沖縄で里帰り結婚式を目指すチャペットさんと金城一樹さん
みなさんは「ピンクドット」というイベントをご存知ですか?
「ピンクドット」とは、「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー(性同一性障がいなどの出生時の体の性別に違和感のある人)=LGBT が、より生きやすい社会を!」という思いを持つ人たちが、ピンク色のものを身につけて集まり、その思いを社会にアピールするというイベントです。
日本では昨年7月に初めて「ピンクドット沖縄」として開催されました。
Facebookより
今年も7月21日に開催される予定ですが、そこでいま実現しようとしているのが、沖縄出身の金城一樹さんとチャペットさんという、カナダに在住する同性婚カップルの里帰り結婚式を挙げようという企画です。
現在クラウドファンディングサイト「READYFOR?」でその支援を集めている「ピンクドット沖縄」共同代表の砂川秀樹さんと金城さんに、里帰り結婚式への思いについてお話を伺いました。
沖縄での結婚式を決意するまでに
もともとピンクドットを始める前から、同性カップルを理解してもらうためのイベントを行いたいと思っていた砂川さん。世界中のゲイの生き方を紹介する「The Gay Men Project」に紹介されていた金城さんたちカップルを見て、彼の故郷である沖縄で結婚式を挙げるというアイデアを思いつきます。
砂川さん 地縁や血縁の濃い地域である沖縄出身の人でも、故郷で同性カップルとして表に出られるんだということを見せたいんです。そうすれば、地元や地方に住んでいる当事者の人たちを力づけることができるんじゃないかと。
そうやって同性カップルへの認知や理解が進み、同性カップルの挙式が当たり前になれば、その先にあるパートナーシップの法的な保護へとつながっていくはず。そう願う砂川さんが、金城さんにこの話を持ちかけたとき、金城さんが一番に考えたのは家族、特に母親のことでした。
金城さん 母親もその意義には賛同して、応援もしてくれると思うんですけど、実際こうやってインタビューを受けたり、新聞に出たりとなると、どうしても人の目が気になるのではと思うんです。
同性愛に関する本を読んだりして頭の中では理解していても、実際にそれが自分の子どもの話となると、なかなか受け入れるのが難しいこともある。今の日本社会の現状から考えると、それもいたしかたないことなのかもしれません。
同性カップルが認められることの意味
金城さんとチャペットさんは、この6月で結婚10年。ふたりが出会ったのはアメリカですが、当時のアメリカでは同性婚は認められておらず、とりあえず形だけでも残そうと、カナダでの結婚に踏み切ります。それは結婚式も披露宴もない、ただ書類だけのものでした。
当時金城さんは、日本でアルバイトをしてお金を貯めてはアメリカに行ってチャペットさんと過ごすという、往復生活を繰り返していたそうです。アメリカで一緒に暮らす術を探していましたが、同性婚ができないため実現できませんでした。
状況が変わったのは、チャペットさんがカナダで仕事を見つけたとき。一緒に暮らせるように会社に交渉すると、「あなたを雇うんだから、もちろんあなたの家族も連れてこないといけないでしょ」と、配偶者扱いで金城さんもカナダで一緒に暮らせることになったのです。
金城さん 手元にあったのは2枚の証明書だけでした。旦那がカナダで就職したという証明書と、カナダで結婚したという結婚証明書。そのふたつだけを持って移民局に行ってビザの申請をしたら、何を問われることもなく、ビザがプリントされたんです。
カナダで結婚したカップルとして、幸せに暮らすふたり
カナダでは10年も前に、同性カップルが自然に一緒に暮らせる社会ができていました。今や、アメリカでも州によって同性婚が認められているなかで、日本では同性婚はおろか、同性カップルには全く法律上の保護はありません。
このような現状のせいか、残念ながら日本では、同性の恋人やパートナーがいても、「隠すのが当たり前」と思っている人が多いそうです。砂川さんは、「それは同性カップルが異性愛のカップルのように、自分たちの関係が周りから祝福されること自体をイメージできないから」と言います。
砂川さん自身、街中で恋人と手をつなぎたいと思うほうではないと言いますが、東日本大震災の日、帰宅難民となって不安な気持ちで何時間も一緒に恋人と歩いて帰る間、「お互いが手をつなぎたい」と内心思っているときでさえ、手をつなぐことはできなかったそうです。
砂川さん 震災の経験で思ったのは、欲望もイメージできないとつくれないということ。手をつなぎたいという気持ちは、手をつなげるという状況がない限り、生まれないんですよね。
それは結婚式も同じで、自分と同性パートナーとの関係を周りに祝ってもらいたいという欲望を、イメージできることが大切なんだと思います。
自分と大切な人との関係を祝福してもらうことがどれだけ幸せなことか、異性愛者の人には考えるまでもないことでしょう。だからこそ、幸せな同性カップルの結婚式を目にすることは、当事者がこれまで知らなかった、異性愛者にとっては当たり前の幸せを、新たに得られるきっかけになるかもしれません。
結婚式を通じて若い世代を励ましたい
今回のクラウドファンディングにあたって、金城さんはこんな決意を話してくれました。
金城さん メディアに出れば、賛否両論、いろんなことを言ってくる人はいるだろうと思いました。ただ、それが怖いからと黙ってしまうと、マイノリティのことだけじゃなくて、世の中のいろんな不都合なことが、前に進まないじゃないですか。
だからこそ、これからの世代の人たちに、同性婚という形もあることを表に見せていかないと、僕が気持ちの整理ができなかったように、悩んじゃうと思うんです。
実は金城さん自身、若い頃に沖縄出身のゲイの男性がラジオに出ているのを聞いて、強く励まされた経験を持っているそうです。今度は、自分が表に出る番。そうやって、若い世代を励ましたいと考えています。
若い頃は、今のような幸せなふたりの生活を想像するのは、むずかしかった
また、20歳ぐらいで沖縄を出て外国に行ったとき、そもそも同姓でも結婚できるということ、街中を手をつないで歩いても誰も気にしないということ、「その自由な雰囲気を肌で感じた」と金城さんは言います。
社会が変わっていくために、当事者だけでなく、一般の人に対しても、自分たちを見てもらうことに意味があると自覚しているようです。
金城さん テレビに出ているような人たちだけでなく、自分たちみたいに普通に一般社会で暮らしている同性愛者の人たちがいる。そのことを知ってもらうことで、もっとLGBTのことが伝わると思うんです。
あとは子どもを持つ親の人たちにもアピールできるといいですね。僕の友達にも子どもがいらっしゃる人が増えていますが、きっとその中にもゲイやレズビアンの人たちがいます。いつか子どもが悩んでしまったり、カミングアウトしたりしたときに、僕らの式やイベントを見て考えたことが役に立つといいですね。
お金以上の力を持つ、クラウドファンディングへの支援
クラウドファンディングがスタートしてから、順調にたくさんの方の支援が集まっていますが、「単純に金額だけのことではないと思うんです」と砂川さんはいいます。
砂川さん いろんな人が応援してくださればしてくださるほど、応援の意志を表明していただいたことになるわけだし、そのこと自体に励まされます。
もし当事者の人で、結婚式についてネガティブなイメージを持っている人が、これだけたくさんの人が応援しているとわかれば、それは大きな意味を持つはずです。それこそ、クラウドファンディングで資金を集める意義だと思います。
もちろん結婚式の実現には資金が必要ですが、支援することで、実現に向けてだけではない、大きな力を与えることができるのですね。
昨年のピンクドット沖縄の様子。このピンク色に包まれた、ふたりの幸せな結婚式が行われるように。
7月21日に向けて、準備を進める金城さんとチャペットさん。当事者やそうでない人、多くの人に見てもらいたいと思いながら、金城さんはそれとは別に、ひとつの願いも持っています。
金城さん 母親が来るかどうかはまだわかっていないんです。でも来てくれるのであれば、一番前の席を用意したいですね。やっぱり親には一番いい席で見てもらいたいので。
結婚式を自分の親に見てもらうという、異性愛のカップルにとって当たり前のことが、同性愛のカップルにも当たり前になる日がくるように。金城さんとチャペットさんの結婚式は、そんな日への確かな一歩になるはずです。