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一時的な利益は、未来に何も残さない。エクアドルの小さな農村に暮らす珈琲農家、フランクリン・ヴァカさんに聞く、経済社会の先にある未来のつくりかた

あなたが飲む一杯の珈琲が、どこかで別の誰かも幸せにしているとしたら、ちょっと嬉しくなりませんか?

これからご紹介するフランクリン・ヴァカさんは、エクアドルの小さな農村でフェアトレード珈琲を生産しながら、持続可能な農村を目指し小水力発電プロジェクトや水質保全活動などを実践するプロジェクトリーダーです。

去る11月11日、東京・一ツ橋ホールで開催された「しあわせの経済」世界フォーラム 2017 in 東京に登壇されたフランクリンさん。そこで、エクアドル・インタグ地方が抱える課題と、持続可能な社会への実践や想いが語られました。

今回はフェアトレード珈琲、インタグ珈琲の生産者協会会長である、フランクリン・ヴァカさんの登壇の様子とインタビューをお届けします。

自然を壊して得る発展ではなく、経済や消費のその先をいく発展を。

そんな持続可能な社会を目指す小さな物語を、インタグ地方の素敵な風景とともにゆっくりと感じてみてください。

Franklin Vaca(フランクリン・ヴァカさん)
エクアドル、インタグ地方のロサル村に生まれ、家業の農業を営む。その後インタグの農村における持続可能な農業技術者として、有機農業の推進に携わる。さらにコミュニティ・ツーリズムのプロモーター兼コミュニティツアーガイドとして、インタグのエコツーリズムを促進する。その間、様々な反鉱山開発運動に携わる。現在、インタグ珈琲生産者協会の会長、インタグ小水力発電プロジェクト、アプエラ地域代表、ロサル村水質保全チーム代表など、インタグの持続可能な発展のための様々なプロジェクトのリーダーとして活躍する。

豊かな山々に抱かれたインタグ地方の課題

まずは、エクアドルのインタグ地方について少しご紹介しましょう。

南米の北西部、アンデス山脈と太平洋の間に位置するエクアドル。広さにしておよそ27万km2、日本の3分の2ほどの国です。その国土の北西部にインタグ地方はあります。住人のほとんどが農業を生業とし、小さな農村風景が穏やかに広がります。

また、亜熱帯気候のため、乾季でも森には霧がたち、雲と霧に包まれる雲霧林(うんむりん)の生物多様性は、人類の破壊によって危機に瀕している絶滅危惧種の動植物たちが命をつむぐ地域(生物多様性ホットスポット)として、生態系を守るために、植林や環境負荷の少ない農業推進など様々な試みも行われているそう。そんな事例を学ぶためのエコツーリズムが人気なのだとか。

インタグ地方に広がる風景

フランクリンさんが代表を務めるインタグ珈琲も、この豊かな森が育む産物のひとつ。

アグロ・フォレストリーシステムといって、森林を切り崩さず、森林の中で珈琲豆を育てるという栽培方法を実践しながら、自然との共存をはかっています。また生産者の暮らしを支える産業としての役割も担っていて、フェアトレード商品として世界中に流通しています。

青い鳥が印象的なインタグフェアトレード珈琲のパンフレット

豊かな森と共にありながら、その自然を壊さず日々暮らしを営むインタグ地方の人々。しかし、大きな課題も抱えています。それは、インタグ地方の地下に眠る、銅などの鉱山物をめぐる課題です。

たとえば私たちが毎日使う携帯電話には、金、銀、銅、パラジウムなどが含まれていますが、その産出国となっているのがエクアドルなのです。豊かな鉱物資源ゆえ、インタグ地方は迫られる鉱山開発によって、自然破壊と汚染が、森と寄り添う暮らしに脅威をもたらしているといいます。

1990年代には、エクアドル政府とチリの国有鉱山開発会社が鉱山資源を得るために開発を要求。農業を営む農村民にとって、水の汚染などが深刻な課題となる中、様々な草の根団体が保護区をつくるなどして、20年に渡り、鉱山開発の阻止を行なってきました。

現地の様子を伝えるフランクリンさんの講演の様子(撮影: 齋藤隆夫)

高い報酬と引き換えに土地を譲渡する住民、コミュニティの崩壊、そんな出来事も体験してきたインタグ地方。現在も鉱山開発の危機は去っていない状況のようですが、インタグ地方の多くの人々は、地域の美しい自然や自分たちの暮らし、そして未来に残すべき本当に大切なものを守るために、持続可能な社会を目指して、村や個人が保護区を設置するなど、日々アクションを起こしているのです。

グローバリゼーションではない発展を

ここからは、インタグ地方の人々が目指す発展について、フランクリンさんのインタビューとともにお届けします。代々受け継いだ土地を耕し、自然と共にあった人々が、経済の成長よりも今ある自然、大地とともにある暮らしを守り発展する、そんな道を選んだ心持ちとはどんなものなのでしょうか。

私たち農民にとって、大地は第二の母のようなものです。
私たちに食べものを与えてくれる。平安も静けさも与えてくれる。
そんな大地を切り裂いてまでして、利益を得たいとは思わないんです。

鉱山開発、いわゆる破壊によってもたらされる利益は、その場限りだということはわかり切っているとフランクリンさん。インタグ地方にもともとあるフルーツや酪農、珈琲といった、自然から豊かに享受できるものは、鉱山開発による利益よりはるかに大きな資産だと続けます。

発展には2つの視点があると思っていて。ひとつは、経済的な成長という意味の発展。まさに鉱山開発がもたらす利益だと思います。

もうひとつは農民として、先祖代々、受け継いできた農地や自然環境、土壌を守りながら発展するという視点です。それは持続可能な社会に向けて発展していくことを意味しています。私たちは、農業という食べ物をつくる文化であったり、農業を行うために必要な水を未来に継いでいくことこそが発展だと考えています。

一番大切なことは、すべての命を大事にすること。それは経済うんぬんの、もっと向こう側にあるものなんです。だから、自然を破壊して得られる一時的な利益は必要ないんです。

発展の事例として小水力発電やフェアトレード商品の開発、コミュニティアグリツーリズムといった試みに取り組んでいるそう。(撮影: 齋藤隆夫)

グローバリゼーションの波に飲み込まれず、自分たちのまわりあるものを大事にし、持続可能な暮らしを実践していくこと。その鍵は、コミュ二ティにあるとフランクリンさんは言います。

今、まさにローカリゼーションの時代だと思っています。自分たちの暮らし、未来に残すべきものは自分たちのコミュニティで守る。私たちはグローバルな発展、いわゆる経済的な発展とは違う方向へ発展していると信じています。

一時的な利益は、未来になにも残さない。もっと先の未来へ今、残すべきものはインタグ地方の豊かな環境、そして経済成長を優先しない発展だとフランクリンさん。そして農民が声を上げやすい環境づくりや、農民の暮らしを守るためのフェアトレード商品の販売促進など、これからもミッションは続いていくと語ります。

消費主義から離れてみる

課題を抱えつつも、持続可能な社会を目指すインタグ地方の人々。ここ日本でも、近代化というグローバル社会へと向けた発展の中で失ったものもあるはずです。わたしたちにとって今、何が大切なのでしょうか。

消費主義から離れてみることです。消費を減らす。買う必要があるのであれば、オルタナティブ、責任を持ってつくっている企業の製品を選ぶこと。大企業、多国籍企業といった「グローバル」の支配から脱することが重要です。

豊かな水のあるこの地区も今まさに鉱山開発が進められようとしている地域です。

消費主義を続ける以上、資本経済から離れることはできません。資本を稼ぐために自分の時間や体をすり減らし、また、遠く離れた地域に脅威を与え続けることは本当に願うことなのか、まずは想像することが大事だとフランクリンさんは言います。

その手のひらにある電子機器に使われている金属はどこからくるのか、まずは想像力を働かせることが大事だと思います。その電子機器の部品を調達するために、インタグ地方が自然破壊の脅威にさらされていることは、まぎれもない事実なのです。そして、まだまだ使えるものは安易に捨てないでほしい。そうした簡単なことからでいいんです。そこが第一歩だと思います。

消費主義から離れるということ。それは小さなつながりの中で可能になるとフランクリンさんは続けます。

自分がほしいものを考えたときに「この人がつくっているから」「こういう気持ちでつくってるから」、そんな視点で選んでいくと、自ずとつながりの中での消費活動になりますよね。それは、顔が見えている関係だったり、お金ではなくて地域通過や物々交換みたいなものにもなっていくかもしれません。小さなつながりの中で、あなた自身が買い支えることは、あなたも生産者の一部であることに気づくことができるはずです。

平和と食べ物と美しい水があればいい

小さなつながりの中で、そこにあるものを守り、上手に利用しながら、持続可能な発展をめざすインタグ地方の人々。フランクリンさんに「持続可能な社会とは何か」を伺ってみました。

私にとって持続可能な社会とは、平和であること、食べ物が豊富にあること、美しい水があること。この3つさえあれば、持続可能な社会だと思います。大地は私たちのものではありません。私たちが大地のものなのです。だから、そこに寄り添いながら発展をすればいいと思います。

「金属の需要がある限り、インタグ地方の課題は続く。」

これは登壇の最後にフランクリンさんが語った言葉です。

グローバリゼーションの脅威を、身をもって感じている人たちが目指す持続可能な社会。それは、たくさんの便利なものやサービスに囲まれた暮らしや、貨幣価値や効率を求める発展ではなく、平和で食べ物と水があり、小さなつながりの中で暮らし、発展するということ。経済うんぬんの先、それは、大地に寄り添うことだとフランクリンさんは伝えてくれました。

幻想的な森の風景、様々の生き物が命を育むエクアドル・インタグの森。

最後に、お茶目な笑顔で伝えてくれたフランクリンさんのメッセージを贈ります。

インタグ地方はフルーツも珈琲もなんでも美味しい。そして、山々も木々も本当に美しいんです。難しいことを考えるより、まずは美味しい! を味わってみてください。そして、ぜひエクアドルに足を運んで、自然の美しさを、大地に寄り添うとはどんなことなのかを感じにきてください。

インタグ地方のこと、経済の先にある発展のこと。気になったら、まずは美味しい珈琲を一杯味わうことからはじめてみませんか?

フランクリンさんの珈琲豆は株式会社ウインドファームさんslowcoffeeさんから購入できますよ!

(撮影: 関口佳代)