今日の記事の舞台は、カナダのハミルトン。トロントとナイアガラの滝の中間にあり、夏は30度以上の高温多湿、冬はマイナス20度以下の豪雪地帯。とても厳しい気候です。
そんなハミルトンにも、他の都市と同様にホームレス状態の人びとがいます。衣服も食料もじゅうぶんな状況でない中で、過酷な気候にさらされる彼らを救うべく、この都市が建設することに決めたのが3階建24部屋の「パッシブハウス」です。
冷暖房をあまり使わなくても暮らせる。
家賃は破格の$85(日本円でおよそ1万2000円)。
なぜそんなことが可能になるのでしょう?
そして、そもそも「パッシブハウス」って?
今日は、ハミルトンが準備をすすめる、ホームレスを救うためのエネルギー効率のいい住居施設をご紹介しましょう。
「パッシブハウス」とは、環境先進国として知られるドイツの物理学者、ヴォルフガング・ファイスト博士が導き出した省エネ基準をクリアした住宅のことをいいます。過去にいくつかの事例をgreenz.jpでも紹介してきましたが、大事とされるポイントはエネルギー効率のいい設計にすること、特に断熱です。
高性能な断熱材や窓を使い、建物内外との換気で熱を逃さないようにする。それにより、夏も冬もエアコンに頼りすぎず生活できる環境が整うのです。(参照元:パッシブハウス・ジャパンより)
それでは、このハミルトンの事例が、どのようにエネルギー効率のいい設計になっているかご紹介しましょう。
まず注目すべきは、壁の内側に設置される約34.3cmのぶあつい断熱材。日本の住居は、建設するエリアに応じて必要な厚みを計算する仕組みですが、30cmを超える地域は稀です。(参照元)そして、窓ガラスは三重ガラスで、屋根にはソーラーパネル。水は、屋根で発電した電気を使った電気ヒートポンプで加熱され温水になります。
「家賃1万2000円のホームレス向けの家」と聞いて、「段ボールの家」「プレハブの仮設住宅」「狭くて暗いワンルーム」などを思い浮かべていたわたしは、この豊かでサステナブルな住宅計画を目にして、とても驚きました。
「誰もが家をもつ」をゴールにかかげて
ハミルトンの人口は約58万人。そのうち約1600人がホームレスとして生活しています。街はシェルターを増やすなどの対策をしていますが、毎年メンタルヘルスや薬物の過剰摂取で死んでしまうホームレスが後を絶ちません。そこで策定されたのが、2025年までに誰もが家を持つことをゴールとした「住宅とホームレスのアクションプラン」です。
このアクションプランで重視されているのは、安い家賃の住宅を増やすこと。このパッシブハウスは安価に建築でき、また毎月の光熱費がほぼかかりません。そのため、1万2000円以下の家賃で貸すことができるのです。
ちなみに、ハミルトンの2021年の1ルーム平均家賃は約10万円(参照元)。東京の渋谷区や新宿区と同じくらいの家賃相場です。
私たちがイメージしやすい計算をしてみると、東京近辺のネットカフェのナイトパックが2000円前後なので、およそ利用6回分。『ビッグイシュー』1冊で得る収入が230円なので、1か月で53冊を販売すれば住むことができる。
誰もが払える金額ではないかもしれませんが、ホームレスにとって安価で対応しやすい家賃設定であることは確かです。
ホームレス向けのパッシブハウスだからこそ「ぬくもり」を
そして、このアパートには、ラウンジやコミュニティガーデン、シェアキッチンなどの共有スペースがあり、居住者たちが心地よい関わりを持つように設計されています。
設計を主導した建設会社「Montgomery Sisam Architects」の建築家Enda McDonagh(以下、マクドナーさん)は、パッシブハウスだからこそ家庭的な雰囲気を出すことに注力したと語ります。
マクドナーさん 厳しい認証テストに合格するために、パッシブハウスの多くは代わり映えのしない機械的な雰囲気を持っています。
でも、病院や施設、役所などで過ごすことが多いホームレスの人たちにこそ、家庭のようなぬくもりを感じてもらいたいじゃないですか。
ホームレス向けの支援と聞くとつい、お仕事の斡旋や炊き出しといった目先の支援に目がいきますが、本当に必要なのは、自分の居場所がここにあるという安心感を誰もが持てる、ということなのではないでしょうか。
光熱費を抑え、エネルギーをあまり使わない住宅の仕組みが、安い家賃だけでなく、誰もとりこぼさないインクルーシブな社会を実現する。わたしはこのパッシブハウスに、多機能で明るい未来を垣間見ることができました。
– INFORMATION –
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[via FastCompany, Treehugger]
(編集: スズキコウタ+greenz challengers community)