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地域の生業、伝統、文化を未来につなぎたいひと、この指とまれ!ココホレジャパンの「継業エリアマネージャー」という仕事 #求人

[sponsored by ココホレジャパン株式会社]

この求人のグリーンズジョブでの募集期間は2024年4月1日(月)〜2024年4月29日(月)です。
募集の詳細については記事末をご覧ください。

「あなたにとって思い出の場所や、思い出の品は?」と聞かれたら、何を思い浮かべるでしょうか。

昔ながらの喫茶店や映画館、友達と通ったゲームセンター、おじいちゃんおばあちゃんが送ってくれる地元の特産品など、さまざまな答えが返ってきそうです。

東京在住の私は毎年寒い季節になると、おばあちゃんの家がある秋田県のきりたんぽを取り寄せます。それを食べることで、今はもう誰も住んでいないあの家で過ごした日々を思い出すのです。

そんな大切な味や場所が失われてしまうとしたら。
記憶を思い出すことも、田舎に想いを馳せる機会さえ失われてしまうかもしれません。

あるものが失くなるということは、それ自体の消失以上の意味を持ちます。「あれ」「あの場所」を起点とした思い出や人とのつながり、経済圏、コミュニティまで失われてしまう。

そのことをココホレジャパン株式会社代表(以下、ココホレジャパン)の浅井克俊(あさい・かつとし)さんは“地域のエコシステムの崩壊”と呼んで、警鐘を鳴らします。

ココホレジャパンが今募集しているのは、継業を通じて地域にある「あれ」「あの場所」を未来に残し、地域のエコシステムを活性化させる「継業エリアマネージャー」です。

今回は、秋田県北秋田市新潟県津南町を舞台に活動する方をそれぞれ一人ずつ募集。地域が持つユニークな魅力をデザインと編集の力で伝えるココホレジャパンのメンバーとして活動します。

「継業エリアマネージャー」とはどのような仕事なのか。ココホレジャパンのみなさんに詳しく聞きました。

地域のおもしろさは、マイノリティにある。「ニホン継業バンク」が残してきたもの

今回仲間を募集するココホレジャパンは、2013年7月岡山県瀬戸内市で創業。岡山を拠点に5名のメンバーで構成されています(2024年4月現在)。

ココホレジャパンは社名の通り、地域の魅力を掘りおこし「わんわん!」と世に伝えることをモットーにした会社です。地域の小さな商いを未来につなぐ「ニホン継業バンク」、まちと森がいかしあう社会を目指す「キノマチプロジェクト」など、企画や広告、編集の力を使って、その地域・企業だけの魅力を発掘・発信してきました。(くわしくは、こちらの記事でも紹介しています)

地域の事業者にお話を伺う様子。右から二人目が代表の浅井さん

現在地方では、少子高齢化や経済の縮小といった課題が山積しており、その解決に向けて企業誘致や移住・定住のPRなど、各地でさまざまな取り組みが実施されています。

しかし、ココホレジャパンが行う地方創生は他とはひと味違います。

「地域のおもしろさは、マイノリティにある」。これは代表の浅井さんがよく口にする言葉。ココホレジャパンの地方創生は、経済的には小規模であったとしても、その地域にとっては欠かせない「あれ」や「あの場所」に光を当てます。

実際に地域に入り込み、その魅力を発信してきたココホレジャパンの中鶴果林(なかつる・かりん)さん古橋舞乃(ふるはし・まい)さんに、その活動の背景にある想いを聞いてみました。

古橋さん 経済性だけを見て地方創生を行ってしまうと、大型のショッピングモールやどこにでもあるチェーンの飲食店、コンビニなど、まるで“東京のコピペ”のような地域が増えてしまいます。

その地域ならではの風景や文化を守っているのは、マイノリティ、つまりは小規模事業者なのではないかと。

例えば、ふるさと納税ひとつをとっても、地域の特産物をつくる生産者がいなければ成り立ちませんよね。観光もその土地に行かなければ見られない景色や食べられないものがあるからこそ、足を運んでもらえるわけです。

中鶴さん 地方創生にはいろんな施策が考えられますが、最終的には「やっぱり、ここに住み続けたい」「この場所が好きだ」と思える「シビックプライド(地域への愛着)」につながっていくことが大切。愛着が育まれれば、自然と地域コミュニティの存続につながるのではないでしょうか。

左が古橋さん、右が中鶴さん

“東京のコピペ”を量産するのではなく、その地域ならではの景色や文化を守り育てるための地方創生。そのひとつの手段としてココホレジャパンは「ニホン継業バンク」というサービスを2020年からスタートしました。

「ニホン継業バンク」とは、簡単にいうと後継者のいない事業者と、担い手をつなぐサービスです。継業には、会社を売買する「M&A」だけでなく、弟子、副業といった方法での事業承継も含まれます。

ニホン継業バンクの仕組み

例えば、2020年に継業バンクの運用を開始した岡山県美作市。和紙の原料となる「みつまた」を栽培する農家の後継者募集を掲載したところ、10件以上の問い合わせがあり、一人の後継者が決定しました。

募集をかけてからの約1年間、仕事への理解を深めてもらうために現地体験会やみつまたへの理解を深めるイベントを実施。ニホン継業バンクへの掲載をきっかけに、1年間で約30人が美作市を訪れる結果となりました。

こうしたイベントを企画したのは、元地域おこし協力隊で美作市に移住した丸山耕佑(まるやま・こうすけ)さん。自身が住む集落の住民と「中右手おもてなし隊」という有志団体を立ち上げ、サウナ付古民家スペースを運営するなど、地域住民と移住者のハブとして精力的に活動しています。

美作市のみつまた畑で行われた継業についての活動報告会の様子。左が丸山耕佑さん

中鶴さん 美作市の例からもわかるように、継業がその地域の交流人口・関係人口創出のきっかけになります。つまり、ニホン継業バンクの目的は、事業者と後継者をつなぐことだけではないんですよね。

丸山さんのように地域で暮らすひとがキーパーソンとなってくれることで、その地域のエコシステムが強化される動きも起きてくるかもしれません。

ココホレジャパンが考える、地方創生のサイクル。継業が定住人口を増やすだけでなく、地域産業の活性化、交流人口や関係人口の増加につながっていくと考えています

事業を残すということは、その事業を起点としたコミュニティや経済圏を残すこと。例えば、地域の特産品を生産する農家が後継者不足で廃業してしまったとすると、それらを卸す仲介業者や商品を販売するお土産屋さん、飲食店などにも影響を与えます。

中鶴さん 「自分たちが廃業しても、誰にも迷惑かけないからいい」と話す事業者さんはとても多いんです。でも、よくよく地域の人たちの話を聞くと、今度はそれらを卸す仲介業者の方が「あそこが廃業するなら、うちも辞めようと思ってる」と言い始めるパターンがすごく多くて。

ひとつの事業が失くなることは、連鎖的にその地域の経済圏や文化の消失を招きます。廃業は当事者だけの問題ではないんですよ。

事業者のニーズを掘り起こし、継業を最後まで伴走する「継業エリアマネージャー」の仕事

今回は、ニホン継業バンクを利用している秋田県北秋田市と新潟県津南町でそれぞれ一人ずつ「継業エリアマネージャー」を募集。ココホレジャパンの社員として、現地密着型で継業の促進と、その地域の活性化を担います。

主な仕事内容として行うのは、担当地域の継業バンクの運用。

後継者がいなくて困っている事業者や、いまは継業したいと思っていなかったとしても、深く話を聞くなかで「継業したい」という希望が出てくる事業者もいるそうです。そういった声を拾い、まずは相談に乗ることからはじめます。

ニホン継業バンクを使うことが決まったら、ヒアリングシートを使って事業者に取材を行い、記事を作成。執筆は自分で書くことも、ライターにお願いすることもあるそうです。

記事公開後、応募者からの問い合わせ対応やオンライン面談、現地面談の設定及び立ち会い、場合によっては現地での職業体験を実施することも。無事に後継者が決まったら、行政や商工会、金融機関など、事業承継に関する支援機関への取り次ぎも行い、継業まで伴走します。

事業者さんのお話を聞くために、全国に足を運びます。こちらはお茶農家さんの取材の様子

中鶴さん これまでココホレジャパンでは、岡山に拠点を置くメンバーが年に数回現地に足を運び、役場の職員さんと共に継業のお手伝いをしてきました。しかし、事業者さんからすると、すぐに帰ってしまう“よそ者”には心が開きにくいところもありますし、「後継者が見つからなくて困っている」との声を拾うこともなかなか難しいのが現状です。

また、ニホン継業バンクを導入したとしても、市の職員さんも忙しいので安定的な運用に至らないケースも見られます。継業バンクはただのツールであり、その地域の人たちの声に耳を傾けて迅速に動ける人がいないと、持続的な地域活性化にはつながっていきません。

そこで、今回募集する継業エリアマネージャーには、しっかりと現地に根を張り、継業に限らず、その地域の活性化を担うような存在になってもらえたらうれしいです。

また、繰り返しになりますがニホン継業バンクは地方創生のひとつの手段。岡山県美作市で行われた「みつまた」のイベントのように、事業者の悩みの解消やその地域のファンの創出、他のサービスとの連携など、結果として地方創生につながることであれば、ニホン継業バンクに限らずチャレンジすることもできます。

中鶴さん まずは、職員さんと一緒に動いたり、ココホレジャパンの他のメンバーと共に現地研修などをしながら、ニホン継業バンクの運用方法を学んでもらいます。積極的に外に出かけ、地域での関係性づくりに励んでいただきます。

そして、ニホン継業バンクの運用を続けながら、先ほどお伝えした交流人口・関係人口の創出につながるような地域活性化の取り組みを自発的に行ってもらうことが、私たちの理想です。

また、近隣地域にもニホン継業バンクの導入のニーズがないかなど、周辺地域との関係性づくりや新規提案もしていただきます。

継業エリアマネージャーの仕事は、継業のその先にある地方創生まで見据えながら「この地域の魅力はどこにあり、それを伝えるために、いま自分ができることは何か」を考え、積極的に活動することが求められます。待ちの姿勢ではなく、地域の課題を自分ごと化し、主体的に動くからこそ、楽しさが生まれる仕事かもしれません。

なお、本採用には「地域おこし協力隊」という国の移住促進制度を活用するため、都市部から勤務地への移住などの条件があります。(詳しくは募集要項をご確認ください。)

大事なのは、スマートにやろうとしないこと

実際に現地に足を運び、継業バンクの運用を担ってきた中鶴さんと古橋さんが感じる、この仕事の難しさ、そしてやりがいはどんなところにあるのでしょうか。

まず、この仕事の肝であり難しさでもあるというのが、継業支援ニーズの「掘り起こし」です。事業承継の選択肢や相談先を知らないことで「誰かに継いでほしい」という気持ちを相談できなかったり、はじめから後継者探しを諦めてしまっている事業者もいます。

そのため、「誰かに継いでほしい」という潜在的なニーズを掘り起こすこと、そしてその仕事が地域のエコシステムにとっていかに重要かを説明し、継業の背中を押すことが必要なのだといいます。

古橋さん 何回か足を運んで初めて「まだ誰にも言ってないけど、実は誰かに継いでほしいと思っていたんだ」と吐露してくれることもあります。「この人なら話しても大丈夫だ」と安心できる関係性づくりが、結果としてニーズの掘り起こしにつながるのではないかと思います。

中鶴さん 関係性をつくるためには、やはり事業者さんの話をじっくり聞くことが大事だと思っています。

私たちと事業者さんの間には、ジェネレーションギャップや文化の違いがあることも多いですから、その方がこれまでどんな想いを持ってやってきたのかや、積み上げてきたものに対するリスペクトの気持ちを持ってじっくり話を聞きます。それがこの仕事の肝であり、難しさかもしれません。

関係性づくりのポイントは、スマートにやろうとしないこと。メールだけで済ませるのではなく、できるだけ現場での会話を大切にするのがココホレジャパン流です。

また、今回の求人の舞台となる北秋田市と津南町での関係性づくりにおいて、実は壁となるかもしれないのが、方言。話についていけず、苦労することもあるのだとか。

中鶴さん 最初は市の職員さんと一緒に訪問することになるので、フォローしてもらいながら、徐々にわかるようになるといいですよね。方言を使えると、事業者さんも一気に打ち解けてくれるものなんです。

もちろん、Uターンの方や似た方言を持つ近隣地域に住んだ経験がある方など、方言がわかる方も大歓迎です。

相手へのリスペクトや共感、そして丁寧なコミュニケーションが求められるこの仕事。しかし、実際に事業者のもとへ話を聞きにいくと、案外喜んで話してくれる事業者さんも多いのだとか。

中鶴さん 話をしっかりと聞く姿勢さえ伝われば、おしゃべりな方が多いんですよ。私の感覚としては、冷たくされたような経験はありません。

むしろ、直接事業者さんと話せる仕事だからこそ、実際に継業が決まった時の喜びも直に受け取ることができます。

「後継者が見つかってよかった」といった事業者さんからの声はもちろん、「継業をきっかけに移住できてよかった」という後継者からの声、そして、継業という結果に至らなかったとしても、交流人口・関係人口の創出につながったことへの喜びの声も、市の職員や地域住民の方から届くそうです。

中鶴さん 継業は、事業者さんやその事業を継ぐ人の人生にとても大きな影響を与えます。

人口減少や高齢化といった課題から見れば、一つひとつの継業は小さなことに思えるかもしれません。ですが、少なからず自分が関わったことで、事業者さんやその事業を継ぐ人の人生が変わり、結果として地域にも良い影響を与えられる。そう実感できることが、この仕事の大きなやりがいだと思います。

移住を伴うお仕事のため、ココホレジャパンの他のメンバーも積極的にサポートしていくとのこと。最初の一ヶ月目には先進地域での合宿研修、その後は週に一度のオンラインでの定例会と、半年に一度は現地での面談も計画中。

また、最初は市の職員さんの仕事を引き継ぐことになるため、いきなり一人で訪問先に出向くようなことはありません。ココホレジャパンのメンバーと市の職員の方にサポートしてもらいながら、仕事内容や地域での暮らしに慣れていくことになります。

ココホレジャパンのメンバーで出張を兼ねてワーケーションに行くことも。写真は北秋田市で行った森吉山のスノートレッキング

マタギ文化や秋田八丈。ここにしかない文化をつなぐ「秋田県北秋田市」

ここからは、継業エリアマネージャーが実際に働く舞台となる地域を見ていきましょう。

まずは、2022年7月からニホン継業バンクを利用しはじめた秋田県北秋田市。県内一の森林面積を誇る自然資源の豊富なこの地域では、春は桜、夏は新緑の木々、秋は紅葉、そして冬は雪国ならではの樹氷など、四季折々の魅力を見ることができます。

北秋田市にある火山・森吉山

冬には樹氷を見ることもできます

また、草木染めの絹織物「秋田八丈」や杉を使った「杉桶樽」などの工芸品も有名です。そして、最近漫画『ゴールデンカムイ』で注目を集めた、伝統的な方法で狩猟を行う「マタギ文化」が残る地域でもあり、漫画をきっかけにマタギ文化に興味を持ち、移住を決める方も増えているのだとか。

唯一無二の文化が残る北秋田市ですが、実は車で10分程度の場所にある大館能代空港から飛行機に乗れば、首都圏までわずか約70分。東京との行き来のしやすさも魅力のひとつです。

北秋田市がニホン継業バンクの利用をはじめた理由を、北秋田市産業政策課の千葉祐幸(ちば・ひろゆき)さんはこのように語ります。

千葉さん 私がよく足を運んでいたラーメン屋さんや鰻屋さん、スポーツ店などが相次いで閉店するという話が耳に入ってきて、とてもいたたまれない気持ちになっていました。この先、何十年もここで暮らすつもりなのに、この地域はどうなってしまうのだろうかと。

そんななか、ニホン継業バンク利用の大きなきっかけとなったのが、秋田県指定無形文化財である絹織物「秋田八丈」の生産者さんに「もう辞めようと思っている」と伝えられたことでした。「秋田八丈」の技術を知っているのはその方だけなので、廃業してしまったら「秋田八丈」の文化ごと消滅してしまいます。これはなんとかせねばと、ニホン継業バンクで後継者を探すことにしたんです。

秋田八丈は北秋田市の初めてのニホン継業バンクへの掲載だったにもかかわらず、多くの人たちから問い合わせがありました。職業体験会を実施し、無事に一人、地域おこし協力隊の制度を使って後継者を見つけることに成功します。

千葉さん 県内には「事業承継・引継ぎ支援センター」もあるにはあるのですが、県外にも情報を届けられるのはニホン継業バンクならではだと思っています。

事業者さん自身も喜んでいましたが、それ以上に「秋田八丈」のファンである地域の人たちのほうが喜んでいるくらい(笑)

新しく来た地域おこし協力隊の方のことを「おらい(私)の孫」と呼ぶほど可愛がっていて。彼が来たことによって、毎日いろんなおばちゃんが工場にやってきてお茶をしたり、きりたんぽ会を開催したり。一人この地域に入ってくれたおかげで、地域が活気づきましたよ。

北秋田市を通る秋田内陸縦貫鉄道

秋田八丈を皮切りに、北秋田市では1年で3件の継業が成立しています。また、北秋田市ではニホン継業バンク運用にあたり、市、商工会、県の事業承継・引継ぎ支援センター、ココホレジャパン金融機関など合計7団体が協定を締結。継業を希望する方が見つかった際に、スムーズに手続きを進められる体制を整えてきました。

その理由は、継業希望者が見つかった際に迅速に手続きを進められるようにするため。せっかく継業が決まっても、住まいが見つからなかったり、手続きにあまりに時間を要すると、そのチャンスを逃すことにもなりかねません。

千葉さん 継業を希望する方にとっても、人生をかけて移住してきてくれるわけですから、なるべくスムーズに伴走したいと思っています。連携体制はできたので、今度はそれを形骸化させず活用していくフェーズになります。継業のニーズの掘り起こしも続けつつ、この連携協定の事務局を継業エリアマネージャーに担っていただきたいです。

また、北秋田市が継業エリアマネージャーに求める素質も、やはりコミュニケーション能力。北秋田市には方言が強い方もいるものの、話してみると気さくな人ばかりなのだとか。

千葉さん 前向きに取り組む姿勢があれば、きっといい関係性が築けるはずです。最初はうまくいかないことが多くても、へこたれずに取り組んでいってもらえたらと思っています。

北秋田市は65歳以上の割合が全国平均の29%を大きく上回る45.8%と、さまざまな課題を抱えています。しかし、不登校になった子どもたちを対象にした「教育留学」や「保育園留学」の受け入れ、放牧牛の追跡システムの開発など、先進的な地方創生の取り組みを実施している地域でもあります。新しいことにチャレンジしやすい土壌があることも、この地域で働く魅力のひとつでしょう。

40数万年前の自然の原風景とアートが共存する「新潟県津南町」

続いて、もう一人の継業エリアマネージャーの舞台となるのは、新潟県の最南端に位置する津南町です。雪解け水でできるお米や野菜などの農作物、40数万年前のものが今も残っている「河岸段丘」など、自然の原風景が美しい地域です。

また、地域アートイベントの草分け的存在である「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」の開催地であり、近郊の苗場スキー場では、毎夏に「フジロックフェスティバル」が開催されるなど、文化的にも豊かな環境にあります。

河岸段丘の景色

地方創生の取り組みとして農業の六次産業化や企業誘致などを実施してきましたが、町の飲食店が閉店してしまったり、「後継者がいなくて困っている」という相談を受けたりしたことをきっかけに、2022年からニホン継業バンクの利用をスタートしました。

これまでのニホン継業バンクの取り組みを、津南町観光地域づくり課の池田智彦(いけだ・ともひこ)さんに聞きました。

池田さん 津南町は山間部が多い地域。そのため、家の近くの商店や飲食店がひとつ失くなることは、住民にとっては生活の質を揺るがす大きな問題です。

以前は、ただ廃業に向かっていくのを見ているしかなかったのですが、ニホン継業バンクがあることで、子どもに継がせる以外の方法を提案できるようになりました。

後継者募集をしているのはまだ1件だけですが、現在、農家さんやダンス教室など、思わぬところからもご相談いただいており、少しずつ普及してきているのを実感しています。

ニホン継業バンクでは、事業者のもとを訪問しこれまでのストーリーや仕事への想いを丁寧にヒアリング。掲載が決まれば、事業を世に広く発信することになります。

「それだけでもすごく価値のあることだし、あたたかいサービスですよね」と池田さん。

池田さん たとえ後継者が見つからなかったとしても、ヒアリングをきっかけに地域内にコミュニケーションが生まれることもニホン継業バンクの魅力のひとつだと思います。

冬には一面の雪景色になります

津南町は北秋田市とは異なり、継業支援を始めたばかりで、継業ニーズを掘り起こすための調査の実施や連携協定はこれからという段階です。まずは、フットワーク軽く事業者さんのもとを訪れヒアリングを行うことが、この地域の継業エリアマネージャーの重要な仕事になります。

池田さん 役場に来て相談するのは、ハードルが高く感じる方も多いと思うんです。「まずはお茶でも」というくらいカジュアルに、お話を聞かせてもらうところから始めて、徐々に関係性をつくってもらえればと思っています。

また、池田さんがニホン継業バンク運用の課題として挙げたのは、北秋田市同様、問い合わせ後のスムーズな対応です。面談の設定や現地の職業体験会、また移住のための手続きなど、最後まで、なるべく迅速に伴走することが求められます。

池田さん 選考に時間をかけ過ぎたために、辞退者が出てしまったケースがあります。私も他の仕事もあったりして、どうしてもスムーズに回していけない部分がありました。継業を最後までしっかり伴走するためにも、継業エリアマネージャーの力が必要なのです。

雪の下で約4ヶ月間寝かせ、春に雪の下から掘り起こす「雪下ニンジン」も有名です

津南町の継業エリアマネージャーの仕事場は、2023年にオープンした「まちなかオープンスペース『だんだん』」。バス待ちの高校生などが多く足を運んでいます。ここで仕事をしながら、部屋の予約の受付や来訪者の人数管理など、オープンスペースの受付も同時に担うことになります。

池田さん いまはまだ高校生が多いですが、ゆくゆく事業者さんも含め大人の方にも使っていただけるように工夫していきたいと思っています。地域の人の出入りが増えてくれば、ここで働くことで地域の人とのつながりが自然と生まれてくるかもしれません。

いまは、平日午後の時間帯は元地域おこし協力隊で現在移住支援担当の方を中心に勤務及び管理運営しています。彼女を含めた町職員とのシフト制になりますので、継業エリアマネージャーがずっとそこにいなければならないというわけではありません。

職場となるまちなかオープンスペース『だんだん』。2023年度のグッドデザイン賞・ウッドデザイン賞をダブル受賞した建物

同じ組織内に地域おこし協力隊のOBがいたり、また定期的に他の協力隊との定例会も開催したりしているそう。

また、池田さんが所属する観光地域づくり課は移住・定住支援業務も行っているため、移住後の不動産会社への取り次ぎなども行ってくれるそう。町での暮らしに困ったときに、頼れる先輩や職員さんが近くにいることは心強いはずです。

自分の関わりが地域の未来を変える仕事

北秋田市も津南町もどちらも雪がたくさん降る地域のため、冬は雪かきが必要になる日が多いです。しかし、除雪整備などはきちんと整っているため、道路状況に困ることは意外と少ないそうです。

ウィンタースポーツはもちろん、夏も過ごしやすい地域のため釣りやキャンプなど、アウトドア好きにはどちらもうってつけの地域です。

ニホン継業バンクがどれだけ地域に浸透しているかは、北秋田市と津南町でフェーズが異なりますが、継業エリアマネージャーに共通して求められるのは、地域の課題を自分ごと化し、主体的に動く姿勢です。

たとえ小さな事業であったとしても、その地域や誰かにとっては、たくさんの思い出が詰まった大切なもの。そんな事業を未来につなぐことは、地域のコミュニティやアイデンティティを守ることにつながります。

“地域のエコシステム”の崩壊を防ぎ、誰かの大切なものを守る継業エリアマネージャーは、これからの地方創生に欠かせない存在となることでしょう。

(編集:山中散歩 )
(写真:廣川かりん)

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