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地元の「土」で、美しくかわいいセルフビルド。素人でもできる「アースバッグハウス」のつくり方

家は自分でつくれるのかと聞かれたら、答えはイエス。セルフビルドという言葉があるくらい、自分で家をつくることはそれほど珍しいことではなくなりました。「小屋づくりから始めてみようか」「いつか自分の手でログハウスを建てたい」といった憧れを持っている方もいるのではないでしょうか。

材料や道具はホームセンターや通販で購入できますし、専門書も出ています。多くは木材とノコギリとトンカチでつくる家で、イチからつくるのが不安なひとは、基礎や梁などの構造部だけ業者に頼み、あとは自分たちでつくるという方もいるでしょう。

しかし、家づくりはもっと簡単にできるのです。使う素材は、木ではなく、「土」。しかも、その辺にある土をロングチューブと呼ばれる細長い土のう袋につめて、ハンマーで叩いて好きな形に積み上げていくだけ。施工中の見た目は、陶器をつくるときと同じ、ひも状にした粘土をぐるぐる積み上げていく輪積みそのもの。ある意味、縄文時代からつくられてきた土器づくりと同じ超ローテクな手法なのです。

それが「アースバック工法」。もともとイラン生まれのアメリカ人建築家Nader Khaliliさんが月や火星のような限られた環境の住居として開発し、有刺鉄線と現場の土、そして土のう袋があれば誰でもつくれる簡易性により、紛争地帯のシェルターとして使われ、世界的に知られるようになりました。国内では日本アースバック協会が普及をめざしています。

特筆すべきはその丈夫さで、ドーム型であれば、石積みアーチなどに応用される力学的にも安定したカテナリー曲線を形成することで、高い耐震性や強度を誇ります。

坂井裕子さん

このアースバック工法を学び、家づくりにチャレンジしようとしている女性がいます。熊本県三角半島の三角エコビレッジ・サイハテ(※)の住人、坂井裕子さんです。服飾デザイナーである裕子さんは、サイハテのコミュニティマネージャーを務める夫の勇貴さんと3人の子どもと一緒に暮らしながら、サイハテの敷地内にオフグリッドの暮らしが体験できるアースバックハウスをつくる計画を立てています。坂井裕子さんの視点から、アースバック工法の魅力に迫りたいと思います。

(※)サイハテは、東日本大震災があった2011年11月に開村した、自給自足型の共同生活を実践するエコビレッジ。発起人の工藤シンクさんの記事もご参照ください。

アースバッグ工法は、まるで「おとなの粘土遊び」

日本で最初にアースバック工法の家がつくられたのは、裕子さんの住んでいる三角エコビレッジ・サイハテでした。東日本大震災の後に「お好きにどうぞ」というコンセプトを掲げて始まったサイハテの住人の中に、のちの日本アースバック協会の立ち上げメンバーとなる小堺康司さんがいたことから、2013年に試作品第一号がここでつくられたのです。その後、サイハテのアースバックハウスは、裕子さんら住人たちがリフォームして現在の姿になりました。それがこちらです。

まるでおとぎ話に出てきそうな、なめらかな曲線を持つかわいいおうち。奥に少しだけ見えている輪積みの構造物が、表面処理をする前の状態です。チューブ状の土のう袋を順繰りに積んでいるのがわかるでしょうか。

床貼りされた室内にはロフトが設置されていて、天井高を生かした設計に。ここは、住人の共有スペースとしての活用のほか、アースバックハウスに興味がある人が宿泊できる体験施設にもなっています。曲線でできた丸い空間は、角のないシュタイナー建築に通じるような包まれる感覚がして、心おだやかに過ごせそうです。一箇所円窓が取りつけられていますが、窓は好きな場所に丸でも四角でも三角でも自由な形で取りつけが可能とのこと。

裕子さん アースバックはすごく自由度が高いんです。積みながら、やっぱりここはへこませようとか、ここは出そうとか、その場のアイデアで変更も可能。おとなの粘土遊びのような面白さがあります。

自由にやわらかい曲線が出せて、なおかつ実用的でもあるアースバック工法。なかでも計算がほぼ不要であることが、つくり手の心理的なハードルを下げるのだと、裕子さんは言います。

裕子さん わたしは、いま住んでいる木造家屋のリフォームも経験しましたが、木造は、厚さなどの数字を全部出してから取りかかるので、あらゆる所に計算が必要なんですね。それに対してアースバックハウスは、たとえばドーム形ならセンター位置を決めて、コンパスで線を引いたら、あとは基礎穴を掘って現場合わせで始められます。そういう素人でもできちゃうところが最大の魅力だと思います。

サイハテではアースバックハウスをリフォームした際に建物を囲む花壇や階段などのエクステリアもこの工法でつくられました。家づくりだけではなく、さまざまな構造物に応用できるようです。

階段もアースバックで

アースバックでつくられた坂井家の花壇

階段と花壇をつなげることも可能

裕子さん サイハテのように斜面が多い場所では、土留め(崖や斜面などの土崩れを防ぐ構造物)にも使えます。曲線が簡単に出せるので、地形に沿わせることができるんですね。前に階段をつくったときは、結構簡単にできて、なおかつ達成感がありました。土木は男仕事の代名詞みたいなイメージがありますけど、基礎体力があれば女性でもできますし、また人数がいればいるほど、早くできあがります。

サイハテで裕子さんが行っているように、アースバッグの家づくりを来訪者も参加できるワークショップ形式にすれば、工期を早められ、なおかつ参加者が家づくりの技術を学ぶことも。基本は土のう袋に土を入れて積んでいくだけ、というわかりやすい工法は、おとなだけではなく、子どもも一緒に作業できるという魅力があるでしょう。また、自分の土地の土を使い、鉄筋の代わりに地元の細竹を使えば、お金もそれほどかからずにつくることが可能です。

裕子さん みんなでアースバックハウスをリフォームしたことで、サイハテのシンボルができたと思いました。私は、コミュニティを持続可能なものにしていくには、いろんな人が訪ねてくるような場所にする必要があると思うんですね。こういうシンボルがあれば、誰もがそれを勝手に写真で撮って、拡散し、その写真を見た人が、いつか行ってみたいと思ってくれるんじゃないかって。

では、実際につくるとしたら、どのような行程になるのでしょうか。

1.ゴールイメージを持つ

アースバッグは図面がなくてもつくれますが、ゴールイメージを持つことは大事。とくに何人かでつくる場合は、これからどういう建物をつくるのか、そのイメージを共有する必要があります。そのために裕子さんがつくったのは粘土の模型。「おとなの粘土遊び」の言葉通り、模型も粘土です。ヒモ状にした粘土をアースバッグに見立て、つくりたい形に積むことで、シミュレーションもばっちり。ドームの形は、床が正円のほうがつくりやすく、そして頑丈です。

裕子さんがつくった粘土模型

2.基礎をつくる

たとえば3mドームなら、家の中心位置を決めて1.5mのひもを使いコンパスのように円を描き、その線に沿って、基礎穴(幅30cm×深さ50cmほど)を掘ります。そこにグリ石(花崗岩や安山岩などの岩石を拳大ほどの大きさに割った砕石)を敷き詰め、さらに砂利を入れて、ハンマーで叩いて締めます。

3.土をテストする

使用する土は粒子の細かい粘土質の赤土が適しています。火山の多い日本の土は、表層の黒土を少し掘ると、この赤土が出てきます。アースバッグ工法では、この赤土に凝固剤として消石灰やセメント(ナチュラルに仕上げる場合はセメントの代わりに海水・にがり)、水を混ぜ合わせた混合土をつくり、土のう袋に詰めていくのですが、何を混ぜるかは、その土地の地質が砂混じりか砂利が多いかなどによっても異なり、正解があるわけではありません。そのため、事前に凝固剤の比率を変えたサンプルを何種類かつくり、1ヶ月間ほど乾燥させて、固まったものを上から落として強度を確かめるカップテストを行います。パキッと割れるものは、ひび割れの原因になるので適していません。少し欠ける程度ならOKです。

4.土を練り、土のう袋に詰めて積み上げる

赤土に事前にテストした割合の凝固剤(消石灰やセメント)と水とを混ぜ、粘土状になるまでよく練り合わせます。親指で押して崩れるくらいの固さになったら、土のう袋に詰めて口をしばり、基礎穴に入れて、上から大きなハンマーで叩き締めていきます。入り口のスペースを確保したうえで、同じように2段、3段と積み重ねていきます。きりのいいところで、鉄筋(または炙って油抜きし、先端を槍状にした細竹)を縦に打ち込み、土のう袋を串刺しにして固定。これを繰り返し、ドーム状になるよう積み上げます。また積んでいる途中で窓枠などをはめ込みます。

5.内装、外装を左官する

ドームが完成したら、アースバッグの中の水分が抜けるよう、1ヶ月ほど乾燥させます。しっかり乾いたら、外側にラス網(モルタル用の下地になる薄い網)をビス留めし、上からモルタルを塗り込み表面を整えていきます。アースバッグハウスは、屋根がなく外壁が傷みやすいため、さらに上から軽モルタルを塗り、下地をしっかりつくってから、防水性のある塗料を塗ります。内側もモルタルで表面を整え、仕上げはしっくいなどお好みで。

ラス網を貼った状態のアースバッグ。このように水道を設置することも可能

湿気の多い日本の環境では、アースバッグの水分が抜けていないと、内側に湿気がこもりやすくなりカビの原因に。建ててから3年ほどは、除湿や換気をこまめに行うことが何気に重要です。

目指すは、美しくてかわいい自給自足生活

今後、裕子さんが計画しているアースバックハウスは、煙突付きの3mドーム。室内に薪ストーブを置くことで、暖をとれるほか湿気対策にも効果を発揮しそうです。

窓は大きくとり、八代海を見晴らすサイハテならではの眺望を楽しめる設計に。壁の小さな穴はダクト用のほか、色付きの瓶の底をカットして埋め込み、ステンドグラスのような採光を期待しています。

キッチンは屋外にアースバックでかまどをつくる予定。キッチンと反対側にある小さなドームはトイレで、排泄物を堆肥化できるコンポスト式を採用予定。すでにサイハテでは生ゴミを堆肥にしていますが、このアースバックハウスが完成した際には、人間の出すものまで全部循環させようという計画があるそう。

裕子さん 死ぬまで続けていける暮らし方っていいなと思うんですよ。アースバッグの家は、たとえひび割れが入っても補修すればずっと使えますし、住めなくなったらハンマーで叩き割れば、土に還ります。

もともと手を動かすことが好きで、中学生の頃から洋服をつくってきた裕子さん。サイハテに来る前は、離島で野菜づくりにハマり、サイハテでは家づくりと、衣・食・住の自給自足を確実なものにしてきました。

裕子さん 中学生の頃にはじめて洋服をつくったときにすごく満足感がありました。自分の手で形にしたものには、苦労を含めて思い出が詰まっていて、種から育てた野菜を食べられていることに幸せを感じたり、ちゃんと草を取って水をやってすくすく育っている野菜を見ると、『あ〜かわいいな』って思ったりします。

年齢を重ねていくごとに自給自足ができあがっていくのが私の理想の暮らし方。そうやって60歳になっても自給していたいと思うので、体力があるうちにアースバッグで持続可能な家をつくり、エネルギーも循環型にして、電気やガスが止まっても生きていけるような暮らしをつくっていきたいですね。

目指すは、美しくてかわいい自給自足生活。ちなみにアースバッグハウスの施工にかかる予算感は、3mドームで50万円〜100万円前後とのこと。専用の土のう袋は、日本アースバック協会で取り扱っており、家を建てる場合は協会の講習を受けると失敗が少ないかもしれません。また、最初は階段や花壇づくりから始めてみるのもよいでしょう。もちろん、サイハテで裕子さんのアースバックワークショップに参加するという方法もあります。気になるひとは是非チェックしてみてください。

(撮影:廣川慶明)
(編集:廣畑七絵)