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貧しさは、命を諦める理由にならない。バリ島で、24時間365日無料の産科医療を提供し続ける「ブミセハット助産院」から学べることって?

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この記事はグリーンズで発信したい思いがある方々からのご寄稿を、そのままの内容で掲載しています。寄稿にご興味のある方は、こちらをご覧ください。

どんな人でも、どんな宗教の人でも、どんな病気の人でも、24時間365日無料で医療サービスを受けられる助産院がインドネシア・バリ島にあります。無条件・無料というだけでも特別ですが、それだけではありません。ここ「ブミセハット助産院」は、助産院の概念を超えたスーパーな助産院なんです!

もともとは助産師のロビン・リムが貧しく助けが必要な妊婦さんのために無料でお産のサポートをする個人の活動でした。しかし、地域コミュニティのあらゆる要望を聞いていくうちに一般医療や巡回医療を施すようになり、やがて助産師育成などの青少年の教育や奨学金の提供、高齢者のヨガ教室などさまざまなサービスを展開。インドネシアやフィリピン、ハイチ、ネパールなどの被災地で産科医療の提供も行います。

これまでの20年間でおよそ8,000人の赤ちゃんをこの世に迎え、1年で220,000人の患者さんの相談を受けるほどの活動に発展しました。

しかも、これらの活動を支える費用はすべて世界中からの寄付によるもの。その点でも「スーパー」であると言えるでしょう!
 
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インドネシア バリ島ウブドにあるブミセハット助産院。

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創設者のロビン・リム(中央)を囲むたくさんの助産師と支援者たち

ロビン・リム
ブミセハット助産院創設者。1956年フィリピン生まれ。アメリカ人の父とフィリピン人の母を持つ。ハワイで教員を勤めた後、36歳でバリへ移住し、NGOブミセハットを設立。2011年、CNN「ヒーロー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。19冊の著作がある。8児の母。

命の大切さを尊重する助産院

ロビン・リムがブミセハット助産院を創設したのは、実の妹とその娘を妊娠による合併症で亡くすという悲しい経験がきっかけでした。

適切な処置を受けていれば救えた命は、多忙で診てくれる医者がいなかったことで最悪の事態に陥ってしまったのです。悲しみを癒すためにすべてを捨ててバリ島へ渡ったロビンでしたが、そこでさらに厳しい現実に直面します。

ロビン 世界では、毎日800人以上のお母さんが亡くなります。人生で一番幸せであるはずの、その時に。しかも、その99%が途上国で起こっていて、特にインドネシアは貧困による栄養失調や劣悪な出産環境などの理由から、妊産婦の死亡率がアジアで最悪の水準だったのです。

この体験から彼女はひとつの答えにたどり着きます。〝救える命は救う〟。

すべての命は尊い、これがロビンの原点であり、ブミセハット助産院の多岐にわたる活動の根本となりました。
 
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ブミセハット助産院の医療方針は、患者と寄り添い続けること

ブミセハット助産院は提供する産科医療も特徴的です。

産婦さんに備わっている「生む力」と赤ちゃんの「生まれる力」を尊重し、自然になるべく逆らわない穏やかで丁寧なお産をサポートしています。

栄養失調の産婦さんの出産前後には、オーガニックビタミン剤による栄養サポートや鍼灸治療など漢方の代替医療を実践。出産は水中で行い、産後はロータスバース(へその緒をすぐに切らず、赤ちゃんが胎盤から必要な栄養を受け取るのを待つ方法)など、自然に近い方法を導入しています。

ロビン 子どもにとって、人生の一番最初の「学びの場」は子宮です。赤ちゃんを優しく無傷で迎え、トラウマなく生まれることこそが「愛する力」、「信じる力」を養うと考えています。赤ちゃんの人権を守るのです。

近年、産科医療の現場では途上国や先進国に関係なく、不必要な陣痛促進剤を用いて妊産婦の希望を無視した帝王切開を行うなど、医療の産業化と過剰な介入が問題視されています。

そんななか、ブミセハット助産院は自然に近いお産と育児を尊重することで、院内での母子死亡率や産婦の大量出血による事故を途上国平均よりはるかに低く抑えることに成功し、授乳成功率を高めるなど助産院として高いレベルの成果を残しているのです。

ひょっとしたら、先進国の医療より健康的で進んでるって思いません? 

救える命を救うだけでなく、現代医療よりもよい医療を実践することで、「命の現場」にイノベーションを起こしたブミセハット助産院の医療。世界中で共感を呼び、毎年多くの妊婦さんが海外からわざわざ駆けつけて出産するのも不思議なことではありませんね。
 
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水中出産で生まれたばかりの赤ちゃん。浴槽には花が浮かべられ、お母さんと赤ちゃんを優しく迎えてくれる

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(写真左)もともと栄養失調の妊婦が多いこともあり、オーガニックビタミン剤による栄養補助を受ける患者さんは多い。(写真右)その横ではお灸による治療を受ける患者さんも

医療は人権――バリのある夫婦の話

イェティと夫のムリオノの生活はとても貧しく、バリ島のスラム街に住んでいました。双子を授かったふたりは、無料で出産できるブミセハット助産院へ検診のために数時間の道を歩いて通っていました。

やがて陣痛の日を迎えたイェティはブミセハット助産院へ歩いて向かっていましたが、道中で産気づいてしまいます。周囲の助けを得て別の産院に運ばれたイェティは、そこで双子を出産。しかし、出産費用を半分しか払えなかったため、赤ちゃんのひとりを未払い費用の担保として病院に奪われてしまったのです。人身売買の恐れがありましたが、貧しいふたりにはどうしようもありませんでした。

そんな状況を偶然知ったロビンは、すぐに夫のムリオノを連れて産院へ行きましたが、時すでに遅く、赤ちゃんは売られてしまった後でした。そこで、ロビンは直ちに弁護士に依頼して赤ちゃんを探し出しました。その後、ジャワ島で無事に見つかり、ふたりと兄弟の元へ帰ることができたのです。

ロビンは言います。

ロビン 医療は人権です。もし医療が有料だったら、必然的に貧しい人が苦しむことになります。

ロビンにとって、救える命を救うためには、貧しさは命をあきらめる理由にはならないのです。
 
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CNNニュースの取材で当時の様子を語る妻のイェティ

貧しいことを理由に機会を失わない平等な社会づくり

ブミセハット助産院の「命の現場」のイノベーションは、貧しさによる不平等に立ち向かい続けます。貧しいから、健康をあきらめるのはおかしい。貧しいから、命をあきらめるのはおかしい…。彼らは命を育むうえで必要なことで、できることは何でも提供するのです。

交通費が払えない貧しい人や健康上の問題で足を運べない人のために往診を行い、ケガをした労働者には手当を施し、腰痛の高齢者には鍼灸のケアも行います。

貧しくて教育を受けられない青少年には、IT教育のプログラムや助産師育成プログラムを提供。大学で学ぶための奨学金制度だってあります。

出産後の夫婦が困っていれば衣類や食料の提供を行い、夫に仕事の紹介までします。子どもの診療も無料で行います。

ブミセハット助産院のすごいところは、ただ困っている人のために支援するのでなく、より良い方法を採用した支援を行い、20年以上地域を支える存在であり続けている点でしょう!

でもブミセハットは、助産院なのにどうしてここまでするのでしょうか? それは、ロビンのこの言葉に答えがありました。

ロビン 世界平和はひとりの赤ちゃん、お母さん、家庭から始まると信じているから。

健康的な母子を育むこと。それが人の心に愛を育み、健全な人間を育て、健全な社会を作り、その積み重ねが世界平和に繋がる。ブミセハット助産院は、命を育むために必要なあらゆる機会を患者さんたちに与えることで、平和な地域社会づくりに貢献しているのです。

ブミセハット助産院の取り組みは世界的に高く評価され、ロビン・リムは2011年、世界最大ニュースメディアCNNより「Hero of the Year」を受賞しています。
 
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IT教育を受けるブミセハットの女性たち。

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助産師を志望して集まる若者は後を絶たない。それもロビン(写真中央)の強烈なカリスマ性のたまもの

日本人がブミセハット助産院から学べること

最近は日本でも貧困の問題がニュースや話題に上がるようになりました。日本の人口の占める貧困層の割合は先進国で最悪の16%(120位)。なんとインドネシアの11.7%(137位)よりも劣悪な状況です(出典元)。ですから、ロビンとブミセハット助産院の取り組みは、「どこか遠くの別次元の話」なんかではありません。

日本のほうが経済は発展していて、モノは豊富にあるかも知れません。でも彼らは我々先進国の失敗を目の当たりにして、より良い方法を学んで発展しているということをもっと知るべきかも知れません。そして、何より命の大切さをいま一度考え直す必要があるのではないでしょうか。

ロビンの言う「お母さんと赤ちゃんを優しくケアすること」。これならなんだか、私たちにも明日からできそうな気がしませんか?
 
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ロビンとブミセハット助産院は、患者さんととことん寄り添うことがポリシー。出産前後だけでなく、赤ちゃんが大きくなっても、お母さんが高齢者になっても、そのケアは続いていく

ブミセハット助産院の今後

現在、ブミセハット助産院への需要は増える一方で、分娩室の外に陣痛中の妊婦さんの列ができることもあるほど場所も人も不足しています。そこで、いまの3倍以上の出産に対応できるようにするため、別の場所に新しいクリニックを建設中です。

産科医療棟はもちろん、一般病棟や代替医療室、薬局、助産師のトレーニングセンターのほか、青年たちが学ぶユースセンター、ヨガホール、オーガニックガーデンが一体となった施設を完成させ、世界中から集まる患者さんたちに対応していくそう。

これまでは限られたスペースで別々に行っていたことをひとつの大きな施設で行えるようにすることで、世界中の患者さんたちが交流し合い健全なコミュニティを作り上げていく…素敵な光景が思い浮かびません? まさに〝助産院の複合施設〟。より革新的なスーパー助産院の誕生へ期待で胸が躍ります。
 
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2018年完成予定の新しいブミセハット助産院の完成予想図。患者さんたちの理想郷にふさわしい、美しい外観

また、ブミセハット助産院は現在、世界中から来る「自国にもブミセハットを」という開設依頼の声に応えています。

人口40万人に対して病院が一つしかなく、妊産婦死亡率がインドネシア平均の3倍という西パプア。中国との領海争いで多くの赤ちゃんの命が失われているフィリピン・パラワン島。ギリシャのシリア難民キャンプが設置されたある地区からは、バスで動くモバイルクリニックの開設依頼なんてものもあります。

ロビンとブミセハットにできること、求められていることはまだまだたくさんありますが、人もお金も足りていないため対応しきれていないのです。

そのためにも本拠地であるバリ島で建設中の新クリニックを無事開院させることが先決です。なぜなら西パプアもフィリピンも働いてくれる助産師を招待して、育成しなければならないからです。

しかし、実際は足りない建設費をまかなうため、2016年度の運営費を切り崩し、寄付を募っています。ロビンはこの緊急事態のため本業を離れねばならず、講演や資金集めのため世界中を駆けめぐっているのです。

以前、記事で紹介したアース・カンパニーという団体がブミセハット助産院への支援金を受け付けています。ブミセハットの取り組みに、まずは寄付というかたちから参加してみるのはいかがでしょうか?
 
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院内で行列を作る患者さんたち。妊産婦さんから高齢者まで、毎日たくさんの人たちが駆けつけるため対応が追いつかないことも

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新設されるクリニックの模型を前にするロビン(右から2番目)

(Text: 上田洋平)