もう5年ほど前になるが、カルガリーに住む筆者の義兄、グレッグの家を訪ねて驚いた。庭にドラム缶が2つも鎮座していたのだ。庭にどーんと大きなドラム缶が並んでいる姿は決して“美しい”とは言えなかった。
「一体、これ何?」と驚く私に、「雨水を溜めるためのもので、レイン・バレル(雨水タンク)って言うんだ」と胸を張るグレッグ。彼は片道10km程度の距離の外出なら、できるだけ車ではなく自転車を使うというエコロジストなので「なるほど」と納得した。
カルガリーの雨量は、夏期で1か月約50ml。7〜8月には1か月に130ml程度の雨が降る東京と比較するとかなり少ない。それでも、1度雨が降れば75ガロン(約284リットル)入るドラム缶は、すぐにいっぱいになってしまう。雨水は軒(屋根の下端)に樋(とい)を取り付け、屋根から地面に流れ落ちる水を溜める仕組み。タンクは家とガレージの横にそれぞれ2つ、3つと並べて設置してあり、順番に溜まっていくようにしてある。
この量では残念ながら芝生の散水に使うほどは貯まらないが、家庭菜園の水遣りには十分だ。カナダでは夏の間、ガーデニング用の水が家庭での使用量の大半を占めるので、有効な水資源の活用と言えるだろう。一方、冬はマイナス30度にもなるカルガリーでは、雨水タンクは冬には凍って使えないが、当然ガーデニングもできないので、とりあえずはうまく需給バランスが取れているというわけだ。
ではこの水、飲み水には使わないのだろうか。「ろ過したり、特別な処理が必要なので、今のところは飲料用には使っていないよ。ただ、雨水は僕たちが考えているよりずっとキレイなもの。それに、水道水は塩素を加えて処理しているけど、レイン・バレルの雨水は何も加えていない分、ナチュラルだ。オーガニックな水とまでは言えないだろうけど、自然の水を使って育てた僕のトマトはおいしいと評判がいいんだよ」と満足げだ。
リサイクル精神旺盛なグレッグは、タンクも市販のものを買ってくるのではなく、ゴミとして捨てるドラム缶をもらってきて、しっかり洗った上で使っている。レイン・バレルは原理も単純だし、簡単に手作りできるのでわざわざ買う必要はないという。「廃材を利用することで、ゴミをほんの少しだけど減らすこともできるし、この少しの努力をみんながすることが大切だよね」と言う彼は、頼まれると近所の家庭にもこのレイン・バレルを作ってあげている。
DIY好きの彼は、ペンキブラシなどの大工道具、それに車を洗うためにも利用しているとのこと。将来的にはトイレの排水としても利用したいそうだ。カナダは壮大な自然が魅力であるが、そこに住むグレッグの目標も大きい。
久しぶりに訪ねてみると、今もグレッグはレイン・バレルを利用しているが、数はなんと7つに増えたという。
「本当はあと2つぐらい増やしたいけど、ワイフにこれ以上はダメと言われているんだ。7つもあれば十分でしょうって」
ライタープロフィール
西川桂子(にしかわけいこ)カナダ、バンクーバー在住
フリーランスライター、翻訳者、連載、取材などのコーディネート。バンクーバーの日本語新聞『バンクーバー新報』フリーランス記者。専門は個人情報漏洩など情報セキュリティ(NetSecurity)だが、3児の母として子育て、教育も関心のあるところ。『新報』では在カナダ大使やカナダ政府の産業大臣が出席しての講演会のなど政治関連の取材、『極楽海外暮らしBOOK』のカナダ部分、『学びの場』の教育情報や朝日新聞ウェブサイトの「世界のウチ」などを執筆。『けっこんぴあ』では海外ウエディング情報記事のコーディネートも