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ポスト資本主義の転職サービスをつくる。グリーンズが求人サイト「WORK for GOOD」に込めた思い

「働く」で社会を変える求人サイト「WORK for GOOD」が、2024年5月に公開となりました。

運営するのはNPO法人グリーンズ。2006年にWEBマガジン「greenz.jp」を創刊して以来、日本や世界のソーシャルビジネスを取材しながら培ってきたネットワークや編集力を活かして「やりがいのある仕事」を紹介します。

今回は「WORK for GOOD」をはじめる背景にある思いを、NPOグリーンズ共同代表・植原正太郎が語ります。

植原正太郎(うえはら・しょうたろう)
NPO法人グリーンズ 共同代表
1988年4月仙台生まれ。慶應義塾大学理工学部卒。新卒でSNSマーケティング会社に入社。2014年10月よりWEBマガジン「greenz.jp」を運営するNPO法人グリーンズにスタッフとして参画。2021年4月より共同代表に就任し「いかしあう社会」を目指して健やかな事業と組織づくりに励む。同年5月に熊本県南阿蘇村に移住。釣りとスノボーと自給自足がしたい三児の父。

今の社会は仕事にやりがいを見出しづらくなっている

まずは、僕の個人的な話からさせてください。

いまでこそ経営者をつとめていますが、僕もかつて仕事にやりがいを見出せない時期がありました。

新卒で、SNSマーケティングの会社に就職しました。当時はTwitterやFacebookが登場し、マーケティング領域にも大きな変化が起きた時期。「企業のコミュニケーションが抜本的に変わるぞ!」という期待とともに1年目の頃は生き生きと働いていました。

その会社は当時30人ほどのベンチャー。新卒の僕にもSNSに関する本の執筆の機会をくれたりと、重要な仕事を任せてもらえました。ただ、2年目になって、だんだんと「なんのために働いてるんだろう?」という違和感が湧いてきたのです。

当時やっていた仕事は、大企業のSNSアカウントの運用。フォロワーを一人でも増やし、ブランドを好きになってもらって、商品を買ってもらうための試行錯誤をしていました。でも、「このジュースが1本多く売れたとして、誰の幸せにつながるんだろう?」「その結果、社会はよくなるんだろうか?」と、疑問を持つようになったのです。

それで、目の前の仕事にやりがいを見出せなくなって、昼間にはどうしようもない眠気に襲われ、会社のトイレで居眠りをしたりするようになってしまいました。

この「仕事にやりがいを見出せない」ということは、かつての僕だけの悩みではないのかもしれません。

厚生労働省が令和2年に実施した「転職者実態調査」では、自己都合による離職の理由として「労働条件(賃金以外)がよくなかったから(28.2%)」に次いで、「満足のいく仕事内容でなかったから」が26.0%。「賃金が低かったから(23.8%)」を上回る数字になっています。

大学生のころ、将来の進路に悩んでいた時に書いたメモが今も実家の部屋に貼られています。この想いが原点かもしれません。

背景にある、行き過ぎた資本主義の限界

もしかしたらいまの日本では、仕事にやりがいを持てない人がたくさんいるのでは?だとしたら、いったいなぜでしょうか。

僕は個人の問題でもなければ、会社の問題でもないと考えています。それは、より大きなシステム、「資本主義」というシステムによって引き起こされている問題なのです。

近年では、資本主義の限界が指摘されています。たとえば経済人類学者のジェイソン・ヒッケルは、『資本主義の次に来る世界』のなかで、資本主義を「際限のない成長を信仰する宗教的なシステム」だと喝破しています。つまり、資本主義は成長のために成長を求めるシステムだということです。

そのシステムのもとでは、僕たち人間の身体や自然は「モノ」とみなされ、搾取されてしまう。実際に僕たちのまわりを見渡しても実感が湧くはずです。多くの企業にとっては、「収益を上げること」が至上命題になる。そこに社会的なニーズがなかったり、それどころか環境破壊や搾取につながるとわかっているのに、株主からより大きな収益を求められるので止められない。一度始めてしまった資本主義というゲームから、簡単には降りられないわけです。

一方で、社会は成熟し、個人の環境や社会への意識は高まっている。だからこそ僕たちは「理想」と「実際に取り組んでいる仕事」のギャップを感じ、「この仕事をやっていていいんだろうか?」と違和感を持ってしまう。そういった構造的な問題が起きていると思うんです。

すでにポスト資本主義へのシフトが起きている

こうした自然や人間を搾取する資本主義というシステムの前で、僕らはどうしたらいいのか?なすすべなく搾取され続けることしかできないのか?

そんなことはありません。ジェイソン・ヒッケルは、経済をこれまでとはまったく異なる経済、つまり成長を必要としない「ポスト資本主義経済」へとシフトすることが必要だと訴えています。

つまり、「どの領域もすべて際限なく成長しなければならない」という考え方を手放し、社会をよりよいものにする「成長させるべき領域」と、「縮小すべき領域」を見極める。そして、「成長させるべき領域」に資源を集中していく。「成長させるべき領域」は、クリーンエネルギー、医療や福祉、地域活性化や環境再生型農業など。「縮小すべき領域」は不要な消費を煽る広告や化石燃料などです。

こうした「ポスト資本主義経済」へのシフトは、日本でもゆっくりと、しかし確実に起きていると実感しています。

例えば、社会や環境に配慮しながら、利益と公益を両立する企業に与えられる認証「B Corp」(B Corporation)がありますが、今年に入り国内普及を加速させるべくB Market Builder Japanが立ち上がりました。また、利益追求と社会との共存を重視するスタートアップ企業を指す「ゼブラ企業」もムーブメントとして広がっています。それらはまさに、資本主義の弊害を乗り越えようとする動きです。

こうした企業単位での「ポスト資本主義」へのシフトは確実に起こっている。次は個人単位で、僕ら自身が、利潤を追求するあまり自然や人を搾取するような仕事から、人々を幸せにし、自然を再生するような仕事へとシフトしていくフェーズです。

つまり、僕らの「働く」を変えることで、社会を変えていくことができるのです。

仕事にやりがいを感じられない人たちは、見方を変えれば、自然や人を搾取する社会の矛盾にいちはやく気づき、ポスト資本主義の社会へとシフトする、スタートラインに立っている人だといえます。

ポスト資本主義の転職サービスをつくる

「働く」を変えることで、社会を変えていくことができる。そうはいっても、一歩を踏み出せない方もいると思います。それは個人の意識の問題で、コーチングやカウンセリングを受けることが必要なのでしょうか?

もちろん意識変革も大事ですが、より根本的なのは、やはり構造の問題だと思っています。

「ポスト資本主義」にシフトしていくためには、金融や経営のあり方をはじめとして、あらゆるシステムを変革していかなくてはいけません。そして、変えなければいけないシステムの一つが転職市場、つまり企業と個人が出会う場です。

現在の転職市場も、資本主義のもとに生まれたサービスが主流です。たとえば転職エージェントは、そのサービスを通じて転職が決まれば、その年収のおよそ30%がエージェントの報酬になるという仕組み。会社としてより大きな売上が必要なので、エージェントもなるべく年収が高い仕事を求職者に紹介したくなる。多くの転職サービスの広告が「年収アップ」を謳うのも、そういう理由です。そういう転職市場では「やりがいのある仕事をしたい」という求職者の思いは、二の次になりがちです。

もちろんすべての転職エージェントがそうではありませんし、キャリアカウンセリングを通じて個人の願いに寄り添う方も知っています。でも、「収入も大事だけど、やりがいを感じる仕事がしたい」と思っても、望む仕事に出会うことが構造上難しくなっています。実際に僕らも、「社会や環境にいい仕事がしたいけど、ぜんぜん相手にされない」という声をたくさん聞いてきました。

つまり、転職サービスもポスト資本主義にふさわしいもの、つまりー人を幸せにし、社会をよりよくすることを目的とするもの、という選択肢があってもいいと思うのです。

そのためにつくったのが「WORK for GOOD」です。

「WORK for GOOD」は、ソーシャル・ローカル・サステナブルな取り組みやプレイヤーを取材してきた僕たちグリーンズが、本当に紹介したい企業や団体を掲載する求人サイトです。

もちろん事業を継続させていくためにも、収益性を伴う事業に育てていくことは必要不可欠です。だから、僕たちは「清貧であれ」という立場ではありません。実際に掲載されている求人には年収1000万を超えるポジションもあります。

でもそれ以上に、「やりがいを持って働きたい」という人と、社会にとって必要な事業に取り組んでいる企業の出会いを増やすのが、「WORK for GOOD」の1番大事なミッション。収益は、そのミッションを達成するための手段だと考えています。

「『働く』で、社会は変えられる」に込めた2つの思い

タグラインは、「『働く』で、社会は変えられる」という言葉にしました。この言葉には、ふたつの意味を込めています。

ひとつは、僕たち一人ひとりの「働く」という営みは、社会を変えていくだけの力を持っている、ということ。

たとえささやかでも、自分の仕事によって、社会課題の解決が前に進んだり、あるいはたった一人でも困りごとを抱えている人が救われたりする。

理想論に聞こえるかもしれませんが、実際にグリーンズのまわりにいるのは、そんな「働く」を実践している人ばかりです。そして、そういう人たちはすごく生き生きしている。みんな目がキラキラしていて、本当に自分の命を生かして働いてる感じがする。そんな人を増やしていきたいのです。

もうひとつは、世の中の「働く」のあり方にアプローチすることで、社会は変えられるのだということ。

僕らは、やりがいを持って働く人が増えることが、気候変動、大量廃棄、貧困と格差、地方の過疎化、社会的孤立といったさまざまな問題の解決につながっていくんじゃないか、と考えています。

さきほどジェイソン・ヒッケルの、「『成長させるべき領域』に資源を集中していくことがポスト資本主義の実現につながる」という主張を紹介しました。マクロな視点でみれば、やりがいを持って働く人が増えることは、ポスト資本主義への道なのです。

社会性のある会社で働くという選択肢を増やし、やりがいを持って働く人が増えれば、社会課題は解決されながら、事業が成長していく。そうするとそうした会社の求人が増えて、やりがいを持って働ける人が増える…そんなポジティブな循環を生み出していきたいと、僕らは考えています。

ポスト資本主義における、個人のキャリアとは

最後に、個人のキャリアについて話したいと思います。

時に、大企業を離れて社会課題の解決を目指す会社にキャリアチェンジすることは、「ドロップアウト」と言われることがあります。

資本主義のもとでは、キャリアアップとは「より稼げるようになること」であり、成長とは「稼ぐためのスキルを身につけること」だと考えられています。その観点から見れば、社会性を重視したジョブチェンジは、「ドロップアウト」に見えることもあるでしょう。

しかし、ポスト資本主義のもとでは、「右肩上がりの成長」を前提としたキャリアではなく、本質的な「やりがい」を求めてキャリアを築いていくことのほうが自然です。

WORK for GOODが考える「仕事のやりがい」

WORK for GOODは、「人間性」「社会性」「経済性」の3つが重なる仕事を「やりがいのある仕事」だと考えます。

働く人の個性や想いが尊重され、その人だからこそできる役割で仕事に取り組める「人間性」。誰かの困り事が解決され、誰かの幸せにつながる「社会性」。事業を継続するために必要な収益を生み出す「経済性」。

この3つが調和する仕事を目指して、キャリアを模索していくという態度がこれからの時代に必要です。

そして、そんな「やりがいのある仕事」は確実に増えています。理想を追い求めて、事業に取り組む企業が次々に現れているからです。

しかし、大手の転職媒体では、それらの企業がフォーカスされることはないでしょう。

だからこそ、WORK for GOODではそんな仲間たちを紹介しながら、一人でも多くの人が心から「やりがい」を感じながら働ける職場に出会えることを目指します。

もはや、「社会をよくする仕事」はドロップアウトではない。これからの時代のスタンダードとなる働き方なのです。

– INFORMATION –

「WORK for GOOD」では、自分のスキルをいかして、社会をポジティブに変える「やりがいのある仕事」を紹介しています。

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5月27日(月)にはローンチイベントを開催します。「ポスト資本主義のキャリア論」について考えたい方は、ぜひご参加ください。

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