みなさんは、ラブレターを書いたことはありますか?
ラブレターといえばもちろん、好きなひとに自分の気持ちを綴るもの。今日はホワイトデーということで、バレンタインのお返しをするだけでなく、思いを込めたラブレターを渡して愛の告白をする人もいるかもしれません。
今回ご紹介するのは、そのラブレターを使った地域活動として、カナダ国内外で話題になったプロジェクトです。
その名も「Love Lettering Project」。2004年からはじまったトロント発のこのプロジェクトは、「ラブレターを通して、誰かに愛を届けよう」がコンセプトのコミュニティアート活動です。一体どんな活動をしているのでしょうか。
このプロジェクトへの参加に必要なのは、紙とペン、便箋。そしてもう一つ、あなたの“地域に対する想い”。このプロジェクトで書くラブレターの宛先は人ではなく、”あなたの住むまち”なのです。
手紙の内容は、地域にあるお気に入りのお店や場所、大切な人…、あなたにとっての”まちの魅力”についてであればなんでもよし。あなたの心の中にある、まちへの”Love”を綴りましょう。
書いたらおしまい、ではありません。書き終えた手紙は、Loveと記した封筒にいれて街中のどこかに隠してしまいましょう。道端の木の枝と枝の間、誰かの自転車のかごの中など、どこに隠しても大丈夫。あとはいつか偶然そこを通りかかった誰かが、手紙を見つけてくれることを祈るだけです。
誰もが参加できるアートを通して、住民たちに隠れたまちの魅力を発掘するチャンスをもたらしているのがこのプロジェクト最大の魅力。ラブレターというシンプルなツールを通して一人一人がまちの魅力を見つめ直し、それを誰かに共有する。ラブレターを書く人とそれを読む人、その双方に学びや気づきがある、とても画期的なワークショップといえます。
実際に書かれた、心温まるラブレターの一部を見てみましょう。
トロントへ 素晴らしいあなたの姿を、それよりもっと最高な自転車レーンから見るのが大好きだ。
あなたの木々が好き。公園が好き。美しい午後が大好き。ありがとう。
親愛なるトロントへ クールな社会空間がたくさんあって、フレンドリーで気さくな人もたくさんいるこの場所を愛してる。わたしに心を開いてくれてありがとう。
この「Love Lettering Project」は、トロントを拠点として活動するライター兼、アート教育者Lindsey Zier-Vogal(以下、リンジーさん)のアイデアによるもの。
コミュニティ活動には、人と地域との関係を変化させる力があると信じています。
と話すリンジーさん。
彼女はもともと個人的な創作活動として、自分の住むまちに対する恋愛ポエムを定期的に書き、それらを”名無しのラブレター”として街のどこかに隠していたそう。興味をもった彼女の友人たちも活動に加わるようになり、いつしか彼女の小さな活動は、まちの住人をも巻き込む大きなアートプロジェクトになりました。
リンジーさんは活動の意義について、こんなことを言っています。
最初はヘイトレターを書くんだと勘違いして、手紙に不満を書こうとする人がいます。ラブレターしか受け付けませんと伝えると、みんな黙ってしまうの。でもしばらくすると。そんな人たちも「思いついた!」と顔色を変えて、ラブレターを書き始めるんです。私はこの瞬間こそが、この活動の最大の意義だと思っています。
参加者からは実際に、
この活動が、地域を見渡し、そこにある些細なことから大きなことまで、どんなことにでも感謝するということを教えてくれた。なんでもないようなこと、創造性、(地域や人との)つながり、そして感謝というものがいかに私たちの生活にとって大切であるかを思い出させてくれたんです。
という声が寄せられています。
地域で機能しているものについて一度考えはじめると、あなたはそれに気づくようになる。それはまぎれもなく、視点の変化です。
と語るリンジーさん。
地域の魅力に気づき、それに感謝する。シンプルなことですが、実践してきたという人は多くないかもしれません。
視点が変われば、地域は一層魅力的な場所になる。「Love Lettering Project」は、そんな”自分のまちがもっと好きになる方法”を私たちに教えてくれます。
みなさんもぜひ一度、まちへのラブレターを書いてみませんか?
[via Love Lettering Project,Love Letters for That Special City in Your Life,citylab.com,The Toronto Outdoor Art Exhibition,Lindsay Zier-Vogel retrieved March 2016]
(Text: 松沢美月)