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解決策は二酸化炭素! 自然エネルギーをクリーンにためる“次世代蓄電池”に高まる期待

太陽光や風力など、自然の力を活用した再生可能エネルギー。自然環境への負荷の少ない発電方法として大きな期待が寄せられています。しかしその最大の課題は、太陽が出ていないとき、風がないとき、といった天候によって発電量が左右されること。

ならば、「自然エネルギーでつくった電気をためておいて、必要なときに使えたら」と思いますよね。ところが「たくさんの電気をためておく」というのは、そんなに簡単なことではないようです。

発電方法と同様に、蓄電をめぐる技術開発も各地で進んでいます。「ためる」方法として最も身近なのは、化学反応によって電気エネルギーを別の形に変えてためる“蓄電池”。

中でも、小型軽量化が可能な“リチウムイオン電池”は、普段私たちがつかっている携帯電話やノートPC、さらに電気自動車など広く使われていて、再生可能エネルギーの蓄電池としても使用されています。しかし、大規模に導入するには、コスト面や安全面など課題があるのが現状。さらに、材料であるリチウムの採掘にあたり、環境破壊などの懸念も指摘されています。

二酸化炭素で電気をためる! “次世代蓄電池”に高まる期待

再生可能エネルギー普及のカギを握るともいえる蓄電技術。より高性能なリチウムイオン電池の開発が進む中、その性能を超えるべく、米国カリフォルニアのスタートアップNoon Energy(ヌーン・エナジー)が開発したのは、金属などの資源ではなく、なんと二酸化炭素(CO2)を材料とする“次世代蓄電池”、「炭素-酸素電池(carbon-oxygen battery)」

CO2を炭素と酸素に電気分解する際に、電気をためる仕組みだといいます。CO2なら地球上に豊富にあり、材料としても低コスト、調達の際に環境破壊の心配もありません。

ヌーン・エナジーのWebサイトには、「私たちの超低コストで長持ち、かつエネルギー効率の高い蓄電池によって、再生可能エネルギーが24時間365日、いつも提供可能に」とのメッセージ

長年、サステナブルな電池の研究開発に取り組んできたヌーン・エナジーの創業者、Chris Graves(以下、クリスさん)は、効率よく電気をためられて、低コストを実現する材料を試行錯誤して、CO2にたどり着いたそう。

太陽光や風力エネルギーで電力供給100%を実現するためには、太陽が出ない日が続く場合や、季節による変化なども考慮すると、100時間以上のバッテリー容量が必要。石油などの化石燃料でできていることを実現するには、ここをクリアしないといけません。低コストを実現するために、元素周期表を探していくと選択肢は限られていました。

「炭素-酸素バッテリー(carbon-oxygen battery)」が評価され、2019年にOrcelle Award for a technologyを受賞した際のクリスさん。カリフォルニア州エネルギー委員会など米国の政府機関からの補助金も受けていて、周囲の期待の高さがうかがえます。

クリスさんは、2012年に新しいフロー電池(※1)を発明。実験室で研究を重ね、「炭素-酸素電池(carbon-oxygen battery)」の実用化に向けて、研究メンバーとともに、2018年にヌーン・エナジーを立ち上げました。
(※1)フロー電池(レドックスフロー電池):蓄電池の一種で、他の蓄電池が電極の化学変化で充放電をするのに対し、電解液の化学変化(酸化還元)で充放電を行うため、長期の安定稼働が可能。

といっても、ヌーン・エナジーのWebサイトはとてもシンプル。その“画期的な蓄電池”の詳細は明らかにされておらず、仕組みも形もデザインも謎に包まれています。クリスさんによると、現在、実用レベルの試作品の開発段階で、数年後の実用化を見据えており、「うまくいけば世界中に広がるだろう」と自信満々。実現すれば、従来のリチウムイオン電池よりコストが10分の1ほどに抑えられ、さらに3倍のエネルギー密度(※2)のよって電池の小型化も可能だそう。
(※2)エネルギー密度:電池から取り出せる、単位面積または単位質量あたりのエネルギー量。エネルギー密度が高いと小型化が可能に。

ヌーン・エナジーのWebサイト。支援企業などのロゴが並びます。

気候変動解決のためのテクノロジーに投資する“気候テックファンド”も、ヌーン・エナジーの技術に大きな期待を寄せています。複数のファンドが合同で、開発中の技術に対し300万ドルを投資しており、投資者からは、

これまで多くのバッテリー技術が実用化には至らなかった。彼らの斬新なバッテリー技術と並外れた低コストに期待している。実現すれば、リチウムやコバルトなど鉱物資源への依存からも脱却できる。

この高いエネルギー密度が実現すれば、電気エネルギーの船舶やトラックなどの長距離輸送も可能に。脱炭素に向けたトランジションのための最大の課題を解決できるかもしれない。

など実用化を待ち望む声が。

ヌーン・エナジーの技術は、NASAの火星探査機「Perseverance(パーサビアランス)」にも使われているそう。探査機内に酸素を生成する装置を搭載し、火星でCO2から酸素を生成することに成功しています。
Credits: NASA/JPL-Caltech/MSSS

各家庭に蓄電池も? 変化にアンテナを張ってみよう

電気を「つくる」について見聞きする機会が多い一方、私自身はこれまであまり考える機会のなかった、電気を「ためる」技術。意識してアンテナを張ってみると、日本国内でも、いろいろな“次世代蓄電池候補”のニュースが発信されていることに気づきました。

どの技術がいち早く実用化して、それによって私たちの生活がどのように変わるのか。
技術的には少しむずかしく感じるエネルギーの話ですが、今この瞬間も開発が進んでいて、新しい蓄電技術によって自然エネルギーをめぐる状況が大きく変わるかもしれないと思うと、わくわくした気持ちになります。各家庭が発電装置と蓄電池を備え、エネルギーを自家消費することも容易になるかもしれません。

日本政府は「2050年カーボンニュートラル」を掲げていて、再生可能エネルギーを主力エネルギーにする取り組みはさらに加速していきそう。新しい可能性や近い未来の変化を想像しながら、「ためる」話題にも注目してみませんか?

「環境負荷となるCO2を用いた、クリーンな次世代蓄電池」

まだ開発段階とのことですが、問題視されるCO2を有効活用するという、非常に興味深い内容でした。

たしかに、太陽光や風力などの再生可能エネルギーは気象に大きく左右されてしまいます。私たちが「必要とするときに使える」ようにするためにも、その電気を「ためる」技術が重要となります。せっかくの「クリーンにつくった電気」。「クリーンに貯める」ことができる蓄電池を組み合わせてこそ、真に環境負荷の少ないエネルギーと言えますね。

「CO2と蓄電池」という組み合わせには驚かされましたが、実はこれまでにも「グリーン冷媒」などをはじめとして、CO2を利用する技術はありました。グリーン冷媒は、オゾン層を破壊するフロン冷媒の代替としてCO2などを用いたものであり、自動販売機や冷蔵ショーケースなどで幅広く使用されています。

また近年では、脱炭素の潮流の中で、火力発電時に発生するCO2を回収し活用するCCUSも研究・実証実験が進められています。「2050年カーボンニュートラル」の実現のためには、あらゆる手段を用いて取り組んでいく必要があります。そこでは、「CO2の活用」のような逆転的発想も求められていくかもしれません。

一義的な情報のみに終始せずにアンテナを高く張って、私たちには何ができるのか、これからも考えていきたいと思います。

(Text: 生団連)

– INFORMATION –

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[via Fast Company, PR Newswire,Wallenius Wilhelmsen News, Climatebase,NASA]
[Top Photo: via unsplash]

(Text: 片岡麻衣子)
(編集: スズキコウタ、greenz challengers community)