\仲間募集/甘柿の王様「富有柿」の産地・和歌山県九度山町で、未来の柿農家となる地域おこし協力隊

greenz people ロゴ

戦火に負けない人と自然が醸す奇跡。映画『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』が教えてくれるワインと人生を深く味わうヒントとは

ワインの産地と言えばドイツやフランスなどが広く知られていますが、実は中東のレバノンは世界最古のワイン産地のひとつ。映画『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』は、紛争が続く中東にあり、たびたび戦火に見舞われるレバノンでつくられるワインを取り巻くさまざまな人たちを取り上げたドキュメンタリーです。

そこから見えてくるのはワインの魅力、そして人生の妙味。美味しいワインのグラスを傾けるような気持ちで、ゆったりとスクリーンに向き合ってみてはいかがでしょうか?

人生はゆっくり味わうべき。「レバノンワインの父」が語る人生

この映画の舞台であるレバノンについて耳にするのは、残念ながら内戦や軍事衝突などのニュースであることが多いかもしれません。不安定な情勢が続くレバノンで古くからずっとワインがつくられていることは、日本ではあまり知る機会がないようです。

現在、レバノンには約50のワイナリーが存在し、その起源は5000年前とも7000年前ともされるほど。レバノンワインの産地の中でも世界的に高い評価を受けているシャトー・ミュザールの2代目であるセルジュ・ホシャールをはじめとした生産者のほか、ワイン界の著名人などが、レバノンワインへの思いを語ります。

セルジュ・ホシャールは、戦争中もワインづくりを続けたという気骨のある性格からは意外なほど、インタビューではユーモアにあふれた回答をし、茶目っ気のある表情を見せる、人を惹きつける魅力いっぱいの人物です。

そんな彼の性格は、彼が口にする「爆弾が降り注ぐなか気づいた。人生もゆっくり味わうべきだと」という言葉にも現れているかもしれません。明日死ぬかもしれないと思えば、生き急いでしまいそうですが、だからこそ、ゆっくり人生を味わおうと考えるのは、人生を、生きることを愛おしんでいるからでしょう。生きることそのものへの絶対的な信頼感のようなものを、彼の生き方や佇まいから感じました。

戦争の中、ワインをつくり続けるのは簡単なことではないはずです。それでもあきらめずワインをつくり続け、レバノンワインを世界に売り込み、「レバノンワインの父」と呼ばれるというセルジュ・ホシャール。戦争の役に立つものでなければ、生活必需品でもないワインをつくり続けた人生を思うとき、本当の豊かさや幸せとは? と思いを巡らせずにはいられません。

この映画を通して、彼のようにワインとともに生きた/生きている人たちに出会うことができます。あなた自身の生き方や幸せを考えるヒントになるかもしれません。

戦地でつくられたワインはどんな味? 戦争さえ味を決める要素になるかも

ワインの持つあまたの魅力を教えてくれるこの映画の原題は、『WINE AND WAR』。戦争抜きには、彼らのワインづくりを語ることはできません。爆撃の模様を映し出すシーンは戦争の激しさが伝わり、ワインについて語る登場人物たちの嬉しそうな表情とはまるで対照的です。

ドローンで攻撃される可能性がある中、ワインの原料であるブドウをトラックで運搬する映像は、とてもスリリングです。そこまでしてでも運ばなければならないのは、ブドウの収穫も仕込みも、タイミングをはずせないから。ブドウという果物が酵母の力によって類稀な飲み物になる過程には、人のコントロールが及ばない自然の恵みによる奇跡的な力が作用します。その尊さを理解しているからこそ、命を賭けてブドウを運び、ワインへと生まれ変わらせるのです。

ワインの味を決めるのはブドウの品種やワイナリーの技術、そしてテロワール。テロワールとは、ブドウが育つ土地の気候や土壌、地形など、その土地が持つさまざまな要素を指す言葉です。たくさんの要素が複雑に絡み合い、その土地ならではの味を生み出し、ワインの楽しみをより奥深いものにしています。

ベッカー高原にあるワイナリー、マサヤのオーナーであるサミー・ゴスンは言います。

戦地でできたワインほど強いワインはない。命と再生の産物だからだ。ボトルに詰められたただの商品ではない1つの魂だ。

戦火という逆境の中でも、故郷の大地に根ざした極上のワインをつくる。その意志が、レバノンワインの味わいを特別なものに磨きあげているのかもしれません。

日本ではまだ目にする機会が決して多くはないレバノンワインですが、この映画を観れば、その味わいを試してみたくなるのもきっと当然。この映画の配給会社であるユナイテッドピープルは、平和をコンセプトにしたワインのセレクトオンラインショップを運営。レバノンで暮らすシリア難民によってつくられたワインも販売しています。

『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』を観終わった後でレバノンワインを口にしたら、より深くその味わいを楽しむことができるでしょう。世界各地で起きている戦争について知ったり、考えたりすることは、痛みを伴う方法ばかりではありません。美味しいワインを飲みながら、それがつくられた場所に思いを馳せることも、自分の世界を広げるひとつの方法のはず。ぜひそんなきっかけを、この映画を通して体験してみてください。

(編集:丸原孝紀)

– INFORMATION –

11月18日(金)よりアップリンク吉祥寺ほか全国順次ロードショー
『戦地で生まれた奇跡のレバノンワイン』

監督:マーク・ジョンストン、マーク・ライアン
脚本 : マーク・ジョンストン、マーク・ライアン、マイケル・カラム
プロデューサー:マーク・ジョンストン
製作総指揮:セルジュ・ドゥ・ブストロス、フィリップ・マスード
撮影:マーク・ライアン
音楽:カリム・ドウアイディー
編集:マレク・ホスニー、マシュー・ハートマン
出演:セルジュ・ホシャール、マイケル・ブロードベント、ジャンシス・ロビンソン、エリザベス・ギルバート、ミシェル・ドゥ・ブストロス、サンドロ・サーデ、カリム・サーデ、ジェームス・パルジェ、ジョージ・サラ、ジャン=ピエール・サラ、ナジ・ブトロス、ジル・ブトロス、ロナルド・ホシャール、ガストン・ホシャール、ファウージ・イッサ、サミー・ゴスン、ラムジー・ゴスンほか
配給:ユナイテッドピープル
95分/アメリカ/2020年/ドキュメンタリー