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「有機って面白い!」が環境への意識を育む。つくり手と食べ手をつなぐ「亀岡オーガニックアクション」が、行政も市民もごちゃまぜで活動する理由

あなたは今日、どんな食事を食べましたか?
スーパーやコンビニ、飲食店やデリバリーサービスなどが普及した現代では、さまざまな種類の食を早く・安く・簡単に楽しめます。一方で、その食材は誰がどのように育てたのか、その食材を食べることが環境にどんな影響があるのか、その背景や未来までを想像することは簡単ではありません。

そんな状況を考えなおすために、京都府亀岡市では「亀岡オーガニックアクション(以下、亀OA)」という取り組みが始まっています。「オーガニック」「有機農業」という言葉を無縁に感じる人もいるかもしれません。しかし、そこには食にとどまらないさまざまな分野につながる学びや視点がたくさんあります。

かつて反対する人も多かった有機農業への共感者を少しずつ増やし、今では官民手を取り合って活動する亀OA。理事を務める片本満大(かたもと・みつひろ)さんと、亀岡市職員として関わる荒美大作(あらみ・だいさく)さんに、活動への想いや取り組みについて伺いました。

片本 満大(かたもと・みつひろ)さん<写真右>
亀OA・共同理事。モトクロスライダーとして活動中に競技練習中に怪我を負ったことを機に、2018年に亀岡市で農家に転身。「かたもとオーガニックファーム」の屋号で、自然農法で年間約80品目の野菜を育てる。
荒美 大作(あらみ・だいさく)さん<写真左>
亀岡市 産業観光部 農林振興課 副課長兼有機・食農推進係長事務取扱。亀OAの行政窓口を担当する。有機農業への関心から出した農林振興課への異動希望が叶い、2021年より同課に勤める。

オーガニックから、食のつくり手と食べ手の関係を見つめなおす

2018年に亀岡市で就農し、現在約200アール(約20,000㎡)の田畑で農業を営む片本さん。農業を志すきっかけは幼い頃の原体験にもあったといいます。

片本さん 父親が家庭菜園をやっていたんですが、できすぎたトマトを使って無水カレーをつくった日がありました。そのカレーが飲食店の味かと思うほどの美味しさで、“手づくりのものは美味しい”という感覚がその頃からありました。

幼い頃から野菜好きだった片本さん。体にいいことは進んでやりたい性格だったそう

大学生の頃やサラリーマンとして働いていた当時も、趣味で家庭菜園を楽しんでいた片本さん。当時は、本やテレビなどで野菜の育て方を勉強し、化学肥料も使いながら野菜を育てていたといいます。農家となった現在は、片本さんの畑では「自然農法」を取り入れています。有機農法と自然農法は、どちらも化学物質を使わず自然に近い環境での栽培を目指しますが、大きな違いは農薬や肥料を使用するかどうか。有機農法では自然由来の農薬や肥料であれば使用する一方で、自然農法ではそれらを一切使用しません。

栽培の基本は、自然をお手本にすること。一般的に販売されている土は雑草が生えないよう焼かれて無菌状態にされていますが、片本さんの畑や苗には雑草が共生していました

さらに、片本さんの畑では落ち葉や雑草を大量に集めて積み上げ、微生物などが時間をかけて分解することで生まれる土を畑に撒いているのだそう。一般的にゴミとして捨てられてしまう落ち葉や雑草でさえも、片本さんの畑では資源として循環します。

落ち葉と草からできた土は、サラサラとした手触りでとても軽く、匂いもしません

そんな自然をお手本にした農法や土づくりとの出会いは、京都府京丹後市にある梅本農場でのことでした。

片本さん 梅本農場では、山で集めた大量の落ち葉や草からできた土を畑に撒いて野菜を育てていたのですが、肥料を使っていた当時の僕には信じられなくて。そこで一度自分の家庭菜園でもやってみたら、野菜もちゃんと育つしやりがいもあって。

その頃から、世の中の見方が少し変わりました。広告の商品を見ても「本当に良いものなのか?」と考えるようになったんです。食べ物についても、自分が食べていた野菜が全て身体や環境にとって良いわけではないと知り、衝撃を受けて。その点、自然農法なら環境にも良く、自分がとても気持ちよく取り組める。将来は自然農法で農業をやろうと決めました。

かつての日本では、各世帯で家族が食べる分だけの野菜を育て、足りない分を農家さんや八百屋さんから買っていました。しかし、戦後から効率や利便性を追求し、今では食のつくり手と食べ手が分断された状態に。亀OAが始まる背景には、そんな食のあり方への課題感もあったといいます。

片本さん ゴミを捨てたり川を汚したりすると、やがて自分たちが食べる農作物にも影響します。分業化には、そんな環境への意識や感覚を薄れさせる側面もあると思うんです。もちろん分業の恩恵もありますが、つくりすぎて食材が余っている今の状況を踏まえると、食のあり方を見直す時が来ていると思うんです。

理想は、一人ひとりが食べる分の野菜を自分の畑で育てること。そんな社会を実現したい想いがあります。

前職の会社を退職後、38歳で就農した片本さん。自然農法との出会いで自身の考え方が変わったこともあり、「環境負荷の少ない有機農法や自然農法を地域に広めることで、食の選択肢を増やしてほしい」という想いが当時からあったといいます。

そんな折、片本さんは亀岡市内で総合地球環境学研究所が主催していた「食と農の未来会議」に参加。有機農業のテーマのもとに、農家や八百屋など計40名ほどの人が集まったといいます。そこで、のちに亀OAの共同理事を務める京都大学農学研究科教授の秋津元輝さんと、亀岡市で有機農業を営む大江広一郎さんに出会い、意気投合。2018年から一緒に活動することになった3人は、「亀岡をオーガニックのまちにする」という合言葉を掲げ、最初の取り組みとして「かめおか農マルシェ」を開催しました。

(提供写真)かめおか農マルシェに出店する片本さん

その後、マルシェの次の取り組みとして地域で有機米を育てることになり、農地を借りるために亀岡市に相談した片本さん。その手続きのために任意団体「亀岡オーガニックアクション」をつくり、今に至ります。

地元農家と市の想いが重なり、活動が加速

現在は、亀岡市が所有するJR亀岡駅北側の公園整備予定地で取り組む「有機米プロジェクト」のほか、有機農法や自然農法をみんなで学ぶ「学びの会」など、5つのプロジェクトを展開する亀OA。農家をはじめとする民間事業者や市民だけでなく、行政とも協力して取り組んでいます。亀岡市が亀OAとの連携を始めた背景には、市が2004年ごろから保津川のごみ問題に取り組んできた経緯がありました。

取材当日は、亀岡市発のアップサイクルバック「HOZUBAG(ホズバッグ)」を手にさげて登場した荒美さん

荒美さん 当時、亀岡市の重要な観光資源でもある保津川に浮かぶプラスチックごみが問題になっていたため、保津川下りを行う船頭さんたちがごみ拾いを始め、市も連携を進めたんです。しかし、拾っても拾ってもキリがないので、ごみが出ないような社会づくりをしようと、2018年に亀岡市は「かめおかプラスチックごみゼロ宣言」を出しました。

プラスチックごみ対策は一歩ずつ前に進んでいますが、取り組むべき環境問題はごみ問題だけではないので、次のテーマとして子どもからお年寄りまで全ての人に関わる「食」に注目したんです。そこで、まずは亀岡市の有機農業の比率を上げていく方針になりました。

方針は決めたものの、有機農業に取り組んでくれる農家さんの存在が欠かせません。有機農業の担い手を探していた頃、片本さんから「有機米を育てるために農地を借りたい」と市に相談が。亀岡市としても、願ったり叶ったりの出会いだったといいます。

片本さん 有機米を育てるための農地を探していた頃、ちょうど亀岡市も有機農業の担い手を探していて、双方の想いが重なったんです。借りた農地でつくったお米を市に持って行ったら、市内の保津小学校の給食で使ってもらえることになりました。他にも、今後駅の北側につくられる予定の公園の活用法を亀OAとして市に提案するなど、行政と協力して取り組むプロジェクトに発展しました。

2年目からは耕作面積を広げ、無料の勉強会を開催することで参加者を募っていきました。最初こそ「本当にできるの?」と不安の声もあったそうですが、学ぶ人は年々増え、4年目の今となっては、20組近くの農家が、勉強会とは別に個人の田んぼでも有機米づくりをするようになったといいます。

有機食材の魅力を伝えるには、まずは食べてもらうことから

昨年は26トンを収穫し、亀岡市内の給食に必要なお米の3分の1を賄えるまでに拡大した有機米プロジェクト。なんと、2024年10月には全量(約60トン)を賄える予定なのだそう。片本さんは、オーガニック食材を食べてもらう手段としてだけではなく、有機農業の魅力を知ってもらう手段としても給食に注目していたといいます。

(提供写真)有機米プロジェクトで育てたお米を給食で食べる地元の小学生

片本さん 給食でオーガニック食材を食べた子が、家に帰って「今日の給食おいしかった!」と両親に話してくれたら、大人もオーガニックに興味を持つきっかけになるんじゃないかなと考えています。

まずは食べて美味しさを体験してもらうことが重要だと思うんです。私の畑では自然農法で野菜を育てていますが、自然の力でゆっくり育てた野菜は栄養価が高く、味も格別です。自分の畑で育てたスイカを初めて食べた時は、緑色の皮の部分まで美味しくて感動しました。

自然に近い環境で育てるほど、野菜は美味しくなる。これは、実際に食べることでしか感じられない魅力です。農家さんから宅配で有機野菜を購入している荒美さんも、「野菜が持っていた本来の特徴がそのまま残っているからなのか、オーガニック食材は味が濃いと感じます」と続けます。

一方、市としても有機農業率を上げていく上で給食に注目していたのだそう。国や地方自治体などの公共部門が民間事業者から物やサービスを購入する「公共調達」という仕組みに乗せることに可能性を感じていたといいます。

荒美さん いきなりオーガニック食材の市場開拓は難しいので、まずは自治体が購入する枠を設けることでシェアを拡大できないかと考えました。日本では、千葉県いすみ市が全国でいち早く給食のお米を有機米に切り替えました。有機農家がほとんどいなかったなか、5〜6年ほどで給食に必要なお米全量分を賄うことに成功していたので、「これならいけるのでは」と糸口を掴んだ感覚でした。

給食で提供するようになってから、亀岡市内の農家の中では慣行農法(化学肥料や農薬の使用を前提とした栽培方法)から有機農法への切り替えを検討する人がちらほら出てきたといいます。

荒美さん 人口9万人ほどの亀岡市は、自分の子どもや孫など、食べ手の顔を農家さんがなんとなく想像できる規模感なんです。「自分の孫が食べてくれるなら」と、有機農法への切り替えを検討している方もいます。今後は、給食の食材を有機米に変えるだけではなく、その取り組みの背景を地域の子どもたちに伝えていくことが課題ですね。

また、市内にオーガニック食材を食べられる飲食店を増やす「飲食・販売プロジェクト」という取り組みも。オーガニックに関心のある飲食店や農家さん、市民などが手を取り合い、オーガニック食材を使用した限定メニューをイベントで提供したり、月一回飲食店の人たちとミーティングを行ったりしています。「オーガニックを身近にするには、まずは1日体験してもらうこと」と、片本さん。

(提供写真)有機野菜を使った料理を食べながらミーティングをする飲食・販売プロジェクトの様子

片本さん お店の平常メニューにオーガニック食材を取り入れてもらうことは、お店側もコストの負担が大きいですし、それを求めているお客さんも少ない。まずはイベント的に1日試してみてもらうことで、オーガニック食材がより身近になればと考えています。回数を重ねるうちに共感してくれる人が徐々に増えたら、農家側も「この食材使ってみない?」と提案しやすくなるかもしれません。

(提供写真)
2024年2月に開催されたイベント「KIRI²KAMEOKA」では、市内5つの飲食店がイベントに出店し、有機食材を使った1日限定のオーガニックプレートランチを提供

農家も小学生も市の職員も。さまざまな人が自然の生態系のように関わりあう

亀OAの取り組みが始まってから数年の間に、亀岡市の考え方だけでなく、国全体の方向性も大きく変わってきたと、荒美さん。

荒美さん 亀岡市が有機農業に力を入れはじめた翌年の2021年5月に、農林水産省が国内の農林水産業の生産力強化や持続可能性の向上を目指して「みどりの食料システム戦略」という食料生産の方針を発表しました。その目標の一つに「耕地面積に占める有機農業の取組面積を25%、100万へクタールに拡大」という内容が掲げられているんです。翌2022年には、有機農業に地域ぐるみで取り組む市町村をオーガニックビレッジとして支援する制度も始まりました。

亀OAの有機米プロジェクトが2年目に差し掛かっていた当時、片本さんをはじめとする地元農家の人たちにも協力してもらい、2023年2月に亀岡市からも「オーガニックビレッジ宣言」を出しました。国が、亀OAや亀岡市と同じ方向を向き始めたことも活動が加速する要因になったと感じています。

片本さん 有機米プロジェクトを始めた当時、近隣に有機農家さんは誰一人おらず、市から農地を借りる際、事業計画書に記載した給食の取り組みも当時は気にも留められないような状況で。それが今や、給食のお米全量を有機米に切り替えようとしているなんて、大きな変化です。

現在、亀岡市内で農業を営む1500軒弱の事業者のうち、有機農法で栽培するのは40軒ほど。まだまだマイノリティではあるものの、稲刈りのイベントには子どもから大人まで100人近くが集まるなど、亀OAは着実にオーガニックの輪をまちに広げています。これまでにさまざまな苦労があったはずですが、それでも活動を続けられている理由のひとつに、「内と外の境界の曖昧さ」を荒美さんは挙げます。

荒美さん 亀OAには会費がなく、Facebookグループに参加すれば誰でも活動に参加できます。そのため、イベントを呼びかけた際に集まるのは、農家さんや学生、市の職員、飲食店をはじめとする民間事業者など、年齢も肩書きもさまざまな人たちです。多様な人が関わっているので内と外の境界が曖昧になり、出入りが自由な気軽さもある一方で、深く関わることもできる。ここで出会った人たちが、将来「あのとき一緒に田植えしましたよね」と思わぬところにつながると面白いし、そんな風にできたつながりって後々生きてくるとも感じます。

本来、オーガニックは衣食住すべてに関わるテーマです。片本さんたちが亀OAを設立する前に開催した「かめおか農マルシェ」で、農家だけでなく工芸作家、養蜂家、猟師など、さまざまな出店者が集ったこともオーガニックの関わりしろの広さを物語っています。「共感してくれたら誰でも関わってもらえる点も面白い」と、片本さん。年齢も肩書きも関係なく、様々な人たちがごちゃ混ぜで活動する様子はまるで、雑草や落ち葉、虫たちも畑の野菜を育てる仲間にする片本さんの農園のようです。

畑に現れたてんとう虫を見て「てんとう虫は、ウイルスを媒介するなど農作物への悪影響をもたらすアブラムシを食べてくれるので、心強い味方です」と、片本さん

「今後は、有機農業に興味を持った人が農業を継続できる仕組みも必要」と、片本さんは続けます。食材価値そのものを見直す必要性についても考えているのだそう。

片本さん 例えば、慣行農法の米農家が有機栽培に切り替えるのは、コストは大きく変わらず販売価格が上がるのでメリットが多く、実はハードルは高くない。ところが、新規就農をするには1500万円ほどの初期投資が必要で、今の有機米の販売価格ではまだまだ割に合わないんです。

かつて80円ほどで売られていたコンビニのおにぎりが今や200円を超えることもあるのに対し、お米や野菜の値段はこの数十年大きくは変わっていません。有機農業を広めていくためには、一人ひとりの農作物に対する価値観が少しずつ変わることも必要なのかなと考えたりもします。

月一回、畑に足を運んで土や植物を触ってみるだけでも、環境への意識は大きく変わるように感じます。亀OAは、自分の行動が地球の環境に“関わっている”、さらには自分の行動が地球の環境を“変えていける”という意識も育てているように感じました。

筆者自身も、地域に設置されているミミズコンポストに生ごみを入れるようになってから、なるべく環境に後ろめたさがない生活をしたいと感じる機会が増えました。一つの行動が及ぼす影響力は小さくても、一つの行動から生まれる意識の変化は思っている以上に大きい感覚があります。

どんな活動も、地球環境と無縁なものはありません。今自分が使っているもの・つくっているものは、山や川にどんな影響があるのか。オーガニックは、そんな問いを投げかけてくれます。できる範囲で想像し、学び、楽しく工夫してみることから始めてみませんか?

(撮影:小黒恵太朗)
(編集:村崎恭子)

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