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目が見えなくても美術鑑賞ができる世の中を。3Dで再現されたグスタフ・クリムト作『接吻』が、オーストリアのベルヴェデーレ宮殿に登場!

みなさんの好きな画家は誰ですか?

ピカソ、ゴッホ、モネなど、有名画家の絵画を一目見るために、美術館に足を運んだことのある方も多いのではないでしょうか。

美術館で作品鑑賞を楽しむ人びとが多くいる一方で、日本には視覚に障がい者を持つ方が31万人いるといわれており、彼らは当然ながら美しい美術作品を“目で見て”楽しむことはできません。

美術作品に込められた思いや作品の素晴らしさを感じること、楽しむこと。それは、目で見ることができない場合、不可能なのでしょうか? いえ、そんなことはありません! たとえば作品を触ってその凹凸や質感を感じたり、音声説明を聞くことで、心の中に絵画をイメージすることでも楽しめるはず。

そこで今回は、視覚障がい者でも美術館へ来てアートを楽しめる“バリアフリー”な社会を目指して活動を行うプロジェクト「AMBAVis(視覚障がい者に美術館へのアクセスを)」をご紹介します。

彼らが最新の3D技術によって再現したのは、有名画家グスタフ・クリムトの代表作である『接吻』。実物はオーストリアのベルヴェデーレ宮殿に展示されていて、毎年100万人以上がこの作品を観るために訪れるのだとか。
 
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実物は撮影できないため、実物大パネル前で同じポーズをとり記念撮影をするカップルも

『接吻』の実物は180cm²ありますが、3D技術を用いてつくられた浮き彫り彫刻の大きさは42cm²と、手で作品全体を触りやすい大きさに縮小。あくまで視覚障がい者に作品を味わってもらうためのものなので、実物のようなカラフルな色は使わず白一色です。

その代わり、作品の中で地面に咲く花や二人を覆っているマントのパッチワークなどに立体感を出すことで、絵画の構図や細かい装飾まで触って感じられるようにしています。
 
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クリムトの『接吻』を3D技術を用いた浮き彫り彫刻で再現

『接吻』の浮き彫り彫刻は、世界中の視覚障がい者に利用されている歩行道具、白い杖の記念日である10月15日にベルヴェデーレ宮殿でお披露目されました。

4歳の時に眼感染症で視力を失ったDominika Raditsch(以下、ドミニカさん)は、3D技術による浮き彫り彫刻の『接吻』に触った感想をこう話します。

ドミニカさん ここは少し丸みがあって、ここは線がからまっているのがわかるわね。全体的にすごく滑らかに感じるわ。触ってて思ったの。「きっとキラキラしてるんだわ!」って。目は見えないけれど、それが私が感じたことよ。とても創造をかきたてられたわ。

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『接吻』に触った感想を嬉しそうに話すドミニカさん

今後は、浮き彫り彫刻内にセンサーを取り付け、さわった箇所に応じて音声説明が流れるようにしていくとのことで、視覚障がい者にとってますます作品を楽しむ幅が広がりそうです。

ドイツの視覚障がい者支援協会のReiner Delgado(以下、ライナーさん)は、今後の展開について、こう期待を寄せています。

ライナーさん 今回の取り組みが、視覚障がいのある人にとってもアートを楽しめるようになる転機になればと思っています。将来は、視覚障がい者の家庭に3Dプリンタがあり、美術館のホームページから3Dデータをダウンロードして自宅でも作品を楽しめるようになるかもしれません。

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関係者と共に3D技術を使った浮き彫り彫刻を披露するライナーさん(写真左)

「AMBAVis」は、ベルヴェデーレ宮殿をはじめ、経済調査機関や、視覚コンピューティングの調査センター、ドイツとオーストリアの視覚障がい者支援協会、イギリスのマンチェスター博物館、視覚障がい者のための音声ガイドの調査や提供を行うスロバキアのNGOなどが協同し、2年以上前から技術開発を進めています。

美術館だけでなく、イルミネーションなど目で見て楽しむアミューズメントは意外と多いもの。より多くの人と感動や素晴らしさを共有したいという思いから、「AMBAVis」のような新しいプロジェクトや新技術が続々と生まれていくことに期待したいですね。

みなさんも、自分の好きなことを障がいのある人も一緒に楽しめるようにするにはどうすればいいか、少し考えてみませんか?

[via Upworthy, La Tribuna, euronews, Belvedere, Wikipedia, Phys.org]

(Text: 菅磨里奈)