新型コロナウイルスの感染拡大以降、急速にオンライン化した学びの場。多くの大学が秋以降もオンライン授業を継続していますし、社会人向けの研修やセミナー、トークイベントも依然としてオンラインでの開催が主流です。
「知識や情報のインプットには、オンラインでも充分ではないか」という議論がある一方で、大学などでは“学び”を支えてきた場の喪失が危ぶまれています。キャンパスや教室という物理的な空間に集まれば、授業以外の時間にたあいのない雑談をしたり、課外活動をするなかで「人としてのつきあい」が自然にはじまります。しかし、オンライン授業ではこうしたつきあいを醸成する余白がなく、多様な関係性の生態系が形成されにくいのです。
しかし、オンラインであっても、豊かな学び合いのコミュニティを育むことは不可能ではありません。2019年7月に開講した、オンライン学習と地域でのプロジェクトを掛け合わせた新しい学びの場「さとのば大学」では、キャンパスの代わりに「関係性」を軸とした学び合いのコミュニティが育まれています。
今回の #ウワサのさとのばでは、オンラインでの学び合いの場を支えるラーニング・アシスタントのみなさんにお話を伺うことにしました。きっと、「学びの場のオンライン化」にもやもやを抱えているすべての人たちにとって大きなヒントがあるはず。どうぞご一読ください。
教室という物理的なフレームの代わりに
ていねいに紡いだ学び合いの関係性
さとのば大学のカリキュラムは、午前のオンライン授業と、午後にそれぞれが暮らす地域でのマイプロジェクトから構成されています。
オンライン授業を担当するのはさまざまな専門分野をもつ多彩な講師陣。さとのば大学の運営会社である株式会社アスノオトの代表・信岡良亮さんがメインファシリテーターを務め、そして同じくアスノオトのメンバー3名がラーニング・アシスタント(L.A.)としてさとのば大学の受講生(以下、さとのば生)の学びに伴走しています。
開講当初のラーニング・アシスタントは、「Zoom」のグループセッション機能であるブレイクアウトルームの作成や宿題のお知らせなど、オンライン授業のシステムサポートが主な役割。それに加えて、講師の方をフォローしてさとのば生が学びやすい環境を整える、縁の下の力持ち的な存在だったそうです。しかし、期を重ねるごとにその役割は少しずつ変化していきます。
さとのば大学の広報を担う山崎麻梨子さんも、ラーニング・アシスタントのひとり。「今は、『オンライン授業という場のホスト』と『学びの積極的ロールモデル』という役割も担っている」と言います。
山崎さん 2期からは1期の反省点を生かして、講師とさとのば生の接続をスムーズにするために、授業の最初のチェックインを回してから「今日はどんな時間を過ごすのか」を話して講師に引き継いだり、講義動画や資料づくりをしたり、「場のホスト」として少し表に出て行くようになりました。
また、ラーニング・アシスタント自身もマイプロジェクトを持つことで、さとのば生のマイプロジェクトを応援したり、一緒に活動できることがあるし、講義中は「それってどういうことですか?」「自分はこう思う」「あなたはどう?」など積極的に学ぶスタンスを見せることで刺激できることもあるよねと話し合って「学びの積極的ロールモデル」という考え方が出てきたんです。
オンライン授業では「Zoom」を利用。「ブレイクアウトルーム」で、グループごとの議論やワークも行います。ラーニング・アシスタントは、ブレイクアウトルームの場づくりをサポートすることもあるそうです。講師の西塔大海さんは「ラーニング・アシスタントがいてくれることは非常に心強い」と話します。
西塔さん リアルであれば、講師はグループワークの様子を一望できますが、オンラインではブレイクアウトルームに分かれてしまうと、そこで何が起きているか一つずつ覗かないとわからない。ラーニング・アシスタントは、各ルームのファシリテーションだけでなく、講義外における講師とさとのば生の接続を非常に柔軟に担ってくれていて。
講師は、担当外の授業で何があったのか、さとのば生がどんな悩みを抱えているのかまではキャッチアップしきれていませんが、ラーニング・アシスタントは全体を見てくれています。
「先週、他の講師の方はこんな話をして、こんな意見が出ましたよ」と情報共有してくれますし、授業がはじまると一人ひとりに「○○さん、先週のイベントはどうでしたか?」などと声をかけてくれるんです。
「さとのば生の空間のなかにラーニング・アシスタントがいてくれて、僕らがそこに入ることでひとつの場ができている感覚がすごくある」と西塔さん。校舎のない“大学”だからこそ、「場をともにする人たちの関係性がより重要になる」と言います。
ラーニング・アシスタントは、この関係性をていねいに紡いでくれる存在。さとのば大学におけるオンラインの“校舎”をつくっているのです。
講師も受講生も変わりつづけるから
カリキュラムも伸縮させていく
さとのば大学では、3ヶ月または6ヶ月のコース期間に合わせてカリキュラムを構成。各講師が担当授業を進めるという点では、他の教育期間と基本的に同じです。ただし、大きく違うのは「学びの場をつくる一人ひとりに合わせて授業の内容が変化する」こと。「音を立ててカリキュラムが変わっていくんです」と西塔さんは楽しそうに笑います。
西塔さん たぶん、他のオンライン講義って決まったカリキュラムに沿って進められていて、前後の講義の関係性は講師をアサインする時点である程度決まっています。その間をつないでいくのは受講生に委ねられているのだと思います。
さとのば大学は、前の講義で起きたことをもとに、次の講義が変わっていくんです。僕たちの予想超えてさとのば生が成長していくので、僕らもちょっと欲を出して「じゃあ、こういうこともやってみよう」とチャレンジしたくなる。
同じく、さとのば大学の講師であり、カリキュラムの構成を担っている兼松佳宏さんは「最初に考えたカリキュラムが完璧だなんて心から言えない。成長のステージに合わせてやっていきたい」と言います。
兼松さん 授業のテーマは同じでも、さとのば生の状況が変われば内容をガラリと変えることがあります。それができるのは、知識とワークの手法、経験をもっていて、フレキシブルな対応ができる講師がそろっているから。自分の担当外の授業でも、予定が空いていて「行ったほうがいい」と思うと、つい出講してしまうこともあります。
講師が思わず出席したくなる授業……!! と驚くと、「僕らも変わっていくしね。信岡くんが”共同子育てみたい”といっていましたが、まさにそんな感覚です」と兼松さん。お互いの変化を大切にしながら、学びの場をつくっているようです。
こうしたフレキシブルな学びの場づくりができるのも、ラーニング・アシスタントの存在が大きいようです。毎週金曜日に、「どの講師がどんな授業をしたのか」をまとめて講師にフィードバック。講師が、授業全体の流れやさとのば生の理解度を把握したうえで、「今の成長ステージに必要な内容は何か?」を考えられるようにサポートしています。
西塔さん これから、さとのば生がどんどん増えていけば、今よりもっと不確実性が高まるし、何が起きるかわからなくなります。それによって、我々講師陣のほうも緊張感をもって「次はどうしよう?」と考えていける楽しさがさらに広がっていくと思います。
教える/教えられるという固定的な関係にとどまらずに、学びの場に参加するすべての人が学び合うーーさとのば大学が目指す「学び合いのコミュニティ」のあり方が、オンライン授業のなかに現れはじめているようです。
それぞれの個性が生かされる
ラーニング・アシスタントのあり方
2019年7月の開講から1年が過ぎて、自分たちらしい学びの場づくりが見えてきたさとのば大学。3期からは、講師とラーニング・アシスタントの役割分担を確かめなおし、さとのば生が学びやすい環境づくりをさらに整えていきました。
3期がはじまる前には、ラーニング・アシスタントの3人は自分たちの役割を棚卸しして整理。「オンライン授業という場のホスト」「授業のサポート」、そして「学びの積極的ロールモデル」という共通認識を確認しあうと同時に、各自の得意なこと、個性を生かしたラーニング・アシスタントのあり方を模索しはじめています。それぞれに、ラーニング・アシスタントとしてどんなことを大切にしているのでしょうか?
山崎さんは、もともとアスノオトが開催する「地域共創カレッジ」に関わっていたことから、さとのば大学のラーニング・アシスタントをすることになりました。今、大切にしているのは「心地よさ」だそう。
山崎さん さとのば大学に集まってくれた人たちが心地よく、自分らしくあれるような場づくりを心がけたいと思っています。
授業のはじまりには、一人ひとりの名前を呼んで「場に入ってきたのはわかっているよ」と伝えてウェルカム感を出したり。さとのば生が講師や自分の地域のコーディネーターに相談しづらいときに、声をかけやすいようにフレンドリーな立ち回りをできるようにしたり。
また、講師の話を聞いて「何それ?」と思っている人がいるなと思ったら、「今の話、ちょっとわかりやすく話してもらえますか?」と突っ込める役割になりたいなと思っています。
現在の学校のあり方に疑問をもち、「脱学校化社会」というテーマで卒論を書いたという内藤千裕さんは、さとのば大学が目指す「学び合いのコミュニティ」に深く共感して新卒就職したそうです。
内藤さん 私は、さとのば的な学びのモデルケースでもあるので、すごく自分と属性が近い人が参加しているなと思いますし、悩むこと・学ぶことにすごく共感できる存在だと思います。「どんな問いを出したら、さとのば生にとって意味のある学びになるのか」「昨日の流れから、今日はどんな学びがあればよい場になるか?」と考えることを大事にしています。
中林美果さんは、「最初はこんなに関わるつもりじゃなかったんだけど」と言いながらも、周囲からは「抜群の安定性」と高い評価を受け、また頼られてもいます。
中林さん 1期は、講師が困らないように資料を用意する、さとのば生が混乱しないように「ワークの時間は何分間ですよ」などとお知らせするだけで必死でしたが、だんだん慣れてきて。
講師が画面共有して話しているときにみんなの様子を見て、「ん?」って顔をしたら「○○さん、大丈夫ですか?」って声をかけたり、講義のポイントをまとめてチャットで流したり自然にできるようになりました。また、私は感情カウンセラーとしても仕事をしているので、話をちゃんと聞いて、何かあったときに「おーい」と声かけをしてあげられるような”保健室的な存在”を担えるようになれたらと考えています。
「ラーニング・アシスタント」という役割に個人を当てはめるのではなく、それぞれの個性ややりたいこと、目指していることを生かして、ラーニング・アシスタントとしてのあり方をつくっていく。ここにも、さとのば大学らしさが現れているように思いました。
「人に関わるのが好き」だからこそ
役割に縛られない「仕事」ができる
greenz.jpで連載している #ウワサのさとのばでは、これまで3人の講師にインタビュー。今回はさらに3人のラーニング・アシスタントとお話をして感じたのは、さとのば大学に関わる人たちの、「教育」とか「立場」などの枠をかるがると超えていく自由さです。
中林さんは、「さとのば大学の講師やラーニング・アシスタントは、言われた仕事をして終わりではなく、一歩、二歩先まで読むのが好きな人たちなんだと思う」と言います。
中林さん 基本的に、講師陣とラーニング・アシスタントには、教育をどうしたいかという以前に、人のサポートに入ることや場をよくすることに対する意識があるような気がします。その意識があるかどうかが、オンライン授業のなかではすごく重要な部分をしめているんじゃないかと思っていて。
たしかに、経験を積めば授業運営のスキルは上がるのかもしれませんが、それを底上げするのは「オンラインでしかできないコミュニケーションをどうやって良くするのか?」というところ。私たちに共通して根底にあるのは、「人が好き」「人が変わっていくのを見るのが好き」「いっしょにできたらうれしい」という気持ち。「仕事だからやっています」だけではないと思います。
山崎さんも「人が変わる瞬間に立ち会えるのはありがたい環境だと思う」とうなずきます。
山崎さん 特に、3期の半年コースのみなさんは、誰かと比べるのではなく、ちゃんと自分のなかにあるものを探しながら前に進んでいっている感じがすごくあります。また、さとのば大学には高校生から40〜50代の会社経営者の方まで、いろんな方が入ってきてくれていて。ラーニング・アシスタントとしてみなさんと話すことで、新しい視点をもらって想像力が豊かになっていく感覚もあります。
「こんなふうに人と出会える場があるのは、あたらしい学びをつくるうえで私たちが大事にしたいことだと思う」と内藤さんは語ります。
内藤さん さとのば生との面談のときに「オンライン授業と地域での学び、どっちの比重が高いですか?」と聞いてみたら、「馴染んでいるからどっちかなんて分けられない」って言ってて。知識と実践がなじんでいくことも、さとのば大学が目指していること。今、日本の学びを最前線で変えていっている感覚がすごくあります。
内藤さんは「教育に興味がない人はいても、学びに興味がない人はいないと思う」とも話してくれました。たしかに、私たちは教育機関のなかだけで学んでいるわけではありません。暮らしのなかでも、仕事のなかでも、人との関係のなかでも、ずっとずっと学び続けているのだと思います。
オンライン、教育、仕事、役割、あるいは校舎やオフィスという物理的な枠組みは、社会生活をわかりやすくするための便利な機能ではありますが、同時に「こうでなければならない」と無意識のうちに自分を縛ってしまうこともあります。「自分はどうありたいか」「どんな場をつくりたいか」「どんなふうに人と関わりたいか」と問い続けるなかに、今このときに本当に必要な場があたらしく生まれてきます。
そんな場のひとつである、さとのば大学に興味がわいたら、ぜひ受講してほしいと思います。一緒に悩み、一緒に考えながら学んでいける講師やラーニング・アシスタントが、あなたとあなたの仲間を待っています。