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ふくしま12市町村で、情熱を燃やす人に刺激を受ける。出会い、学び、つながる2日間「ローカル開業&起業カレッジ」スタディツアー【ローカル開業編レポート】

[sponsored by ふくしま12市町村移住支援センター]

「地域の人とのつながりを感じられるお店や事業を始めたい」。そんな夢を実現するため、ふくしま12市町村移住支援センターが主催してスタートしたゼロからはじめる「ローカル開業&起業カレッジ」。そのカリキュラムの一環で、2023年10月21〜22日の1泊2日で「ローカル開業編」スタディツアーが行われました。

実際に福島12市町村で活躍するさまざまなローカルプレイヤーを訪問し、開業や起業の具体的なステップや事業内容について学びつつ、地域の暮らしを知り、現地の方とのつながりもつくっていくという、盛りだくさんの内容です。

「ローカル開業」とは、ゲストハウスやカフェのような、地域のなかでスタートさせるスモールビジネスのことを指しています。今回は5か所を訪問し、お話を伺いました。

JR福島駅からチャーターバスで出発!車内で自己紹介をしながら目的地へ向かいました

「川口商店 / サウナ発達」川口雄大さん
廃棄されるモノから新しい価値を生み出す拠点

最初にお会いしたのは、南相馬市で飲食店「川口商店」とサウナ「発達」、宿泊施設「宿巣(やどす)」を営む川口雄大(かわぐち・たけひろ)さん。世界中の仮面がディスプレイされた空間や廃材や不用品を使ったというオブジェなど、アート感溢れる室内の様子に、訪れたツアーメンバーは驚きの表情。

川口商店外観 実家の元酒屋を改修した飲食店部分と、奥にサウナ・宿泊施設が続きます

飾られているものは、全て寄贈または廃棄されるはずだったもの

「毎年新しい分野に挑戦して、できることを増やす」。川口さんが南相馬にUターンし、地域に必要なものは?と考え、少しずつ自分が周りに喜んでもらえる、人を助けることの幅を増やしていった結果、今の飲食店やサウナ、宿を営む拠点づくりにつながっていると話してくれました。

川口雄大さん。宿泊施設「宿巣(やどす)」は、アースバック工法でリノベーション

川口さんの場に込めた想いを聞いた上で、改めて室内の様子を見渡すと、全くその景色が違って見えてきます。廃棄されるものに新たな命を吹き込み、新しい価値を生み出していった結果、まるで現代アートのような唯一無二の空間が生まれ、そこにあるすべてのものやことに意味があることに気づかされます。

川口さん 福島に戻ってきたら、それまでお金のためにやってきた清掃業務やじゅうたん販売などのスキルでは全く必要とされなかったんですよ。どうしたら地域の人の力になれるかを、すごく考えさせられた。

最初は、この周辺は営業時間が短い飲食店ばかりだったので、飲食店の経験は全くなかったけれど、『一番遅くまで開いている飲食店』をスタートしたんです。お客さんのなかには仕事終わりの飲食店経験者が多くいて、いろんなノウハウを学びながら、コツコツと今までやり続けることができました。

お話の中から感じる川口さんの強いバイタリティに、ツアーメンバーも感銘を受け、体験価値を高めてビジネスにするための方法など、具体的な質問も数多く飛び出しました。

熱心にメモをとりながらお話を聞くツアー参加者のみなさん

サウナに併設する水風呂について説明する川口さん

今後はオンラインも活用し、技術を習得し、実践を積んだアースバック工法の家づくりを伝えるスクールを立ち上げたいと意気込んでいます。

greenz.jpで掲載された川口雄大さんのインタビュー記事はこちら >>
どんな難題も、大喜利だと思えばいい。福島県南相馬市に戻り、飲食店・サウナ・宿を開業した川口雄大さんの芸を磨きつづける生き方

「YONOMORI DENIM」小林奨さん
過去と未来をつなぐアップサイクルショップ

次に訪れたのは、富岡町・夜ノ森で廃棄寸前のジーンズなどを使ったアップサイクルショップ「YONOMORI DENIM」。2022年11月にオープン。衣料を通して「過去と未来をつなぐ拠点」をつくりたいとの思いで開業したお店です。

JR夜ノ森駅すぐに位置する「YONOMORI DENIM」。以前はまちの交流拠点として運用していた建物

店長を務める小林奨(こばやし・しょう)さんは、富岡町出身。震災後に山梨へ避難し、山梨の高校へ進学。専門学校を卒業したのちに東京で就職しました。2023年4月に避難区域の全面解除になったものの、地元の同級生の9割は戻ってこないという現実に「このままではふるさとが本当になくなってしまう」と、Uターン帰郷を決意。

自らのアパレル店長経験を活かすビジネスを考えた結果、東京都足立区にあるヤマサワプレスの山澤社長に協力してもらい、廃棄寸前のリーバイス501から新たな価値を生み出す循環型ビジネスとして、富岡町でのアップサイクルアパレルショップ立ち上げに携わりました。

新聞やテレビ番組での紹介がきっかけで、全国各地からこの店を目的に訪れる人も

小林さん 起業したいという思いがあったので、いろいろな人に『地元のために何かやりたい』と相談していたら今のかたちになりました。現状は、今後の経営や戦略的なことはまわりの経営者の方に教えてもらいつつ、今はただ情熱で動いているような感じです。

大量に生産して、売れなかったら捨てちゃうのが当たり前のアパレル業界にはお腹がいっぱいで、最初はアパレルから離れようと思っていたんです。僕らの世代はファストファッション全盛で育っていて、アップサイクルの取り組みを知らない人が大半だと思うので、接客の中で伝えていって、少しでも意識が変わればと思っています。

ショップは週末のみの営業。現在、平日は地元の太陽光発電の設備管理の仕事をしており、「まだお店の売上だけでは生活できる状況にない」と正直に話してくれました。けれども、小林さんが開業して奮闘する姿を見て友人が帰郷と将来的な開業を決意するなど、この地で20代が独立起業したという影響は、少しずつ広がりをみせはじめています。

ショッププロデューサーで家主の齋藤さん。小林さんのほか、商品化に関わるプレス会社社長など多くの協力者とともにショップを運営しています

「とにかくまちをどうにかしたいという情熱で走っている」と語る小林さん

「ANDO」安藤文也さん
南相馬から世界へ発信する手づくり靴工房

2日目午前に訪れたのは、靴工房の「ANDO」です。主宰者の安藤文也(あんどう・ふみや)さんは地元出身。東京の靴メーカーで職人として修行を積んだのち独立し、2022年10月に南相馬市の起業型地域おこし協力隊として着任しました。

「ANDO」外観 住宅地が並ぶなか「こんなところに工房が?」と驚く人も

安藤文也さん

手作業での靴製作は、難しい上に時間もかかるため、世界的に職人の数も減少。日本でも、特に東北では手縫い靴の工房がなかったため、安藤さんは、福島・南相馬がその中心になることを目指し、Uターン起業を志しました。

2018年には靴製作の世界大会で5位に入選するなど、安藤さんの技術の高さは折り紙つき。自身のブランドにて靴の受注を開始するのはこの秋からですが、すでにSNS(Instagram)の発信でも注目され、海外からの予約注文も入っているのだとか。

見本となる靴が整然と置かれた工房内部。受注後、採寸などで来店する人を想定してしつらえた

ツアーの参加メンバーは、靴づくりの作業内容にも興味深々。靴底の皮の硬さや、道具や底を縫う糸さえも手づくりするという話に驚いていました

安藤さん オーダーメイドの靴はやはり東京や大阪などに集中してるんですけど、これからの時代、商売の場所ってそんなに関係ないような気がしていて。だったら今後は自分のゆかりのある地で人生を送っていきたいなって思ったんです。

どこでつくってもたぶん僕の靴づくりの考え方は変わらない。東北にはオーダーメイドの靴というだけで、「えっ」と興味を持ってくれる方がまだとても多いんですね。それを伝えていくのがすごく重要だと感じています。

安藤さんは、技術の高さはお客さまの要望に応えるためのものであり、「難しい課題があっても、工夫して応えていくことで、次のステージに行ける」と話します。高い技術に加え、情熱を持って探究心や向上心を忘れずに製作を行う安藤さんの姿勢に、一同感銘を受けました。また、今後のビジネス展開への質問にも、世界各国での受注会など、豊富なアイデアプランを披露していただきました。

優秀な靴職人は、採寸の道具持参で世界中を回って受注会を行うことも

靴一足の製作期間は、木型づくりから完成まで約4ヶ月かかるのだとか

美しく整えられた工房兼住宅の「ANDO」。物件探しには苦戦し、実家の庭で靴づくりをした時期もあったそう

「Coffee Pour House」横山梨沙さん(飯舘村)
地域密着型の食堂とオンラインでも広がるカフェ事業

2日目のランチを兼ねてお邪魔したのは、飯舘村にあるCoffee Pour House (コーヒーポアハウス)。平日は主に地元住民向けに野菜ランチが食べられる「コーヒー屋の食堂」を運営しつつ、週末にはカフェ営業も行っています。

福島市出身の横山梨沙(よこやま・りさ)さんは、オーストラリアでバリスタとして2年半ほど働いた後に帰国。福島市内でフリーランスとして自宅でのラテアート教室からスタートし、少しずつ活動の場を拡大していきます。そんな折、すでに飯館村で活躍していた先輩に誘われ、自由度の高い起業型の制度も魅力と感じて地域おこし協力隊として着任。協力隊2年目の2023年5月に実店舗をオープンさせました。

横山梨沙さん

村の人口が1,000人ほどの小規模拠点で長く店を成立させるため、カフェ&食堂の業態を取り、人件費の負担を考えひとり営業とするなど、工夫を凝らしています。都内でカフェを営む参加者のひとりは、ランチ時の回転率や食後のコーヒー注文率など、より具体的な質問を投げかけていました。

横山さん ここは福島市と人口規模が全く違うので、おそらくコーヒーだけだと経営が難しいと思って、人の三大欲求の「食」を制しにいくことにしたんです。人は究極にお腹が空いていて、目の前にすごくおしゃれなコーヒー屋さんと牛丼屋さんがあったら、たぶん牛丼屋に入ると思うんですよ(笑) なので平日は食堂で売上をつくって、カフェは、売れても売れなくてもいい、というノリでやろうかなと。

あと、都内に比べて勤務時間が一定で、お昼休憩は12時〜1時という人が圧倒的に多いので、来店時間が集中してしまう。来たらすぐ食べられるというコンセプトにしたかったので、普通のご飯が出てくるイメージで「コーヒー屋の食堂」という名前にしました。

また横山さんは、得意分野を活かしてカフェ英語に特化した英会話教室をオンラインで開催。冬場は土日のカフェは閉めて、カフェ英語事業に力を入れるなど、複数の事業を同時に行い、小さく売上を重ねてリスクヘッジも兼ねるその手法に、参加者も感心しきりでした。

物件探しには困難を極め、現店舗で営業可能となるまでには紆余曲折のストーリーがありました

地元の生産者さんから購入した食材を使った、からだにやさしいおかずが並びます

「工房マートル」大槻美友さん(飯舘村)
地元産の花をより美しく、福島の今を伝える手づくりキャンドル

ツアーの最後に訪れたのは、同じく飯舘村にある手づくりキャンドル工房の「マートル」。建物の前のお庭の様子からいい雰囲気。出迎えてくれたのは大槻美友(おおつき・みゆ)さんです。飯舘村の地域おこし協力隊を卒業し、一軒家をDIYで改修した工房を立ち上げました。

古風な一軒家の風情を活かしてつくられた工房「マートル」

手づくりのキャンドルに使われるのは、飯舘村産の花ばかり。村の花農家から仕入れをし、ドライフラワーへ加工してキャンドルに入れ込む作業まで、一貫して自身で行っています。

福島市出身の大槻さんは、新卒で入社した会社を退職後、「自分に何の仕事ができるだろう」と考える中で、自分の中のものづくりへの情熱に気づき、趣味で制作していたキャンドルで生計を立てたいと思い始めました。

大槻美友さん

キャンドルをつくり続けながら、県内や近隣の県などのマルシェイベントに出店販売をするなかで、「地元の福島が好き」と再認識。外からそれを発信するのではなく、その土地で生活しながら魅力を発信したいと思っていたところ、飯舘村のフリーランス型地域おこし協力隊の制度を知り、移住を決めました。

今では都内でのイベント出店では一度に100点以上が売れるという大槻さんのキャンドル。イベント出店の打ち合わせなどの事務作業に加え、制作に時間がかかる上に、作業のすべてを一人で行っているため多忙な日々が続きますが、「好きなことで暮らしをつくっている充実感はすごくある」と話します。

大槻さん 私は福島出身なので、福島に特化したキャンドルづくりをコンセプトにしているんですが、結果的に暮らしと作品は直結していて。この村で見た景色、感じたことは、少なからずキャンドルのなかに現れてると思います。

ただ、田舎に行けば行くほど、人との繋がりは深いんですが、ときに疲れてしまうこともあったりするんですよ(笑) なので、これから移住を考えているならば、どういう距離感でその土地と自分が付き合っていきたいのかは、考えておくのがいいかなと思います。

元は大きな神棚だったというドライフラワーの美しい壁面ディスプレイ。毎年少しずつ花を入れ替えてクオリティを保っています

「キャンドルはあくまで伝える手段。作品を通して福島のことを知ってほしい」と大槻さん

大槻さんは、一人でビジネスをやるときは「健康に留意しながら、長く続けられる体制をつくっていくのが大事」と、仕事時間と気持ちの充実の大切さもアドバイスしていました。

かすみ草やダリアなど飯舘村で育った花があしらわれたキャンドル。地元でも価値あるものとして敬老会のお祝い品用に大量受注を受けるほど大人気

green drinks Fukushima12「ローカル開業 MEETUP!」

また、1日目の夜には、現地プレーヤーとの交流会・green drinks Fukushima12「ローカル開業 MEETUP!」も行われました。

地域食材を活かした美味しい食事とともに、前半は「結」をキーワードにシェアハウス&食堂kashiwayaを運営する楢葉町在住の古谷かおりさん、フリーランスバリスタとして活躍する楢葉町在住の深澤諒さん、フルーツハーブティーブランドを立ち上げたKokage Kitchen(川内村)の大島草太さん、パッケージデザインから場のデザインまでを行うmarutt西山里佳さん(南相馬市)の4人のゲストプレゼンテーションが行われました。

古谷かおりさん 千葉から楢葉町に移住し、2017年から小料理屋「結のはじまり」を経営、カウンターで出会うさまざまな立場の人との語らいから、シェアハウスなどの不動産活用を通じたまちづくりを手掛けることに

むかごや里芋などの地元食材を使った「結のはじまり」発酵弁当 西山さんがラベルをデザインした醸造酒を提供、大島さん提供のハーブティやノンアルドリンクやバリスタの深澤さんがコーヒーを淹れるシーンもありました

パッケージデザインだけでなく、地方はコピーやコンセプトメイクなど広義のデザインを求められることも多いと話すデザイナーの西山里佳さん

後半はツアー参加者が掲げたテーマ別にグループとなり、登壇者に直接話を聞く時間を取り、移住や開業へ向けての意識を高めていくとともに、ツアー参加者以外の地域で活躍する人たちや一般参加者も交えて、立場や出身を超えた交流が進む場となりました。

質問項目を紙に書き発表、テーマごとに集まり話を深めていきました

会場は別記事でご紹介した森山貴士さんが運営するカフェ&コワーキングスペース「アオスバシ」(南相馬市)で賑やかに語らいました

懸命に生き、情熱を燃やす人に刺激を受けた2日間

あっという間に過ぎた充実の時間。参加者のみなさんは、「みなさんの地域や生業に対する思いの強さに響くものがあった」「普段は聞きづらいお話をたくさん聞けたのがよかった」という声のほか、「これから定期的にまずは現地に通って、関係をつくるところからスタートしたい」と、カフェの1日店長に立候補する人も。

スタディツアーのナビゲーターとしてNPO法人グリーンズ共同代表の植原正太郎が振り返りをリード

キラキラとして見える開業の表の部分に加え、必要なお金や、起業までのタイムラインなど、一見では知りづらい裏の部分までしっかり見聞きできたことで、「まず自分に何ができるかを考えるきっかけになった」「移住することを深く考えすぎず、0.5歩でも動くことのほうが大事だと実感した」という感想も出ていました。

「福島12市町村には、才能を持ったローカルプレーヤーが多くいることがわかった」という声が多く聞かれた今回のツアー「ローカル開業編」。次回開催の「ローカル起業編」でもまたたくさんの人と場の出会いときっかけがあることでしょう。

(撮影:長田涼・西村祐子)
(編集:増村江利子)

[sponsored by ふくしま12市町村移住支援センター]

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