ISSUE☆グリーンズ企画 マイプロものがたり

1 year ago - 2015.03.16

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おばあちゃんの職場づくりと、“孫育てグッズ”市場拡大の両輪を目指す。「BABAラボ」桑原静さんの、未来に向けた決意

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(撮影:服部希代野)

ソーシャルデザインの担い手を紹介する「マイプロSHOWCASE」スタートから約3年。greenz people(グリーンズ寄付会員)のみなさまの会費をもとに展開する新連載「マイプロものがたり」は、多くの共感を集めたマイプロジェクトの「今」を伝える、インタビュー企画です。

お年寄りがいくつになっても、楽しく働ける場を提供したい。

そんな思いから始まったのが、「BABAラボ」。おばあちゃんや若い子育て中のお母さんたちが集まり、楽しくて使いやすい子育てグッズをつくっています。

2012年3月にこちらの記事で紹介した際はまだ始まったばかりの活動でしたが、あれから3年。久しぶりに訪れたラボにはスタッフも増えて、ますますにぎやかな職場になっていました。

商品も増え、昨年は「抱っこふとん」がメディアで取り上げられるなど、少しずつ世に出始めています。代表の桑原静さんに、3年間の歩みとこれからを伺いました。
 
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桑原静(くわはら・しずか)
2011年さいたま市でコミュニティビジネス等の地域に根差した仕事づくりを応援する「シゴトラボ合同会社」を設立。コミュニティビジネスの現場として、高齢者が働くものづくりの職場「BABAラボ」をさいたま市南区で運営。広域関東圏コミュニティビジネス推進協議会幹事。

赤ちゃんからおばあちゃんまでが集う、にぎやかな職場

埼玉県中浦和駅から徒歩8分。閑静な住宅街の一角にBABAラボはあります。中へ入ると、動物柄のTシャツやカラフルな商品がぎっしり。朝からカタカタとミシンの音が鳴り、すでにラボの日常が始まっていました。
 
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以前に比べて大きくなった看板。

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スタッフの手づくり品で商品も増えました。

2011年の秋に、BABAラボを立ち上げたのが、桑原静さん。おばあちゃんっ子だった桑原さんは、都市で孤独に暮らすお年寄りが、いつまでも楽しく働ける場を提供しようと、“お年寄りでも使いやすい孫育てグッズ”の工房を始めました。

既存の子育てグッズはお年寄りには使いにくいものが多いと感じていた桑原さん。腕や腰の力が弱くなった人でも赤ちゃんを抱っこしやすい「抱っこふとん」や、子どもが握りしめたくなるしっぽの付いたバッグなど、高齢者でも使いやすいアイデア商品を生み出してきました。
 
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しっぽをにぎってお出かけできる「しっぽトート・ヘビ」

スタッフは登録制で、仕事を行うのは在宅でも工房でもOK。その働きやすさから、おばあちゃんだけでなく、若い子育て中の女性も多く集まり、今ではスタッフも50名にのぼります。商品ひとつの制作につき300円から多い人は月に5万円ほど稼ぎます。

ラボを訪れる日も時間帯も自由。ふらりと立ち寄ったついでにみんなとお茶を飲んだり、作業の合間に子どもと遊んだり。それでも「ただ遊びに来るのではなく、みんながきちんと役割を持っているから、気兼ねなく訪れることができる」と桑原さんが言うように、みんな活き活きと働いています。
 
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赤ちゃんから3〜4才の子ども、お母さん、おばあちゃんが集まる職場。

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桑原さんのお母さんの秀子さんが製造チーフ。品質管理に務めます。

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イタリアのトッポンチーノにヒントを得てつくった「抱っこふとん」。

今では、商品の種類もずいぶん増えました。なかでも「抱っこふとん」は、「これがあると首のすわっていない赤ちゃんでも抱きやすい」と評判で、昨年は2度もテレビで取り上げられ、年間で500個以上が売れました。

桑原さん 売れることももちろん嬉しいのですが、実際に使ってくれたお客さんから、手紙をいただくことがあるんです。「腕が悪い自分でも、孫を抱くことができました」って。

自分たちのつくったもので、喜んでくれている人がいるとしたら、それが一番嬉しいですね。

一方で、急に大量の注文が入って大変な思いをした経験から、在庫をストックするようにして、スタッフの増強もはかりました。以前に比べてしっかりした組織になっている様子です。
 
06_MG_2852ラボの2階には制作スタッフとは別に、通信販売や商品管理を担当する事務員が4人。みんな子育て中のパートさん。

07_MG_2850在庫管理もしっかりするように。

しっかりとしたコミュニティは、一朝一夕ではできない

商品が売れ始めている以上に、コミュニティが安定してきたことが、この3年間の一番の成果、と桑原さんは言います。

もともとBABAラボは、事務的に仕事を発注して制作してもらうような職場ではなく、楽しみながら働ける場づくりを目指してきました。お金以外にも、心の充足や生きがいを感じてもらえる職場にしたい。そのためにはコミュニティがとても重要だったのです。

桑原さん 初めの頃はたくさん人が訪れても、一度きりで来なくなってしまう方も居ましたし、入れ替わりが激しくて、なかなか人が定着しないのが悩みでした。今では長く通ってきてくれる人も増えて、ようやく形ができてきたと思っています。

当初から、コミュニティづくりには3年以上かかると考えていたという桑原さん。一体どんな工夫があったのでしょう?

桑原さん たくさん人が集まれば、それだけいろんな事情を抱えた人がいます。身体が丈夫でない人もいれば、家庭に事情がある人もいる。なるべくそうした個々の事情をみんなと共有するようにしてきました。

その方が本人も安心して続けられるし、大変なときは周りが気遣うこともできますから。

また、世代が離れた人との交流を大切に思う人が増えたのかもしれない、と言います。

若い方など、両親が遠くに居てなかなか会えないので、その子どももおじいちゃんやおばあちゃんを知らないまま。でもここへ来ればたくさんのおばあちゃんに可愛がってもらえます。
 
08_MG_2678子どもたちも、おばあちゃんのお裁縫のお手伝い。

09_MG_2830裁縫の得意な、足立芳子さん。

少し離れたエリアから電車に乗って通う70代の女性もいます。

現役時代から裁縫の仕事をしてきた、足立芳子さん。

足立さん ちょうど3年前に主人を亡くしましてね、一人で家に居ても暗い気持になるだけだから。娘が新聞でここのことを見つけて教えてくれて。少し遠くても行ってみたらって。おかげで今はとっても楽しく仕事させていただいています。

足立さんは、BABAラボにとっても今ではなくてはならない存在。頼りにしたりされたりで、みんなが少しずつ、やりがいや、心の張りをもらっているのかもしれません。

桑原さんの実のおばあさんの絹子さんも、毎回工房に顔を出すのを楽しみにしています。

絹子さん 初めは、私なんかついていけるのかなと思っていましたが、今はみんなより早くここへ来て、お部屋をあたためたり、お茶を入れるのが私の仕事です。

ここへ来ると、小さな孫がたくさんできたみたいでほんとに楽しいですよ。私の部屋は、子どもたちからもらったプレゼントでいっぱいです。

10_MG_2827桑原さんの実のおばあさんの絹子さん。

11_MG_2671絹子さんのつくる可愛い布でくるんだ洗濯バサミは、お客さんへのサービスの品として商品とともに送られます。

できる人ができることをやって共に働く。BABAラボのなかでは、そんな共生が小さく実現しています。

おばあちゃんの雇用創出と、ビジネスの狭間で

コミュニティが形になってきたと感じている一方で、会社全体の売上も月に約80〜200万円と以前に比べるとずいぶん成長しましたが、プロダクトだけを見ると「まだまだ。波があって経営が安定していないことが次の課題です」と桑原さん。

できることなら将来、BABAラボのような拠点を他にもっとつくりたいと考えていますが、そのためには、プロダクトも今の規模以上に販売していかなければ維持できません。

ところが、そこにはBABAラボの存在意義にも関わる、大きなジレンマがありました。

桑原さん スタッフの雇用を守るには、裁縫など手でできる仕事が必要です。でも手づくりの品はつくれる数に限りがあり、大量生産される商品に比べて、市場を広げるのがとても難しかったのです。

ビジネスのことを考えれば、工業製品化して販路を広げていくのがまっとうですが、BABAラボは、おばあちゃんたちに手しごとを提供する職場。その狭間で、桑原さんはずいぶん悩みました。

桑原さん 拠点づくりと、子育てグッズを売るという2つのことを同時にやろうとして、自分の中でもうまく整理できていなかったと思うんです。

プライオリティを考え続けてきて、ようやく答えが出ました。二段構えでいくことにしたんです。手づくりの製品はきちんと残して、おばあちゃんや女性の雇用と拠点づくりに生かす。

それ以外のプロダクトは、徹底して“高齢者が使いやすい”というコンセプトと機能性にこだわって工業製品化していく。この2本立てでやっていくことに決めました。

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工業製品の第一弾として、この秋に販売を予定しているのが「目盛りの読みやすい哺乳瓶」です。業者に発注して最低6000個以上をつくり、販路の拡大を目指します。この一歩は、これまでと違って、大きなリスクを伴うもの。

いつも大らかで笑顔の絶えない桑原さんですが、この選択はとても怖いことでもあると話してくれました。

桑原さん これまでは受注した分をみんなで手づくりする、リスクの少ない方法でしたが、発注して製品化するにはかなりの先行投資が必要です。試作やパッケージにもお金がかかります。

資金調達はできたとしても、その後お客さんに本当に買ってもらえるのか。悩んでも仕方ないんですが、やっぱり怖いですよね。寝ていても貯金残高がゼロになる夢をみて、ガバっと起きてしまうこともあります(笑)

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今まで足を踏み入れたことのない未知の世界。それでも今のBABAラボの維持と、新たな拠点をつくるために、桑原さんは今、大きな壁を越えようとしています。

多世代の女性が集う、交流と仕事の拠点に

今、BABAラボの2階には、レンタルサロンや共同オフィスのスペースも設けてあり、アロママッサージなど小さく起業してみたい主婦の方々に貸し出すサービスも始めています。

桑原さんの考える最終的な拠点とは、おばあちゃんだけでなく、あらゆる世代の女性が利用できるもの。BABAラボの隣には、もともとコミュニティカフェもあり、この界隈が、近隣の女性の集いの場となっています。
 
13_MG_2921お隣のカフェも、いつもお母さんたちでいっぱい。

14_MG_2889お昼の時間になると、賄い担当の方がつくる食事をみんなで一緒にいただきます。おばあちゃんにお母さん、子どもたちがみんなで食卓を囲む様子は大家族さながら。

人生には子育てや老後など、さまざまなライフステージがあります。だからこそ社会には、BABAラボのようなあたたかくて働きやすい職場があった方がいい。

そう思うからこそ、桑原さんは規模を拡大して勝負することを決めました。この決意が、BABAラボの未来、ひいては多くの女性の未来を支えることになるのかもしれません。

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甲斐 かおり

甲斐 かおり

greenz シニアライター 編集・企画・執筆。地域コミュニティ、モノづくり、里山・郷土文化、農業をテーマに取材し、雑誌やwebで書いています。greenz.jpではコミュニティ、町づくり、「地域からの発信」を主に。『TURNS』『ソトコト』『自然栽培』ほか。 twitter: @karorirorin Facebook:甲斐かおりページ

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