12/2(金)開催!食文化×デザイン@ヘルベチカデザイン株式会社の仕事とは?

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これは神秘なんかじゃない。人間が変えてしまった風景だ。「人新世」をテーマに撮り続けてきた航空写真家が伝える、リチウムの光と影。

砂漠地帯のど真ん中に現れるターコイズ、ライム、レモンカラーと色あざやかで幾何学的にデザインされた区画。

まるで企業広告のグラフィックデザインか、映画の舞台セットのような不思議な写真ですが、実はこれ、南米チリにあるリチウム採掘場を写した実際の写真なんです!

リチウムイオンバッテリーはスマートフォンやPC、電気自動車(EV)など、今やあたり前のように使われています。

日本でも政府が2030年代半ばまでに、乗用車の新車販売を全て電気自動車にすることを目指すとしているように、ガソリン車や火力発電に頼らず再生可能エネルギーで社会をまわすには、リチウムを使った蓄電システムが不可欠といわれ、リチウムは脱炭素社会への実現に欠かせない要素です。

しかし、CO2を削減し持続可能な社会を実現するためのリチウム採掘が、環境に悪影響を及ぼす可能性があるとしたら・・・

今回は、ドイツ人の航空写真家Tom Hegen(以下、トムさん)「人新世」をテーマプロジェクトとして撮影した写真を通して、リチウムにまつわる現状を見ていきたいと思います。

人類が地球に与える影響と意味を考えるきっかけとなる写真を

彼が作品のテーマにしている「人新世」とは地質学の概念で、地球の最新の地層を調べると「人間の経済活動の痕跡が地表をおおっている時代」という意味。

つまり、街も、道路も、田畑も、海も、山も人間の介入によってできた風景・環境だとするもので、気候変動や環境問題と密接に関わった考え方といえます。日本では、2021年に新書大賞を受賞した斉藤幸平さんの著書『人新世の「資本論」』で広く認知されました。

人間が地表に残した痕跡を記録し、人類が地球に与える影響と意味を考えるきっかけを提供したい。

そう語るトムさんのプロジェクトの一つとして撮られたのが、南米チリのアタカマ塩湖にあるリチウム採掘場の写真です。(The Lithium Series I.)

アタカマ塩湖にある広大なリチウム採掘場。広さ約45平方キロメートル(東京ドーム約962個分)以上。それが隣り合うように3サイト近設されている。© TOM HEGEN 2022

リチウムがあわせ持つ「光」と「影」

リチウムとは地球上で最も軽い金属とされるアルカリ金属元素で、レアメタル(希少金属)のひとつ。脱炭素社会には欠かせないとされ、電気自動車の動力源や蓄電バッテリーの材料として有名です。

その多くは南米のチリ・アルゼンチン・ボリビアの国境が接する場所にあり、チリ北部にあるアタカマ塩湖に世界全体の4分の1のリチウムが埋蔵されているといわれています。抽出方法は2種類。鉱石から抽出する方法と、塩湖から地下水を大量に汲み上げ、蒸発プールで濃縮し採取する方法です。

写真はこの蒸発プール群を空撮したもの。濃縮度の違いでターコイズカラーからカナリアイエローまで段階的に色が変化する、人工的な色と風景です。


© TOM HEGEN 2022

荒涼とした砂漠地帯に突如として現れる色あざやかなリチウム採掘場の蒸発プール群。© TOM HEGEN 2022

世界中で脱炭素に向けたリチウム需要が急増している昨今、問題とされているのが、大規模なリチウム採掘による環境への影響です。Friends of the Earth(FoE)の報告書によると、リチウム採掘は土壌の劣化と、水質・大気の汚染、地域社会や生態系、食糧生産に害を及ぼす可能性があるとされています。

採掘されているアタカマ地域は、砂漠が広がる世界で最も乾燥した場所のひとつ。アタカマの地域住民や動植物にとって、特に水は重要かつ貴重なものです。

しかしリチウム採掘は、1日あたり約2,100万リットルもの大量の水を地下から汲み上げて消費・汚染し、近隣地域の希少な水資源を枯渇させ奪う結果に。これによりさまざまな地域住民と水関連の紛争を引き起こしているとFoEは述べています。

また、非営利団体のBePe(Bienaventuradors de Pobres)が出した2021年の報告書では、水の汚染に関する明確な科学的研究・調査が行われていないとして、”調査をし、被害の大きさを確実に判断できるまで活動を停止すべき”と主張しています。


Sociedad Química y Minera(SQM)によって運営されているアタカマのリチウム採掘場。Googleマップでも砂漠地帯のど真ん中に広大な採掘場あることがはっきりと確認できます。

将来世代のために、わたしたちは今変わらなければならない

現状、リチウムの採掘は脱炭素を実現し気候変動を食い止めるために必要。けれども、環境汚染を引き起こす可能性と、苦しむ地域住民がいるのも事実。この二つの顔を合わせ持つのがリチウムにまつわる「光」と「影」です。

では、わたしたち一人ひとりができることとは何なのでしょうか?

撮影者のトムさんは、わたしたちが住むこの世界とどう関るか、またわたしたちの消費行動について再度考え始める必要があるのではないかといいます。

21世紀の最大の課題のひとつは、急速に増加する世界人口と地球の限られた資源をどう折り合いをつけていくかということです。

自分たちの暮らしを脅かさないよう自問自答し、将来の世代に住みよい地球を引き継ぐために、わたしたちはいま、変わらなければなりません。

考えてみると、商品を買うことは、その企業や生産者を応援する「いいね!」ボタンのようなもの。

なのであれば、わたしたち消費者は商品の値段や機能だけではなく、例えば食品表示ラベルをみるように、材料の調達方法や環境負荷の有無といった製造プロセスを確認し、納得してから選択・購入する。そんな一人ひとりの小さな意識とアクションが広がれば、人新世の時代に生きるわたしたちの社会に変化が生まれるかもしれません。

まずは知ること。気づくこと。そして考え議論すること。そのきっかけをトムさんはわたしたちに提供してくれているのではないでしょうか。

(Text: イワイコオイチ)
(編集: greenz challengers community)

[via euronews, Tom Hegen official, PARLEY]

[Top Photo: © TOM HEGEN 2022]