greenz.jpの連載「暮らしの変人」をともにつくりませんか→

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DIYは「生きる力」であり「態度」だ。木と人と、ともに生きる豊かなDIYをはじめよう。

この数ヶ月、家にいる時間が長くなりましたが、みなさんはどんな風に過ごしていましたか?この機会に、料理やお菓子づくりやDIYをしてみようと思う方も多かったのではないでしょうか。

2019年から、まちと森のいかしあう関係が成立した地域社会を目指し、竹中工務店、Deep Japan Labとグリーンズの共同企画で続けている「キノマチ会議」。今年は「暮らしからはじめるキノマチ」をテーマに連載をスタートさせます!

循環型社会の実現が求められる今だからこそ、国産材を家具に取り入れたり、DIYで自分のほしいものをつくることがもたらす可能性を一緒に考えてみませんか。

連載のナビゲーターは、「ともにつくる」を合言葉に10年で400回以上のDIYワークショップを全国で開催してきた、つみき設計施工社河野直さんです。

河野直さん
1984年広島県三原市生まれ。
京都大学大学院修了後、26歳の時にどこにも就職することなく、「つみき設計施工社」を市川市で起業。 「ともにつくる」を理念に、住む人と作る人が、ともにつくり、学び合う「参加型リノベーション」を展開。10年間で400回以上のDIYワークショップを全国各地で開催。著書に『ともにつくる DIYワークショップ(ユウブックス出版)』等。

初回は、河野さんにDIYをはじめる上で大切にすべき考え方や、国産材を使うことの面白さを教えてもらいながら、木のある暮らしを自分でつくるためのはじめの一歩をご紹介します。

DIYは「生きる力」であり、「生きる態度」だ

こんにちは、つみき設計施工社の河野直です。

突然ですがみなさん、「幸せ」って何でできていると思いますか?

僕は、幸せの半分は「自由」でできていると思っています。そしてDIYは、暮らしの自由を獲得するための一歩です。

昔から妻の桃子と一緒に、材木屋で端材をもらってきては「椅子をつくってみよう」「娘の離乳食用のスプーンをつくってみよう」とこれまでたくさんのものをDIYしてきました。

妻の桃子が、娘のためにつくった木馬

僕にとってDIYは単に「自分でつくる」というだけでなく、自分が本当にほしいものを考えどう実現するかを探り、完成してもなお、手を加えてより良くしていくことができるもの。DIYには、その過程のすべてに自由があるんです。

この感覚はものづくりに限った話ではなくて、自分で食べる野菜を育てたり、暮らしに必要な電力を自家発電することと同じで、生活すべてに対する「態度」みたいなものです。

分からないからといって、すぐに大きなシステムに頼るのではなくて、まずは自分で学んでやってみよう。そんな態度がDIYなんじゃないかなって思っているんです。

自分でやってみることで、人や自然とともに生きる豊かさを知る

河野家は僕と妻の桃子と、2人の娘の4人家族です

DIYは生きる態度であるとともに、もうひとつ大事なことがあります。それは、DIYは共に生きていく力に通じるということ。

DIYをはじめると、自分でできることが増えていくと同時に、できないことも分かる。自分ができないことが分かると、人に頼る、人にお願いするようになって、自分はいつも他人とともに生きていることに気がつくんです。

つまり、社会は一人一人ができることやできないことを補い合って、共に生きていくものなんだって、体感できるんですよね。

DIYは「Do it yourself」の略語なので、直訳すると「自分一人でやろう」に聞こえますが、やっていくと人に頼っていくことで得られる豊かさに気づく。この感覚は、現代において大切だなと思っています。

DIYに欠かせない手ノコも、長い時間をかけて洗練された道具です

それから、ものづくりを突き詰めていくと、単に家具職人や建築大工のような技術を身に付けるという話だけではなく、人類が自然とともに生きていく術を長い時間をかけて積み上げてきたのだと実感できるんです。

それが一番実感できるのは、道具を使うとき。

道具は、国や文化によって大きく異なります。なぜなら、自然環境や文化の違うそれぞれの場所で生きてきた人々が1000年以上の時間をかけて、自然と向き合い続けた結果として今の道具がつくられ、ものづくりの方法が生まれたから。

道具を見ると、先人たちがどう木を切り、設計し、加工し、暮らしに取り入れてきたのかを想像することができるんです。

そんな道具を手にして木を切っていると、ふと、自然とともに生きることに思いを馳せている自分に気がつきます。一生かけても知り得ない先人がつくってきた長い道のりの端っこに立ったような気持ちになるんです。

これは、DIYやものづくりの醍醐味ではないかと思っています。

顔の見える農家さんの野菜のように、国産材から土地や人の情景が浮かぶ

この連載のもうひとつのテーマでもある、国産材についてお話ししましょう。みなさん、DIYをするときに木材の産地を気にしたことはありますか?

DIYを始めるとき、ホームセンターに行く方が多いと思うのですが、DIYでよく使われるツーバイフォー材は北米やヨーロッパからきているものが多いです。加えて、材の産地が書いてあるケースは少ないです。木材の産地を知って買う喜びはまだ一般的になっていないということでしょう。

僕にとって国産材を使うことのよさは、その木材が育った森の情景や、製材してくれた人の顔が思い浮かぶこと。つまり、木のふるさとを感じられることです。

岐阜県・加子母にひのきを求めて訪ねた時の写真

ときどき、地方の山の中に入って、林業家や製材所の方と話しながら木を買うことがあります。そうすると、その木を持ち帰って加工しているとき、頭の中に山のこととか木を加工しているおじさんの顔が思い浮かぶんです。

顔を知っている農家さんがつくった野菜を食べるうれしさとか、実家のお母さんがつくったお味噌汁のおいしさみたいな感覚。それが国産材にもあるんです。

福島県南会津で買った、東北産のくるみの木。丸太をその場でスライスをしてもらった

そして、木のふるさとや人の顔が思い浮かぶ国産材をつかったものは、大事に使おうという気持ちになると思います。

どこから来て誰が製材したのか分からない材だと、古くなったらすぐに捨てちゃうけれど、木を育てた人の顔を知っていると、磨いて長く使おうとか、使わなくなったとしても材を活かして別の何かにしてみようっていう気持ちになりますよね。

木が日常にもたらしてくれる、もうひとつの時間

僕が愛読している星野道夫さんの「旅をする木」

星野道夫さんの著書『旅をする木』に、こんな一節があります。

ぼくたちが毎日を生きている同じ瞬間、もうひとつの時間が、確実に、ゆったりと流れている。日々の暮らしの中で、心の片隅にそのことを意識できるかどうか、それは、天と地の差ほど大きい。

木は、60年〜100年と長い時間をかけて育ちます。

今の林業家が木を植えても、植えた本人はその木が成長して伐期を迎えて、木材になる結果を見ることができないこともあります。そんな長い時間軸で仕事をされているんです。自然を相手にするわけだから思うようにいかないことがあるし、そう簡単には結果が出ない。

木が生まれる場所には、そういう時間が流れているわけです。

その木がモノや家になって、使い手の私たちに同じ日本のどこかで流れる、ゆったりとした長い時間を感じさせてくれる。これが、木を暮らしの中に取り入れることの幸せだと思いますね。

それに、木を見ていると「1週間や2週間でモノがつくれるようになると思うなよ」って、伝えてくれるような気がするんです。もっと長い時間をかけて、まずはチャレンジしてみて、失敗して、学んで、を繰り返していけばいい、それを楽しめばいいと。

DIYが流行ってきて、見た目がいいものを簡単に安くつくる方法が世間には広がっていますが、せっかく自分の手でつくるわけですから、つくる過程もつくった後も、ずっと幸せを感じられるDIYをしてもらえるといいなと思っています。

そのために知ってほしいのが、国産材をつかうことの魅力と、正しい道具の使い方。今回の連載を通して、たっぷりとお伝えしていきますね。

次回は、DIYをはじめる人に知ってほしい道具の大切さと、DIY三種の神器ともいえる計測器、手ノコ、電動ドライバーの使い方についてお話します。

(構成: 森野日菜子
(写真: 荒川慎一)

– INFORMATION –

2024年は先着300名無料!
10/29(火) キノマチ大会議 2024 -流域再生で森とまちをつなげる-


「キノマチ大会議」は、「キノマチプロジェクト」が主催するオンラインカンファレンスです。「木のまち」をつくる全国の仲間をオンラインに集め、知恵を共有し合い、未来のためのアイデアを生み出すイベントです。

5年目となる今年は2024年10月29日(火)に1DAY開催。2つのトークセッション、2つのピッチセッションなど盛りだくさんでお届けします。リアルタイム参加は先着300名に限り無料です。

今年のメインテーマは「流域再生で森とまちをつなげる」。雨が降り、森が潤い、川として流れ、海に注ぎ、また雨となる。人を含めて多くの動植物にとって欠かせない自然の営みが、現代人の近視眼的な振る舞いによって損なわれています。「流域」という単位で私たちの暮らしや経済をとらえ、失われたつながりを再生していくことに、これからの社会のヒントがあります。森とまちをつなげる「流域再生」というあり方を一緒に考えましょう。

イベントの詳細はこちら

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