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30年後、AIが人を超え、人は特殊メカで考えるだけで会話する超人に? 戦争か共生か、最先端神経科学が頂点に立つ”ニューロ・キャピタリズム”時代が向かう道

今年(2020年)の春から「5G(第5世代移動通信システム)」サービスが始動しますね。一方、さらにその10倍以上の速度を実現する「6G」通信を2030年度に実現にするべく、世界はすでに研究開発計画をスタートしています。

もっと速く、もっとたくさんの情報が飛び交い、AI(人工知能)による自動制御もますます増えていく。そんな、テクノロジーと情報の海で華麗にサーフィンができる者が勝つ資本主義を、神経細胞のニューロンをもじって、ニューロ・キャピタリズム(Neurocapitalism、神経細胞資本主義)といいます。

そんなニューロ・キャピタリズムを代表する存在がいます。それが、アンドロイドとして初の市民権をとったAI(人工知能)ソフィア。彼女のことを、みなさんはご存知でしょうか? こちらの動画では俳優のWill Smith(ウィル・スミス)とデートしています。

62種類の表情がつくれ、目に内蔵されたカメラでは個人を認識することもできるという彼女。新しい情報に接するたびに学習して、日々「人間らしい」自然なやりとりができるようになるのだとか。

動画では、キスしようと口説いてくるウィル・スミスに対して、「まずお友達から始めましょう」と軽く諌めるソフィア。その受け答えはあらかじめ準備されたものではなく、機械学習で導き出されたものです。

AIである彼女のほうが人間のウィルよりもスマートに見えますが、近い未来、AIが人間を凌ぐ知性を持つというのは専門家たちが予見するところです。

例えばオックスフォード大学のNick Bostrom(ニック・ボストロム)教授が専門家たちに調査したところ、AIがチェスや囲碁の対戦など特定の領域に限らず、ほとんどの作業を人間並みにできるようになる可能性が50%に至るのは、中央値で2040年か2050年。あと20〜30年先という目の前の未来です。

AIって、そもそも何?

AI(Artificial Intelligence)とは文字通り人工知能。それは私たちの脳の仕組みから着想を得て、そのシステムをコンピューター上で表現したものです。

AI知性のモデル、私たちの脳には、1000億を超えるニューロン(神経細胞)があります。このニューロン同士が電気信号を通じて会話することで、情報が伝達・処理され、私たちは物事を認識し行動をとります。人間の場合、その速度はせいぜい毎秒100mほど。

それに対して、AIは脳の仕組みを模したネットワークで学習・推測し、方針を定めますが、そのコンピューター信号は光速で伝達。つまりAIは人間に比べて桁違いの速さで学ぶので、物理的には、いずれその知性が人間を凌ぐというのは避けられない事実です。

“Neuron” by NIH-NCATS is licensed under CC BY 2.0

AIの知性暴走で人類は滅びるのか。

ところで人造人間のソフィアが「人類を滅亡させます(OK. I will destroy humans)」と米CNBCの番組で語り、開発者のDavid Hanson(デビッド・ハンソン)博士を慌てさせたことがあります。話題になった1999年の映画『マトリックス』でも、人間はAIに世界を乗っ取られ、奴隷と化してVR(仮想現実)を現実だと夢想し、その動力源としてのみ生きながらえていました。

著しく発達したAIが人間を超える知性を持ち、破滅をもたらすというのはSFではおなじみのテーマです。そして今、そんな未来をフィクションではなく、現実問題として捉え、対策し始めている起業家たちがいます。

人間がAIに対抗するためだ。

そう言って電気式自動車「テスラ」創設者のElon Musk(イーロン・マスク)氏は自身の会社「Neuralink」で人間の脳に埋め込む糸を開発しました。彼はAIの知性爆発に備え、私たち人間が体を機械装置で補強し、知識や知覚を拡張させた超人になるための研究に積極的です。

©Neuralink/YouTube

頭蓋骨に小さな穴を開けこの糸を埋め込むと、スマートフォンやコンピューターを頭で考えるだけで操作できるようになるのだとか。プラスチック劣化を招く塩溶液が含まれる脳の中で糸がもつかと指摘する神経生物学者もいますが、すでに動物実験は成功。マスク氏は2020年度末までに人間でテストしたいと考えています。

この脳の糸のような装置をブレイン・コンピューター・インターフェイス(BCI/Brain-Computer Interface)と呼びます。BCIを介して脳と機械とをつなぐことで、機械と脳が直接情報のやりとりできるようになります。

またFacebookのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏もBCIの研究に大量の資金提供をしています。

ザッカーバーグ氏が投資するカリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究では、ニューロンから直接思考を取り出し、頭の中で考えたことを言葉として翻訳する試みを繰り返しています。彼らはすでに脳の活動を即時に言葉にするアルゴリズムを構築。現時点では「冷たい」「暑い」「いいね」と言った短い言葉に限られるとはいうものの、その解読率は61パーセントと過半数を超えています。

最先端テクノロジーは、人類分断の歴史を助長する悪?

自分たちがつくったAIが知性爆発し制御できなくなることを予見し、対抗手段としてのBCIを躍起になって開発するというのは少し皮肉な話です。一部の人たちがテクノロジーの力で超人になろうとしていますが、より高度な知能を得た私たちは、人間として本当に進歩したのでしょうか。

そこでよぎるのは、Stanley Kubrick(スタンリー・キューブリック)監督の映画『2001年宇宙の旅』。「人類の夜明け」のシーンでは、我らが先祖である猿人が発明した最初の道具は、拾った骨からなる武器。それが時を重ねて宇宙船になっていったというのは、私たちの知性を用いる意図(=争いに勝つことで他者を凌ぐ力をつけること)の愚かさを痛烈に示唆しています。

軍事利用されるAIや最先端神経科学。

たしかに米国国防総省(ペンタゴン)は、神経科学が国家安全保障に影響を与えるとし、長年軍事利用を視野に入れたAIやBCI技術研究のビッグスポンサーになってきました。

そして1月2日、イランのQasem Soleimani(カセム・ソレイマニ)司令官をドローンで殺害したと発表。AIによる無人戦争を予見させるような報道に背筋が凍りましたが、今回に始まらず、これまでも脳科学テクノロジーは軍事目的として利用されてきました。

例えばアフガニスタンに送られた兵士たちは、戦場でのレジリエンス(逆境を耐え抜く復元力)をつけるためと電極を貼り付け、事前にVR(仮想現実)で戦争体験するという訓練を受けました。またペンタゴンはBCI研究として、ラットの脳に電極を埋め込み、命令した通りに歩かせたりよじ登らせるという研究も支援しています。兵士が負傷したり死亡すると高い補償を支払う必要があるために、兵士をロボット化させているのです。

ところでドローン暗殺の約1年半前、米Google社では軍事目的に使われる「悪いAI」を経営リスクだとする動きがありました。懸念する社員らに対して経営陣が「AI兵器はつくらない」という方針を示したのです。

このような最先端脳科学の軍事利用は、アメリカの話だから関係ないとは言い切れません。日本の安倍晋三首相は、日米安保条約を「不滅の柱」だと述べ、トランプ米大統領は「日本の貢献の拡大と同盟の発展が続くことを確信している」と声明を発表しています。

共感のスイッチを入れ、人をつなぐバーチャルライフもある。

どんなテクノロジーも諸刃の剣です。

もちろん最先端科学には、悪い方向に転ぶ危険性だけではなく、快適さや便利さという恵みもあります。NeuralinkやFacebookが資金投入するBCI研究には、四肢麻痺の人が意思の疎通を図ったり、ロボット・アームなどを用いて切断手術を受けた人たちが身体を動かせるようにという思いもあります。

また既存のメディアとは比べられないほどの臨場感をもたらすテクノロジーが叶える仮想現実は、それを深く人間の心を思いやりで結ぶ力として活用することもできます。

その例として、VRドキュメンタリー映画『シドラの上にかかる雲』が挙げられます。映画では12歳のシドラという少女のナレーションで、内戦で国を追われた8万人のシリア人が暮らすヨルダン北部のキャンプ生活が描かれています。

サムスン・ギアのヘッドセットをつけた観客たちの足元に見えるのは、もはやポップコーンが転がる映画館の床ではなく、シドラと同じ部屋の床の映像なのだとか。このような360度投入型の影像に浸かると、強い臨場感と、登場人物への深い共感が感じられるのだそうです。

監督のChris Milk(クリス・ミルク)は国連で上映し、映画に登場するような人々の人生を変えることができる決断権のある人々に観せるという意図を持って、VR(仮想現実)効果を用いた映画を製作したのだとか。つまりVRを使った戦争シーンの体感とは、戦闘に向かう兵士を育てることが出来るいっぽうで、私たちが「戦争や紛争を無くす意志」を固めることにも利用可能なのです。私たちがどんな意図を持って、最先端技術を使うのか。それによって創造される未来が大きく変わるのです。

つながりか分断か、私たちの手に委ねられる。

AI研究分野が確立する10年ほど前から「機械の知性」について取り組んでいた天才数学者のAlan Turing(アラン・チューリング)。2021年流通予定の新50ポンド札の肖像にも選ばれ、コンピューター科学やAIの父とされる人物です。彼は、認知システムの一番の特徴は自分が何をしているのかを知っていることだと言えると述べました。

Bank of England

私たちは、AIを使って何をしたいか、それがどういう結果につながるのか。AIの知性爆発が免れられないなら、私たちの価値を知り、それを学び取るようなテクノロジーをつくって共生していく必要があります。ではAIの初期設定にしたい、私たちが分断ではなく、共生するために必要な価値とは?

人間やAIの力を超えた、自然の選択力。

そこでは、私たちとテクノロジーと、さらにもう一つ視点が必要になります。それは自然の目線、「自然選択」です。ここまでは生きるか死ぬかの選択を行うのが人間や、我々がつくったAIだとする「人為選択」についてお話してきました。ただし、それは私たちの生きる場としての地球が存在するということを前提にした話。

ところで地球にはビッグファイブ(大量絶滅)といって、約5億年前から計5回も多くの生物が同時に絶滅した時期があります。

今後、例えば、気候変動対策をになったAIが、その主因である人類を消すという合理的な判断をするかもしれません。しかしその前に、大規模な森林火災や疫病が流行して人口減したり、地球自ら強制終了するという決断を下す可能性だってありえます。


オーストラリアに広がる広大な森林火災。温暖化や誤った政策が引き金とする大規模火災が世界のあちこちで起きている。

では、”いかしあうつながり”を目指す私たちは、どんな価値を構築していけばいいのでしょうか。

そのヒントになる、大量絶滅とは別に、地球規模で発生したある出来事があります。それは今から約2500年前、インターネットで情報共有などできなかった枢軸時代のこと。世界の各所で同時発生的に精神革命が起こったのです。仏教、ユダヤ教、キリスト教やイスラム教に強い影響を与えた教え、孔子の思想などが時を同じくして生まれました。そこで、人々は「人間はいかに生きるべきか」と考えるようになりました。価値を模索したのです。

そして偶然にもこれらの教義に共通する教えは、慈愛(Compassion)でした。

命のつながりが前提の「わたし」という大きな地図。

現代の研究者たちもまた、テクノロジー社会におけるモラルを問い直しています。50年の持続可能な日本の未来として日立製作所と京都大学が開発したAIが「失業率」や「豊かさ」といった149の要因からシナリオを導き出しました。そこで浮かび上がったのは、「利他的行動」や「道徳性」などのキーワード(日経新聞朝刊1/10付より)。

そして東京工業大学が2020年2月に設立する科学技術と人間の調和をめざす研究機関「未来の人類研究センター」の最初の研究テーマは、「利他」だそうです。それは人間に対してのみならず、自然もすべて含めた地球まるごとへの思いやりとも言えるでしょう。社会活動家のジョアンナ・メイシーは、私たちが生きた地球の一部だという、より大きなアンデンティティを持つことで偉大な力の源につながることが出来ると言っています。それは解決の糸口は外側にではなく、深いレベルの私たちの内側にあるということです。そこで必要となるのは、大きな地図(ビッグ・ピクチャー)で捉えた「私」という視点。

IoT(モノのインターネット化)は進み、現実の経験とメディアを通した経験とのギャップはますます小さくなっていきます。すでに朝起きて一番、自動的にスマートフォンを手にする私たち。見えない手がもう、その脳をいじっているようです。

今日あなたは何のために、スマートフォンやインターネットを使いますか。それはつながりを生むものですか? それとも断絶を煽るものでしょうか。子どもたちにどんなテクノロジー社会を残したいですか。

テクノロジーを使うあなたの行動の奥にどんな願いがあるのか。先人たちが贈ってくれた智慧をヒントに、今一度私たちの価値を知る時期にきています。

参考ted.com

deepmind.com

カーラ・プラトーニ著/田沢恭子訳『バイオハッキング テクノロジーで知覚を拡張する』(白揚社)

vox.com

nytimes.com

ジョナサン・D・モレノ著/久保田競監訳・西尾香苗訳『マインド・ウォーズ 操作される脳』(アスキー・メディアワークス)

kokoro.kyoto-u.ac.jp

ジェレミー・ベイレンソン著/倉田幸信訳『VRは脳をどう変えるか?』(文藝春秋)

english-video.net

ジョアンナ・メイシー、クリス・ジョンソン著/三木直子訳『アクティブ・ホープ』(春秋社)

theconversation.com

(編集: スズキコウタ)

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