いきたが本』の制作も手伝ってくださいました。
正太郎 これまでは、寄付でメディア運営を支えていただく形で、制作のプロセスに参加してもらう機会は、理想としてはあったけど、なかなかできていなかった。でもこの1年、連載「暮らしの変人」や『いきたが本』を通じて、ピープル有志のみなさんが企画から参加し、取材にまで一緒に行くようになった。一緒につくっていくことを具体的に実現できたのは、グリーンズにとってとても大きな一歩だったと思います。
江利子 やれることはまだまだいっぱいあると思うし、私たちも手が伸ばしきれないところはあるけれど、やり始めることができたことは、13期の大きな成果だと思います。『いきたが本』は、いろんな人から「おもしろかった」と反響があって、「しっかりと届いた」という実感があります。
正太郎 『いきたが本』の1冊目「エコビレッジという実験場」や、「暮らしの変人」って、まだまだメインストリームにはなりづらい取材先を扱っていると思っていて。グリーンズの事業としてはWORK for GOODやリジェネラティブデザインのような、世の中のスタンダードになりつつあることを扱うけれど、ここで扱うテーマは、5年後、あるいは10〜20年後にムーブメントが来るんじゃないかという、研究に近い印象があります。 これは、江利子さんが編集長になったことで、より濃くなった部分ですね。
14期、ムーブメントを起こしたい!
正太郎 さて、14期の一番大きいチャレンジは、いよいよ書籍が出る!ということですよね。グリーンズがリジェネラティブデザインを探究し始めて、2年弱ぐらいの学びをまとめた本が英治出版さんから出る予定です。この本が書店に並ぶのをきっかけに、リジェネラティブデザインのムーブメントを起こしていきたいですね。
江利子 そうですね、楽しみ! あとは今、グリーンズの「号外」を発行するという実験もしています。私自身、震災の影響が多く残る能登に足を運び、これからは、かつてムーブメントになった「まちづくり」とは違う文脈のまちづくりが必要だろうな、と感じました。そこであえて、能登の取材をWEB記事ではなくタブロイド紙として制作し、ゲストハウスや飲食店などグリーンズに共感いただける「場」に設置してもらおうと考えています。ピープルのみなさんから預かった寄付金を、今度は“いい未来”のために使わせていただく恩送りのようなチャレンジにしたいんです。
正太郎 それから、新たなカレッジとして「ローカル開業カレッジ」も始まっています。移住先で「自分の生き方を表現する商いを始める」というのがテーマ。これも、「生きる、を耕す。」に直結するスクールですね。やっぱり今、自分のやりたいことを自分で形にしていくキャリアを歩む人が増えている。そういう人を応援して、育てられる場にしたいなと思っています。
江利子 それから、リジェネラティブデザインカレッジ2期生の募集も。この1年かけて私たちもたくさんの人に会ってきたから、講師陣がよりどりみどりになりそう。
正太郎 そうですね、年明けへ向けてそろそろ企画が始まります。そう考えると、14期は世に出ていくものがさらに増えていく1年になりそう。号外や書籍という新たなチャレンジもあるし、それによってグリーンズの、WEBマガジンだけでは出せないインパクトを出せたらいいなと思いますね。
江利子 14期のグリーンズ、もっともっとパワーアップしているはず。自分たちの探究を深めるほどジャンプができるというか、力強く世の中に発信できるという気がしています。13期探究した実践を、引き続き14期も耕していきます!
– INFORMATION –
タブロイド誌「グリーンズ号外」を発行します!
見えにくいけれども頑張っている現地の人たちの姿と葛藤、思いをまとめ、グリーンズから「号外」を発行することにしました。制作にあたっては、グリーンズの寄付会員「greenz people」のみなさんからいただいている寄付を、恩送りのようなかたちで、能登で頑張るみなさんのために使わせていただきます。
このタブロイド誌は日本各地のコワーキングスペースやカフェ、書店などに置いていただくイメージです。配布できるよ、置いてもいいよ、という方はぜひ、リンクより記入をいただけますでしょうか。10部単位で、「送料分のみ着払い」で発送させていただきます。印刷部数には限りがあるため、早いもの勝ちになってしまいますが、ぜひみなさんのご協力をお願いできたらと思います!
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(編集協力:葛原亜希、山崎久美子)
(編集:greenz.jp編集部)