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グリーンズが立ち上がった10年前、どんな市民による社会づくりが起きていたか? greenz.jp編集長・鈴木菜央による「ソーシャルデザイン進化論」【第4回】


2006年 greenz.jp 創刊時のデザイン

9月末についに完成した「ソーシャルデザイン白書2016」。greenz.jpを寄付で支えてくださる「greenz people」にだけお届けしていますが、読者のみなさんにも一部をお見せします!まずは編集長・鈴木菜央が書き下ろした第1章「ソーシャルデザインの歩み」をお楽しみください◎

2006〜2011 ロハスブーム、社会的起業、働き方


不都合な真実
そして2006年、僕らは、これまでにない新しいタイプの活動を応援していこうと考え、ウェブマガジンgreenz.jp(2006)を創刊しました。

環境に興味がある層にとって当時のホットトピックは、greenz.jp創刊直前の5月に日本公開された、アル・ゴア氏のドキュメンタリー映画『不都合な真実』のヒットです。2000年代前半で多少は知られたものの、まだまだマイナーな「環境問題」が、この映画によって一気にキャッチーで最先端の問題になったのです。

翌2007年には「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)」による第4次報告書が発表されました。この報告書では、地球が温暖化しているという仮説を疑う余地がないこと、そして温暖化が人間の活動によって起きている可能性は「ほぼ断定できる」と表現され、世界中で地球温暖化についての議論が沸き起こりました。

これらのことは、2009年、鳩山元首相が国連で温室効果ガスの90年比25%削減目標を表明したことにつながり、環境活動を続けてきた市民にとっては大ニュースでした(一般的にはまだまだでしたが)。

とはいえ、当時の時代の気分を一番良く表しているは、「ロハス」という考え方がブームになったことです。ロハス(LOHAS)とは「Lifestyles Of Health And Sustainability」(健康で持続可能な、またこれを重視する生活様式)の頭文字をとった略語で、“健康と地球環境”意識の高いライフスタイルを指す用語です。

オーガニック、フェアトレード、ヨガ、自然食品、代替医療などの分野が大きく拡大して一般化したのが、この時期だったように思います。ただし、本来の意味のロハスである、「地球環境と自分の健康がつながっている」とする意識は一般に広がったとは言えず、ブームを盛り上げようとするメディア、企業に誘導された「環境的雰囲気をまとった新たな消費主義」だったという批判も、ある面では正しかったと思います。

では、この頃は、どんなソーシャルデザインが発展したのでしょうか?いくつかの潮流をピックアップしてみます。

【市民の学び】


自由大学:人気講座「20年履ける靴に育てる」の授業風景
大きく盛り上がり、その後定着したのが、市民が主体的に学ぶというムーブメントです。

もともと「PARC自由学校」(1982)、「泉北グループ・スコーレ」(1998)、「スクーリング・パッド」(2005)などのパイオニアが切り開いた分野ですが、「シブヤ大学」(2006)がきっかけとなり全国に広がった“まちで学ぶ”動き、ビジネスマンも含めて市民の学びをさらに一般化した「丸の内朝大学」(2009)、表参道でパーマカルチャーなども学べる(僕の目線では)パンクな学校「自由大学」(2009)、リノベーションまちづくりを強力に全国にひろげつつある「リノベーションスクール」(2011)など、今まさにホットな領域です。

【働き方】


「自分の仕事をつくる」

背景まで分析しきれていないのですが、この頃、世の中としても【働き方】が大きくフォーカスされてきたのは間違いないようです。生き方も働き方も自由になるにつれ、「どう働くか?」「どう生きるか?」が多くの人にとっての悩みになっていきました。西村佳哲さんの書籍『自分の仕事をつくる』(2003、文庫版は2009)は生き方、働き方を考えている多くの人に読まれました。

そんな背景から、「生きるように働く仕人の仕事探し」を掲げた求人サイト「日本仕事百貨」(2008)、さまざまな仕事場を訪ねることができる仕事体験提供サービス「仕事旅行社」(2011)、“働く”や“仕事”の情報発信基地「ハローライフ」(2013)、“新しい働き方”や“未来の会社”にまつわるアイデアやヒントを交換して、多様な交わりから新たな未来をつくっていく「Tokyo Work Design Week」(2013)など、さまざまな活動が広がりました。多様な働き方を提供する仕組みとして【プロボノ】という考え方を広めた「サービスグラント」(2005)はこの分野のパイオニアとして位置づけられるかもしれません。

【事業型】


BABAラボ(撮影:服部希代野)

また、それまではあまり多くなかった「事業を通して社会をつくっていこう」という【事業型】の活動が盛り上がってきたのは、この頃ではないかと思います。ホームレス状態にある人に雑誌販売の仕事を提供し、自立を促す「ビッグイシュー日本」(2003、発祥はイギリス、1991年)。ビッグイシューは、これまでどちらかと言えば“助ける側”と“助けられる側”とが分かれる構図だった社会課題に対し、ホームレス状態にある人に直接販売員になってもらうことで課題解決を図った点が、これまでにない活動形態でした。この考え方は、のちに「HUBchari」(2010)、「BABAラボ」(2012)などに発展していきます。

その他にも、高校生を対象にしたキャリア教育プログラムから始まり、教育支援でも大きな成果を上げている「カタリバ」(2001)、子どもの人身売買を防止する国際NGO「かものはしプロジェクト」(2002)、病児保育を基盤に政策提言などでも成果を挙げている「フローレンス」(2004)、途上国のものづくりを先進国に届ける活動を展開する「マザーハウス」(2006)なども生まれました。これら以降、事業を基盤にした活動が大きく増えていきますが、NPO法人グリーンズも、そのひとつと言えると思います。
 

鈴木菜央(すずき・なお)
greenz.jp編集長/NPOグリーンズ代表理事
76年バンコク生まれ東京育ち。2002年より3年間「月刊ソトコト」にて編集。独立後06年ウェブマガジン「greenz.jp」創刊。07年よりグッドアイデアな人々が集まるイベント「green drinks Tokyo」を主催。メディアとコミュニティを通して持続可能でわくわくする社会に変えていくことが目標。著作に『「ほしい未来」は自分の手でつくる』

第1章「ソーシャルデザイン進化論」のコラム連載はこちら

【第1回】「ソーシャルデザインってなんだろう?」(11/14公開)
【第2回】「ソーシャルデザインはどこから生まれた?」(11/15公開)
【第3回】「ソーシャルデザインはいつ多様化した?」(11/16公開)
【第4回】「greenz.jpが生まれたのはどんな時代?」(11/17公開)
【第5回】「東日本大震災をきっかけに、何が生まれた?」(11/18公開)

「ソーシャルデザイン白書2016」を読みたくなった?

この記事でご紹介している「ソーシャルデザイン進化論」ほか、ソーシャルデザインの過去・現在・未来を1冊にまとめた『ソーシャルデザイン白書2016』は、People’s Booksチームが、これまでの以上の苦難を乗り越えて手がけた本です。「気になる、読んでみたい!」という方は、これを機に「greenz people」に参加してくださると嬉しいです。そして、本を手に取りながら、一緒にソーシャルデザインについて考えませんか?

『ソーシャルデザイン白書2016』の目次

■第1章 ソーシャルデザインの歩み
ソーシャルデザイン進化論 by 鈴木菜央(greenz.jp編集長)
■第2章 ソーシャルデザインの現在地
暮らし×ソーシャルデザイン by 増村江利子(greenzシニアエディター/シニアライター)
選択×ソーシャルデザイン by 赤司研介(greenzシニアライター)
未来へ残す言葉×ソーシャルデザイン by 磯木淳寛(greenzシニアライター)
自分らしさ×ソーシャルデザイン by 池田美砂子(greenzシニアエディター/シニアライター)
スタディ×ソーシャルデザイン by 兼松佳宏(greenzシニアエディター/シニアライター)
移住×ソーシャルデザイン by 平川友紀(greenzシニアライター)
パーマカルチャー×ソーシャルデザイン by 鈴木菜央(greenz.jp編集長)

■第3章 ソーシャルデザイン 未来への仮説
対談:暮らしの未来[わたなべあきひこ×徳永青樹×増村江利子] by 石村研二(greenzシニアライター)
対談:言葉の未来[島田潤一郎×磯木淳寛] by 新井作文店(greenzシニアライター)
対談:スタディの未来[中原淳×兼松佳宏] by 兼松佳宏(greenzシニアエディター/シニアライター)
対談:日本の未来[鎌田華乃子×鈴木菜央] by 村山幸(greenzシニアライター)


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greenz peopleご入会と本が届くタイミングについて

11月30日までの入会で、12月15日頃にBooksをお届けします!お早めにご入会ください◎