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この作品は福祉を超え、世界自体を変えるかもしれない。 小さな作業所”さんわーく かぐや”の日常を映し出すドキュメンタリー映画『かぐやびより』が伝える「ありのまま」の本質

神奈川県藤沢市、善行駅から歩くこと7分ほど。
住宅街の一角、静かに広がる竹林と小さな平屋に辿り着きます。
ここは、NPO法人さんわーく かぐやの活動の場。社会で生きづらさを抱える人たちの作業と暮らしの場所です。

2016年、greenz.jpでは、お金に頼りすぎず、地域の中で活動しながら自分らしく生きるさんわーく かぐや(以下、かぐや)のお話をお届けしました。

そんなかぐやの日常を3年半という時間をかけて撮り続けたドキュメンタリー映画『かぐやびより』が2022年に完成。同じ藤沢にある小さな映画館「シネコヤ」で2022年4月末に公開が始まると連日満席が続き、多くの方が鑑賞に訪れました。

全編ナレーションなし、スクリーンに流れるのはかぐやの風景とメンバーたちの日常。

なぜ、こんなにも多くの人が「かぐやの日常」を鑑賞しに訪れるのか。
その答えを探しに、監督であり、カメラマンでもある津村和比古監督にインタビューの機会を頂きました。日々、かぐやの日常をつくっている、かぐや理事長・藤田靖正さんのお話とともに映画『かぐやびより』のこと、「かぐや」のこと、感じてみてください。

左:津村和比古(つむら・かずひこ)
1946年東京都生まれ。カメラマン。大学卒業後、TVCF制作会社・学研クリエイティブ撮影部入社。1975年独立。
6歳の時、単独でチベットからインドへ亡命した少年の日常を描いたドキュメンタリー映画『オロ』で第21回日本映画撮影監督協会賞受賞。(2012年公開)
2022年、さんわーく かぐやのドキュメンタリー映画『かぐやびより』監督・撮影・編集を手がける。
右:藤田靖正(ふじた・やすまさ)
木彫家。NPO法人さんわーく かぐや理事長。 幼少より木彫を始め仏師へ弟子入り。28歳でさんわーく かぐやを立ち上げる。一方で、地元活性のアートイベント「まちあそ美」を開催。新潟「絵本と木の実の美術館」での、田んぼとビオトープをつなげた“鉢トープ“のプロジェクトや、岩手県飛ヶ森「音楽水車プロジェクト」、ルンタを使った「横浜復興支援祭り」でのアートワークなど協力多数。アートを通じて障害を持つ人との新しい社会づくりを行っている。2013年キララ賞受賞、2019年かながわ福祉サービス大賞特別賞受賞。

純粋にかぐやという場を撮る

かぐやの日常を描くドキュメンタリー『かぐやびより』。2017年11月から津村監督がカメラを回し始め、約3年半の風景を濃密に映像化しました。
率直に、なぜかぐやを映画にしようと思ったのでしょうか。

撮影が終わった今も頻繁にかぐやを訪れるという津村監督

津村監督 理由はないんです、あえて言うなら直感です。
2016年に、以前から映像を手がけていた、ミュージシャンのおおたか静流さんが「かぐや祭り」に出演するというので、初めてこの場所を訪れました。その時はまだぼんやりとした印象でしたが、翌年、当時の理事長・藤田慶子さんと靖正くん、スタッフやメンバーを見て、これは映画になるのではないかなと感じたんです、ただそれだけなんです。

食事をしたり、休憩する平屋の裏手に広がる竹林。その先にあるセルフビルドした作業場では陶芸やボタニカルアートなどが行われています

作業所の入り口には「山小屋」の看板が

散歩中の鶏に遭遇することも

まずは撮影から入ったという監督。その時の気持ちを改めてこう語ります。

津村監督 普通は映画を撮るとなると、この場所はどういうところでどういう人たちが暮らしていてどんな理念や理想を掲げて活動しているのかをリサーチします。
しかし、あえてそういう事前学習や情報収集をしないで、いきなり撮り始めました。

まずは映像を撮りたいという監督に対して藤田さんからは意外な返事がきたそう。

藤田さん 最初は映画という具体的な話ではなくて、「かぐやの日常を撮らせてほしい」と監督から言われました。これまでもいろいろな方がかぐやを訪れて、さまざまな形で関わってくれています。ここを撮りたいというお話もどうぞどうぞと、とくになにも構えることなくという感じでした。

津村監督 特別扱いされることもなく(笑) ある意味、意外ではありました。福祉施設と聞くと厳しいイメージがありますよね。ハードルがあって、撮る前にさまざまな注意事項を言われる。でもそれが一切なかったんです。

伝えたいという意図はない、かぐやの時間をすくいあげる

週に2、3回、朝は8時半、メンバーが通ってくるところから、15時の活動終わりまでの計120日間。かぐやに通いカメラをまわし続ける中で、監督の中に映画化のイメージが自然と湧いてきます。

津村監督がかぐやに通うなかで、この場所に対して感じたこととはどんなことだったのでしょうか。

敷地内に点在する畑で栽培する野菜はかぐやでの食事に。自分たちの暮らしを自らつくることもかぐやの活動のひとつです

津村監督 それは、思っていたとおり、ここは素晴らしいということです。通っていていやなことが本当に一切ない、そういう場はなかなかないと思います。

かぐやに通ううちに撮り方にも変化があったそう。

津村監督 最初は、観察者に徹しようと思っていました。
かぐやのメンバーと距離をおきながらじっと見て、そのままを撮ろうと思ったんです。
ところが、かぐやのメンバーはどんどん話しかけてくるんですよ(笑) 最初は「あんまり話しかけないで」とか思う訳です、観察者なので。でも、黙ってると相手に失礼になってくる。
これは話をしよう、ちゃんと彼らと向き合って、言葉をかわしながら撮っていこうと途中から変わっていきました。

津村監督 映画の中でも最初は観察者的な見方、途中から会話が入ってくる。これはなりゆきでした。メンバーと過ごす間に気持ちが動いたってことなんです。

「思ったとおり素晴らしい、それがかぐや」。
一方で、あえて、その素晴らしさがなにかを映画を通じて伝えたいわけではない、と津村監督は続けます。

津村監督 ぼくはこの映画を通じてなにか伝えたいことを意図しているわけではないんです。最初にテーマを設定するとか、こういうことをメッセージとして発信しようとか、そういうつもりも全くない。

ドキュメンタリー映画でも、一般的には最初にテーマがあり、構成台本や全体の骨格を考えて画を当てはめていきます。食事のシーンはこういうことを伝えようとか、薪割りにはこういう説明とか、ここにナレーションを入れようとか。

『かぐやびより』は最初からナレーションを入れる予定もなかったですね。あくまでも、かぐやという場、空気をどうやってすくいあげるかだけを考えていました。僕は本来カメラマンなので、その場で感じたままを映すことが全て。そういう意味では、まさにカメラマンだからこその作り方だと思います。

冬、だるまストーブにつかう薪割りはかぐやおなじみの光景

かぐやという場、空気をすくいあげる。そんな映像の中には、美しいだけではない、どこか泥臭く、人の弱い部分も滲み出るようは表情も映し出されています。そこにも何か特別なメッセージや意図はないのでしょうか。

津村監督 ​そうした弱さも映し出すことが、一番自然なことだと思ったんです。メンバーの内面の苦悩を知りたいとか、そういうことを思っていなくても、関わりが深まる中で自然にメンバーたちが言葉を発してくれました。とくにカメラと向き合うと、人は自分の心の内を表に出してくれます。じゃあ、メンバーの葛藤や言葉を伝えたいのかというとそういうことではないんですね。
ぼくは自分が現場で感じたもの、かぐやの暮らしのディテール、そういうものを集めて積み上げていって表現したいと思っていました。

見てくれた人になにが伝わるのかはわからない、でも、それでいいと思っています。

インタビューの隣でごろんと休憩中のメンバー

意図して伝えようとしなくても、映画が常に満員であるということが、かぐやの風景、時間を通して、見た人の心に伝わるものがある、と教えてくれているようです。

地域から発信することで福祉を超えていく

メンバー、スタッフ入り混じるかぐやの靴箱

映画が完成し、あえて、同じ藤沢の小さな映画館「シネコヤ」で上映を始めた『かぐやびより』。監督はとても幸運なスタートだったと振り返ります。

津村監督 まるで用意されていたかのように、素晴らしい、地域にある映画館からスタートできたことが『かぐやびより』の公開にあたり一番嬉しいことでした。
たくさんの地元の方が見てくれる、これはひとつの産物です。

(写真提供:津村監督)

シネコヤの上映会場では監督始め、かぐやのメンバーも舞台挨拶に(写真提供:津村監督)

津村監督 ひとつ、このドキュメンタリーを通じて言えることがあるとすれば、福祉施設という存在と、私たちの日常との間にあるカーテンみたいなものを取り除いてひとりひとりと向き合うと、みんな変わらないんじゃないってことですよね。

「かぐやのメンバーをときどき駅で見かけていて、不思議な人だなと思っていたけど、映画をみて、この人だとわかったから声をかけるようになりました」という話を聞きました。その人にとっては、映画を通して、ちょっと変わった人だと思っていた誰かが身近になったということですよね。そういう風に今まで間にあった壁のようなものがなくなって、普通に話してもいいんだとわかる、そういう気づきはいいなと思いました。

かぐやの風景を見ていると、素直になれるし、楽になる。多くの人が同じように感じてくれればいいと思います。

撮影中のカメラマンさんの後ろで「撮ってー」と待っていたふたり。自慢の陶芸品と一緒に

「予想していたわけではない。でも、地域のことを地域で発信することを大事にした結果、生まれてくる多様な感想が嬉しいよね」と監督。

津村監督 連日、福祉の関係者も全くそうではない人も混ざり合いながら多くの方で席がうまる映画館を目の当たりにして、すでにそこには福祉を超えた世界が広がっていました。
そこから必ず次の一歩が生まれる。でも、そういうチャンスはなかなかないとも思っていて、なかなか体験することの出来ない素晴らしい場でした。

地域から発信することで「お互いを知る」というかぐやの活動の本質の部分にも気づきがあったと藤田さんも話します。

藤田さん かぐやは生きづらさを抱えている人を支援する場所です。生きづらさに配慮することも大事という中で、克服できるかどうかはまわりの人たちの接し方も大きな要素のひとつです。生きづらさを抱えている人がそのまま生きていける社会に進むためには多くの人たちが福祉的なことに思いを寄せなければいけないのも事実で、その理解を早める方法のひとつが、かぐやのメンバーが地域の人たちに出会うことだと思っています。

メンバーたちと駅前の建物2階をセルフリノベーションした「駅前かぐや」。2022年4月より、かぐやのメンバーと地域をつなぐ情報発信の場として始動しています(写真提供:さんわーくかぐや)

地域との接点のひとつとして、かぐやでは年に一度「かぐや祭り」を開催(2020年度より休止中)。多様なジャンルの出店者の中に、かぐやのメンバーも出店することで、混ざり合う理想の場を体現してきました。そうやって続けてきた活動と、映画は地続きであるように感じているといいます。

藤田さん メンバーと一緒に活動する、お互いを知る、そういうことを地域でずっと地道に続けてきましたが、映画を観て、かぐやに来たことがある人もそうではない人からも「かぐやにいるみたいだ」「メンバーと過ごした気持ちになった」という言葉をもらったときに、そんな効果があるんだと改めて気づきました。

実際に来てもらわなくても彼らの理解が進むという現実を見て、この映像のすごさを感じたと同時に、3年半という膨大な時間が2時間に凝縮されたこの映画でみんな同じ時間軸をすごしたように感じるということは、ここで1日過ごすよりも場合によっては濃密にかぐやを感じてもらえてるのかなと思います。

お互いを知り、理解する。『かぐやびより』の映像を見ることによって生まれる新しい関係性に気づいたという藤田さん。かぐやの本質を理解している監督だからこそ伝わることがあると続けます。

藤田さん 「かぐやのメンバーはありのままだね」と言われることがあります。それはある意味で正しいのかもしれませんが、かぐやのメンバーの「ありのまま」は、例えば、わがままや、無邪気さを含む「ありのまま」とは違うと考えています。

かぐやに通ってくる人の中には対人不安や、社会にでていくことに挫折してかぐやにくる方、社会の中の自分をどう捉えていいのか、それぞれに悩みを抱えています。
それら全部、社会、自分、対人に悩んでいることも含めての「ありのまま」なんですよね。ありのままって簡単ではなくて。
彼らのありのままは無邪気さではない。「ありのまま」をちゃんとわかっていてカメラを回してくださった監督だからこそ伝わる、そう思いました。

津村監督 一番やりたいのは気持ちの表現です。つくりものではなくて自然な形で出てきたものを映像に吸いあげるというか。そうすれば伝わるであろうという僕の希望でしかないんですが。

藤田くんが言ったように彼らはそれぞれ辛い部分や事情があるわけです。ただ、この映画は彼らの深い部分には敢えて触れてはいません。僕は感じていることもあるし、例えばかぐやの外にいる彼らを追いかけて映像を撮ることもできるけれど、それはしていない。あくまでかぐやという場を表現するのが『かぐやびより』なんですよね。

藤田さん 津村監督は、かぐやがやろうとしている、「人が人に癒される」ところをよく写してくださったと思います。そもそも人間は「人の間」と書く。人はひとりでは存在しえなくて、それぞれ社会性をもっていて、社会はいろんな人で構成されている、ということが大前提にあると思うんです。

その中でメンバーは、人や社会によって傷つけられ、悩み、かぐやにやってくる。そしてかぐやで人に癒されて、人を好きになっていく。人に対して興味あるんだっていうことが本質だと思うんですよね。

かぐやの日常の中にある、「人が人に癒される」瞬間を監督は本質的に理解されていて、そこを撮ってくださったように感じています。

「嬉しいですね、初めて言われた(笑)」と監督

津村監督 映画に社会を変えることはできないかもしれない。でも、この映画を通じて、ひとりひとりの中に希望や理想を感じ、次のステップとして、日々の仕事や、活動の中で生かすことはできると思います。

だから映画の役割っていうのは個人の意識に入っていって、個人の行動を転換していくこと。そういう力を僕は信じています。

ドキュメンタリー『かぐやびより』。人の心の数だけ感想があり、それぞれの次のステップは福祉を超えて世界を変えるのかもしれません。

藤沢にある静かな竹林の中で、日々暮らしをつくっていく「さんわーくかぐや」の物語。覗いてみませんか? 入り口はいつも開いていますよ。

(撮影:八幡宏)
(編集:福井尚子)

– INFORMATION –

8/11(木祝)よりアンコール上映決定!『かぐやびより』

上映館:シネコヤ(神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6)
日程:2022年8月11日(木祝)〜8月28日(日)
休館日:毎週月・火・水 
詳細:シネコヤWebサイト
団体やグループ向けの貸切上映も8月末まで実施中。詳細はこちら
映画公式サイト:かぐやびより
2022年製作/105分/HD/日本語
監督/津村和比古
協力/NPO法人さんわーくかぐや