greenzではこれまでも再生可能エネルギーについていろいろと考えて来た。次々に新しい技術が生まれ、再生可能なエネルギーの可能性はどんどん広がっているように見える。しかし、再生可能エネルギーだけで私たちの社会が必要とする熱量をまかなうことができる未来はまだまだ見えてこない。だが、特定の地域に限ってみればそれをすでに実現してしまっているところもあるのだという。「エネルギー永続地帯」と呼ばれるそんな地域の実態を見てみよう。
「エネルギー永続地帯」とは、千葉大学の倉阪秀史教授を中心とした研究グループが提言する概念で、「その区域で得られる再生可能な自然エネルギーによって、その区域におけるエネルギー需要のすべてを賄うことができる区域」のことを言う。
ここで再生可能エネルギーとは、太陽光・風力・地熱・小水力・バイオマスを指し、それら電力によって地域に必要な電力をどれくらいまかなっているかを供給可能率という数値で表している。そして、それが100%を越えていればエネルギー永続地帯であるということになるわけだ。
今のところその数値化の対象は電力に限られているが、とにかくそんなエネルギー永続地帯が、市町村単位でみると日本に76あるという(2007年7月現在)。
ランキング5位まではこちら。
1位 福島県河沼郡柳津町
供給可能率 3290%
主要電源 地熱2位 大分県玖珠郡九重町
供給可能率 3123%
主要電源 地熱3位 群馬県吾妻郡六合村
供給可能率 1333%
主要電源 小水力4位 青森県下北郡東通村
供給可能率 1269%
主要電源 風力5位 熊本県球磨郡五木村
供給可能率 907%
主要電源 小水力Sustainable Zone「 100%エネルギー永続地帯一覧 」より
ご覧の通り、3000%を越える上位2つは福島県河沼郡柳津町と大分県玖珠郡九重町、共に大規模な地熱発電所があり、それが数値を押し上げている。だが全体的に見ると70%以上が小水力発電所(1万kw以下で水路式・流込み式の発電所)を持つ市町村で、日本に地形が小規模水力に適しているということが見て取れる。
「なるほど日本の再生可能エネルギーも捨てたもんじゃない」と思うが、ちょっと立ち止まってこのエネルギー永続地帯という概念や供給可能率という指標が意味しているものは何か考えてみよう。
このエネルギー永続地帯という考え方には2つの問題点があると思う。1つは単位の問題。ここでは市町村を単位としているわけだが、この単位を都道府県に置いた場合、供給可能率は最高でも大分県の30.8%であり、10%以上なのも9県しかない。さらに、日本全体を考えると、供給可能率はわずか3.35%にとどまる。つまりこの3290%という数値はデータを市町村という単位で切り取ったからこそ出てきた数値であるということだ。
もう一つの問題は一つ目にもかかわってくるのだが、この数値と実際の取り組みとの関係である。供給可能率が100%以上という数値は必ずしもその自治体のエネルギー政策の結果ではなく、電力会社によって発電所の建設地として選定されただけという場合も多い。つまり供給可能率が高ければすなわちエネルギー先進地域とは言えないということである。
したがって、ここで示された数値だけを取り上げてこの自治体はよくてこの自治体はダメだと言ってもあまり意味もないということだ。
しかし、エネルギー永続地帯があるのは確かなことであり、それはこの供給可能率という考え方をさまざまな切り口で見ていけば、日本においてエネルギー先進地域となりうるような場所を発見しうるということを意味している可能性もある。そしてそのような場所に適切な制度を導入すれば、ある種のモデル地区が生まれるかもしれないのだ。
わかりやすく上位2つの福島県河沼郡柳津町と大分県玖珠郡九重町について考えて見ると、このふたつの地域はともに豊富に温泉が湧き出る。地熱発電と温泉というのが結びつくというのは理解しやすいアイデアだ。そして、もし地熱発電というエネルギー産業と温泉という観光産業を結びつけることができれば、そこにエネルギーの自給が可能なコミュニティが誕生するかもしれないとは考えられないだろうか。
たとえば、地熱発電所を中心に電車で各温泉をつなぎ、ガソリン車の乗り入れを禁止して、温泉地内の移動手段は電気自動車に限定する。観光地内の交通手段を電気に限るというのはスイスのツェルマットなどでもすでに行われており、そのような施策は総じて観光地としての価値を上げるから、なかなかいいアイデアだと思うのだが…
重要なのは、「こんなすごいところもあるんだね」というだけで終わらず、それをどう利用してサステナブルな社会を築いていくのかを考えることだ。そうすればこういった指標やデータといったものから新たな可能性が見えてくる!
まずは地熱発電温泉リゾートをぜひ!
近くの小水力発電所を探す