2023年4月、武蔵野大学にサステナビリティ学科が新設されます。
それに先駆け、学科では、サステナブルなこと、もの、人に興味のあるすべての人に向けてオープンラボを実施。さまざまなジャンルの実践者にオンラインでお話をうかがう場をつくってきました。
今回は2022年11月5日に実施されたオープンラボの模様をお届けします。
登壇いただいたのは、以前、greenz.jpでもご紹介したペオ・エクベリさん。
ペオさんの出身地であるスウェーデンのサステナブルな取り組みの最前線、そこに至るまでの背景。約3時間のオープンラボは、現地視察に行った武蔵野大学の学生も参加し、多くの質問が飛び交う熱い時間となりました。
「あしたじゃない、ずっとをつくる」
サステナビリティ学科が掲げる合言葉をより明確に実践するために。
スウェーデンのサステナビリティ最前線、のぞいてみましょう!
株式会社ワンプラネット・カフェ取締役。サステナビリティ・プロデューサー。スウェーデン出身。国内での講演やワークショップ、スウェーデン視察ツアーや環境コンサルティングを行う。アフリカ・ザンビアのバナナ産地で収穫の際に廃棄される茎から繊維を取り出し、日本で製紙した「One Planet Paper (R)」は、紙として日本初のWFTO(世界フェアトレード機関)認証を取得。日本では名刺の用紙やLUSHの紙袋などに使われている。また、現地で繊維を取り出す工房を立ち上げて長期的な雇用を生み出している。
サステナビリティをグローバルに実行する
--ここからは、「オープンラボで語られた」ペオさんの言葉をお届けします!
みなさん、こんにちは。ペオと申します。
今日は、なぜスウェーデンはサステナビリティな仕組み、暮らしを実践できているのか、その基礎や実例をスウェーデンの風景といっしょに紹介したいと思います。
緊張しないでください、楽しみながらいきましょう!
まず、私の活動についてお伝えします。
ワンプラネットカフェという会社を経営しています。現在、日本、スウェーデン、ザンビアでグローバルにサステナビリティにまつわる活動をしています。
ジャーナリストとして、約70カ国を訪れる中で、ある国では解決している環境に関する課題が別の国では解決していないケースを見てきました。それはすごくもったいないことだと感じて、サステナブルな取り組みが進んでいるスウェーデンの視察ツアーを、さまざまな国の人たちと一緒に実施しています。
視察ツアーでは楽しんだり、写真を撮影したり、それを発表することも大事ですが、自分の住む地域でもできる、サステナブルな取り組みのヒントを得て、行動することがとても大事なことです。
こうした活動を行いながら、私自身、いつも有言実行を意識しています。小さな取り組みとして、ゴミを減らす努力をしています。
また、日本ではマンションを購入し、二重ガラスや国産の床材を取り入れるなど100種類ほどの環境の取り組みを導入してフルリフォームをしました。
スウェーデンでは、ゴミ、フードロスだけではなく、生物多様性、男女不平等の課題、貧困、ファッションなど、さまざまなキーワードに対して、包括的に実行することを大事にしています。私もその考え方を導入し、生活をする上でもエネルギーの削減や節水などさまざまな課題が解決することを目指しながら、マンションをリフォームしています。
結果として、リフォームすることで、ゴミや水、エネルギーの使用量も押さえることに成功しました。
経済的利点も見てください。
生活費用は年間20万円ぐらい節約できました。リフォーム費用も一般の費用より安く、しかも、購入した値段の2倍の価値があると不動産の専門家に言われました。
このことからわかるのは、“環境”と“経済”はつながっているということです。
では、なぜここまでできるのか、それはスウェーデンから学んだことが大きいです。
この50年間、スウェーデンはたくさんのサステナビリティに関する国際会議に参加し、会議で決まったガイドラインに乗っ取り、その約束を実行・実践してきました。
そして、もうひとつ。人間が生まれる前からある、自然界のルールも大切にしています。自然界の原理原則について義務教育のうちから学び、社会全体もそのルールに従い、さらに環境の憲法もつくっています。
このふたつのことを中心に、包括的で同時に課題解決を進めていくことがスウェーデンがしていることです。
ここからは具体的に紹介しようと思います。
自然、経済、人間(社会の健康)のバランスを取る
まず、スウェーデンの背景をみていきましょう。
100年前、スウェーデンは途上国でした。
非常に貧しい国で、5人に1人はアメリカに行ってしまいました。
人口はどんどん減り、国が滅亡してしまうーースウェーデン政府はこの事態に危機感を抱き、人を大切にし、さらに健康な社会を目指すというビジョンをつくりました。その結果、世界的にも有名となった、学費や医療費の無料などを実践するスウェーデンの福祉制度が生まれました。
しかし、人が生き残るためには、良い環境がないと健康にはなれないという事実に気づきます。
健康的な生き方や暮らしができなければ、100年前と同じように経済が崩れてしまう。すべての基礎は環境だと気づいたのです。
それから50年間、さまざまな会議に参加し、世界の動きを見てきました。
その結果のひとつに、1990年代の国際会議で国連のサステナビリティのための定義ができました。
人間(社会の健康)、自然、経済、この3つの柱のバランスが取れている、イコール、サステナビリティだということです。
1990年代に入り、CO2や省エネなどの数値的目標が必要という流れの中、国際会議で決まった数値目標をスウェーデンも導入します。そしてさらに1999年、独自の、環境に関する16の目標が法律で決まりました。
よく見てください。温暖化を防ぐ、持続可能なまちづくり、生物多様性、化学物質を減らす。どこかで見たことはありませんか?
SDGsに似てますよね。このスウェーデンの「16の環境クオリティ目標」はSDGsのもとになったとも言われています。
スウェーデンではSDGsの目標達成のために、さらに詳細な169のターゲットとよばれている目標もあります。興味があればぜひ調べてみてください。
スウェーデンの人にとって、サステナブルな取り組みは直感的な取り組みではなく、具体的なアクションにつながっています。
では、スウェーデンでは現在どれぐらい数値を達成できているのでしょうか。
家庭ゴミのリサイクル率は50%ですが、ものからものへのマテリアルなリサイクルのみ(エネルギーのリサイクルも含む)だと99%です。CO2の削減率はすでに35%を達成。グリーン電力は70%を占めています。
スウェーデンは新型コロナの感染が拡大する前まで、CO2やゴミを削減しながらも、経済成長を続けてきました。コロナの影響で一時的に経済成長が落ち込むものの、2021年は復活して、5%成長しています。この成長は新興国のレベルです。
自然界の完璧なリサイクルシステムを実践する
スウェーデンでは自然の原理原則を義務教育から社員教育、自治体の中で積極的に学びます。
太陽が地球にエネルギーを送り、植物が成長する、植物を食べる動物がいて、亡くなると土に還る。そしてその土壌からまた植物が成長し…と、永久に続くこの完璧なリサイクルシステムは、人間が生まれる前からある自然界の仕組みです。
しかし、我々人間は、資源をとりすぎ、自然が回復する前にまた摂取してしまう。工場に資源を送り、大量生産をし、化学物質によって汚染も生み出しています。
では消費者はどうでしょうか? 新しいスマホ、洋服、ハッピーですよね。
そして使い終わったら、ゴミとして捨てる。
ゴミはどんどん増え、資源はどんどん減る。
これは一方通行の社会、持続不可能な社会です。
ではなにをすべきなのか。
それは、もとの環境循環に戻すことです。
地下資源から地上資源に切り替えて使い、自然が回復できないほどに取りすぎない。
工場で生産する時に化石燃料も使わず、風力やバイオマスといったエネルギーへと移行することで汚染もなくなります。
そうやって生産された商品、食品を選ぶこともまた、消費者にできることです。
例えば、竹でできたスマホ、オーガニックコットンのシャツ。
使い終わればリユース、リサイクルし、さらにできるだけ資源を回復することも考えます。
リユースやリサイクルなどの人間がつくるテクニカル循環と、自然がつくるバイオ循環、このふたつのサイクルがあることを覚えておきましょう。
社会全体が参加できるシステムをつくる
最後にスウェーデンのサステナブルに関する取り組みの具体的な事例をシェアします。
板にリンゴの芯、紙パッケージ、バナナの皮、リネン、金属、植物、ペットボトルのふたなどを並べ、穴を掘って埋め、6ヶ月後にまた掘り出し、何が土に戻り、何が戻らないのかを学びます。
スウェーデンでは保育園や幼稚園から環境循環を学んでいきます。
サステナビリティは環境に優しいというだけではなく、自然のルールに従い、環境に正しい動きをすることを科学的に学ぶのです。
次の事例はゴミを削減するシステムです。
具体的には、容器を集める“リサイクル・ステーション”
粗大なものを集める“リサイクル・センター”
石油やマニキュア等の有害なものを集める“環境ステーション“
ペットボトルや空き缶などの“デポジット・コーナー”の4つです。
ここでなにか気づきましたか?
どこにも、「ゴミ」という言葉が入っていませんね。
リユースやリサイクルなどの、テクニカルサイクルでまわしている証です。
サステナビリティを正しく実行し、消費者が正しい方向に進むために、人々が参加できるシステムになっているともいえるでしょう。
まだ答えがでなくても未来のために決断すること
--ここからは大盛り上がりだった参加者との質問のやり取りを、一部お届けします。
ぺオさん スウェーデンでは15年前から生ゴミを捨てることが禁止されていて、それだけで家庭ゴミの30〜50%を減らすことができます。
今回、スウェーデンツアーに参加した学生さんたちは現地の体験を通じて、ゴミをどうして減らすことができていると感じましたか?
学生 スウェーデンでは商品の個包装が少なく、そこが家庭ゴミの削減にも通じているのでは感じました。
ペオさん いいですね。例えば、日本でお弁当を買うと、それだけでスウェーデンでの1週間分のプラスチックゴミが出ます。日本は包装が多すぎます。今後、お店側もプラスチックゴミを減らす努力をしなければならないのは当然ですが、もっと必要なのは消費者がどんなアクションをとるかです。それは対話です。お店の方と話し、批判ではなく提案として声をあげることがまず大事です。
スウェーデンでは現在は9種類のものが使い捨て禁止です。ストロー、コップやフォーク、などEU全体が実行しているものもあります。日本でも社会の中でそういった脱プラスチックの議論はありますが、まだプラスチックの使い捨てのものはありますよね。
ヨーロッパでは、プラスチックの課題は生態系においてとても大きな脅威だと考え決断し禁止になりました。決断が大事です。
ペオさん 各自治体には生ゴミを回収する義務がありますが、自治体は回収車やバイオマスシステムを持っていない場合もあります。なので、回収車から生ゴミを24時間投函できるポストの設置に移行しました。
システムに関してはそれを得意とする企業がプレゼンをし、最良のシステムを導入しています。今では、ゴミ回収車も生ゴミからできたガスで走っているし、最近では廃油でも走っています。すべての燃料がカーボンニュートラルです。日本でも生ゴミはたくさんあるので、実現可能ではないでしょうか。
ペオさん 風力発電のリサイクルはほぼ可能になっています。今スウェーデンでは発電機の材料を利用して、次の風力発電機をつくっています。羽自体はリサイクルしにくいのですが、捨てずに保管して、近い将来、リサイクル方法ができるまで待っている状況です。
最近は企業が羽もリサイクル可能な素材にしようという動きがありますし、一部の羽は子供の遊び場で滑り台になったりしています。
今、リサイクルしにくくても、10年後にはリサイクルできる技術ができるかもしれない、捨てずに待つというスタンスです。
ペオさん いい質問ですね。スウェーデンでは2030年、ヨーロッパ全体は35年にガソリン車は販売禁止になります。現在は、ファーストフードチェーンやレストランが充電ステーションになっています。
コストに関しての答えはまだ出ないと思います。大事なことは、人が生き残るために再生可能な社会をつくらなければいけないということです。答えがなくても決断は大事だと思います。
ペオさんのお話には私たちが今日から手を動かせるヒントから、社会に取り入れるべき具体的な仕組みがちりばめられていました。
私自身が一番印象的だったこと。それはスウェーデンでは生ゴミをエネルギー資源だと捉え、それを生かすための工夫や知恵が当たり前のように日々の暮らしの中で根づいているということです。改めて、視点を変えることや知ること、そして実行することの意義を感じた、そんな時間でした。
“地球に正しいことを実践する”
まだ答えがなくてもやってみる価値はあります。
サステナビリティのこと、これからのこと、気になったら、次回のオープンラボに参加してみませんか?
– INFORMATION –
(編集:福井尚子)