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みなさんが北欧と聞いて、まず最初に思い浮かべるものは何ですか?
オーロラや白夜、デザイン性に優れたインテリアや教育水準の高さなど、魅力的な点がたくさんあり、みなさんも一度は北欧で暮らしてみたいと思ったことがあるかもしれません。
今回ご紹介するのは、そんな北欧にあるスウェーデンの都市・マルメ。ご存知の方は少ないかもしれませんが、マルメはスカンジナビア半島の南西部に位置し、スウェーデンの中ではストックホルム、ヨーテボリに次いで3番目に人口の多い都市です(約28万人)。
歴史的な建造物が数多く残されているほか、バイオテクノロジーやIT企業などの誘致も盛ん。2000年には、デンマークの首都・コペンハーゲンと鉄道橋兼海底トンネル「オーレスン・リンク」で結ばれたことでも知られています。
またマルメは近年、環境に配慮したサステナブルな都市としても注目を集めており、2007年には、アメリカの環境問題を取り扱うオンラインマガジン「グリスト」誌が選ぶ「15のグリーンな都市」で第4位にランクインしています。
そんなマルメの街づくりは、市民が主体となって、持続可能なエコシティを目指して進められました。
電力の100%を再生可能エネルギーでまかなうウェスタンハーバー地区
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マルメのエコな街として最初に挙げられるのが、海岸部に位置する「ウェスタンハーバー(Western harbour)」地区。この地区は1990年代まで、基幹産業であった造船業の影響で環境汚染が深刻となっていましたが、現在はオフィスビルや住宅の立ち並ぶ暮らしやすい空間へと生まれ変わっています。
ウェスタンハーバー地区の再開発の特徴は、全面的なエネルギーの見直しを行なったこと。現在、この地区で利用されているエネルギーの100%が、太陽光や風力、水力や地熱などの再生可能エネルギーによってまかなわれています。新しい建物は、これらのエネルギーを効率よく変換できるようデザインされており、「ヒートポンプ」と呼ばれる、地下の帯水層から熱をくみ上げ、冬場にそなえて熱を蓄える装置も備えつけられています。
また再開発をきっかけに、ウェスタンハーバー地区のすべての家庭には、移動式の生ゴミ処理機が支給されました。生ゴミは家庭で粉砕されて、マルメの廃棄物処理会社「SYSAV」までトラックで運ばれ、有機物はバイオガスへ変換、残りは焼却されて発電のために使われているそうです。
市民と企業がタッグを組んだエコシティ「アウグステンボー」
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1998年に始まった「Ekostaden Augustenborg(アウグステンボー地区のエコ・シティ化)」は、マルメのアウグステンボー地区における主に環境面でのサステナビリティ向上を目指したプロジェクト。政府の地方投資プログラムによるサポートと、マルメ市と住宅金融会社「MKB」の財政援助を受けて進められました。
このエコシティ化プロジェクトのテーマは、市民に主体的にこのプロジェクトに参加してもらうこと。さらに市民だけではなく、アウグステンボー地区の学校や会社に通う人たちも巻き込んで、街をより快適にするためのアイディアやデザインについての話し合いが行なわれました。
そこで問題として挙がってきたのが、大雨が降ったときに起こる地下と駐車場での洪水。この再発を防ぐために、緑の屋根と貯水池につながった防災用の水路が市民によって提案され、MKBの支援により実現されました。結果として、災害時の雨の90%が水路へと流れ込み、洪水の被害が減ったほか、街は緑が増えたことでより美しい景観になり、豊かな生物多様性の実現にもつながりました。
車と自転車のエコな共存を目指す取り組み
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また、マルメは自転車に優しい街としても知られており、470kmに及ぶ自転車専用レーンが整備されています。この距離は、スウェーデンの都市の中では1番で、自転車文化の根付いている姉妹都市・コペンハーゲンよりも長いのだとか。全移動手段の約30%、通勤・通学手段としては約40%を占めるほど、自転車の利用者が多い都市です。
自転車を優遇する取り組みももちろんあり、例えばマルメの28カ所の交差点には、自転車が近づくと(車の通行が少ない場合に限って)信号が優先的に青に変わるセンサーシステムが導入されています。
とはいえ、車だって現代社会には必要不可欠なもの。マルメでは環境への負荷をできるだけ減らすため、車の燃料に食品廃棄物からつくったバイオガスの利用を推進しており、すでに市内のバスは天然ガスとバイオガスで走るハイブリットカーになっているそう。2015年までには、マルメ市内のすべての車両が、バイオガスと電気と水素だけで走ることを目標としています。
歩行者、自転車、車がそれぞれ快適に通行できる工夫がなされています。
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市民が主体性を持って街づくりに参加することで、愛着のある住みやすい街に生まれ変わったマルメの事例は、私たちが暮らす街の参考にもなりそうですね。私たちが住んでいる街に直接関われる機会は少ないかもしれませんが、まずは「道ばたに落ちているゴミを1つ拾ってみる」といったような小さなことから、街との接点を増やしてみてはいかがですか?
(Text:細貝太伊朗)
[via CLIMATEACTION,Malmö stad]